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ビリー・ジョエルは有罪か無実か?



 Daily Playlist紙(’19年10月21日付)1面。




BILLY JOEL: GUILTY OR INNOCENT?

Respect (1965) - Otis Redding
Mustang Sally (1966) - Wilson Pickett
Tramp (1967) - Otis Redding & Carla Thomas
I Got The Feelin’ (1968) - James Brown
Twistin’ The Night Away (1962) - Sam Cooke
Easy Money (1983)
Save The Last Dance For Me (1960) - The Drifters
Spanish Harlem (1960) - Ben E. King
An Innocent Man (1983)
Why Do Fools Fall In Love (1956) - Frankie Lymon and The Teenagers
So Much In Love (1963) - The Tymes
The Longest Time (1983)
Goodnite Sweetheart, Goodnite (1954) - The Spaniels
Here Is Why I Love You (1958) - The Spaniels
This Night (1983)
Heat Wave (1963) - Martha and The Vandellas
You Can’t Hurry Love (1966) - The Supremes
I’m Ready For Love (1966) - Martha and The Vandellas
Tell Her About It (1983)
Sherry (1962) - The 4 Seasons
Big Girls Don’t Cry (1962) - The 4 Seasons
Walk Like A Man (1963) - The 4 Seasons
Uptown Girl (1983)
Little Darlin’ (1957) - The Diamonds
Oh! Carol (1959) - Neil Sedaka
Dream Lover (1959) - Bobby Darin
Wonderful World (1960) - Sam Cooke
Chain Gang (1960) - Sam Cooke
Careless Talk (1983)
Great Balls Of Fire (1957) - Jerry Lee Lewis
Lucille (1957) - Little Richard
Christie Lee (1983)
My Cherie Amour (1969) - Stevie Wonder
Never Had A Dream Come True (1970) - Stevie Wonder
Isn’t She Lovely (1976) - Stevie Wonder
Leave A Tender Moment Alone (1983)
Bo Diddley (1955) - Bo Diddley
Not Fade Away (1957) - The Crickets
(Mary’s The Name) His Latest Flame (1961) - Elvis Presley
Soul Man (1967) - Sam & Dave
Clean Up Woman (1971) - Betty Wright
Keeping The Faith (1983)

Bonus Tracks:
Be My Baby (1963) - The Ronettes
Say Goodbye To Hollywood (1976)
I’m Not In Love (1975) - 10cc
Just The Way You Are (1977)
Spirits In The Material World (1981) - The Police
Demolition Man (1981) - The Police
Running On Ice (1986)
Roxanne (1978) - The Police
Message In A Bottle (1979) - The Police
Locked Out Of Heaven (2012) - Bruno Mars


 パクリ(盗作)か? オマージュか? というのは音楽の世界でよくある話。音楽に限らず、基本的に芸術作品というものは何らかの形で過去作品の影響を受けていて、ある先人の作品に独自の捻りを加えたり(換骨奪胎)、色んな作品から少しずつ意匠やアイデアを拝借し、それらを組み合わせたりすることで新しいものが生み出される。一般的に、アーティストたちは自分の作品が影響源からなるべく遠ざかるよう様々に工夫を凝らし、元ネタが分からなくなればなるほどその作品はオリジナリティが高いと評価される。

 しかし、アーティストの中には、元ネタの特徴をわざとそれと分かるように残し、その上で新たな作品を作る人もいる。諧謔や風刺を意図した二次創作的なものは“パロディ”と呼ばれるが、まともに一次創作として成立しているものは“オマージュ”と呼ばれる。オリジナル作品の中に過去作品の特徴的要素をはっきり分かる形で取り入れ、先人への敬意を表明するオマージュ作品──海外ではブルーノ・マーズ、日本では桑田佳祐がそうした作品を作るミュージシャンの代表格と言えると思う。本記事の主役であるビリー・ジョエルは、彼らの先輩と言うべき“オマージュの達人”である。

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ビリー・ジョエル『An Innocent Man』(1983)とブルーノ・マーズ『24K Magic』(2016)──2人とも座って右膝を折っている。これが謙虚なオマージュの姿勢(?)

