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Doing It To Death──『カメラを止めるな!』



 泣いた。
 
 連日満員が続く大盛況の映画『カメラを止めるな!('18年6月23日より全国順次ロードショー)を池袋シネマ・ロサで観た。日本の新人監督が無名キャストを使って撮り、国内外の映画祭を席巻した低予算ゾンビ・コメディ映画。相当に面白い作品だろうとは思っていたが、まさかここまでとは……。私は途中から涙が止まらなくなった。


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【STORY】 とある自主映画の撮影隊が山奥の廃墟でゾンビ映画を撮影していた。こだわりが強く、“本物”を求める監督は中々OKを出さずテイクは42テイクに達する。そんな中、撮影隊に本物のゾンビが襲いかかる! 大喜びで撮影を続ける監督、次々とゾンビ化していく撮影隊の面々。ワンシーン・ワンカットで描くノンストップ・ゾンビサバイバル!

 以上は『カメラを止めるな!』のチラシに掲載されているあらすじをそのまま転載したものである。本当はこの後にもう9文字続くのだが、そこは蛇足なので省略する。この映画の内容について鑑賞前に観客が知っておくことは、上記の情報だけでいい。

 この映画は二度泣ける。一度目は、映画序盤に散らばった様々な伏線がジェットコースター並みの勢いで回収されていく終盤部分。笑いすぎて泣いた。劇場で映画を観ながら、こんなに涙が出るほど大笑いしたのは初めてである。満員の場内はずっと爆笑の渦だった。

 二度目は、最後まで映画を見届けた後。この作品の奇跡のような面白さと、その奇跡を実現させた監督、役者陣、すべてのスタッフたちの情熱と知恵、信念と努力に感動して泣いた。号泣である。『カメラを止めるな!』は、体裁としては一応“ゾンビ映画”だが、飽くまで括弧つきのそれであって、実際は違う。これは映画を撮ることについての映画であり、人間の尊厳と意地についての映画であり、親子についての映画である。人として生きるということ、あるいは、生きることのグルーヴそのものを捉えた映画と言ってもいい。フリージャズのようなカオスから徐々にグルーヴが生まれ、どんどんスピードを増しながら野を越え山を越え、最後に前人未踏の頂点に達する。その乗り物を駆動させているものは、愛である。映画(もの作り)に対する愛、そして、人間に対する愛。この映画には最初から最後までとにかく愛が溢れている。鑑賞後、劇場ロビーに飾られた出演者たちのサイン入りポスターを見て再び胸が熱くなった。帰り道、劇中の様々なシーンを思い出すだけで目頭が熱くなった。

 三谷幸喜が脚本を書いてクエンティン・タランティーノが監督したような……という評は正しいと思う。実際、『カメラを止めるな!』を観て、私は25年前に渋谷シネマライズで『レザボア・ドッグス』を初めて観たときの興奮を思い出したりもした。ただ、監督の上田慎一郎('84年生まれ)は、映画バカには違いないだろうが、タランティーノほどオタク気質の人ではないと思うし(特に音楽のセンスにそれを感じた)、一見『映画秘宝』系のようでありながら、『カメラを止めるな!』はジャンル映画の枠を完全に逸脱した普遍的な娯楽作品になっている。タランティーノの映画は観客を選ぶが、『カメラを止めるな!』は選ばない。この映画は誰が観ても面白い。映画好きであればあるほど感動するのは間違いないが、普段あまり映画を観ない人にも自信を持ってお薦めできる完全無欠のスーパー娯楽作だ。


「Thriller」級の怪物『カメラを止めるな!』

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「Thriller」の撮影風景───“恐かったんだね”の場面

 個人的に『カメラを止めるな!』と最も近いと感じるのは、ジョン・ランディス監督/マイケル・ジャクソン主演の短編テレビ映画「Thriller」(1983)である。ホラー映画(ゾンビ映画)のスタイルを採っている点、メタフィクション構造で観客を騙しまくる点、映画愛に溢れている点などが共通するが(14分の本編とメイキング映像を合わせた60分の映像作品『Making Michael Jackson's Thriller』は、構造的に『カメラを止めるな!』により近い)、何より近いと思うのは、娯楽映画としての突き抜け方、開かれ方である。

