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We Will Funk U~「We Will Rock You」の残響



 Buddy, you're a boy, make a big noise
 Playing in the street, gonna be a big man someday
 You got mud on your face, you big disgrace
 Kicking your can all over the place, singin’
 
 通りで遊ぶわんぱくよ
 キミもいずれは大物だ
 顔は泥んこ アヒルの子
 所かまわず騒いでる(ア ソレ)
 
 We will, we will rock you
 We will, we will rock you
 
 俺たち世界を揺らしたる
 世界をあっと言わせたる
 
 Buddy, you're a young man, hard man
 Shouting in the street, gonna take on the world someday
 You got blood on your face, you big disgrace
 Waving your banner all over the place
 
 通りで喚くゴロツキよ
 いずれ世界に挑むがいい
 顔は血だらけ 落ちこぼれ
 あちらこちらで旗を振る
 
 We will, we will rock you, sing it!
 We will, we will rock you
 
 俺たち世界を揺らしたる(歌え!)
 世界をあっと言わせたる
 
 Buddy, you're an old man, poor man
 Pleading with your eyes, gonna make you some peace someday
 You got mud on your face, big disgrace
 Somebody better put you back into your place
 
 哀れな目をした爺さまよ
 いずれ安らぐ日が来るぜ
 顔は汚れて しょぼくれて
 悪いがあんたはお呼びでねえ
 
 We will, we will rock you, sing it!
 We will, we will rock you, everybody
 We will, we will rock you
 We will, we will rock you
 
 俺たち世界を揺らしたる(歌え!)
 世界をあっと言わせたる(みんなで)
 俺たち世界を揺らしたる
 世界をあっと言わせたる


 ──クイーン「We Will Rock You」(1977)




WE WILL FUNK U
Echoes of Queen’s We Will Rock You in Hip Hop, R&B and Pop

PART 1:
Fanfare For The Common Man (1942/1971) - Aaron Copland & London Symphony Orchestra
We Will Rock You (1977) - Queen
Funk You (1985) - Afrika Bambaataa
We Will Rock You (1987) - Grandmaster Flash & The Furious Five
Rock You (1987) - Kool Moe Dee
Word II (1988) - Two Live Crew
Geto Boys Will Rock You (1988) - Geto Boys
You’re Gonna Get Rocked (1988) - La Toya Jackson
Rhythm Nation (1989) - Janet Jackson
When Will They Shoot? (1992) - Ice Cube
They Don’t Care About Us (1995) - Michael Jackson
In The Street (2007) - Turf Talk
We Will Rap U (2007) - Philemon
We Will Rock U (2007) - Wayne Pascall
PART 2:
Bleeding Love (2007) - Leona Lewis
Go Ahead (2007) - Alicia Keys
Halo (2008) - Beyoncé
Already Gone (2009) - Kelly Clarkson
Happy (2009) - Leona Lewis
Try Sleeping With A Broken Heart (2009) - Alicia Keys
E.T. [Single Version] (2010/2011) - Katy Perry feat. Kanye West
I Care (2011) - Beyoncé
We Are Young (2011) - Fun. feat. Janelle Monáe
Girl On Fire [Inferno Version] (2012) - Alicia Keys feat. Nicki Minaj
Wildest Moments (2012) - Jessie Ware
Brave (2013) - Sara Bareilles
Roar (2013) - Katy Perry
Chandelier (2014) - Sia
Love Me Like You Do (2015) - Ellie Goulding
Power (2015) - Leona Lewis
This Is Me (2017) - Keala Settle
Goodnight Gotham (2016) - Rihanna
Lit (2017) - Steve Aoki & Yellow Claw feat. Gucci Mane & T-Pain
We Will Mock You (2017) - Mistah Qbiz2
Give Peace A Chance (1969) - Plastic Ono Band

Further Listening:
We Will Rock You (1999) - Snoop Dogg [Not on Spotify]
We Will Rock You (2003) - Macy Gray [Not on Spotify]
We Will Rock You (2004) - Beyoncé, Britney Spears, P!nk [Not on Spotify]
No One (2007) - Alicia Keys
I Got You (2009) - Leona Lewis
Only If For A Night (2015) - Rihanna [Not on Spotify]
This Is Me [The Reimagined Remix] (2018) - Keala Settle, Kesha, Missy Elliot


