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洗練音楽の極み。



 シャーデー・アデュの60歳の誕生日の翌日(’19年1月17日)、渋谷のWWW Xでフォニー・ピープルを観た後、タワーレコード渋谷店に立ち寄ってみると、黒人音楽の名盤コーナーでシャーデーがプッシュされていた。


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クリックで拡大するとレコメン文が読めます

 ライ、ジェイムズ・ブレイク、ドレイク、フランク・オーシャン、ザ・ウィークエンドらが引き合いに出され、’10年代のオルタナR&B〜チルウェイヴ(いわゆるアンビエントR&B。私は勝手に“ユル&B”と呼んでいた)の原点としてシャーデーを再発見しよう、という提言である。’00年代の始めにネオ・ソウル〜オーガニック・ソウルの波が来たときも、シャーデーはその源流として再評価されていた。キング・クルール、コスモ・パイク、ジェイミー・アイザック、プーマ・ブルーといった昨今のUKインディー勢のジャズ志向にしても、遡ればシャーデーに行き着くだろう。“今こそ再評価すべき!!”と言うか、いつでも再評価すべきなのがシャーデーである。この特設コーナーは常設にしてほしい。

 Soul, Attitude, Dignity, Elegance
 (ソウル、姿勢、尊厳、気品)

 前回記事でも書いたように、これが私の考えるシャーデーの定義だが、“洗練音楽の極み”、“正に神々しい”といったタワレコの謳い文句を見て、また別の定義を思いついた。

 Sophisticated Austere Divine Enigma
 (洗練された飾り気のない神々しい謎めいた人)

 こっちの方がより一般イメージに近いかもしれない(“S”は“Sensual”か“Seductive”、または“Smooth”でもいい)。誰か私に座布団くれないかな。

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来月末、代官山UNITで2度目の単独来日公演を控えるマセーゴ。前回のビルボード・ライブ公演はアウェイ感が半端なかったが、今度は大いに盛り上がるはず

 そして、アンダーソン・パーク『Oxnard』の特設コーナーをぼんやり眺めると、ノーウォーリーズとケンドリック・ラマーの間にマセーゴ『Lady Lady』が! CD化されていたなんてちっとも知らなかった。タワレコ店頭販売価格、2,290円(税抜き)。手に取って買おうかどうか一瞬迷ったが、結局、そのまま棚に戻した。高すぎるし、第一、買ってもどうせ聴かないからだ。私のリスニング環境は既にSpotifyに完全移行している。CDを所有しているアルバムもSpotifyで聴くくらいなので、買うだけ無駄なのである(アマゾンを見たら1,683円だったが、それでも買う気がしない)

 しかし、マセーゴはこの位置なのだろうか。シャーデーの特設コーナーにもさり気なく置いておいてほしい。

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永遠の新譜

 MJ『Invincible』。実は昨夜の来日公演でフォニー・ピープルはこの中の1曲を演奏した。不覚にも私は彼らがMJのカヴァーをやっていることを知らなかったので、発狂するくらい感動した(’15年にSoundCloudでスタジオ録音が公開されていた。知らなかったぞ!)

 それにしても、タワレコは客が入っていない。もう何年も前からそうだが、どんどん客が減っている。21時過ぎ頃に私が行ったとき、広い洋楽フロアには10人も客がいなかった。何とかCDを売ろうと頑張っているが、そろそろ限界ではないか。CDと320kbpsの圧縮音源に聴覚上の差はほとんどないし、利便性やコスト・パフォーマンスを考ると、CDとストリーミング・サービスではどう考えても後者が圧勝である。

