2020 04123456789101112131415161718192021222324252627282930312020 06

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

夫婦を止めるな!──『こんぷれっくす』『恋する小説家』



 上田慎一郎監督の初期短編集『上田慎一郎ショートムービーコレクション』と最新作『たまえのスーパーはらわた』、彼の妻であるふくだみゆきの監督作『耳かきランデブー』をイオンシネマ大宮で観た1週間後、同劇場で今度はふくだ監督の出世作『こんぷれっくす×コンプレックス』と上田監督の初期作『恋する小説家』の併映を観た。

 『カメラを止めるな!』以外の上田監督作と、これまで知らなかった彼の奥さんの監督作を観て色んな意味で驚いた……という話は前回した通りだが、今回もまたまた驚かされた。


Ueda_Fukuda2.jpg
こんなシネコンが近所に欲しいっ

 毎週月曜は全上映作品が1,100円均一で鑑賞できる“ハッピーマンデー”ということで、先週に続いてこの日もハシゴすることに。

 まず、上田夫妻の作品を観る前に、面白いと評判のタイ映画『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』を鑑賞。タイの受験戦争や格差社会を背景に、大規模な集団カンニングを企てる高校生たちを描いた青春映画なのだが、中身は完全にクライム・サスペンスで、アイデアの妙とテンポの良い演出で見事な娯楽作品に仕上がっていた。派手なアクションはなく、試験会場でただ机に向かっているだけなのだが、まるで巨大カジノから大金を奪う天才集団の活劇でも見ているようなスリルと興奮がある。主役の天才女子高生を演じたチュティモン・ジョンジャルーンスックジン(9頭身モデル)も“これぞアジアン・ビューティ”という感じで実にスクリーン映えする。高校生が不正を働く話なので爽快感はないが、文句なく面白い1本だった。満足。

Ueda_Fukuda3.jpg
イオン大宮(JR日進駅から徒歩10分)。4階にイオンシネマがある

 月曜夕方という時間帯のせいもあるだろうが、『バッド・ジーニアス』の観客数は、私を含めて僅か6人だった。イオンシネマ大宮が入っているイオン大宮という巨大総合スーパーは、周りに高いビルがひとつもない住宅地の広大な土地にポツンと建っている(斜向かいには小学校)。昔はどの町にも映画館があって、私も小さい頃は地元の劇場にアニメ映画を観に行ったりしたが(普段はポルノ映画館で、春になると劇場版『ドラえもん』をやったりする)、時代と共に経営が落ち込んでどこも潰れてしまった。イオンシネマは昔あったそういう“町の映画館”の伝統を今に受け継ぐ地域密着型のシネコンである。都心のシネコンと何ら変わらない立派な設備の映画館なのだが、果たしてこんな立地と客入りで本当に経営が成り立っているのだろうかと心配になってしまう。

 『バッド・ジーニアス』の後に観た『こんぷれっくす×コンプレックス』『恋する小説家』の観客数は、夜7時台という時間帯にもかかわらず、更に少ない5人だった。1週間前、『上田慎一郎ショートムービーコレクション』と『たまえのスーパーはらわた』に20人くらいしか客が入っていないのを見て驚いたが、これに較べればまだ健闘していたと言える。『カメラを止めるな!』に沸いた大勢の人たちは一体どこへ行ってしまったんだ……という気がしないでもないが、上田夫妻のこの2つの小品は、アジア各国で大旋風を巻き起こした話題の『バッド・ジーニアス』と較べても、全く見劣りのしない素晴らしい作品だった。


Ueda_Fukuda4.jpg
こんぷれっくす×コンプレックス(2015)
監督/脚本/アニメ:ふくだみゆき
プロデューサー/編集:上田慎一郎
声の出演:林奏絵、上妻成吾、春名風花、山口遥、広江美奈、武田直人、岡田昌宜
上映時間:24分

【STORY】
中学2年生のゆいは大人に憧れている。ワキ毛が大人の象徴だと思っており、クラスいちワキ毛の生えている武尾に興味を持っていた…。セリフを録音してから画を作る「プレスコアリング手法」で制作されたFlashアニメーション。10代特有の独特な空気感を実写さながらに描く新感覚胸キュンコメディ。