 イギリスのバンド、クイーンが生んだロック史上最大のアンセム「We Will Rock You」。この曲がロック以外のポピュラー音楽全般──ヒップホップ、R&B、ポップ──に与えた影響を検証するプレイリスト『We Will Funk U』を作った。’80年代から’10年代に至るまで、「We Will Rock You」の影響下にある曲の中から重要作、または、あまり(あるいは、ちっとも)重要ではないが面白い作品を選び、時系列で並べてある。このプレイリストをざっと通しで聴けば、’77年の発表から40年もの間、「We Will Rock You」の残響が様々なヒット曲の中にこだまし、世界を揺らし続けていることが分かるだろう。


震度7級! 世界中を揺らした「Rhythm Nation」の激震

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ブラックパンサー風の闘争的イメージを打ち出した「Rhythm Nation」のMV

 With music by our side to break the color lines
 Let's work together to improve our way of life
 Join voices in protest to social injustice
 A generation full of courage, come forth with me

 音楽を武器に人種の壁を打ち破る
 一緒により良い世界を築こうよ
 社会の不正に声を上げよう
 勇気溢れる新世代 私と共に立ち上がれ
 
 People of the world today
 Are we looking for a better way of life? (Sing!)
 We are a part of the rhythm nation
 People of the world unite
 Strength in numbers, we can get it right one time
 We are a part of the rhythm nation

 今の世界の人々 私たちは本当に
 より良い世界を目指しているのか(歌え!)
 我々はリズム国家の一員だ
 世界の人々が結束し
 力を合わせて一念発起
 我々はリズム国家の一員だ


 ──ジャネット・ジャクソン「Rhythm Nation」

 結論、と言うか、このプレイリストを通して私が一番言いたいことを先に書くと、これまで「We Will Rock You」の余波から生まれた多くの曲の中で、最も芸術性・独創性に富み、尚かつ、商業作品としても破格の成功を収めた最高傑作は、ジャネット・ジャクソン「Rhythm Nation」(1989)である。この曲が「We Will Rock You」の影響を受けていることはあまり一般的に認識されていないかもしれないが、ジャクソン家のその他の作品等とあわせて注意深く聴けば、自然とそのことに気付くはずである。

 まず注目すべきは、「Rhythm Nation」が世に出る11ヶ月前、’88年10月に発表されたラトーヤ・ジャクソンのシングル曲「You’re Gonna Get Rocked」。この曲を冒頭に配した彼女の5作目『La Toya』は、彼女が父親兼マネージャーのジョーと手を切り、それまでのEpicからRCAに移籍して発表した、いわばジャクソン家からの“独立宣言”のようなアルバムだった。プロデューサーにフル・フォース(リサ・リサ&カルト・ジャム、サマンサ・フォックス、ジェイムズ・ブラウン)とストック・エイトキン・ウォーターマン(リック・アストリー、バナナラマ、カイリー・ミノーグ)という強力な二本柱を立てて制作された『La Toya』は、大したヒットには至らなかったものの、ジャネット『Control』(1986)に倣ってミネアポリス・ファンク色を強く打ち出し、ストリートを意識して大いに攻めた意欲作だった。

 フル・フォースが制作したヒップホップ調ファンク「You’re Gonna Get Rocked」は、不発に終わった『La Toya』の最大の成果と言うべき佳作。同年に『I’m Real』を手掛けてジェイムズ・ブラウンをヒップホップ時代に復活させたニューヨークのR&B/ヒップホップ・グループ、フル・フォースは、ここでJB「Talkin' Loud And Sayin' Nothing」「Funky President」とあわせてクイーン「We Will Rock You」のビートをサンプリングし、「We Will Rock You」をファンク/ヒップホップ解釈するという大技を見せている。“We will rock you”を換言した“You’re gonna get rocked”という表題フレーズは言うに及ばず、“Oh, oh, oh, oh, oh”というフックの合唱も実に「We Will Rock You」的。ラトーヤはこの歌で、“マイケルの姉”としてしか自分を見てこなかった大衆に向かって“みんな私を見くびってる。あっと言わせてやる!”と息巻いている。実際には誰もあっと言わなかったし、アルバムは明らかにジャネット『Control』の後追い、MVはマイケル「The Way You Make Me Feel」(1987)のパクリだったりと、結局、弟妹の成功に便乗しているようにしか見えないのが悲しいところだが、「You’re Gonna Get Rocked」で試みられたR&B/ヒップホップ(ニュー・ジャック・スウィング)とロックの折衷は『Control』には見られないものだったので(「Pleasure Principle」と「You Can Be Mine」のギターが少しロックっぽかった程度)、少なくとも’88年の時点でラトーヤは妹ジャネットを音楽面で半歩はリードしたと言える。

