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Little Glee Monster──スマイル大賞2018



 このブログでは毎年末(12月30日)S.A.D.E.大賞という年間最優秀賞を発表しているが、それとは別に“スマイル大賞”という特別賞がある。一年を通して多くの人に微笑みを与えたことを讃える賞で、該当するアーティストや曲があった年に限って私が勝手に贈っている。もともとマイケル・ジャクソンのために作った賞で’14年、受賞曲「Love Never Felt So Good」)、その後はフォニー・ピープル’15年、受賞曲「Why iii Love The Moon」)しか獲っていなかったが、今年はその受賞に相応しいグループがいる。

 2018年スマイル大賞は、日本の女性ヴォーカル・グループ、Little Glee Monster。受賞曲は、コカ・コーラの年間イメージ・ソングになった彼女たちの12枚目のシングル曲「世界はあなたに笑いかけている」である。




 「世界はあなたに笑いかけている」(作詞:いしわたり淳治、丸谷マナブ/作編曲:丸谷マナブ)はコカ・コーラのキャンペーン用に制作され、フィジカルでシングル発売(’18年8月1日)される半年以上前、’18年1月からコカ・コーラのテレビCMを通して全国に流れ始めた……らしいのだが、私はテレビをほとんど見ない人間なので、しばらく曲の存在に気づかなかった。私がこの曲を知ったのは、様々なカラー・バリエーションの商品ラベルを売りにしたコカ・コーラのサマー・キャンペーン(7月23日~)が始まり、曲のシングル化とあわせてLittle Glee MonsterがCMに登場するようになった夏頃のことだった。

 最初に聞いたのは〈Count Down TV〉だったと思う。私は小さい頃にマイケル・ジャクソンで音楽に目覚め、それから30年以上、ほとんど欧米のポップ・ミュージックしか聴いてこなかった洋楽一辺倒の偏狭な音楽ファンだが、一応、国内の音楽事情について常識的な知識を得るため、毎週〈Count Down TV〉(TBS/土曜深夜)と〈Love Music〉(フジテレビ/日曜深夜)だけは努めて観るようにしている。これらの番組(特に前者)では現在の日本で流行っている曲がダイジェストで大量に流れる。矢継ぎ早に流れる無数のヒット曲のサビを耳にして個人的に興味を引かれることは滅多にないが、「世界はあなたに笑いかけている」は最初にサビを数秒聴いた瞬間、“あっ!”と思った。どう聴いても名曲の予感しかしない、メロディも歌詞も歌唱も素晴らしく突き抜けたサビだった。

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「世界はあなたに笑いかけている」とあわせて聴きたいモータウン、フィリー・ソウル、ディスコ・ソウルの名曲たち(画像は楽曲収録アルバム)──マーヴィン・ゲイ&タミー・テレル「You're All I Need To Get By」(1968)、ジャクソン5「I Want You Back」(1969)、オージェイズ「Love Train」(1972)、ジャクソンズ「Blame It On The Boogie」(1978)

 曲をフルで聴いてみたいと思った私は、“世界は君に笑いかけている”、“世界はあなたに微笑んでいる”などとうろ覚えで曲名を検索し、YouTubeで早速この曲の動画をいくつか視聴した。私がこの曲に惹かれた大きな理由のひとつは、サビに「I Want You Back」的な往年のモータウン作品のキラキラとした輝きや、オージェイズ「Love Train」のような高揚感を感じたからだが、通しでまともに聴いてみると、半音ずつ下降するBメロのクリシェが「You're All I Need To Get By」っぽかったり、オクターブ・フレーズのベースでディスコ感を増すCメロのグルーヴィーな展開がこれまたツボだった。「We Will Rock You」(またはMJ「They Don’t Care About Us」)風にドラムビートが強調される終盤のブレイクダウンも熱い。’60~’70年代の欧米ポップ・ミュージックの輝きを散りばめたこうしたサウンドの上に、流麗なメロディと共に日本語の歌詞が実に気持ち良く乗っている。こんなポップ・ソングらしいポップ・ソングは久々に聴いた。

 欧米のポップ・ミュージックを参照したこのようなJ-Popはいくらでもある。と言うか、歌謡曲の時代から日本のポップ・ミュージックは基本的に欧米音楽の模倣や解釈の上に成り立ってきたものだと思うし、そういう意味では「世界はあなたに笑いかけている」は決して特別な曲ではない。では、なぜ私はこの曲に惹きつけられたのだろう。そりゃおまえが黒人音楽好きだからだろ、と言われれば確かにその通りなのだが、それだと個人の好みの話で終わってしまう。私は自分の趣味で物事の良し悪しを決めたくない。この曲を特別にしているものは一体何だろう? この曲はなぜこんなにも輝いているのだろう?