 実写映画も撮るふくだみゆきだが、これは彼女の本領であるアニメ作品。夫の大爆裂の陰に完全に隠れてしまったが、実はこの24分の短編、過去に宮崎駿作品(『もののけ姫』『千と千尋』)や『君の名は。』などが受賞している毎日映画コンクールアニメーション映画賞で、短編/自主制作アニメとして初受賞を果たす快挙を成し遂げた画期的な作品なのである。夫婦揃って映画界に革命を起こすって、スゴくないですか。

 主人公のゆいは大人に憧れている……と言うか、簡単に言うとセックスに憧れている。ただ、それが自分でもよく分かっていない中学2年という微妙な年頃で、この映画はそうした主人公少女の性への目覚めを、“ワキ毛フェチ”というオブラートで笑いと共に包みながら実に瑞々しく描いている。

 登場人物たちの息遣いをリアルに伝える実写映画並みのプレスコ演技と、紙芝居に毛が生えたような簡素なアニメ映像の組み合わせが面白い。実写だとエグくなってしまうだろう“ワキ毛”というテーマも柔和な絵のおかげで無理なく受け入れられるし、何しろ“ワキ毛”を通してオープンに性を語っているところが爽快だ。先に観た2年後の実写映画『耳かきランデブー』もよく似た作品だが、『こんぷれっくす×コンプレックス』は思春期の少年少女の機微を捉えた繊細な作画が秀逸で、より深い感動がある。男子生徒の“いかにも男子”というモサッとした感じも良いのだが、ふくだ画伯は女の子を本当に自然に可愛らしく描ける人で、物語や絵の動き以前に、作画一発で人を魅了する力を持っている。学校の帰り道、夕暮れの土手を主人公のゆいと親友の少女が2人で話しながら歩いている場面の尋常でない愛おしさなど、思春期の少女に対するふくだ監督の愛情が滲み出ているようで、本当に素晴らしいと思った。“私は百恵さんの中にある無垢な少女だけを追いかけてきたんじゃないかという気がする”というのは山口百恵の数々の名曲を手掛けた作詞家、阿木燿子の言葉だが、ふくだ監督も似たような思いで少女を描いているのではないか。『こんぷれっくす×コンプレックス』を観て、私は阿木が書いた百恵作品「いた・せくすありす」(1977)を思い出したりもした。

Ueda_Fukuda5.jpg
『こんぷれっくす×コンプレックス』を鑑賞中の私

 主人公のゆいが前髪を切りすぎてしまうという描写が劇中にある。切りすぎた前髪を恥ずかしがる女子の姿というのは男子にとってかなりの萌えポイントだったりするのだが、この映画では、短すぎるゆいの前髪を“マチルダみたいだね”と言って武尾少年が(無意識に)肯定するところから2人の距離が縮まりはじめる。そういうところが上手いと思うし、“マチルダって誰?”というネタ振りの後に展開されていくカンフー映画ネタのギャグも実に可笑しい。“新感覚胸キュンコメディ”という謳い文句に偽りはなく、放課後の教室で2人が落ち合う最大の山場場面では、胸がキュンキュンしすぎて、私は劇場の座席にずぶずぶ埋まったまま完全に身動きが取れなくなってしまった。10代の頃の自分の心境がリアルに思い出され、とてもではないが画面を正視できない。“やめてくれー!”と(心の中で)叫びながら、観客数僅か5人の劇場内で、私はほとんど『時計じかけのオレンジ』のアレックス状態でスクリーンを眺めていた。

