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カメラを止めろ!──『上田慎一郎短編集』『スーパーはらわた』



 今年の夏、『カメラを止めるな!』で時の人となった上田慎一郎監督の初期短編集『上田慎一郎ショートムービーコレクション('18年10月19日公開)と、『カメラを止めるな!』に続く彼の劇場映画最新作『たまえのスーパーはらわた('18年10月20日公開)を埼玉のイオンシネマ大宮で観た。

 『カメラを止めるな!』以外の上田作品を私が観るのは(テレビ番組企画作『白昼夢 OF THE DEAD』を除いて)今回が初めて。これらの短編作品の劇場公開は、もちろん『カメラを止めるな!』の大ヒットがあって実現したものだし、私も『カメラを止めるな!』のような面白さを期待して劇場に足を運んだのだが……う~ん。


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いざ、上田慎一郎祭りへ

 私が行った10月22日(月)、イオンシネマ大宮で『上田慎一郎ショートムービーコレクション』は1日1回、『たまえのスーパーはらわた』は1日2回というスケジュールで上映されていた(『カメラを止めるな!』もしぶとく上映中)。『ショートムービーコレクション』の終映時間は『スーパーはらわた』上映のちょうど10分前で、2つはハシゴして鑑賞することができた。私が行った日はすべての上映作品が1,100円均一で鑑賞できる“ハッピーマンデー”という割引日だったのだが、昼下がりの劇場内はガラガラで、『ショートムービーコレクション』『スーパーはらわた』のいずれも20人くらいしか客がいなかった。満員の映画館も良いが、こうして平日の昼間にガラガラの劇場でのんびり映画を観るのが私は何より好きだ。

 『カメラを止めるな!』の他、長編としては過去に『お米とおっぱい。』(2011)という作品しか撮っていない上田監督だが、短編は既に10本以上ある。『ショートムービーコレクション』は、その中から'14~'16年の4作品を集めた特別プログラム。いずれも映画祭などに出品されたもので、劇場公開は今回が初となる。4作品の概要は以下の通り(作品情報は公式サイトより)


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彼女の告白ランキング(2014)
監督/脚本/撮影/編集:上田慎一郎
出演:中山雄介、榎並夕起、橋本昭博、鐘築健二、山口友和、細井学、石訳智之、坂川良
上映時間:21分

【STORY】
ある日、男は彼女にプロポーズする。すんなり承諾を貰えると思っていた男だが、彼女に「告白したい事が17個ある」と告げられる。果たして男は彼女の告白を全て受け止め、結婚を決める事が出来るのか!?


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ナポリタン(2016)
監督/脚本/編集:上田慎一郎
出演:福島龍一、秋山ゆずき、牟田浩二、森恵美、井関友香、川口貴弘、松本卓也、細井学、紺野ふくた、倉田奈純、坂川良、原真一、坂本幸成
上映時間:19分

【STORY】
人の話を聴かない会社員の川上は、ある日突然、他人の言葉が「ナポリタン」としか聴こえなくなってしまう……。


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テイク8(2015)
監督/脚本/編集:上田慎一郎
出演:芹澤興人、山本真由美、牟田浩二、山口友和、細川佳央、福島龍一、北井敏浩、曽我真臣
上映時間:19分

【STORY】
自主映画監督の隆夫は、恋人の茜を花嫁役に「結婚」をテーマにした新作を撮影中。残すは1シーンであったが、花嫁の父役が急遽来れなくなる。やむをえず、見学に来ていた茜の本当の父、徹が代役を務める事になり…。


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Last Wedding Dress(2014)
監督/脚本/編集:上田慎一郎
出演:リーマン・F・近藤、惣角美榮子、甲斐照康、兼平由佳理、福田英史、佐藤もとむ、青海衣央里、牟田浩二、川和昇、山本真由美、山口友和、井丸かつひこ、遠藤雅幸、大野由加里、中山雄介、高山都、小澤美優、石澤美和、前野朋哉
上映時間:24分

【STORY】
上田貞夫(71)の妻、上田コトミ(70)は余命が近い。貞夫がコトミに「最後にしたいことはあるか?」と聞くと、コトミは「最後にウェディングドレスが着たい」と答える。二人は結婚当時、金がなく結婚式を挙げられなかったのだ。貞夫はコトミが死ぬ前にウェディングドレスを着せてやろうと奔走し始める…。