 「Thriller」は、ホラー映画とミュージカル映画の要素をミックスし、当時まだ発展途上だった音楽ヴィデオというメディアを使って(広い意味での)映画史に革命を起こした画期的な映像作品である。『カメラを止めるな!』は、MJのようなスターが不在ながら、YouTube時代に再び効力を持ち始めたワンカット撮影(ドキュメンタリー性)を巧みに取り入れ、ほとんどアイデアと根性だけで「Thriller」と同じくらい画期的なことを劇場映画のフォーマットで堂々とやり遂げている。

 ワンカットという撮影法が単なるギミックではなく、きちんと脚本と連動し、物語を根底から支え、映画全体に強い生命力を与えている点が特に素晴らしい。考えてみれば、私たちが生きている人生というものは、やり直しや編集が利かない一発勝負のワンカット撮影のようなものである。その場その場で様々な問題に対処し、最善を尽くしてとにかく前へ進むしかない。たとえ失敗しても、立ち止まることは許されない。『カメラを止めるな!』は実際にワンカット撮影を使って、そうした人間の生き様を鮮やかに捉えている。これはマニア向けのジャンル映画などでは決してない。真正面から人間を見つめた、本当に普遍的で感動的な映画だ。

 面白さで「Thriller」と互角に張り合う『カメラを止めるな!』だが、恐さのレベルは「Thriller」と同じか、あるいはそれ以下である。『カメラを止めるな!』をゾンビ映画だと思って敬遠している人には、杞憂だと言っておきたい。『カメラを止めるな!』は「Thriller」と同じくらい多くの人に観られるべきだし、実際、そのようなポテンシャルを十分に持った怪物的な傑作である。

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リメイク版「Thriller」の最高傑作のひとつ「Jak Applestill's Thriller」(2009)

 「Thriller」に言及したついでに、ここで是非とも紹介しておきたいものがある。それは、YouTubeに投稿されている世界中の素人たちが撮った「Thriller」のリメイク映像群である。製作費60万ドル、約14分間のオリジナル版「Thriller」を、ダンス、ロケーション、カメラワークやカット割りに至るまで、少ない予算や人員で一般人が一所懸命に再現したリメイク版「Thriller」というものが世界には数多く存在するのである(所謂“パロディ”とは異なる)。『カメラを止めるな!』を観た私は、似たような面白さや感動を覚えたものが以前あったよなあ……と漠然と思った。そして思い出したのが、これだった。

 なにせ素人なので、ルックスは冴えない、演技は下手、ダンスはショボい、撮影はひどい、まともなロケハンや特殊撮影もできるわけがない。しかし、これが面白いのである。彼らは「Thriller」という作品を愛していて、製作費や技術がない代わり、様々なアイデアを駆使して「Thriller」を自力で完全再現しようとする。本人たちの思惑に反して生じてしまうオリジナル版とのズレ、狙ったわけではないハプニング的なズッコケ感がたまらなく可笑しい。皆で知恵を絞り、力を合わせてどうにか「Thriller」に近づこうとする努力は感動的ですらある。

 『カメラを止めるな!』は、リメイク版「Thriller」の制作過程をそのまま作品化したような映画だ。その根底にあるのは、先述した通り、愛である。リメイク版「Thriller」はオリジナル版「Thriller」への愛、『カメラを止めるな!』は映画という芸術そのものに対する愛が作品に輝きをもたらしている。

 リメイク版「Thriller」については、'13年の正月にYouTube上の計29本を私の採点つきで一挙に紹介する特集記事を書いた(“俺だってMJ──金字塔「Thriller」を再現せよ!”)。中には愛もやる気も感じられない本当に酷い作品もあるが、素晴らしい力作がたくさんあるので、『カメラを止めるな!』に感動したMJファン、音楽ファンの人には是非ともご覧いただきたい。

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『カメラを止めるな!』はちっとも恐い映画ではない(スチールを見るだけで泣けてくるぜ……)

