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Chocolate Genius──天才チョコレートの黒人音楽【3曲目】



 ダニエル・シーザーは過去の様々なアーティストを彷彿させる男だが、過去記事で書いた通り、彼の作品から私が最終的に思い至ったのがニューヨークのこの才人、マーク・アンソニー・トンプソンだった(マックスウェルとお間違えないよう)

 チョコレート・ジーニアス名義での彼の初作『Black Music』(1998)は、ダニエル・シーザーが好きな現在の若い音楽ファンに是非とも聴いてもらいたい作品である。一押しは、3曲目の「Don't Look Down」。『Black Music』はオルタナティヴ・ロック、フォーク、ジャズなどが入り混じった全く外道な黒人音楽だが、'70年代ソウル色が濃厚なこのスロージャムは、彼の音楽が当時、ニュー・クラシック・ソウル(ネオ・ソウル)の傍流にあったことを分かりやすく示している。

 ダニエル・シーザーのオルタナ感はチョコレート・ジーニアスにそっくりだと思うのだが……'95年生まれのダニエルは果たして『Black Music』を知っているだろうか?




 Don't Look Down
 (Marc Anthony Thompson)
 
 You Know I been thinking a lot about Jesus (hello?)
 Do you suppose that means he's thinking a lot about me?
 I know my questions only one in a gazillion
 ain't no unique dilemma left
 but i got to ask him anyway......
 
 ずっとイエスのことを考えてたんだ(もしもし?)
 彼も同じように俺のことを考えてくれてるのかな?
 俺の疑問なんて誰もが抱くもんだろうし
 ありふれた悩みには違いないけど
 問いかけずにいられないんだ……
 
 Are You hungry?
 Are You lonely?
 What do you call divine?
 Was your first mistake your worst mistake?
 Can you help me fix mine?
 
 ひもじいですか?
 さみしいですか?
 神性とは何ですか?
 貴方の最初の過ちは最悪の過ちでしたか?
 私の過ちを正してもらえますか?
 
 No disrespect
 But it's my neck
 That's here on the line
 I'm under Your thumb
 As you take Your time
 
 無礼は承知です
 だけどどうしても
 問い合わせずにいられません
 私は非力です
 平然とした貴方のもとで
 
 (insert your own prayer here)
 
 (ここで好きなお祈りをどうぞ)
 
 i worry about you
 certainly more than you worry about me
 so....
 unless you're a sucker for punishment
 I got some advise.....
 
 君が気掛かりだ
 君が俺を気に掛けてる以上に
 だから……
 天罰に飢えてるわけじゃないなら
 こう助言しとくよ
 
 Don't look down
 
 うつむくな
 
 Don't look down
 
 うつむくな


CG_DLD2.jpg
『Black Music』デジタル・ブックレットの「Don't Look Down」画面

 『Black Music』のCDは(今は懐かしい)エンハンスト仕様で、パソコンに入れると上のようなデジタル・ブックレット画面が開き、歌詞(ドラッグ操作でスクロールする)を見ながら曲が聴けたり、MVが楽しめるインタラクティヴな作りになっていた。ウィンドウ中央の横長スクリーンは3分割になっていて、カーソルを当てると次々とイメージが切り替わる。大変に美しくデザインされたプログラムだ。

 画面左下の“Credits”をクリックすると、その曲の参加ミュージシャンや、マーク・アンソニー・トンプソンによる簡単な曲解説が表示される。その解説によると、「Don't Look Down」は“教会の隣であったパーティーへ向かう途中に書いた”曲だそうだ。ミュージシャンは地元のニューヨーク勢が中心で、ギターはマーク・リボー(ラウンジ・リザーズ、トム・ウェイツ)、ベースはメルヴィン・ギブズ(デファンクト、ロリンズ・バンド)、ドラムはダグラス・ボウン(イギー・ポップ、ラウンジ・リザーズ)。ジェーン・スカルパントーニ(ラウンジ・リザーズ)とマーク・フェルドマン(米ジャズ・バイオリニスト)が弾くチェロとバイオリンのパートは、独ジャズ・ピアニストのカール・ベルガーが書いている。

 終盤に登場する“Don't look down(うつむくな)”の一節は、いつ聴いても胸に刺さる。ボビー・ウーマックも彷彿させるゴスペル・ソウル調の「Don't Look Down」だが、チョコレート・ジーニアスの音楽性や人脈を考えると、インスピレーション源は意外とイギー・ポップ──「Turn Blue」(1977)と「Don't Look Down」(1979)──だったりするかもしれない。アルバム・タイトルは『Black Music』だが、デジタル・ブックレットには“this is not black music”とある。黒人音楽ではない黒人音楽。ダニエル・シーザーを聴くR&B好きの若者から、ゲイリーU.S.ボンズやガーランド・ジェフリーズを聴いていたアメリカン・ロック好きの元若者まで、幅広い音楽ファンに大推薦できる。マーク・アンソニー・トンプソンの'80年代作品を聴けば、プリンス・ファンも食指が動くだろう。『Black Music』は、黒人音楽のステレオタイプをあっさりと逸脱したオルタナR&Bの早すぎた名作である。


TO BE CONTINUED...



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