 明るいコメディ志向やホロッとさせるヒューマニズムなど、『カメラを止めるな!』に通じる部分は色々と見られるのだが、結論から言うと、どの作品もベタすぎたり、狙いすぎだったりで、『カメラを止めるな!』の完成度には遠く及ばないと思った。笑える場面もあるにはあったが、『カメラを止めるな!』並みの爆笑には至らず、どれもせいぜい“ややウケ”という感じである。

 スピーディーで漫画的なコメディ演出の『彼女の告白ランキング』は、途中まではそこそこ面白いが、C級SF化する突飛なオチが思い切りスベっている。ハチャメチャな展開で笑わせようという狙いは分かるが、あのオチで笑わせるには観客の度肝を抜く相当な画力(SFX技術)が必要だと思う。中途半端な合成映像では単なる悪ふざけにしか見えない。低予算なので仕方ないし、描き込み不足は観客が想像で補えばいいのかもしれないが、エンドロールの後日談テキストも含め、私はさっぱり乗れなかった。露骨な下ネタも多く、『カメラを止めるな!』のような作品を期待して来た家族連れ客はドン引きすること間違いなし。

 寓話的なコメディ『ナポリタン』は、他人の言葉が“ナポリタン”にしか聞こえなくなるという発想自体は良いが、そのワンアイデアだけで展開にあまり膨らみがない。耳のおかしくなった主人公が恋人の実家を訪問するくだり──人の話を聴かない人間を何より嫌うコワいお父さんと対面する──はもっと面白くできる気がするし、特に理由もなく主人公の耳が直ってしまうあたりも拍子抜けだった。他人の言葉が聞こえなくなってしまうのは、主人公が他人の話を聴かない愚か者だからではないのか。せっかく寓話的な要素がありながら、最終的に毒にも薬にもならない災難話になってしまっているのが惜しい。単純にナンセンス・コメディを狙っただけで、上田監督にそもそも寓話という意識はなかったのかもしれないが、だとしたらあまりにつまらないと思う。例えば、石ころぼうしが脱げなくなったのび太がどのように助かったか思い出すといい。主人公の受難の帰結と耳が直る原因がもっと直接的に結びつかないとこの話はダメだと思う(お父さんに殴られた衝撃で耳が直るのが最もスマートだと思うが。そのまま問答無用で追い出された後、アパートに帰って反省した主人公が恋人から夕食にナポリタンを振る舞われる。食べたがらない主人公に、恋人が“なんで食べないの? 好きでしょ、ナポリタン……ナポリタン、ナポリタン……”と皿を持ってしつこく詰め寄り、主人公がパニックになるところで終わればいい)

 映画内映画とそれを撮る人間たちの実人生を重ねて虚と実を綯い交ぜにする『テイク8』は、『カメラを止めるな!』とよく似た発想の作品。舞台は結婚式場のロビー。主人公の自主映画監督は、花嫁の父親が花婿に向かって“娘を頼む”と言う場面を撮影しようとしている。が、父親役と花婿役の役者がアクシデントで不在となり、現場に居合わせた花嫁役の女優の実父が父親役、主人公の監督が花婿役を急遽務めることになる。女優と監督は恋仲で、実父は2人の結婚に猛反対している。なので、“娘を頼む”という台詞がどうしても言えず、撮影は難航してテイク数を重ねることになる。父親が花婿を男として認め、“娘を頼む”と言えるようになるテイク8までの過程を追ったハートウォーミング・コメディ……なのだが、どうも釈然としない。

 キューブリック風の髭面の主人公は、気弱で腰の低い冴えない自主映画監督である。これに対して、彼の恋人である女優が必要以上に美人である点がまずおかしい。まるで釣り合わないこの2人がなぜ恋人同士なのか、という単純な疑問(こんなボンクラがなんであんないい女と付き合ってんだ、と男性の観客なら誰もが思うはず)。女は物事をはっきり言う気の強い性格で、経済力も将来性もない男との結婚を認めない父親に対して“あの人には映画しかないの!”などと反発する。なぜ彼女はそこまで彼に惚れ込んでいるのだろう。主人公の自主映画監督は『カメラを止めるな!』の日暮隆之と同じ類型の人物である。『カメラを止めるな!』には、腰の低い冴えない日暮が実は内に熱い映画魂を秘めた男であることを明確に示す場面があったが、『テイク8』ではその描写が完全に欠落している。だから女が男に惚れている理由が分からないし、父親が彼を認めて2人が結ばれる展開にも真実味がない。この作品には上田監督自身の理想が反映されているのかもしれないが、父親は納得しても、これでは観客が納得しない。