 オマージュ作家、ビリー・ジョエルの個性が炸裂したのが、’83年発表の『An Innocent Man』。このアルバムで彼は、主に’50年代後半から’60年代前半にかけて、自分が思春期の頃に親しんだリズム&ブルース、ドゥーワップ、ロックンロールに立ち返り、様々な作品の意匠をこれでもかというほど盛り込んでオマージュ大会を繰り広げた。アルバムの全ての曲が20〜25年ほど前のオールディーズの換骨奪胎で、しかもそれで大ヒットしてしまったという、まるでブルーノ・マーズ『24K Magic』の’80年代版みたいな作品なのである。

 『Billy Joel: Guilty or Innocent?』は、『An Innocent Man』全10曲の元ネタを集めたプレイリスト。アルバムと同じ順序で10曲(上記トラックリストで赤表示)が並び、各曲の前にその元ネタと思しき曲を並べてある。まず最初に元ネタを聴き、それをビリー・ジョエルがどのように換骨奪胎したか実際に聴いて確認する。元ネタがはっきりと1曲〜数曲に特定できる場合もあれば、あるアーティストやジャンルの特徴的なサウンドが漠然と引用されている場合もあるので、必ずしもここに並べた曲だけが元ネタというわけではない。大体このあたりを意識しているのだろうな、と推測し、代表的な類似曲をまとめたのがこのプレイリストである。

 例えば、アルバム冒頭の熱血ソウル・ナンバー「Easy Money」は、基本的にはオーティス・レディング、ウィルソン・ピケットのスタックス路線だが、サビのファンキーなシンコペーション・リズムはプレ・ファンク期のジェイムズ・ブラウン(「I Feel Good」「I Got The Feelin’」「Cold Sweat」)、歌メロはサム・クック「Twistin’ The Night Away」という具合に、複数のネタが混ざっている。「An Innocent Man」は完全にドリフターズ〜ベン・E・キング。アカペラの「The Longest Time」はドゥーワップというジャンルそのものへのオマージュだが、代表的なところでフランキー・ライモン&ザ・ティーンエイジャーズ「Why Do Fools Fall In Love」、同じアカペラ作品のタイムズ「So Much In Love」を元ネタとして挙げた。続く「This Night」もドゥーワップ・オマージュだが、こちらはその特徴的なベース・パートの歌唱からスパニエルズ「Goodnite Sweetheart, Goodnite」が元ネタと分かる。「Tell Her About It」は、「Heat Wave」「You Can’t Hurry Love」というモータウンの二大ビートを合体させた曲……だが、一番似ているのは「I’m Ready For Love」かもしれない。

 B面1曲目「Uptown Girl」は「Sherry」に代表されるフォー・シーズンズのサウンドを上手くデフォルメした作品。「Careless Talk」は’60年前後のオールディーズによくある曲調で、大体「Little Darlin’」〜「Oh! Carol」〜「Dream Lover」からサム・クックあたりを狙っているとは思うが、もっと決定的に似ている曲があった気がして仕方ない(これじゃね?と指摘できる方は是非ご一報を)。「Christie Lee」はロックンロール・ピアノマンたち──リトル・リチャード、ジェリー・リー・ルイス──へのオマージュで、曲調自体は「Lucille」に近い。サックスが登場する編曲や歌唱法もリトル・リチャード的だ。

 ちょっとトリッキーなのは「Leave A Tender Moment Alone」。トゥーツ・シールマンスがハーモニカで客演したこのハートウォーミングな曲は、いかにもスティーヴィー・ワンダーっぽい印象を与える。全体的な雰囲気は完全に「My Cherie Amour」や「Never Had A Dream Come True」なのだが、どうも釈然としない。もっと似ている曲があったはず、と粘り強く考え続けた末、「Isn’t She Lovely」だとようやく分かった。一度気付くとそうとしか聞こえないのだが、’50年代後半〜’60年代がオマージュ対象になっている中で「Isn’t She Lovely」というのは完全に盲点である(ちなみに、桑田佳祐もサザンオールスターズ「欲しくて欲しくてたまらない」で「Isn’t She Lovely」を巧みに換骨奪胎している。ビリー・ジョエルと比べてみるのも一興だ)。最終曲「Keeping The Faith」の元ネタも比較的新しい。ベティ・ライト「Clean Up Woman」がそれだが、小気味よくシンコペートするこの曲のギターリフは、サム&デイヴ「Soul Man」や、ボ・ディドリーのジャングル・ビートとも通じるものがある。

