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Ghost──ジャマイカのMJ



 あるいは、ジャマイカのNG。




Ghost - Covers 4 Lovers

 前回、フェイク音源で世を騒がすマイケル・ジャクソンの“ゴースト”について書いたが、こちらは正真正銘、本物のゴースト。ジャマイカのダンスホール/ラヴァーズ・ロック歌手、その名もゴーストである。

 ジャマイカには昔から米英のヒット曲を自国のレゲエ・スタイルでカヴァーする伝統があるが、ゴーストもその例に漏れず、オリジナル曲とあわせて多くの米英ポピュラー曲のカヴァーで人気を博してきた人。『Covers 4 Lovers』は、これまで彼が発表してきた傑作カヴァーの数々を集めたプレイリストである。

 レゲエ・ファンの間では昔から知られた歌手だと思うが、私がこの人の存在を知ったのは今から7~8年前のこと。シャーデーの面白いカヴァーはないかとYouTubeを散策していたところ、彼が歌う「By Your Side」(2001)に出くわした。「By Your Side」はボブ・マーリーが「A Whiter Shade Of Pale」をカヴァーしたような雰囲気の曲で、もともとレゲエとは相性が良いのだが(なにせアルバム名からしてずばり“Lovers Rock”である)、ゴーストのヴァージョンはアレンジのハマり具合もさることながら、優しさと切なさが同居した独特の甘酸っぱい歌唱がとにかく素晴らしく、私は一発でその解釈に魅了された。実はシャーデーの方がカヴァーなんじゃないかと錯覚するくらい、ゴーストのラヴァーズ解釈は「By Your Side」という楽曲に見事にマッチしていたのである。

 ゴーストの最大の特長は、何と言ってもMJ似のソフトで中性的なハイトーンの歌声。マイケルがよくやる“アッ(ウッ)”という吃逆のようなリズム唱法も取り入れていて、実際、“ジャマイカのマイケル・ジャクソン”とも言われているのだが、彼は前回紹介したMJ模倣者たちとは違って、独自の表現スタイルをきちんと確立している。「Speechless」「The Girl Is Mine」「Off The Wall」といった彼のMJ楽曲カヴァーはいずれも本当に素晴らしい(「Speechless」は特に絶品)。マイケルがジャマイカ人だったらこんな感じだったかもと思わせるし、MJ好きな点と丸っこいルックスの雰囲気は、ついでにMJ研究家のミュージシャン、西寺郷太氏を想起させたりもする(年齢もほぼ一緒)。私はゴーストのことを密かに“ジャマイカの西寺郷太”と呼んでいるが、そんな点も含めて(?)、ともかくMJファンに大推薦の歌手なのである。


Ghost_Covers4Lovers_originals.jpg


Ghost - Covers 4 Lovers (Original Versions)

 こちらは『Covers 4 Lovers』の原曲を集めたプレイリスト。ゴーストのカヴァー版はオリジナルと違う曲名がつけられている場合もあるので、原曲はこちらで確認して欲しい(ロックウェル「Cuts Like A Knife」のみSpotifyにないため抜けている)。’70年代から’10年代まで幅広い時代の様々な有名曲が取り上げられている。

 ゴーストのカヴァーには大きく分けて、メロウで心地良いラヴァーズ調と、展開がほとんどない単調な打ち込みリディムに強引に歌メロを乗せるダンスホール調の2パターンがある。ラヴァーズ系はどれも絶品だが、プレイリストの2曲目に置いたセリーヌ・ディオン「To Love You More」(ゴースト版タイトル「Waiting For You」)は、オリジナル超え連発のゴーストのカヴァーの中でも特に魅力的な1曲。ダンスホール系では、MJ「Wanna Be Startin’ Somethin’」のカヴァー「Mixup Situation」や、シンディ・ローパー「Time After Time」のカヴァーなどを聴くとそのドープさがよく分かるだろう。エア・サプライの「Making Love Out Of Nothing At All」(ゴースト版タイトル「Nothing At All」)と「Lonely Is The Night」は、前者がラヴァーズ調、後者がダンスホール調で料理されているが、繊細かつ大胆な歌唱でいずれも味わい深く聴かせてくれる(後者はマイケル譲りの吃逆唱法が効果絶大)。基本的にR&B~ポップス・マナーの歌い方をする人だが、MJ似の繊細な歌声には、同時にジャマイカらしい大らかさや、乾いた哀切さとでも言うべきもの──切ないのにウェットでない──があって、本当に良い塩梅である。ラヴァーズもの全般に言えることではあるが、彼の歌が決してウェットにならないのは、何があっても歩き続けるようなレゲエ独特のあの軽やかで力強いリズムがあるからこそかもしれない。

 2ndアルバム『Love You』に収録のプリンス「1999」、クリス・デ・バー「The Lady In Red」、ジョージ・マイケルも取り上げたテレンス・トレント・ダービー「Let Her Down Easy」等のカヴァーがSpotifyにないのが残念だが、『Covers 4 Lovers』はあちこちに散らばっているゴーストのカヴァー音源を出来る限り集めたものである(ゴーストのSpotifyアーティスト・ページは複数乱立していて無茶苦茶なのだ)。曲順は記録性重視の時系列ではなく、実用性重視の気持ち良く聴ける並び。オリジナル曲も素晴らしい人だが、まずはこれらのカヴァー版から彼の魅力を発見してみてはいかがだろう。

Ghost_Cds.jpg
私のゴーストCDコレクション(’01年に7インチ発売された「By Your Side」カヴァーはアルバム未収)

 最後に簡単にゴーストの活動歴をまとめておく。

 ゴースト(本名 Carlton Hylton。’74年生まれ)は’80年代末から歌手活動を開始。Ghost & Cultureというコンビで’90年代初頭にいくつかヒットを出した後、自作曲「Slowly」を含む1stソロ・アルバム『Slowly』(1993)を発表。Monster Shack Crewという3人組で『Monster Party』(1998)というアルバムを1枚出した後、再びソロへ戻り、2nd『Love You』(2000)、3rd『Under The Moonlight』(2002)を発表。優れたオリジナル曲とカヴァー曲で構成されたこの2作の成功によって世界的に高評価を得る(この2作はMusic Ambassadorというブルックリンのレゲエ・レコード配給会社から出たが、そのお膳立てをしたのはサラーム・レミだったという)。’10年にビクターエンタテインメントから4th『No Limit』を日本先行発売。同作は翌年に内容を一部変えて『Stories』として海外発売された。その後もEP『Passion』(2015)や複数のシングルを発表している。

 カヴァー中心でダンスホール色が強い1stは非レゲエ・リスナーには取っつきにくいが、オリジナル曲+カヴァー曲という構成でラヴァーズ色も強まった2nd~4thの3作はどれも聴きやすく、幅広い音楽ファンにお薦めできる。個人的にはR&B色が濃厚な3rd『Under The Moonlight』を強く推しておきたい(「Speechless」はここに収録。『Invincible』のミッド&スロー曲が好きな人は絶対気に入る。アル・グリーン「Let’s Stay Together」やフォリナー「I Want To Know What Love Is」の名カヴァーもあり)。ゴーストについて更に詳しいことは、’10年末のアルバム『No Limit』日本発売時に24×7 Recordsのサイトに掲載された空前絶後のゴースト大特集記事(全3回。インタビュー含む)を是非。



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