 最後に置かれた『Last Wedding Dress』は、老夫婦とその家族の騒動を描いた笑いと涙のヒューマンドラマ。これが一番つまらなかった。病気で余命幾ばくもない妻を病院から連れ出し、かつて2人が出来なかった結婚式を最後に挙げるという感動話を、子供のナレーションや『白雪姫』の引用を交えて“現代のお伽話”風に描こうとしているのだが、筋書きも演出も信じられないほど陳腐で、まるでテレビの安くさい再現ドラマを見せられているようだった。感動的な場面にいかにもそれっぽいピアノのBGMを流すところなど、テレビのバラエティ番組と完全に同レベルだし、式場の東屋で親族や知人たちが大勢揃って老夫婦を迎える場面のベタな感動演出など、本当に酷いなと思った。これはいい話です、ここで笑ってください、ここで泣いてください、といちいち監督から説明されているようなのだ。すべてがあまりにも見え透いている。役者の演技の質にもかなりバラつきがあったが、光っていたのは、主人公の老人の孫役を演じた前野朋哉。『桐島、部活やめるってよ』で映画部の前田の相棒役を好演していた彼のボンクラ・キャラとコメディ演技はここでも素晴らしく、この作品の唯一の救いになっていた。

 という感じの計4本で、何の文句もなく“面白い”と言える作品は結局、ひとつもなかった。どちらかと言えば、どれもつまらない。全体的に言えることだが、どの作品も“B級ナンセンス・コメディ調”、“ハートウォーミング・コメディ調”といった具合に、脚本や演出スタイルが既存の映画やテレビドラマの常套表現にあまりにも倣いすぎていると思った。どれもどこかで見たような感じなのだ。分かりやすいと言えば分かりやすいし、実際、上田監督は分かりやすい映画を目指していると思うのだが、そこに彼の作家性のようなものがはっきり感じられるわけではないし、少なくとも、これらの4本に『カメラを止めるな!』と同じレベルの感動はなかった。この短編集を観て、私は自分が上田監督をあまりにも買いかぶっていたことを痛感した。上田慎一郎、ダメダメじゃん……ガックリしながら喫煙所で煙草を1本吸ったあと(イオン大宮の喫煙所は2階、衣料品フロアの隅にあります)、10分後、あまり期待せずに最新作『たまえのスーパーはらわた』の鑑賞に臨んだ。


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たまえのスーパーはらわた(2018)
監督/脚本/編集:上田慎一郎
出演:白石優愛、工藤綾乃、西沢仁太、ほりかわひろき、斉藤慎二(ジャングルポケット)、太田博久(ジャングルポケット)、池田一真(しずる)、おたけ(ジャングルポケット)、春川桃菜、上妻成吾、村田綾
上映時間:45分

【STORY】
さいたま市に住むホラー映画監督志望の女子高生・浦野玉恵(18)はひょんな事からさいたま市のPR映像の監督をすることになる。ホラー映画仕立てのPR映像づくりを企て、制作をはじめる玉恵。しかし、浦和・大宮・岩槻の三地区が大揉めして制作は難航。果たして、さいたま市はひとつのチームになれるのか!?

 '18年4月、地域発信型映画として沖縄国際映画祭に出品され、『カメラを止めるな!』のヒットを経て劇場公開に至った45分の中編。いかにも『カメラを止めるな!』の余力で作ったような作品で、上記『ショートムービーコレクション』の4本の初期作に較べると確実に完成度が上がっている。

 主人公はホラー映画監督志望の女子高生で、彼女が撮るさいたま市のPR映像の助監督役として“日暮”という名の冴えない自主映画監督が登場する。『カメラを止めるな!』の父子(日暮隆之と真央)の関係を置き換え、真央を主人公にしたような物語。女子高生でホラー映画マニアという基本設定にちょっと無理を感じなくもないが、主演の白石優愛がそんな疑問を吹っ飛ばす素晴らしい演技をしていて、映画作りを通して成長していく少女の姿を描いた爽やかな青春コメディに仕上がっている。良い。普通に良い。

 普通に良いのだが、やはり『カメラを止めるな!』ほどの感動はなかった。主人公が撮影している映画内ホラー映画から始まる点など、『カメラを止めるな!』との共通点は多いのだが……なんとなくクサい。『ショートムービーコレクション』の4本に強くあった“狙っている感じ”がまだ残っているのだ。

