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Models──バルバドス



 前々回前回の2度にわたって’80年代オーストラリアの様々なアーティストをプレイリストで紹介した。Spotifyを駆使して同国の広大な砂漠を掘り、今まで存在すら知らなかったバンドや歌手の埋もれた傑作をたくさん発見したのだが、その中でひとつびっくりするような宝石を見つけたので紹介したい。拙プレイリスト『Stimulation: 80s Australian Funk-Pop Gems』にも収録したモデルズの「Barbados」という曲である。

 モデルズは’70年代末にメルボルンで結成されたロック・バンドで、メンバーチェンジを経ながら’80年〜’86年に計5枚のアルバムを発表した。代表作は’85年の『Out Of Mind Out Of Sight』(全豪3位/全米84位)で、同アルバムからは「Out Of Mind Out Of Sight」(全豪1位/全米22位)、「Barbados」(全豪2位)という2つの大ヒット曲が生まれた。前者はアメリカでも中ヒットしたが、「Barbados」はオーストラリアとニュージーランドのみでのヒットで、日本を含め、その他の国ではほとんど知られていない曲である。

 「Barbados」を書いたのはバンドのヴォーカリスト兼ベーシスト、ジェイムズ・フロイド。タイトル通り、カリビアン風の味付けがされたリゾート感漂うミッドテンポの心地良い曲なのだが、歌詞はかなりダークだ。フロイドは重度のアルコール中毒だったそうで、この曲には酒に溺れて現実逃避する自分と、その状況から抜け出そうともがく様子が歌われているようだ。つまり、話者の“僕”は、太陽が降り注ぐバルバドスという楽園に実際にいるわけではなく、アルコール中毒という地獄の中でその地を夢想しているのである。

 残念ながら、ジェイムズ・フロイドは’10年に自殺で亡くなった(享年51歳)。「Barbados」は、彼が残した切なくも美しい名曲である。この1曲で彼の名は私の胸に深く刻み込まれた。




 Barbados
 (James Freud/Andrew Duffield)
 
 All I see is washed away
 I am the voice left from drinking
 I celebrate my love for you
 Into the calm saying I believe
 That all the bitterness
 Will last for hours
 
 何もかも流れ去る
 これは酒飲みの戯言
 愛する君に乾杯だ
 夢心地へ あとあと
 何時間も苦しむと
 知りながら
 
 May be I would blind the girl
 Who is drowning in the silence
 She turns the grey into a cold stare
 Into a storm I have to be
 Wake up to anger and mixed emotions
 
 静けさに埋もれた少女の
 目をくらませることだろう
 くらんだ目は冷たい視線に変わり
 僕は嵐に呑み込まれ
 怒りと複雑な思いに苛まれる
 
 In the sun I will come
 To see Barbados
 In the sun I will come
 To see Barbados
 
 陽を浴びて 僕は飛ぶ
 バルバドスの地へ
 陽を浴びて 僕は飛ぶ
 バルバドスの地へ
 
 All I see is washed away
 I am the voice left from drinking
 I celebrate my love for you
 Into the calm saying I believe
 That all the bitterness
 Will last for hours
 
 何もかも流れ去る
 これは酒飲みの戯言
 愛する君に乾杯だ
 夢心地へ あとあと
 何時間も苦しむと
 知りながら
 
 In the sun I will come
 To see Barbados
 In the sun I will come
 To see Barbados
 
 陽を浴びて 僕は飛ぶ
 バルバドスの地へ
 陽を浴びて 僕は飛ぶ
 バルバドスの地へ


※原詞はアルバム・ブックレット掲載の公式歌詞に基づく。1番の歌詞は、酔いが醒めたあとで酷い思い(頭痛、吐き気、自己嫌悪)をすると分かっていながら酒を飲んでしまう状況を歌っているように読める。2番は酔いが醒めていく過程を歌っていると思うが、“girl”が出てくる最初の3行が分かりにくい。実在の人物ではなく、自分を客観視するもうひとつの視線を表す暗喩だと思うのだが……あまり上手く訳せなかった。

※“バルバドス”という国名は酒に酔った極楽状態を暗喩するものだろうが、その“極楽”は文字通り“あの世”も連想させる。その印象は、始めと終わりに『ディア・ハンター』風のショッキングな映像が挿入されるMVや、ジェイムズ・フロイドの実人生を思うと更に強まる。“I am the voice left from drinking(これは酒飲みの戯言)”という自嘲的な一節は、無茶苦茶な音楽人生とアルコール中毒について告白したフロイドの2冊の自伝本『I am the Voice Left from Drinking(私はこうして酒に溺れた)』(2002)、『I am the Voice Left from Rehab(私はこうしてリハビリした)』(2007)のタイトルにもなった。

※「Barbados」「Out Of Mind Out Of Sight」には、前回記事で紹介したオーストラリアのR&Bバンド、アイム・トーキングの女性ヴォーカリスト2人、ケイト・セベラーノとザンがバック・ヴォーカルで参加している。2人は「Out Of Mind Out Of Sight」のMVにも出演(モデルズの’84年のMV「God Bless America」にも出ている)。「Barbados」のMVでは、ザンと、彼女の双子の姉妹であるシェリーン(’88年に「Breakaway」をヒットさせるビッグ・ピッグのヴォーカリスト)の姿が見られる。




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