 あらゆる音源を瞬時に取り出せる無限大の音楽ライブラリーと共にある幸福。保管場所は一切要らないし、ハードディスクも喰わず、いつどこでもアクセスできる。物質、あるいはデータとして音楽を所有しなければならない日々が遂に終わった。これは録音メディアが初めて発明され、演奏者なしで音楽が聴けるようになったとき以来の革命ではないだろうか。部屋で大量のCDやボックス・セット類の山に囲まれ、こういうものが無限に入る四次元ポケットがあればいいのに、と私はずっと思っていた。それに限りなく近いことが実現したのである。定額制ストリーミング・サービスは、まさに音の四次元ポケットだ。もう部屋の中で何十分もかけてCDを探さなくていい。レコード屋へ行く必要もないし、アマゾンでポチらなくてもいい。音源と一緒に無駄な紙やブラスチックを買わされずに済むし、おまけにディスクガイド本も要らず、自分好みの面白い音楽をガンガン発見できる。一度ストリーミング・サービスの凄さを知ってしまうと、もうCDには帰れない。

 いまだサブスクリプションに(そしてYouTubeにすら)消極的な邦楽業界は、一体何を考えているのだろう。文化的にもビジネス的にもガラパゴス化して世界と隔絶し続ければ、いずれ自分たちの首が絞まるに決まっている。サブスクを利用する今のリスナーは、サブスクで聴けないものは基本的に聴かない。CDは高いし、第一、面倒くさくて聴く気にならないからだ。音楽アーティストにとってサブスクに参入しないことは、自ら作品の流通経路を断つことであり、はっきり言って自殺行為に等しい。日本はとんでもない音楽後進国だ。この新たなメディアに対応した新たなビジネスのやり方を考えるしかないではないか。その事実を真摯に受け止め、一刻も早く山口百恵の全音源をSpotifyで解禁してもらいたいものである(……と、’19年1月17日、彼女の60歳の誕生日に思う)。

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クイーン頼みの洋楽フロア

 この日、私がタワレコ渋谷店を訪れたのは、CDを買うためではなく、フリーマガジンのbounce誌とintoxicate誌をゲットするためだった。アマゾンの方が安くて便利なので、タワレコには10年程前からCDを買うためでなく、フリーマガジンのためだけに時たま訪れる程度になっている(が、フィジカル作品しか載っていないので、これもどんどんつまらなくなっている)。中古盤を漁るためにレコファンやユニオンへ行くこともなくなった。行けば余計なものを買ってしまうし、第一、今はSpotifyがあるので行く必要もない。私は10年以上前からアナログ盤の購入をやめているので、レコード屋にはもはや完全に用がなくなっている。

 とはいえ、長年の音楽ファンとして、街からレコード屋が消えるのは寂しい。レコード屋と本屋と映画館。これらは何時間いても飽きることのない私の大切な憩いの場だ。アナログに力を入れる、シャーデーをもっとプッシュするなどして、タワーレコードには何とか生き残ってほしい。

 ……あと、洋楽を扱う日本の各ストリーミング・サービス会社は、CDや音楽雑誌がなくなって食いはぐれている音楽ライターたちに執筆の場を与えるべきではないだろうか。アプリ内で音源を聴きながら、同時に有料版限定でその作品に関する簡単な解説(ライナーノーツ)を読めるようにすればいい。その作品がどのような背景から生まれ、どういう価値を持つのかリスナーに正しく伝えられる人間は必要である。そうすれば各サービス会社のコンテンツがもっと差別化され、例えば、どこどこのストリーミング・サービスのR&B系は誰々がたくさん解説を書いているから有料版にしよう、などと利用者を更に引きつけることができる(既にどこかでやっている?)。Spotifyをやっていて私が不満に思うのは、音源だけがあって、その作品に関する基本情報がほとんど何もないことである。Bandcampのような作品クレジットもないし、発表年すら間違っているものも少なくない(再発年とごっちゃになっている)。この辺りを是非とも何とかしてほしい。

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『Motown Classics』──なぜか「The Dock Of The Bay」が入っている

 ちなみに、フォニー・ピープルの渋谷公演では開演前にモータウンの有名曲がずっとBGMで流れていたが、それもSpotifyである。Digster Playlistsというユーザーのプレイリスト『Motown Classics』。これの最初の方がかかっていた(終演後に流れたのはJ5「I’ll Be There」とミラクルズ「Love Machine」)

 私は現在持っている数千枚のCDを徐々に処分していき、死ぬまでに手持ち枚数を100枚以下にしようと思っている。もうSpotifyなしでは生きていけない。

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