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ラトーヤ『La Toya』(1988)、ジャネット『Janet Jackson’s Rhythm Nation 1814』(1989)

 ’89年9月にアルバム表題曲として発表された「Rhythm Nation」で、ジャネットは姉の「You’re Gonna Get Rocked」をあっさり超えてみせた。この超え方が本当に鬼だ。“JB+「We Will Rock You」”だった「You’re Gonna Get Rocked」に対して、「Rhythm Nation」は“スライ+「We Will Rock You」”。以下、この曲の制作に関するジミー・ジャムの発言を引用する。

「アルバムの音楽的な方向性が決まるきっかけは、ミネアポリスのレストランでスライ&ザ・ファミリー・ストーンの〈Thank You (Falettinme Be Mice Elf Agin)〉を聴いた時だった。僕はこの曲が大好きで、何万回と聴いていたから、その時も最初は聴き流していたんだ。 会話を楽しんでいた僕たちは、この曲のことをまったく意識していなかった。だが、いきなり僕の耳がブリッジの部分のギターのブレイクを捉えた。それでアイディアが生まれたのさ。“これだ! アイディアが生まれたぞ!”と僕が叫ぶと、みんなは“何だ?”という顔をしていたが、“『Rhythm Nation』のアイディアが生まれた。これだよ! 今流れているパートを聴いてくれ!”と訴えたんだ。それでみんなが“ファンキーだね”と言うと、僕は“そうだろ! スタジオに戻ったらこれを使うぞ!”と返して、すぐにスタジオに戻って、2小節のギターループを作り、Linn Drumを叩き、その上にストリングスを加えて〈Rhythm Nation〉を作った。この曲で全員がアルバムの方向性を把握したんだ」(April 2016, Red Bull Music Academy Japan)

 ジャム&ルイスはスライ「Thank You」(1969)のギターリフ音源で言うと1分12秒、または2分16秒からの間奏部で登場する)を軸に「Rhythm Nation」のバッキング・トラックを作り、更に──これはインタビューでは語られていないが──そこに「We Will Rock You」風の扇動的な合唱を乗せた。“Sing!”というジャネットの号令の後に来るサビの“We are a part of the rhythm nation”という男女混声のパワフルな合唱がそれだ。人脈的、あるいは音楽的に見ても、「Rhythm Nation」が「You’re Gonna Get Rocked」に触発されていることは間違いないと思われる。

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アフリカ・バンバータ「Funk You」収録──12インチ・シングル「Funk You」(1985)、アルバム『Beware (The Funk Is Everywhere)』(1986)

 「We Will Rock You」を基にした黒人音楽作品は「You’re Gonna Get Rocked」以前にも存在する。既存曲を流用することに長けたヒップホップの世界では、グランドマスター・フラッシュ、クール・モー・ディー、2ライヴ・クルー、ゲットー・ボーイズらが「We Will Rock You」をネタにした曲を’80年代後半に次々と発表しているが、中でも注目されるのはアフリカ・バンバータ「Funk You」(1985)。当時、日本でもシングル発売されたこの曲は、サビを“We will funk you”に替えて「We Will Rock You」を換骨奪胎したファンク~ヒップホップ賛歌である。これを踏まえてジャネット「Rhythm Nation」を聴くと、その思想的コンセプトやネーミング自体がバンバータ主宰のズールー・ネイション(“愛・平和・結束”を理念とする国際的なヒップホップ文化啓蒙組織)に由来している可能性に気付く。「Rhythm Nation」の“心”とは、要するに“We will funk you”なのではないか。アフリカ・バンバータ「Funk You」とラトーヤ・ジャクソン「You’re Gonna Get Rocked」、この2つが「Rhythm Nation」の直系の親だと私は考える。