 という具合に、『An Innocent Man』には過去の様々な名作の記憶が散りばめられている。但し、ただ単に似た曲を作るのではなく、編曲、歌唱法、コード進行、リフなどを部分的に引用しながら、独自のメロディや曲展開でしっかり捻りを利かせているのがポイント。その結果、ある特定の時代やアーティストを猛烈に想起させはするが、最終的に“ビリー・ジョエル”としか言いようがない作品になっている。自分を育ててくれた先人たちに敬意を払いながら、そこから新しい作品を作るという意志がはっきりと伝わってくる。まさにオマージュの手本のようなアルバムだ。


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現代版ビリー・ジョエル、ブルーノ・マーズの「Uptown Funk」(2014)

 私がこのプレイリストを作ろうと思ったきっかけは、ミシェル・ンデゲオチェロによる’18年のブルーノ・マーズ批判にある(“ブルーノ・マーズはカラオケだ”発言。詳しくは過去記事参照)。ミシェルのその発言に触れたとき、私は内心“よくぞ言った!”と思った。「Uptown Funk」と言い、『24K Magic』と言い、ブルーノの作品はあまりにも借用が過ぎる。何でもかんでもオマージュと言えば許されるわけじゃねえぞ! と思っていたからである。しかし、よく考えてみれば、ブルーノ・マーズがやっていることは、ビリー・ジョエルが『An Innocent Man』でやったことと全く同じなのである。「Finesse」を聴いて“ベル・ビヴ・デヴォーのコピーだ!”と怒る中年音楽ファンがいるように、「Uptown Girl」を聴いて“フォー・シーズンズのコピーだ!”と怒る中年音楽ファンが35年前もいたはずなのだ。ビリー・ジョエルが無実の男なら、ブルーノ・マーズだってそうではないのか。私は自分の頭の固さを反省し、ブルーノを肯定するためにこのプレイリストを作った。ポリスを換骨奪胎したビリー・ジョエル「Running On Ice」に続けて、最後に彼の「Locked Out Of Heaven」が入っているのはそのためである。

 こうしたオマージュ作品にはしばしば盗作疑惑がかけられる。その傾向は’10年代以降、強まっている。’15年には「Blurred Lines」(2013)を巡ってマーヴィン・ゲイ遺族に訴えられていたロビン・シック&ファレルが敗訴するという信じられないニュースがあったし、マーク・ロンソン feat. ブルーノ・マーズ「Uptown Funk」もギャップ・バンド「Oops Up Side Your Head」を部分的に引用しているとして同曲の作者5名にも著作権料が分配されることになった。

 雰囲気が似ているからダメ、という「Blurred Lines」判決に照らせば、ビリー・ジョエル『An Innocent Man』は大半の曲が著作権侵害でアウトだろう。業界内には、金銭だけを目当てに売れているアーティストにたかるハイエナのような連中がうじゃうじゃいる。時たまこうした盗作疑惑が持ち上がることは、アーティスト側にとっても戒めになるので、一概に悪いことだとは思わない。しかし、創作というものはそもそも“自分もこういう作品を作りたい”という思いから始まる。そうした創作の原点を否定するような社会の仕組みは絶対に間違っている。少なくとも私自身は、いち音楽ファンの立場として、若手アーティストによる過去作品の模倣には寛容でありたいと思うのである。




 ビリー・ジョエル「Keeping The Faith」は恐らくジョージ・マイケル「Faith」(1987)を触発した。そうやって芸術は発展していくのである。Keep The Faith!

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