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ノワール・ジャズと真夜中のブルース





 先月末、交通事故のため惜しくも34歳という若さで急逝したヴァネッサ・ブレイを偲び、『Noir Jazz and Midnight Blues: Twin Danger Extended Mix』というプレイリストを作成した。

 スチュアート・マシューマンとヴァネッサ・ブレイによるジャズ・ポップ・ユニット、ツイン・デンジャーが残した名盤『Twin Danger』(2015)の収録曲に、マイルス・デイヴィス、チェット・ベイカー、スタン・ゲッツ、トム・ウェイツ、アンジェロ・バダラメンティ、メロディ・ガルドー、メラニー・デ・ビアシオ、プーマ・ブルー等々、彼らのサウンドと共鳴する様々なアーティストの曲を織り交ぜた全50曲、約3時間20分のプレイリスト。’13年の来日公演時、開演BGMに使われた『タクシードライバー』サントラ曲「Thank God For The Rain」に続けて、『Twin Danger』の全12曲(配信限定ボーナス曲「Missing Her」を除く)をアルバムの曲順通りに散りばめ、音楽的な繋がりを考えながら各曲の間に他のアーティスト作品を(原則的に)3曲ずつ挿入していった。“『Twin Danger』拡大版”とでも言うべきこのプレイリストは、『Twin Danger』が好きすぎて一晩中そのサウンドに浸りたいという私の個人的願望と、逆に、いまだツイン・デンジャーを知らない多くの音楽ファンに、(“シャーデー”よりむしろ)“ノワール・ジャズ”というキーワードから彼らの作品を発見してもらおうという考えから生まれた。彼らの作品は、ここに併録したいくつかの有名アーティストたちの作品と同じくらい人々に知られていいと強く思う。

 ヴァネッサの訃報に触れて『Twin Danger』を聴き返し、改めてそのサウンドに深く感動したことがプレイリスト作成の直接のきっかけであることは言うまでもない。完成には4晩を要した。いくつかの収録候補曲(チェット・ベイカー「Almost Blue」、メアリー・コクラン「Heartbreak Hotel」、ラウンジ・リザーズ「The Hanging」など)はSpotifyになかったし、選曲・曲順には若干再考の余地もあるが、取り敢えず納得できる形にまとまった。私の個人的な音楽嗜好が反映されているのはもちろんだが、同時にマシューマンとヴァネッサの好みや、彼らに影響を与えた音楽も重視した(トム・ウェイツが3曲も入っているのは、彼らの来日公演時、開演前と終演後の場内BGMでアサイラム時代の彼の曲がずっと流されていたことに因む。フラミンゴズ「I Only Have Eyes For You」はヴァネッサがインタビューでお気に入りに挙げていた曲)。このプレイリストにはツイン・デンジャーというユニットに対する私の思いがたっぷり詰まっている。彼らが与えてくれた感動を少しでも多くの音楽ファンと共有できれば幸いだ。


続報──“殺人事件”の可能性も

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事故現場に立てられた3人の木の十字架

 10月25日(金)の午後4時45分頃、ヴァネッサは車に2人の幼い子供(2歳の長女と生後4ヶ月の長男)を乗せてカリフォルニア州サンタバーバラの州道154号線を走行中、対向車線からセンターラインを越えて突っ込んできた車に正面衝突され、2人の子供と共にその場で亡くなった。

 愛する家族を全員失ってしまったヴァネッサの夫で画家のマックス・グリーソンさんは、事件から4日後、Facebookに悲痛な思いを綴った。

「私はまだ生きている。今、私にあるのは彼らの記憶だけだ。その記憶が消えていくのがとても怖い。それは写真と言葉に取って代わられるだろう。彼らは自分にとってもはや触れることのできない存在になってしまう。それがとても悲しい。この世にこれほど辛い悲しみはない。私のアイデンティティは完全に崩壊し、今、自分には新たなアイデンティティを築くという長く困難な課題がある。そう考えると全く先が見えないし、恐ろしい」

 ヴァネッサの車に突っ込み、瀕死の重傷を負って病院に搬送された28歳の男性、ジョン・ロデリック・ドンガン John Roderick Dungan は、その後の報道で非常に問題のある人物であることが分かった。