 黒人音楽特有のスウィング感(跳ね感)を強調したヒップホップ対応型R&B=ニュー・ジャック・スウィングを大々的に取り入れ、シリアスな社会的メッセージも盛り込んだ『Janet Jackson’s Rhythm Nation 1814』は、’90年代の黒人音楽、ないしはポピュラー音楽全体の方向性を示唆した歴史的な傑作アルバム。その基軸となる表題曲「Rhythm Nation」は、音楽を武器に人種差別と闘い、人々に結束を促す非常に闘争的・扇動的な歌である。そこに同じく人々を扇動・鼓舞するロック・アンセム「We Will Rock You」の合唱が援用されている点に、『Janet Jackson’s Rhythm Nation 1814』というアルバムが持つ無敵の強度、全方位的な魅力の秘密を見る気がする。JBよりもロックと相性の良いスライの曲を触媒としたことも成功の大きな要因だろうし、ジャネットの音楽やメッセージはアフリカ・バンバータより更に開かれたものだった。そこにはヒップホップ・ファンもR&Bファンもロック・ファンもポップ・ファンも、みんなまとめて引っ張る絶大な力があった。

 『Janet Jackson’s Rhythm Nation 1814』の“1814”は、アメリカ国歌「The Star-Spangled Banner(星条旗)」が書かれた年を指している(国歌に正式採用されたのは1931年)。つまり、「Rhythm Nation」は“ジャネット・ジャクソンのリズム国”の国歌(ナショナル・アンセム)ということになる。’86年にジャクソン家から“独立”を果たしたジャネット(『Control』は、『Janet Jackson’s Rhythm Nation 1814』風に改題すれば、アメリカの独立年を引用して『Janet Jackson’s Control 1776』となる)は、それから僅か数年後、音楽の力で立派な“国家”を築き上げた。『Janet Jackson’s Rhythm Nation 1814』は全世界で1200万枚を売り上げ、’90年ビルボード年間チャートで堂々の1位を獲得。彼女は強烈なビートで世界中を揺らしまくり、兄マイケルをも追い越して見事に世界の頂点に立ったのである。

 「You’re Gonna Get Rocked」と続けて「Rhythm Nation」を聴くと、ジャネットとジャム&ルイスのコンビの無敵ぶりが恐ろしいほどに分かる。緻密なプログラミングで聴き手を徹底的に揺らしにかかるマシンビートの凄まじさ、歌詞とメロディの圧倒的な扇動力は「You’re Gonna Get Rocked」の比ではない。爆弾で言うと、ダイナマイトと核爆弾くらいの差がある(核爆弾を保有できるのは“国家”だけである)。「You’re Gonna Get Rocked」は普通にとてもカッコいい曲だし、ラトーヤも十分に頑張ったと思うが、彼女の必死の遠吠えは「Rhythm Nation」の爆風に一瞬でかき消されてしまった。ここには音楽界の二流アーティストと超一流アーティストの差がはっきりと表れている。実の姉妹だというのに、この勝負はあまりにも残酷だ。全く恐るべき妹である。

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ブラジルの貧民街で撮影されたショート・フィルム「They Don’t Care About Us」(1996)

 『Janet Jackson’s Rhythm Nation 1814』でジャネットに決定的なリードを奪われた兄マイケルは、その後、完全に後手に回ってしまう。ニュー・ジャック・スウィングに乗って人々に団結を促す「Jam」(1991)は、そのステージ・パフォーマンスも含めて完全に「Rhythm Nation」の後追い曲。よほど悔しかったのか、’95年の『HIStory』ではギターにスラッシュを迎え、あからさまに「We Will Rock You」的な曲想のプロテスト・ソング「They Don’t Care About Us」を制作し、荒んだ社会に対する弱者の怒りと不満をストレートに表現した。’83年にフレディ・マーキュリーとスタジオ入りまでしていたマイケルが、「We Will Rock You」に触発された楽曲制作で姉と妹よりも大きく遅れをとってしまったのは何とも皮肉なことである(『Bad』でやるべきだったと思うが……彼はそこで代わりに「Man In The Mirror」という大傑作アンセムをものにした)

 「Rhythm Nation」ほどのインパクトこそ与えられなかったものの、「They Don’t Care About Us」は十分に傑作の名に価する作品であり、特にファンの間ではマイケルのキャリアの中でも屈指の重要作として高く評価されている。スパイク・リー監督によって2種類制作されたショート・フィルムのうち、ブラジルの貧民街で現地のパーカッション・グループを伴って撮影された“ブラジル・ヴァージョン”のパフォーマンスはとりわけ素晴らしい。ロック圏外で生まれた「We Will Rock You」影響下の曲としては、間違いなく「Rhythm Nation」と並ぶ最高レベルの作品である。