 私がそれを強く感じたのは、主人公の玉恵と親友の栞が仲直りする場面。この映画では序盤に玉恵が演技における“悲鳴”と“絶叫”の違いを実演してみせる場面があり、その“絶叫”が2人の仲直りの印として後半に再登場する。夕暮れ時の広場で絶叫し合う2人の少女を捉えたロングショットは、この作品の命と言ってもいい極めて重要な画なのだが、全く惜しいことにカットが長すぎる。場面そのものは良い。2人の演技も良い。最初、私はこの場面を見てホロッと来かけたが、あまりにも長く続くので“ああ、狙っているな”と気付いて白けてしまった。これ、いい場面ですよ、感動するところですよ、という監督の意図が透けて見えたのだ。この場面を見せたい気持ちは分かるが、ここは観客に意図を悟られる前にさっさと切り上げなくてはいけない。時間にすればほんの数秒のことだが、このカットの長さは私には致命的に思えた。

 ギャグ場面では、栞と日暮が喫茶店で話しているとき、ホラー映画の撮影に使う作り物の腕が過って隣のテーブルの女性客に飛んでいってしまうところが上手かったが、逆に、玉恵の実家のうなぎ屋で常連客のビールのコップに小道具の目玉が入ってしまうギャグはテンポが悪く、簡単にオチの画が予測できてちっとも笑えなかった。昭和のテレビドラマじゃあるまいし、いくらなんでもベタすぎる。そういうちょっとした隙が所々にあるため、玉恵が自分勝手な自分を省み、親友や住民たちと団結して市のPR映像制作に臨む終盤の感動的な展開にもどこかクサさが漂う。『ショートムービーコレクション』の4本に較べれば十分に許せるレベルのクサさだし、私は単に粗探しをしているだけかもしれないが、それでも臭うことは確かだ。

 『カメラを止めるな!』にこのクサさ=“狙っている”感じはなかった。なぜだろう。映画作りを通して父と娘が親子の絆を取り戻したり、バラバラだったキャストやスタッフたちが一致団結する『カメラを止めるな!』の筋書きは、考えてみればものすごくクサい。しかし、私を含め、あの映画を観た多くの人たちはそれに素直に感動した。なぜ観客は気持ちよく騙されたのか。なぜあの映画は嘘くさくなかったのか。もちろん、タネも仕掛けもきちんとある。“ワンカット”というコンセプトがそれだ。

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『カメラを止めるな!』

 『カメラを止めるな!』は、テレビの生放送でワンカットのゾンビ映画を撮る撮影隊の話である。『たまえのスーパーはらわた』では主人公の少女の人間的な成長をきっかけに人々が団結していくが、『カメラを止めるな!』では、やり直しも中断もできない生放送のワンカット撮影という状況下で、人々が団結せざるを得ない状態に追い込まれていく。自分たちの意志によって主体的にではなく、飽くまで結果的に団結してしまう。

 長時間のワンカット撮影では不測のアクシデントが起きやすく、すべてを狙い通りに撮ることが困難である。そこには監督や撮影者の意図を超えた、作り物ではないガチな何かが映っている、という印象を受け手は持つ。フィクションとはベクトルが真逆のドキュメント性や偶発性、そういったワンカット撮影の特性が、『カメラを止めるな!』では件のクサさ=“狙っている”感じを、まるで消臭剤のように打ち消していた。もちろん『カメラを止めるな!』は歴としたフィクション映画だし、そこでも上田監督が“狙っている”ことに変わりはない。最後に結果的に生じる親子の絆や人々の団結は飽くまで上田監督が意図したものだし、彼は最初から観客を感動させるつもりでいるのだが、ワンカットという撮影法そのものをモチーフにした脚本のせいで、登場人物たちが監督の意図によってではなく、自然の流れでその結果に辿り着いているように見える。また、冒頭に置かれた37分間の映画内映画が実際にワンカット撮影されていることで、その舞台裏を描く終盤の物語展開にも非常に説得力がある。『カメラを止めるな!』は長い映画内映画の後に本編が始まるトリッキーな構造が大きな売りで(“最後まで席を立つな。この映画は二度はじまる”)、それが多くの人に受けたわけだが、この映画の最大のトリックは、これまで散々描き尽くされたベタな感動話をそうとは感じさせないために、ワンカットという撮影法が巧みに使われているところにあると思う。

