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思い出のブラジル



 Brazil, where hearts were entertaining June...




 Brazil
 (Ary Barroso/Bob Russell)
 
 Brazil
 The Brazil that I knew
 Where I wandered with you
 Lives in my imagination
 
 ブラジル
 思い出のブラジルよ
 貴方と巡ったあの場所は
 私の心に生きている
 
 Where the songs are passionate
 And a smile has flash in it
 And a kiss has art in it
 For you put your heart in it
 And so I dream of old Brazil
 
 歌は情熱に満ち
 笑顔は光り輝き
 心には火が灯り
 口づけが燃え盛る
 夢に見る懐かしのブラジル
 
 Where hearts were entertaining June
 We stood beneath an amber moon
 And softly murmured someday soon
 We kissed and clung together
 Then tomorrow was another day
 The morning found me miles away
 With still a million things to say
 
 心躍る6月
 琥珀色の月のもと
 私たちは誓いを囁き
 口づけを交わし寄り添った
 やがて明日の風が吹き
 朝 遥か遠くに私はいた
 尽きせぬ想い抱いたまま
 
 Now when twilight dims the sky above
 Recalling thrills of our love
 There's one thing I'm certain of
 Return I will
 To old Brazil
 
 今 黄昏が空を染め
 恋のときめきが蘇る
 私は心に誓う
 きっと戻る
 あのブラジルへ


 ブラジルの作曲家アリ・バホーゾが作詞作曲した「Aquarela Do Brasil(ブラジルの水彩画)」(1939)は、その英語版「Brazil」と共に、長年にわたって世界中で愛されてきたサンバの名曲である。この歌は南米をテーマにしたディズニー映画『ラテン・アメリカの旅(Saludos Amigos)』(1942)や、バズビー・バークリー監督のミュージカル映画『バズビー・バークリーの集まれ!仲間たち(The Gang’s All Here)』(1943)で大々的に使われ、同時期に発表された英語版の普及と相まって世界的に広く知られるようになった。

 ポルトガル語で書かれた原曲は、ブラジルの様々な特色を挙げながらブラジルを賛美する愛国歌だが、米作詞家ボブ・ラッセルが詞をつけた英語版「Brazil」は、上に訳出した通り、異国ブラジルでの情熱的な恋を回想するエキゾチシズムに溢れた全くの別内容になっている。視点が国の内側から外側に移り、一種の夢の国としてブラジルが描かれている(この歌が北半球目線で書かれていることは、ブラジルで晩秋〜冬に当たる6月を“entertaining”と形容している点からも窺い知れる)。実際、この歌で主人公が恋人と会う“ブラジル”という場所は、明確に夢と結びつけられている。“私”が“貴方”と会うのは夜であり、朝になるとすべては遥か遠い出来事になってしまうのだ。

Brazil2.jpg
『未来世紀ブラジル』──主人公の男は夢の中で自由に空を飛び、理想の女と出会う

 私が「Brazil」という曲を知ったのは、テリー・ギリアム監督のディストピア映画『未来世紀ブラジル(Brazil)』(1985)を通してだった。管理社会に生きる公務員の逃避行を描いたその映画の中で、夢の国=ブラジルを描いたこの歌は非常にアイロニカルに使われていた。ここで歌われる“ブラジル”とは、つまり実在のブラジルではなく、心の中だけに存在する(“Lives in my imagination”)どこにもない理想郷なのである。

 プレイリスト『Brazil』は、その『未来世紀ブラジル』を踏まえつつ、’39年の初録音版から’97年のピンク・マルティーニ版まで、この曲のポルトガル語版、英語版、インスト版の中から優れものを厳選し、時系列で並べたものである。

 この曲の英語版には元々、原曲に倣って“Brazil, the Brazil that I knew...”という歌詞で始まる導入部があったが、やがて省略されるのが慣例になった(導入部つきヴァージョンは初期のジョセフィン・ベイカー版やダイニング・シスターズ版などで聴ける)。サンバ版、ジャズ版、イージーリスニング版、エレキ版、ボサノヴァ版などを経て、’70年代にはディスコ版も登場。スティーヴィー・ワンダーと聞き違えそうな’83年のセザル・カマルゴ・マリアーノ版、サンバとフラメンコが混ざった’94年のディオンヌ・ワーウィック版(ほとんどブイカ状態。絶品!)など、探してみると様々な素晴らしいヴァージョンがあることに気付く。とにかくメロディが魅力的な曲なので、どんな編曲でも退屈することがない。何時間でも気持ち良く聴いていられる(’85年のエグベルト・ジスモンチ&ナナ・ヴァスコンセロス版は例外。これは変態すぎてさすがに外した)

 Spotifyにはマイケル・ナイマンが担当した『未来世紀ブラジル』のサントラ音源がなかった。劇中で印象的に使われた’70年のジェフ&マリア・マルダー版(日本ではサントリーのCMにも使われた)を除き、同サントラで聴ける複数のヴァージョンはここには未収録だが、’97年のピンク・マルティーニ版はそれを補う逸品である。主人公の夢の場面で流れるケイト・ブッシュ版とエンドロールで流れるサンバ版を合わせたようなアレンジは、実際に『未来世紀ブラジル』を意識しているようにも思える。その後も数多くのカヴァー版が発表されているが、このプレイリストは『未来世紀ブラジル』に触発されているため、そのピンク・マルティーニ版で締め括られる。

 ジャケットに使用した写真は、オスカー・ニーマイヤーが設計したブラジリアのブラジル国会議事堂(’61年、エリオット・アーウィット撮影)。「Aquarela Do Brasil」「Brazil」の傑作選、あるいは『未来世紀ブラジル』のスピンオフ的な音源集としてお楽しみいただきたい。



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