敗者復活の賛歌「We Will Rock You」

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「We Will Rock You」で大観衆を沸かした’85年ライヴ・エイドでのクイーンのステージ

 パンク・ロックの嵐が吹き荒れる’77年に「We Are The Champions」とセットで発表されたクイーン「We Will Rock You」は、本記事冒頭の歌詞拙訳(かなりの超訳だが、下手な直訳よりはマシかと思う)からも分かる通り、異なる3世代の人物──子供(少年)、若者(青年)、老人──に向かって話者が呼びかける歌である。

 ここで“大人”が呼びかけ対象になっていないのはなぜだろう。“大人”を入れて4番まで歌詞を作ると曲が冗長になるからだろうか(2分2秒の曲なので、もう1コーラス加えても余裕で3分以内に収まる)。仮に、社会を仕切っている有力者を“大人”だとすると、ここで呼びかけられる子供、若者、老人の三者は、いずれも社会的に大した力を持たない“弱者”と言うことができるかもしれない。話者が“大人”に向かって呼びかけないのは、つまり、それが話者にとって“敵”だからではないのか。更に言えば、“俺たちはあんた(ら)を揺さぶってやる(We will rock you)”の“あんた(ら)”とは、とどのつまり“大人”を指すのではないか。

 “子供”と“若者”は活力に溢れているが、最後の“老人”は惨めで弱々しい単なる無力者扱いで、随分と皮肉な口調で切り捨てられている(老いぼれは引っ込んでろ的な)。楽曲発表当時のイギリスの音楽シーンやフレディ・マーキュリーの年齢(30歳)から考えて、これら三者の中で話者が最も共鳴し、熱心に呼びかけているのは、2番に登場する“若者”ではないだろうか(よー、そこの若いの的な距離感)。

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’77年、ロンドン、ウェストエンドのパンクス

 この“通りで喚く攻撃的な若者”(young man, hard man shouting in the street)は、具体的にはパンクスのような輩を指すと思われる。彼らはあまり勉強もできず、学校での成績も良くないか、学校に通うことさえやめてしまったような人々で、定職に就くこともなく、漠然と社会への不満を募らせながら、クスリや喧嘩に明け暮れて日々路上をぶらついている。社会的に力を持たない“若者”の中でも特に最下層に属する彼らは、俗に“落ちこぼれ”、“負け犬”などとも呼ばれる。「We Will Rock You」は、良く言えば、そうした何者でもない負け犬たちを鼓舞する応援歌、敗者復活の賛歌であり、悪く言えば、自分を認めない社会(知人や学校なども含む)への恨みと苛立ちが充満した怨恨感情の塊のような歌である。全くもってロック的な、あまりにロック的な歌ではないだろうか(“パンクス”という類型にピンと来なければ、渋谷のスクランブル交差点に集まって騒ぐ若者たちを思い浮かべればいい。「We Will Rock You」は彼らのような群衆が歌うのにピッタリの歌だと思う)


“私は王者(I am a champion)”──闘う女子の自己応援歌

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’04年にペプシCFで世界を揺らしたビヨンセ(中央)、ブリトニー・スピアーズ(左)、ピンク(右)

 クラップ&ストンプ(手拍子&足踏み)で聴き手を扇動・鼓舞する「We Will Rock You」。その残響を私たち音楽ファンはここ10年ほど繰り返し耳にしている。似たようなラウドなドラムビートが、’00年代後半から主にR&B/ポップ畑の女性アーティストによるパワー・バラード系の大ヒット曲で多用されているのである。

 その端緒と言えそうなのが、『Xファクター』出身のイギリスの歌姫、レオナ・ルイスの特大ヒット「Bleeding Love」(2007)、そして、その翌年に発表されて同じく大ヒットしたビヨンセの「Halo」(2008)。いずれもヒットメイカーのライアン・テダーが手掛け、曲調や詞の内容が似ていることから当時よく比較された作品だが、両者はミッドテンポのラウドで重量感のあるドラムビートを使っている点でも似ている。バスドラムとフロアタムを併用して低音の響きを強調した「Bleeding Love」のドラム・サウンド(スネアは金属質な破裂音)は、「Halo」になるとスネアの代わりにハンドクラップ音が用いられ、同時に、強いリバーブ処理によってラウド感を増した。そのドラム・サウンドは「We Will Rock You」のクラップ&ストンプに極めて近い印象を与える。翌’09年、ライアン・テダーはケリー・クラークソンとレオナ・ルイスにそれぞれ「Already Gone(「Halo」に似過ぎで当時ちょっとした騒動になった)、「Happy」という、これまた同系統の楽曲を提供。ドラムもますますラウドさを増していくのだが……。