 “嘘つきは泥棒の始まり”と言うが、それは映画監督の始まりでもある。ホラ話を通して真実を語れるのが一流の映画監督だと私は思っている。映画監督は“完全に信じられる嘘”をつかなくてはいけない。手品と同じで、見せている最中に絶対に仕掛けや意図を観客に見抜かれてはいけない。嘘っぽいな、演技くさいな、などと思われたらおしまいである。その点、『カメラを止めるな!』での上田監督の手際は全く見事だったと思う。

 しかし、今回『ショートムービーコレクション』と『たまえのスーパーはらわた』(特に前者)を観て、ワンカットというギミックがないとこの人の映画はこんなにもベタでクサくなってしまうのか、と私は悪い意味で驚嘆した。

 “完全に信じられる嘘”をつくために、要するに上田監督は『カメラを止めるな!』でフィクションの中にドキュメント性を取り入れようとした。ワークショップを通して俳優たちに入念な当て書きをしたり、インタビューなどで彼が『カメラを止めるな!』の画面内にガチな出来事がいくつも映っていることを満足げに語っている点などからもそれは窺い知れる。それはそれで良いし、『カメラを止めるな!』が傑作であることに少しも変わりはないが、しかし、純度100%の嘘でも真実は語れるし、面白い映画を撮ることはできる。ワンカット=ドキュメント性という魔法の消臭剤なしで、果たしてこの先、上田監督はまともな嘘をつくことができるのだろうか?


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耳かきランデブー(2017)
監督/脚本:ふくだみゆき
編集/助監督:上田慎一郎
出演:春風亭ぴっかり☆、山本博(ロバート)、村上純(しずる)、二宮芽生、ヘイデル龍生、廣澤恵
上映時間:33分

【STORY】
耳かきが趣味のさやか。週に一度の彼氏啓太の耳かきが楽しみだったが、最近それもマンネリ気味。そんな時、さやかの前に“最高の耳穴の持ち主”小林が現れ…。『耳かきは浮気か?浮気じゃないのか?』 耳かきをめぐる三角関係ドタバタラブコメディ!!

 『たまえのスーパーはらわた』と併映されていた33分の短編。上田作品にも裏方で関わる彼の妻、ふくだみゆきの監督作。とても画才のある人で、『カメラを止めるな!』ではタイトル・デザイン、先述の『Last Wedding Dress』『スーパーはらわた』ではイラストやアニメーションを手掛けていた(本作のオープニングにも彼女のイラストが使われている)。映画も撮る人だとは知っていたが、実際に彼女の監督作を私が観るのは初めて。おまけのつもりで何の気なしに観てみたら……これがすごく面白くてビックリした。『上田慎一郎ショートムービーコレクション』の4本より遙かに面白いし、『たまえのスーパーはらわた』と較べても明らかに一枚上手である。話題の上田慎一郎ではなく、一般的にほとんど名を知られていない奥さんの監督作の方が面白いって、なんだそれ!

 『スーパーはらわた』の1年前、'17年4月に同じく地域発信型映画として沖縄国際映画祭で公開された作品(『スーパーはらわた』はさいたま市、こちらは群馬県前橋市が舞台)。主人公は耳かきが趣味……と言うか、耳かきにフェティシズムに近い欲望を覚えてしまう若い女性で、夜な夜な同棲中の彼氏の耳かきをし、大きな耳クソを掘り当てては大興奮という生活を送っている。そんな彼女がふとした弾みで会社の同僚男性(いつも耳クソが溜まっている)の耳かきをするようになり……という三角関係のラブコメ。耳かきとバイブレーターを掛けた明るい性ネタが面白いし、同僚男性と耳かき浮気をしてしまった主人公(こけし職人の娘だったりする)が最終的に彼氏と結ばれるまでの伏線の張り方もスマート。上田作品とも通じる軽くてハートウォーミングな作風だが、性をテーマにしながら不器用な男女の微妙な距離感を丁寧に描いていて、語り口にちっともクサみがない。先述の上田作品『彼女の告白ランキング』の下ネタには品がなかったが、こちらはちっとも下品になっていない。これは多分、性的な欲望を照れずにきちんと正視しているからだろう。ちょっと変わり者の可愛らしい主人公を落語家の春風亭ぴっかり☆が嫌味なく好演(星3つあげたい)。子供の鑑賞にはちょっと不向きだが、男女を問わず、大人なら誰でも素直に笑って楽しめる、とても洗練された下ネタ映画だ。