 『カメラを止めるな!』を語るに当たって「Thriller」を引き合いに出したことには、ひとつ明確な理由がある。この映画には実はマイケル・ジャクソンとちょっとした繋がりがあるからである。ネタバレになるので明言はしないが、誰でも知っているMJのある有名曲にそっくりな曲がエンドロールで流れるのだ(「Thriller」ではない)。それを耳にしたとき、私はそのセンスのあまりのストレートさに驚いた。同時に、この映画を撮った上田慎一郎という監督に、“日本のタランティーノ”になるつもりなど毛頭ないだろうことが直感された。多分、この人はもっと遠くを見据えている。この先、彼がどんな映画を作るのかは分からない。『カメラを止めるな!』は超えられないかもしれないが、しかし、どんな作品を撮るにせよ、一人でも多くの人に自分の表現を届ける、熱い何かを正直に伝える、というこの映画を支えたであろう信念と志しだけは持ち続けて欲しいと思う。

 英題は“One Cut of the Dead”だが、『カメラを止めるな!』というタイトルは、素直に英訳すれば“Don't stop the camera”、あるいは“Keep rolling(回し続けろ)”である。絶対に止めたらあかん、というこの鉄則は、ファンクと一緒だ。何があっても演奏を止めるな──JBがバンドにそう言ったことがあるかどうかは分からないが、ファンクというのはそういうものである。『カメラを止めるな!』は映画ファンだけでなく、黒人音楽ファンからも愛されるだろう。この映画のグルーヴ感は、まさにファンクそのものだからである。エンドロールにMJ風の曲が流れたのは、色んな意味で象徴的であるような気がする。

 最高に面白い映画をありがとう。そして、最高にファンキーな映画をありがとう。この映画の制作に関わったすべての人たちに、心からそう礼を言いたい。


さあ、君も感染しよう!

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飛び入りで舞台挨拶に現れた浅森咲希奈ちゃん

 私が観に行った池袋シネマ・ロサ、7月20日(金)の17:45の回の上映終了後には、映画の出演者の一人である浅森咲希奈の舞台挨拶があった。これは事前に告知されていない予定外の登場だった。『カメラを止めるな!』の上映では、出演者たちによるこうした飛び入り舞台挨拶がよくあるらしい。彼女は劇中で撮影隊のカメラ助手役をやっていた子で、映画撮影時のこぼれ話なども含めて5分ほど観客の前で喋ってくれた(舞台挨拶後、ロビーで観客との握手やサインにも気さくに応じていた)

 このとき彼女が着ていた“ONE CUT OF THE DEAD”というロゴ入りの黒いTシャツは、劇中に登場する撮影隊と、『カメラを止めるな!』の本物の撮影隊(ややこしいな)が実際に着用していたものである。このTシャツは映画の公式グッズとして劇場で販売されているが(2,500円)、あまりに売れすぎて生産が追いつかず、現在は入手困難になっている。私が行った日はたまたまこのTシャツの再入荷予定日だったのだが、納品が間に合わなかった。浅森ちゃんの飛び入り舞台挨拶は、その埋め合わせでもあったようだ。翌日入荷したTシャツ(新宿K's Cinemaと合わせて320枚)は即日完売になったという。『戦場のメリークリスマス』の“THE OSHIMA GANG”Tシャツを凌ぐ伝説のアイテムになるのではないか。

 いま、私はこのTシャツが欲しくて仕方ない。これを着て彼らの仲間になりたいのである。Tシャツは現在、急ピッチで大量生産中だという。『カメラを止めるな!』には、リピーターが窓口で半券を提示すると料金が1,000円になる“生き返り割り”という割引サービスがある。この映画は二回目以降の鑑賞でも絶対に面白い(笑いどころが倍になる)。Tシャツが再入荷した頃を狙って、もう一度劇場に足を運ぶことにしたい。

 ポン!


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カメラを止めるな!(2018)
監督/脚本/編集:上田慎一郎
プロデューサー:市橋浩治
撮影:曽根剛
録音:古茂田耕吉
助監督:中泉裕矢
特殊造形/特殊メイク:下畑和秀
ヘアメイク:平林純子
制作:吉田幸之助
音楽:鈴木伸宏、伊藤翔磨、永井カイル
出演:濱津隆之、真魚、しゅはまはるみ、長屋和彰、細井学、市原洋、山崎俊太郎、大沢真一郎、竹原芳子、吉田美紀、合田純奈、浅森咲希奈、秋山ゆずき

『カメラを止めるな!』公式サイト
『カメラを止めるな!』ツイッター


TO BE CONTINUED...

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