 ライアン・テダーが制作したこれら4つのよく似たパワー・バラード曲の中で、ハンドクラップ音が使われているのがビヨンセ「Halo」のみというのが興味深い。ラウドなドラム・サウンドはロックという音楽ジャンル自体のひとつの特徴であって、決して「We Will Rock You」1曲に由来するものではないが(’60年代ではビートルズ「Helter Skelter」、’70年代ではレッド・ツェッペリン「Kashmir」などが代表例。’80年代になるとスティーヴ・リリーホワイト、スティーヴ・アルビニらエンジニア系プロデューサーによって残響音が強調され、ロックのドラム・サウンドは一層ラウドさを増していく)、ハンドクラップ音とバスドラム+フロアタムが作り出す「Halo」の重いビートからは、「We Will Rock You」に近づけようという意識めいたものが確かに感じ取れるのである。その印象は、全く同様のクラップ音を使い、よりロック色を増した3年後の彼女の同系曲「I Care」(2011)を聴くと更に強まる。「Halo」はライアン・テダー、「I Care」はジェフ・バスカー(カニエ・ウェスト、ブルーノ・マーズ、マーク・ロンソン)の制作曲だが、いずれの曲にもビヨンセは共作/共同プロデュースで大きく関わっている。「Halo」の4年前、’04年に彼女はペプシCFに出演し、ブリトニー・スピアーズ、ピンクと共に「We Will Rock You」を歌っていた(しかもブライアン・メイ制作で、演奏はクイーン)。彼女はその際、そのビートから大きなインスピレーションを得ていたのではないか。「Halo」「I Care」の明らかに「We Will Rock You」風のビートには、ビヨンセ自身の意向が強く反映されている気がしてならない。

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’13年グラミー授賞式でドラムを叩きながら「Girl On Fire」を歌うアリシア・キーズ

 同じ頃、「We Will Rock You」系のラウドなドラム・サウンドを使ってクロスオーヴァー(ジャンル/人種の越境)を試みていたR&B界のスーパー・ディーヴァがもう一人いる。アリシア・キーズである。

 ’07年秋、「Bleeding Love」のヒットと同時期にU2的な曲想の「No One」で特大ホームランを放ったアリシアは(「No One」とU2楽曲の類似については’07年当時にさんざん書いたので省略)、それと並行して、同曲を収録した3rdアルバム『As I Am』(レオナ・ルイスの1stと全く同じ’07年11月9日発表)の実質的オープニング曲「Go Ahead」で「We Will Rock You」系の重いドラムビートを既に使っていた。ドラムは残響音のない密室的なミックスだが、聴き手に合唱を促すサビのフックと、後半のブレイクダウンで入るエコーの効いたハンドクラップ音からは、「We Will Rock You」的なロック・アンセム要素を自作に取り入れようという明確な意図が感じられる。つまり、アリシアは『As I Am』でU2とクイーンを両方やっていたのである。U2系の「No One」はリズム・パターンやドラム・サウンドが異なるためプレイリストには入っていないが(但し、U2もラウドなドラムが特徴的なロック・バンド)、ビヨンセ「Halo」や、“続「Bleeding Love」”的なレオナ・ルイス「I Got You」(2009)にも影響を与えたと思われる重要曲である(前者はイントロのピアノの分散和音が似ている。後者は“1-5-6-4”のコード進行と全体的なアレンジがパクリと言っていいくらい「No One」そっくり)。この時期、彼女たちR&B界の歌姫は、ほぼ同時に揃ってロック的要素を似たような形で取り入れていた。