 24分という短編にもかかわらず、まるで2時間のよく出来た青春映画を観たような充実感。正直、衝撃を覚えた。すげえな、ふくだみゆき。

 『こんぷれっくす×コンプレックス』に感動した私は、ふくだ監督のYouTubeチャンネルにある彼女の初期のアニメ作品も観てみた。6分の短編『思春期』(2010)は、中学校を舞台に少年少女の性への目覚めをサラリとしたタッチで描いたオムニバス形式の群像もので、画風を含めて『こんぷれっくす×コンプレックス』に近い感触の作品。現在までにYouTubeで120万回以上の再生数を記録しているヒット作だ。これを観てはっきり気付いたが、劇的なことが何も起こらず、日常の中で人と人の間に生じる微妙な距離やズレを淡々とユーモア混じりに描く彼女の作品には、ジム・ジャームッシュ映画とよく似た詩情がある。コミュニケーションにおける誤解やズレをジャームッシュはよく言語や文化の違いを使って面白おかしく描くが、『こんぷれっくす×コンプレックス』と『耳かきランデブー』にもそれとよく似たギャグ場面(噛み合っているようで実は全く噛み合っていない会話)があった。不器用な人間同士のぎくしゃくしたコミュニケーション、その距離や間を深い共感と共に見つめるふくだ監督の温かな眼差しはジャームッシュのそれと一緒だ。

 ジャームッシュがあまり積極的に性を描こうとしないのに対し(照れ屋だからだろう)、ふくだみゆきは性──特に思春期のそれ──を描くのが上手い。例えば、3分の初期短編『chocolate』(2010)では、主人公の交際する青年たちが女子の好物であるチョコレートに喩えられている。デザート・ビュッフェ感覚(?)でスイートな男の子たちと次々に付き合う少女の話で、男の目から見るとちょっとコワい作品だが、“食”という暗喩、ポップな絵、とぼけた語り口で女の性が軽妙に堂々と描かれていて感心せざるを得ない。際どかったり重く暗い表現になりがちな性というテーマを、彼女は少しも照れずに明るくオープンに語ることができる。素晴らしいセンスと才能の持ち主だと思う。

 ちなみに、『こんぷれっくす×コンプレックス』でも夫の上田慎一郎が編集を担当しているインタビューによると、ふくだ監督はあまり編集作業が好きでないらしく、いつも夫に丸投げしているという)。前回記事で“自分が見せたい場面を必要以上に長く見せるのは上田監督の悪いところだと思う”と書いたが、『こんぷれっくす×コンプレックス』にも必要以上に長いカットがひとつあった。映画終盤、放課後の誰もいない教室で主人公のゆいが武尾くんのナニを人差し指でゴニョゴニョと触る場面がそれだ。上田監督はそのカットを“いつまで続くんだ”というくらい長く引っ張るのだが、この場合はその“必要以上の長さ”が正解だった。あまりにもヤバすぎて、私はその長いカットを見ながら悶絶寸前にまで追い込まれた。あと1秒でも長かったら、間違いなく気を失っていただろう。

 観客の感情とリビドーを激しく揺さぶる驚異の24分。とにかく、凄い作品である。正真正銘の傑作なので、未見の方は騙されたと思って是非とも劇場に足を運んで欲しい。特に、ジム・ジャームッシュが好きな映画ファンには“必見”と言っておきたい。『こんぷれっくす×コンプレックス』を観て、私は高校のときに初めて『ストレンジャー・ザン・パラダイス』を観たときとかなり近い感動を覚えた(褒めすぎ?)。よくある“ジャームッシュもどき”とは質も格も異なる、独自の個性を持った本当に素晴らしいA級の青春娯楽映画である。毎日映画コンクールアニメーション映画賞の受賞はダテではない。


Ueda_Fukuda6.jpg
恋する小説家(2011)
監督/脚本/編集:上田慎一郎
出演:堀内紀臣、橋本柚稀(秋山ゆずき)、岡本裕輝、葛上昇悟、山崎智恵、細井学、森了蔵、山段智昭、櫻井夏美、山口友和、岩佐裕一郎、笠松環、南宏樹、小柳こずえ、藤崎美貴、松本高志、森本のぶ
上映時間:40分

【STORY】
一向に芽が出ないミステリー作家志望の岩佐辰夫。新作の原稿もゴミ箱に捨てた。がある日、岩佐の元に見知らぬ女子高生が現れる。「あたしはあんたの小説の主人公。あんたの小説を救いにきたの」…。ラブリィ・ポップなSFハートフルコメディ。

 『こんぷれっくす×コンプレックス』と併映されたふくだ監督の夫の最初期の中編。『こんぷれっくす~』を観た後では、“そういや旦那も映画撮るんだっけ……”くらいのレベルにまで上田慎一郎の影は薄くなってしまう。『上田慎一郎ショートムービーコレクション』で観た'14~'16年の短編がつまらなかったので、それより更に前の'11年に撮られたこの作品には、はっきり言って何の期待もしていなかった。どんだけ酷いものを見せられるんだと思っていたら……あれ? これ、結構面白くね?!