 文句なく面白かったのだが、敢えてひとつだけ文句を言うと、ラストシーン。男が女にプロポーズの言葉を言い出そうとするが、緊張して2人ともあたふたしてしまうという、観客のニヤニヤ笑いを誘う決め場面が最後にあり、かなり難しい芝居を長回しで撮っているのだが……先述した『スーパーはらわた』の“絶叫”場面と同じく、カットが長い。そのせいで2人のせっかくの芝居がくどく、わざとらしく感じられてしまった(その次のカットからエンドロールに入るタイミングは完璧だったが)。確かに重要なカットだが、あそこまで長く引っ張る必要があるだろうか。私にはさっぱり理解できない。編集には上田監督の名がクレジットされているので、恐らく彼の裁量なのだろう。『ナポリタン』にも似たようなくどいカットがあった(耳が直って主人公が喜ぶ“もう一度言って”の場面)。自分が見せたい場面を必要以上に長く見せるのは上田監督の悪いところだと思う。

 『耳かきランデブー』を観て私は何となく、上田慎一郎がすごいのではなく、実は嫁さんのふくだみゆきがすごい人なんじゃないか、という印象を漠然と持った。嫁さんの方が才能があるという意味ではなく(2人の才能はちょっと種類が違う)、一種の“あげまん”と言うか、ミューズと言うか、宇崎竜童にとっての阿木燿子と言うか、上田監督はふくだみゆきという女性があって初めて傑作をものにできるのではないかという気がした。みゆきさんにしてみればお互い様かもしれないが、最高の芸術的パートナーに違いないので、上田監督は何があっても彼女と別れてはいけないと思う。

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ふくだ監督と上田監督。目指せ、映画界の宇崎・阿木夫妻!?

 以上、『上田慎一郎ショートムービーコレクション』『たまえのスーパーはらわた』『耳かきランデブー』を観て思ったことを書いた。私は何様でもないし、人の作品を批判するのは本望ではないが、『カメラを止めるな!』で最高の映画体験をさせてもらった感謝の気持ちを込めて、何がどうダメで面白くないのか細かく書かせてもらった。この記事を読んでも上田監督のファンは気を悪くしないで欲しい。

 他の過去作品は未見なので分からないが、少なくとも『ショートムービーコレクション』の4本は封印して、人目に触れさせない方が良いのではないだろうか。熱心なファンだけに過去の習作として見せるならともかく、短期間とはいえ、全国規模の劇場公開に値するような作品だとは私にはとても思えなかった。それに許可を出すということは、上田監督自身、あれらの作品をまんざら悪い出来と思っていないということなのか。今、彼は色んな人から誉められて内心ウハウハしていると思うが、このまま行くと『カメラを止めるな!』に続く長編で大コケし、革命者ではなく、世紀の一発屋として映画史に名を残してしまうかもしれない。『カメラを止めるな!』の感動が大きかっただけに、凡作や駄作を撮れば人々の失望も大きいだろう。私は『カメラを止めるな!』のような問答無用に面白い映画がまた観たい。上田監督はここらで一旦カメラを止めて、自分の映画について徹底的に考え抜いた方がいいのではないか。もっとも、結果など気にせず、自分が撮りたい映画を撮りたいように撮って壮絶に大コケするのも彼らしいという気がするが……。Death or Glory。Good Luck!!!


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某テレビ番組に出演した宇崎竜童(中央)と阿木燿子(右)

※宇崎・阿木夫妻と類比してふと気付いたが、「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」と『カメラを止めるな!』は、作品のタイプもヒットの仕方もよく似ていると思う。ダウン・タウン・ブギウギ・バンドは「港のヨーコ」の特大ヒット後、二匹目のドジョウを狙った「商品には手を出すな!」という曲で大コケしている。それもまた一興だな、と思う。とりあえず、誰か上田慎一郎に「港のヨーコ」のMVを撮らせたらどうだろう。「港のヨーコ」の映像化案は過去記事で書いたことがあり、私は上の画像の左端にいるおっちゃんが撮れば面白いと思っていたが、今なら上田監督が適任だろう(2番のホステス役は白石優愛、4番のキャバレーのオヤジは細井学がピタリとハマる)。

※『上田慎一郎ショートムービーコレクション』『たまえのスーパーはらわた』『耳かきランデブー』を観た1週間後、同じくイオンシネマ大宮で、今度はふくだみゆき監督作『こんぷれっくす×コンプレックス』(2015)と上田慎一郎監督作『恋する小説家』(2011)の併映を観た。それについては別記事で。




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