 アルバム曲「Go Ahead」で「We Will Rock You」系ドラムビートを試用したアリシアは、ビヨンセ「Halo」のヒットを挟んだ2年後のシングル曲「Try Sleeping With A Broken Heart」(2009)でそれを実戦投入した。イントロから最後まで曲の要として鳴り響く重量級のドラムビートは、「Go Ahead」よりもラウドさを増し、強烈な印象を聴き手に与える。アリシアと共同でソングライティング/プロデュースを担当したのは、先述のビヨンセ「I Care」を2年後に手掛けることになるジェフ・バスカー。そして、「I Care」と、同じくジェフ・バスカー制作によるファンの大ヒット「We Are Young」(2011)が出た翌年、アリシアが再びバスカーと組んで作ったのが「Girl On Fire」(2012)である。それは「Try Sleeping With A Broken Heart」をアップデイトし、とことんラウドなドラム・サウンドにこだわった──しかも「No One」のU2的要素(終盤の“Oh, oh, oh...”のリフレインに顕著)まで入った──まさに“最終兵器”と呼ぶに相応しい究極の1曲だった。私見ではあるが、誰が一番大きな音でドラムを叩くか、という一連の爆音太鼓合戦を最終的に制したのはアリシアで、「Try Sleeping With A Broken Heart」~「Girl On Fire」という彼女の2曲が、「We Will Rock You」系ドラムビートを使った後続のパワー・バラード曲群の決定的フォーミュラになったように思う。

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“I am a champion”というフレーズが飛び出すケイティ・ペリー「Roar」は、そのロック色の強さも含め、21世紀の女子版「We Will Rock You」+「We Are The Champions」と呼ぶに相応しい1曲(サラ・バレリスの同年のヒット「Brave」のパクリには違いないが、ケイティ・ペリーはその3年前の「E.T.」で既に「We Will Rock You」解釈をやっていた)

 レオナ・ルイス、ビヨンセ、アリシア・キーズらが型を作った後、ジェシー・ウェア「Wildest Moments」(2012)、サラ・バレリス「Brave」(2013)、ケイティ・ペリー「Roar」(2013)、シーア「Chandelier」(2014)、エリー・ゴールディング「Love Me Like You Do」(2015)……という具合に、女性シンガー・ソングライターたちによる全く同種のラウドなドラムビートを使ったパワー・バラードの大ヒット曲が立て続けに生まれていった。プレイリストで続けて聴くとよく分かるが、どれも本当に似たような感じの曲で、ただ単純に時系列で並べるだけで、これらはまるでひとつの組曲のように自然に繋がる。

 女性アーティストによるこれら一連のパワー・バラード曲には、何らかの挫折(主に失恋)を経験して心に傷を負った主人公が、そこから果敢に立ち上がろうとする様を描いたものが目立つ。サラ・バレリス「Brave」、ケイティ・ペリー「Roar」の2曲は特にその傾向が強く、前者は二人称(あなた)、後者は一人称(私)が主人公という違いはあるものの、いずれも完全に応援歌の趣を呈している。アリシアの「Girl On Fire」は主人公を三人称(彼女)で描いているが、これも強い女子像を歌った(女性のための)一種の応援歌に違いない。「We Will Rock You」のラウドなドラムビートは、世の闘う女性たちを励まし、彼女たちの背中を押す“マーチング・ドラム”として21世紀に生まれ変わった。

 その極みと言えるのが、映画『グレイテスト・ショーマン』(2017)の主題歌で、日本でも大ヒットした「This Is Me」である。キアラ・セトル演じる髭女をはじめ、様々な身体的特徴を持った社会的弱者たちがコンプレックスを乗り越え、サーカスという場で輝く際の心象を力強く歌ったゴスペル調のポップ・ソング。『ボヘミアン・ラプソディ』公開前年の当時、そこで鳴っているドラムを耳にして「We Will Rock You」を連想することは難しかったが、こうしてプレイリストという形で家系図を辿ってみると、この曲が確かに「We Will Rock You」と血縁関係にあることが分かる。

 リアーナ「Goodnight Gotham」(2016)は、’15年に彼女が出演したディオールCFへの提供曲「Only If For A Night」(フローレンス&ザ・マシーンの’11年の同名曲の改作)がアルバム『Anti』ボーナス収録の際に改題されたもの。これまで見てきた一連のパワー・バラード曲群とは毛色の異なる作品だが、過激なまでにラウドなドラムと、群衆を扇動するMV(パリのトロカデロ広場でリアーナが大人数のファンと会う)に「We Will Rock You」との親近性が感じられるためプレイリストに収録した。