 “SFハートフルコメディ”と謳われているが、宇宙船やアンドロイドやタイムマシンが出てくるわけではない。この場合の“SF”というのは“すこし・ふしぎ”の略。要するに、藤子・F・不二雄のSF短編にありそうな話なのだ。

 主人公は作家志望の冴えない青年。執筆も生活も恋も行き詰まったある日、彼が放棄した小説の登場人物たちが実体となって次々と彼のアパートに押しかけ、“こんなキャラじゃ魅力ない”、“設定をもっとよく考えろ”、“このストーリー展開はおかしい”などと作者に向かってあれこれ文句をつける。自分が生んだ登場人物たちと協力しながら、立派な小説を書き上げていく青年の奮闘がコメディ調で描かれる。

 “協力しながら”と言っても、協力者は自分が考え出したキャラクターたちなので、ここで描かれる小説完成までの様々なディスカッションは、結局はすべて主人公の青年の頭の中で繰り広げられている“自分会議”である(劇中には実際、小説の主人公である女子高生が作者の青年に向かって“私の言葉はあなたの言葉”と語りかける実に分かりやすい場面がある)。創作の過程で自分の生んだキャラクターに命が宿り、勝手に立ち回るようになる感覚は、傑作をモノにしたことがある物語作家(劇作家、映画作家を含む)なら誰もが経験したことがあるのではないだろうか。『恋する小説家』は、物語作家のそうした試行錯誤をSF仕立てで描いた物語である。

 ミステリー作家志望の主人公が上田監督の分身であることは明らかである。映画監督を小説家に置き換えて自分を語っているのだな、と思って観ていたら、“はい、その通りです”という思い切りメタフィクショナルなオチが最後にあって、気持ちよく笑わされた。上田監督はエッシャーの騙し絵のようなこの手のメタ構造が本当に好きだ。

 撮影の安っぽさは否めないし、クサい場面もないことはないが、『恋する小説家』に『ショートムービーコレクション』の4本にあった過度に“狙っている”感じはなかった。とても説得力があるし、素直に面白い作品だと思った。これは多分、話に嘘がないからだろう。フィクションなのでホラ話には違いないが、そういう意味ではなく、この映画で上田監督は何のカッコつけもなく、本当に正直に自分についての真実を語っている気がする。『カメラを止めるな!』から溢れ出ていたのと全く同じ、映画作りへの強い情熱がこの作品には確かに感じられるのだ。そして、それが自然と観客の心に訴える。『Last Wedding Dress』(2014)のような下手な作り話でイージーに観客を感動させようとせず、上田監督は自分が不器用であることを潔く認め、自分が心から語りたいこと、自信を持って語れることだけを語るべきではないだろうか。

 あと、『恋する小説家』で私が良いと思ったのは、主人公の青年の恋人役を演じた女優。前回記事で私は『テイク8』(2015)で主人公の冴えない映画青年の恋人役を演じた女優が必要以上に美人であることを批判したが、『恋する小説家』の恋人役の女優のルックスは完璧だった。いかにも芽が出ない物書き青年の彼女という感じがする。映画なのであまりブスではいけないし、かと言って美人すぎてもいけない。その女優は中の上くらいの本当に丁度いい顔立ちをしていて、スクリーンを眺めながら私は“そうだよ、その顔だよ!”と思った。演じた女優さんには失礼この上ないことを書いているが、あの配役は全く正解である。