 ドンガンは今年2月23日に警察から家宅訪問を受けていた。自分の携帯電話の連絡先に登録されている全員に気味の悪い長文メールを送りつけたことが原因だった。“僕はこの現実にあまりにも敏感だ。この世の人生を無価値にする呪われた祝福/祝福された呪いに満ちている。もうたくさんだ。誰もこの問題を解決してくれないか、僕を殺してくれないなら、自力でどうにかするまでだ”というのがそのメールの一部。彼は当局の訪問を受けた際、同じサンタバーバラで’14年に銃乱射事件を起こしたエリオット・ロジャー容疑者(当時22歳。6人を殺害して自殺)に何度か言及したという。また、その際、両親が同居する彼の家宅から、拳銃、ショットガン、ライフルを含む計16丁の銃と、2万発の弾薬、ガスマスク、複数の大容量弾倉(連射力を高める)が発見された。銃は登録済みの合法的なものだったが、中には違法に改造されたものもあった。家からは4万ドルの現金が入ったドンガンの金庫も見つかり、彼は“プロのポーカープレイヤー”を自称していたという。危険人物と判断され、銃を没収された上、精神病院へ送られたドンガンは、そこで重度の精神病症状を伴う大うつ病性障害と診断された。

 また、ドンガンは元交際相手の女性に対し、Facebookなどを通して下品で脅迫的なメッセージを送り続けたり、クリスマスや誕生日に家に押しかけ、彼女の新たな交際相手の男性に攻撃的な態度を取るなどのストーカー行為を繰り返していた。結果、今年3月1日、銃に関する複数の容疑とストーカー罪で彼は郡刑務所に収監された。同月20日に釈放されたドンガンはGPS監視下に置かれ、外来治療を受けることを命じられた。彼の次の出廷予定日は11月1日だった。

 実は、事件があった10月25日夕方、サンタバーバラ当局はドンガンが自殺/殺人行為に及ぶ危険性を察知し、今年2月と同じように彼の家を訪れるところだったという。警察がまさに家に向かっていたそのとき、悲劇は起きた。当局は目撃者を探し、殺人の可能性も視野に入れて事件を捜査しているようだ。

 夫のマックスさんは今回の件が殺人事件であると主張している。

「私の家族は殺された。彼らの死は不慮の出来事などではなく、悪による故意のものだ。この世には悪が存在する。それはジョン・ロデリック・ドンガンに宿り、彼は他人を巻き添えにして死ぬつもりで、妻の車にわざと突っ込んだのだ。巻き添えにすることには成功したが、自殺には失敗した。彼はまだ生きている。私の家族は死んだ。悪は世界中に存在している。私たちは日々それをニュースで知る。それは暗黒の力だ」

(出典:Santa Barbara IndependentSanta Barbara News-Press


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長男の出産を3週間後に控えたヴァネッサ、夫と長女と共に(今年6月、夫のスタジオにて。左に見えるのは2年前の長女妊娠中に描かれた作品。右は撮影時に完成したばかりの作品)

 これまで何度も好きなアーティストの訃報に触れてきたが、今回のヴァネッサの他界は今までで最も不条理で、やるせないものである。どうして彼女が死ななければならなかったのか。しかも、2人の幼い子供と一緒に。夫のマックスさんは気が狂うような深い悲しみと怒りに日々苛まれているだろう。それは私の想像を遥かに絶する苦しみに違いない。

 あまりにも悲劇的な死が頭から離れず、訃報に触れてから今日まで1週間、私はただ彼女の音楽ばかり聴いている。’16年に父親のポール・ブレイが他界したとき、ヴァネッサは遺族を代表した公式声明の中で、“内輪の追悼式はフロリダ州スチュアート、ニューヨーク州チェリー・バレー、また、ポール・ブレイのレコードがかけられるあらゆる場所で行われる”と書いていた。どこであれ、レコードをかければそのミュージシャンの追悼式場になる。今、単なるいちファンの私にできるのは、ヴァネッサの音楽をかけ、それにじっくり耳を傾けること、そして、彼女の作品をこうしてブログを通して人に紹介することくらいである。この記事を読んでいるあなたも、もし良ければこの“追悼式”に参加して欲しい。


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