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底知れぬ闇



 スティーヴ・マックイーン監督最新作『妻たちの落とし前(Widows)』に提供されたシャーデーの新曲「The Big Unknown(映画については前回記事を参照)。映画のサントラと同時にシングル発売('18年11月6日)され、映画の映像を使ったリリック・ヴィデオも公開(11月9日)されたこの曲は、8ヶ月前の新曲「Flower Of The Universe」同様、予想以上に予想通りな相変わらずのシャーデー節。笑ってしまうくらい変わっていない。シャーデー、進歩なさすぎ!




 The Big Unknown
 (Sade Adu/Ben Travers)
 
 Only love could bring us
 Bring us to this bitter plane
 Only one of us
 Who's gonna walk away
 Here in the deep below
 That only darkness really knows
 I'm hoping for a humble seed to grow
 No I won't surrender to this hard hearted night
 Though I know the sun's gonna bring the palest of light
 And all that remains is everything has gone
 This life is mine so I'll carry on
 
 愛だけがこんなに
 こんなに酷い仕打ちをする
 たった一人
 立ち去るのは誰
 暗闇だけが広がる
 このどん底で
 ちっちゃな種が芽吹きますように
 こんな無情な夜に負けはしない
 日の光がどんなにおぼろげでも
 この手に何ひとつ残ってなくても
 これは私の人生 だから進もう
 
 I'm just trying to hold on
 I'm falling in the dark below
 I feel I'm falling in the big unknown
 Here in the deep below
 I will rise
 I will rise again
 A humble seed will grow
 
 必死に踏ん張ってる
 暗闇に落っこちそう
 底知れぬ闇へ落ちていくよう
 このどん底から
 私は這い上がる
 また這い上がる
 ちっちゃな種が芽吹くだろう
 
 I have to go back
 To pull me from the wreck
 I know it's not over yet
 There's no fire and no flame
 On this cold cold plane
 No way to measure my pain
 
 立ち直るには
 立ち戻るしかない
 まだ終わってないわ
 ここは寒々として
 まるで火の気がない
 私の苦しみは計り知れない
 
 I'm just trying to hold on
 I'm falling in the dark below
 I feel I'm falling in the big unknown
 I will rise
 I will rise
 I will rise again
 The humble seed will grow
 
 必死に踏ん張ってる
 暗闇に落っこちそう
 底知れぬ闇へ落ちていくよう
 私は這い上がる
 這い上がる
 また這い上がる
 ちっちゃな種が芽吹くだろう


 ピアノを軸にしたマイナー調のフォーキーなバラード。ジャケット画像(本記事冒頭)のアーティスト名・曲名のタイポグラフィが『Soldier Of Love』そのまんまな点からも察しがつくが、『Soldier Of Love』発表の'10年から8日くらいしか時間が経っていないような曲作り&音作りである(「Morning Bird」っぽい)。8年も経っているというのに、一体どういう時間感覚なのだろう。シャーデー農場は本当に地球上にあるのだろうか。

 アデュとベン・トラヴァーズの共作曲で、プロデュースはアデュ、トラヴァーズ、アーロン・テイラー・ディーンの3人。トラヴァーズは「Flower Of The Universe」に続いて共作/共同プロデュースを担い、スチュアート・マシューマンに取って代わる重要なブレインになりつつあるようだ。ただ、「Flower Of The Universe」も今回の「The Big Unknown」も、『Soldier Of Love』のフォーク路線をそのまま踏襲したもので、トラヴァーズならではのセンスのようなものはまだあまり感じられない。アデュに気を遣っているのか、それともこれが彼の地なのかもしれないが、もっと主張して自分の色を出しても良いと思う。今回、共同プロデュースで初めて名前が出てきたアーロン・テイラー・ディーン Aaron Taylor Dean については詳細不明。

 デモかと思うくらいあっさりした作りだった「Flower Of The Universe」に較べると、きちんとビートも付いて全体的に音の完成度が上がっている(リリック・ヴィデオで聴けるのは30秒弱あるピアノのイントロをカットした短縮版。全長版はこちら。確実にリハビリが進んでいるのが分かるし、ここにマシューマンがどう絡んでくるかという点が非常に気になる。現在、サウス・ロンドンを中心に大きな盛り上がりを見せているUKジャズの流れを踏まえ、マシューマンには是非ともサックスを吹きまくってほしいところだが……このまま行くと、現在制作中らしいシャーデーの新作は『Soldier Of Love 2』になる可能性大である。今のシャーデーには外部からの刺激や、現場を掻き回す人間が必要ではないだろうか。

 あまりの変化のなさに驚くことしきりな「The Big Unknown」だが、出来自体はもちろん普通に素晴らしい。真摯な歌や純朴な音が胸に迫る、さすがのシャーデー・クオリティである。楽曲提供を受けたスティーヴ・マックイーン監督は「The Big Unknown」についてこう語っている。

「彼女(シャーデー)は私のことを信用してくれたんだと思います。軽く引き受けたりする人ではないでしょうから。歌詞のどの言葉にも剃刀のような切れがある。同時に、歌の最後には癒しがあるんです」(16 November 2018, ABC News Radio)

 同インタビューでマックイーン監督は、「The Big Unknown」の歌詞がヴィオラ・デイヴィス演じる主人公の闘いを見事に表現していると言い、特に“立ち直るには立ち戻るしかない/まだ終わってないわ(I have to go back to pull me from the wreck / I know it's not over yet)”という部分を“とても素晴らしい”と評価している。



 全然関係ない話だが、“立ち直るには立ち戻るしかない/まだ終わってない”というラインを読んで、私はアブリの「Back To The Sun」(2009)という曲を思い出した。映画にビリー・ホリデイやニーナ・シモンの曲が使われているせいもある。「The Big Unknown」は亡き夫の遺志を引き継ぐ女の闘いを歌っているが、「Back To The Sun」は、その闘いをソウルの歴史の上に置き換えたような歌である。

 アブリは、かつてハムダン・アル・アブリという歌手が率いたアラブ首長国連邦の4人組ソウル・バンド。このブログを昔から見ている人は覚えているかもしれないが、ハムダン・アル・アブリは、計106公演に及んだシャーデーの'11年ツアーの最終公演地アブダビで、シャーデーの前座を務めた男である。「Back To The Sun」はいつ聴いても胸が熱くなる最高のソウル賛歌なので、「The Big Unknown」のついでに多くの人に聴いてもらえたらと思う(歌詞和訳は過去記事“Abri──炎のソウル賛歌「Back To The Sun」”でどうぞ)

 ハムダン、元気でやってるかな……(なんだこのオチ)。

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