 もうひとつ良かったのは、主人公の青年がバイト先の工事現場に遅刻して現れ、ヘルメットを被った頭を先輩のおっさん(細井学)に思い切りハタかれる場面。ヘルメットがふっ飛びすぎて、カメラを直撃している。カメラの存在を観客に示してしまうので普通なら完全にNGだが、上田監督は敢えてそのテイクを使っている。リアルで笑えるからだろう(実際、私は笑った)。『カメラを止めるな!』の37分ワンカット・シークエンス内にも、カメラのレンズに血糊が付着するという同様のアクシデントがあった。いずれも映画内映画というメタ構造の中で起きていることだが、それらが作為的な自己言及ではなく、ガチなハプニングであるところが面白い。例えば漫才、コント、演劇などで台詞の言い違いや、段取りとは異なるハプニングが起きたとき、それを誰かがアドリブで突っ込んで観客の大爆笑に繋がることがある。上田監督はそういう瞬間を待っているのだと思う。このヘルメット場面を見ると、『カメラを止めるな!』の土台にもなった彼のそうしたドキュメント志向が初期段階からあったことがよく分かる。

Ueda_Fukuda7.jpgUeda_Fukuda8.jpgUeda_Fukuda9.jpg
Ueda_Fukuda10.jpgUeda_Fukuda11.jpgUeda_Fukuda12.jpgUeda_Fukuda13.jpgUeda_Fukuda14.jpg
Ueda_Fukuda15.jpgUeda_Fukuda16.jpg
主人公の部屋の映画ポスター、チラシ、LP盤──(左上から順に)ジム・ジャームッシュ監督『パーマネント・バケーション』(1980)、同『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(1984)、同『ダウン・バイ・ロー』(1986)、関口現監督『SURVIVE STYLE5+』(2004)、デヴィッド・リンチ監督『マルホランド・ドライブ』(2001)、クァク・ジェヨン監督『僕の彼女を紹介します』(2004)、クエンティン・タランティーノ監督『キル・ビル』(2003)、松尾スズキ監督『恋の門』(2004)、ジョージ・ハリスン『The Best Of George Harrison』(1976)、テレヴィジョン『Adventure』(1978)

 『恋する小説家』では、主人公の部屋の壁に飾られた様々な映画ポスターやチラシ、雑然と置かれたレコードなどが一部の観客の興味を引くだろう。上にリストアップしたアイテムの他に、部屋の本棚の上にヴィム・ヴェンダース監督『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』(1999)のパンフレット(表紙を折り返して2ページ目の有名な写真が見えるように立てかけてある)、左側の壁にThe Birthdayという日本のロック・バンドのポスターが飾られている。

 過去作品へのこうした言及/オマージュは昔から多くの映画監督が自作の中でやっている。上田監督もその例に漏れず、『カメラを止めるな!』で映画バカの少女(真央)に『スカーフェイス』『タクシードライバー』『シャイニング』のTシャツを着せたり、『たまえのスーパーはらわた』でホラー映画マニアの少女(玉恵)の部屋に『死霊のはらわた』や『キャリー』のポスターを飾るなどの演出をしていたが、『恋する小説家』の場合、それらよりも遙かに上田監督の本気度が高いように思われる。これは単に上田監督自身の部屋にあるアイテムを適当に並べただけではないのか。主人公の青年のキャラを特徴づける記号としては選択が中途半端で、コレクションとしてあまりにもリアルだからである。主人公が上田監督の分身であることは、この作品チョイスからも窺い知れる。

 これらのアイテムを一発で特定できた人は、この映画の主人公と全く同じ人種ということになるだろう。つまり、夢ばかり追っているロマンチスト a.k.a. ダメ人間である。私は劇場での鑑賞時に半分くらい分かってしまい、後でYouTubeの予告編映像で確認したところ、すべてあっさり特定できてしまった。赤いLPジャケットがチラッと覗いているのを見て“テレヴィジョンの2ndかな?”と画像検索し、一発でビンゴだったときは心底イヤな気持ちがした(一応断っておくと、飽くまで知識として知っているだけで、私は全くテレヴィジョンに興味はないし、レコードも一切持っていない。The Birthdayというバンドに関しては存在すら知らなかった)。部屋にジャームッシュ映画のポスターが飾ってある点については、残念ながら“おまえはオレか!”と言うしかない。『パーマネント・バケーション』のレアな日本版ポスターを見て、ちょっと欲しくなってしまったことも事実だ。“あなたの心を甘くする、キュートでポップなハートフル・コメディ”『恋する小説家』は、このように、ある種の観客にほろ苦い思いをさせるビタースウィートな映画でもある。


イオンシネマを潰すな!