 その「Goodnight Gotham」の延長で最後に聴きたいのが、グッチ・メインとT・ペイン客演のスティーヴ・アオキ「Lit」(2017)。このパーティー乗りのトラップ曲では、T・ペインによって「We Will Rock You」冒頭の歌詞が引用され(“Baby, you’re a boy makin’ big noise, hangin’ in the street”)、続いて登場するドラムのヘヴィーなブレイクダウンが曲の大きな盛り上がり所になっている。聴衆を揺さぶる文字通り“Lit”な(ヤバい、アガる)そのビートは、まさに「We Will Rock You」の’10年代進化版といった趣きである。40年という歳月を経て「We Will Rock You」はここまで来た。


市民のためのファンファーレ

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『スーパーマン』(1978)──スーパーマンに変身するクラーク・ケント

 多くの子孫を生み、ポピュラー音楽史に大きな影響を及ぼした「We Will Rock You」。では、そもそも「We Will Rock You」自体の音楽史的な親は何なのか、という話を最後にしたい。

 「We Will Rock You」の親と思われる作品は2つある。ひとつは、アメリカの近代クラシック作曲家、アーロン・コープランドが作曲した「Fanfare For The Common Man(市民のためのファンファーレ)」(1942)。金管楽器と打楽器によって演奏される約3分の勇壮なインスト曲で、元々は戦意高揚を意図して兵士のために作られたようだが、作曲家自身の希望によって最終的に市民に捧げられる作品となった。何者でもない一般の庶民を鼓舞する、という作品コンセプトや、打楽器の効果的な使い方など、この曲と「We Will Rock You」の間には多くのはっきりとした共通点が見出せる。ここには「We Will Rock You」のサビと全く同じメロディまで含まれているのだ(プレイリストに収録のコープランド指揮/ロンドン交響楽団の音源では2分1秒〜2分7秒の部分でそれを確認できる)。「Fanfare For The Common Man」は、ローリング・ストーンズの’75〜’76年ツアーでオープニングBGM(ライヴ盤『Love You Live』参照)に使用された他、スティクスの1stアルバム冒頭曲「Movement For The Common Man」(1972)や、「We Will Rock You」の半年前に発表されたエマーソン・レイク&パーマー『Works, Vol. 1』(1977)でも取り上げられた曲(約10分あるEL&Pの「Fanfare For The Common Man」は3分の短縮版が’77年5月にシングル発売され、全英2位の大ヒットを記録)。当然、クイーンのメンバーたちも耳にしていただろう。

 ちなみに、「Fanfare For The Common Man」は「We Will Rock You」の他にもうひとつ、誰もが知る超有名曲に影響を与えている。ジョン・ウィリアムズ作曲「Theme from Superman(スーパーマンのテーマ)」(1978)。夜明けの薄明を思わせる「Superman」のあのイントロは、どう聴いても「Fanfare For The Common Man」のパクリだ。『スーパーマン』は、平凡なサラリーマンの男──まさに“Common man”──がヒーローになって戦う話である。そのテーマ曲が戦時中に書かれた庶民のためのファンファーレを基にしていることは実に理にかなっている。

 「We Will Rock You」のもうひとつの親作品は、音楽ファンなら誰もが知っているだろう有名曲である。’69年にあるイギリス人が作ったその曲は、オチとしてプレイリストの一番最後に入っている。「We Will Rock You」への影響は明らかだし、多くの音楽ファンがその類似に気付いているはずなので、ここでは特に言及しない。やはり偉大なアーティストであると改めて思う。


 以上、「We Will Rock You」の影響と出自について書いた。ここでは主にロック以外のポピュラー音楽への影響を注視したが、この曲はもちろん後続のロック作品にも普通に莫大な影響を与えている(と思う)。ロックに関する私の知識は’90年代オルタナ・ロックあたりで止まっているのであまり具体例は挙げられないが、思い出せる範囲で言うと、デフ・レパード「Pour Some Sugar On Me」(1987)、ヴィクセン「I Want You To Rock Me」(1988)といった’80年代後半のハードロック曲にはっきりその影響が見出せる(しかし古い例だな)。デズモンド・チャイルド楽曲に代表される合唱系ハードロック曲は、全部「We Will Rock You」の子供・親戚と言ってもいいかもしれない(最近、’80年代後半のハードロック黄金期の曲をコンパクトに編纂した『80s Hard Rock Cafe』というプレイリストを作ったので、お好きな方はどうぞ)

 「We Will Rock You」の家系図はこれで終わりではない。この世に様々な弱者がいる限り、この曲は形を変えながら今後も多くのポピュラー音楽の中で生き続けるだろう。



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