 はっきり答えられないのだが、その理由は“迷いのなさ”にあるような気がする。メロディ、歌詞、編曲の迷いのなさ。そして、少女5人の迷いのない真摯で溌剌とした歌唱。スカしたところや狙っている感じが全くなく、これしかない、という音しか鳴っていない。私は普段、テレビから流れるJ-Popの曲を聞いて、感心することはあっても感動することはないが、この曲には素直に感動させられた。私の胸を突き刺したその“迷いのなさ”は、恐らくこの曲が持つテーマと深く関係している。

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MV「世界はあなたに笑いかけている」(監督:大久保拓朗)

 歌詞がいい。特に“世界はあなたに笑いかけている”という表題フレーズの力強さ。J-Popによくある“本当の自分”が云々とか、「世界に一つだけの花」的なちっぽけな自己肯定の歌ではなく、自分が生きている世界、あるいは生そのもの、自分が生きていることそれ自体を全力で抱擁して祝うような、非常にスケールの大きな肯定の歌になっている。明日を夢見る若者たちの背中を押す応援歌には違いないが、この曲にはそれ以上の普遍性を感じる。私は2年前に書いたプリンスへの追悼文の中で、彼がやっていたファンクという音楽を“この世のすべてを肯定し、愛し、あらゆるものに感謝するための乗り物のようなもの”と説明した。世界はこんなにも輝いている。どんな瞬間も輝いている。ファンクはそのことを問答無用で体感させる。「世界はあなたに笑いかけている」という歌もまた、同じことを聴き手に伝えていると思う。最初にこの曲を耳にしたとき、メロディや歌声にもハッとなったが、私は何より、この世の真理をずばりと言い切った表題フレーズに強い感銘を受けた。

 MVも素晴らしい(’18年7月4日公開)。MVはオリジナル版とは序盤の編曲が違い、5人のアカペラ歌唱から始まる。ヒューマン・ビートボックスの上に、卓球やバスケのボールが弾む音、グラフィティのスプレーを吹きつける音、BMXのブレーキ音など、若者たちの日常から生まれる様々なノイズが重なって生き生きとリズムを紡いでいく。ノイズ(環境音)でリズムを表現するミュージカル演出自体は目新しいものではない50年以上前からある)。YouTube時代以降、似たような音楽動画は数多く作られてきたし、私も過去にダンス(特にタップ・ダンス)関連の記事でそうした映像作品を度々紹介してきた(過去記事“Rocio Molina: Slave to the Rhythm”、および同記事末の関連記事リストを参照)。このMVでは、その演出が曲のテーマとしっかり結びつき、とても大きな効果を上げている。生きている限り、私たちはビートと共にある。ビートとは、つまり生命の鼓動、自然の息遣いである。心臓の音、ボールが弾む音、人の足音、車の走行音、工事現場の騒音、あるいは雨や風や波の音……ビートはあらゆる場所にあり、しかも互いに繋がってひとつの大きなグルーヴになり得る。MV「世界はあなたに笑いかけている」は、身の周りの様々なノイズを実際にビートとして聞かせることで、世界が輝きに満ち、自分に笑いかけていることを気づかせるのである。

※YouTubeで一般公開されているMVのショート・ヴァージョンは、残念ながら終盤のブレイクダウン部分でフェイドアウトしてしまう。全長版を観るため、私は結局、MVを収録したDVD付きCDシングル(初回生産限定盤Bというやつ)を購入することになった。



※MVで聴けるビートボックスはリトグリではなく、日本人女性ビートボクサーのRinkaによるもの。上の動画は’14年に東京のソファーサウンズに出演した際の彼女のパフォーマンス(「Organ Donor」をやっている)。

 Little Glee Monsterというグループについては、ここでわざわざ私が解説するまでもないだろう(この記事を読んでいる皆さんの方がよほどよくご存じだと思う)。ルックスよりも実力で勝負といった感じの5人組で、ウィキによると、世界に通用する女性ヴォーカリストの発掘を目的としたオーディションで集められた少女たちによって結成されている。昨年はアース・ウィンド&ファイアの武道館公演でサポート出演も果たしていたが(’17年5月22日。前座でソウル・ヒット・メドレーを元気に歌い、本編では「September」を共演、彼女たちに対するこれまでの私の認識は基本的に、米テレビドラマ『glee』やペンタトニックスのようなアカペラ・グループの人気を踏まえて作られた歌の上手い異色アイドル・グループ、という程度のものでしかなかった。「世界はあなたに笑いかけている」は彼女たちのポテンシャルを100%生かした最高の曲だと思うし、少なくとも、普段J-Popを全く聴かない私のような音楽ファンにも届いたという点で、非常に普遍的な魅力を持った作品と言えると思う。この曲を聴いて、私の中で彼女たちの好感度は飛躍的に上がった(彼女たちにはいずれ、民謡や演歌の感覚を取り込んだ日本でしか生まれ得ないようなソウル・ミュージックを歌ってほしいと個人的には思う)

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リトグリをフィーチャーしたコカ・コーラの’18年サマー・キャンペーン

 最後にもうひとつ、これはあまり重要な話ではないが、「世界はあなたに笑いかけている」に私が惹かれたことには、それがコカ・コーラのイメージ・ソングだったという理由もある。

 実を言うと私は大のコカ・コーラ好きで、夏場は2リットルのペットボトルを冷蔵庫に2本常備しておかないと生活に支障が出るくらいの愛飲者である。開封して2〜3日後のちょっと炭酸が抜けたコーラが好きで、それを氷で割ってガブガブ飲む。たまにジンジャーエールやスプライト、三ツ矢サイダーなどを飲むこともあるが、どれも数日続けて飲むと飽きてしまう。コーラだけはいくら飲んでも飽きない。私にとっての“世界の二大旨い飲み物”は、コーヒーとコーラである。一年を通して私はこの2つだけで水分補給をしていると言っても過言ではない(酒はほとんど飲みません)

 今年の夏、私はコカ・コーラをガブ飲みしながら、「世界はあなたに笑いかけている」をずっと鼻歌で歌っていた。この歌は私の頭の中で延々とリピート再生され、私の乾いた生活を潤してくれた。私はここでそのことに深く感謝したい。

 Little Glee Monster、素敵な夏をどうもありがとう!

| Diva Legends | 23:50 | TOP↑

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