Ueda_Fukuda17.jpgUeda_Fukuda18.jpg
Ueda_Fukuda19.jpgUeda_Fukuda20.jpg
全国のイオンシネマで絶賛上映中

 現在、全国のイオンシネマで順次公開されている上田関連作のオムニバス・プログラム3種──【1】『上田慎一郎ショートムービーコレクション』(短編4本)、【2】『たまえのスーパーはらわた』+『耳かきランデブー』(併映)、【3】『こんぷれっくす×コンプレックス』+『恋する小説家』(併映)──の中で最も強力なのは、今回紹介したふくだ監督の傑作『こんぷれっくす×コンプレックス』と上田監督の初期の力作『恋する小説家』の2本立てである。一般的な注目度は【1】>【2】>【3】かもしれないが、実は【3】≧【2】>【1】の順に面白い。『カメラを止めるな!』に感動した人は、是非これらの作品も観て欲しい。特にふくだ監督の作品はもっと多くの人に観られるべきだ。

 これらのオムニバス・プログラムはどれも1~2週間の期間限定上映だが、劇場ごとに上映時期や期間が異なる。上映日程や劇場についての詳しい情報は各作品の公式サイトでご確認を(※上のポスター画像にリンクあり)。

 今回、上田夫妻の作品を色々と観て、私は自分なりに両監督について理解を深めることができた。似ていると言えば似ているが、両者はかなり個性の異なる映画作家である。ふくだみゆきがジム・ジャームッシュ的だとすれば、上田慎一郎はクエンティン・タランティーノ的と言うべきか。上田監督はふくだ監督以上に娯楽映画志向が強いが、体質的にB級と言うか、非常にジャンル映画的な映画を撮る人だと思う。色んなジャンル映画のスタイルを借りて、そこに独自の捻りを加える。ジャームッシュも似たようなものだが、上田監督のセンスは、より派手でオタク趣味丸出しなタランティーノに近い。なので、はっきりとした作家性(思春期の性やフェティシズムを扱う)を持ち、作風にブレがないふくだ監督に対して、上田監督はどのジャンルを参照するかによってかなり作風が変わる。アパレルメーカーのThe Suit Companyとコラボした昭和特撮戦隊モノのパロディ短編『正装戦士スーツレンジャー』(2018)は、そんな上田監督の個性が上手くハマった快作だ。

 あるいは、“引き算”のふくだみゆきに対して、“掛け算”の上田慎一郎と言うこともできるかもしれない。上田監督はとにかく観客を楽しませるのが好きで、意表を突く演出や様々な仕掛けを張り巡らし、それらの相乗効果で大爆発が起こるような映画を撮ろうとする。が、狙いすぎるせいで時々“×0”が入ってしまい、すべて御破算になってしまうことがある。彼の映画は大胆不敵かつ非常にリスキーなのだが、それだけに、すべてが機能したときの爆発力は尋常でない。『カメラを止めるな!』がその最高の成功例である。

 どちらが好きかと言えば、私自身は断然ふくだみゆき派だが、次に何をしでかすか全く予想のつかない上田監督もやはり気になる。この2人が夫婦というのは凄いことだ。今後、この夫婦監督がどんな映画を見せてくれるのか楽しみで仕方ない。



関連記事:
Doing It To Death──『カメラを止めるな!』(2018.07.27)
Keep Rollin'!~Reel 1「気になる映画」(2018.07.28)
Keep Rollin'!~Reel 2「予告編」(2018.07.30)
人生はワンカット──『白昼夢 OF THE DEAD』(完全ネタバレ仕様)(2018.09.18)
カメラを止めろ!──『上田慎一郎短編集』『スーパーはらわた』(2018.11.01)

| Cinema Paradiso | 18:00 | TOP↑

PREV | PAGE-SELECT | NEXT