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ポールの子守唄



 前回記事で紹介したオーストラリアのマッシュアップ・プロデューサー、ワックス・オーディオ(トム・カンパニョーニ)。彼の作品は傑作だらけなので、もう一度取り上げることにしたい。

 “異種音源格闘技”とも言うべきマッシュアップには基本的に笑えるものが多いのだが、ワックス・オーディオの作品には、あまりの芸術性の高さゆえに思わず真剣に聴き入ってしまうようなものもある。今回紹介するポール・マッカートニー関連のマッシュアップ2点は、まさにそんな逸品である。




 ビートルズ「Yesterday」(1965)とキュアー「Lullaby」(1989)のマッシュアップ「Yesterday's Lullaby」。ポールのヴォーカルを「Lullaby」のバッキング・トラックに乗せたもの。誰もが知るあの感傷的な歌メロが、全く別の和音を伴って誰も知らない表情を覗かせる。妙に淡々とした響きが面白い。過ぎ去りし昨日を想う“僕”の心は、感傷を遥かに通り越し、ほとんど空っぽになっているようだ。顔色は悪く、部屋にはクモの巣が張っている。彼の頭の中には妄想しかない。“今はどこかに閉じこもりたい(Now I need a place to hide away)”と言っていた主人公が、実際に半年くらい部屋に閉じこもったような「Yesterday」末路篇。この作品は、昨日のことばかり考え続けていると人はやがて病気になる、ということを私たちに教えている。




 ビートルズ「Golden Slumbers」(1969)とマッシヴ・アタック「Teardrop」(1998)のマッシュアップ「Golden Teardrops」。「Golden Slumbers」のヴォーカル、ピアノ、ストリングスを「Teardrop」のトラックに乗せたもの。これ、マッシュアップではなく、完全に“マッシヴ・アタック feat. ポール・マッカートニー「Golden Slumbers」”である。'69年のポールが時を超えてマッシヴ・アタック作品に客演したようにしか聞こえない。それくらい完成度が高く、感動的な作品である。

 動画も素晴らしい。ビートルズの終わりを暗示する「Golden Slumbers(黄金の眠り)」は、私たちを黄泉の国へと誘う子守唄である。ポールが歌った終焉と再生のイメージは、ここで全生命の故郷である宇宙と、新たな命の始まり=胎児の姿に結びつけられ、スケールと深遠さを増している。“胎児”は「Teardrop」MVに触発されたものに違いないが、この作品に関しては、実際のアーティスト映像をコラージュした他の動画と異なり、独自の映像が制作されている。これを視聴して私は涙が出た。マッシュアップの域を超えた名作。多くの音楽ファンに知っていただきたい。


TO BE CONTINUED...



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