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Tawiah──その女、◯◯につき



 '17年に発表された女性アーティスト作品の中で私が個人的に最も興奮させられたのは、ミス・タティの1stアルバム『Finally, Tati』(過去記事“Miss Tati──遂に、タティ!”参照)と、今回紹介するタウィアのEP『Recreate』である。ミス・タティとタウィアという2人の女性歌手には、実は大きな共通点がある。


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Recreate
Digital: Lima Limo Records, 30 June 2017

Recreate Intro (1:22) / Queens (4:06) / Don't Hold Your Breath (3:45) / Falling Short (2:48) / Move With Me (4:27)

Produced by Tawiah & Sam Beste

 英サウス・ロンドン出身、'08年にレコード・デビューし、これまでいくつかのEPや客演仕事で一部の音楽ファンにその名を知られていたタウィア(本名 Beverly Tawiah)。頭を丸めて今年6月に発表した丸4年ぶりのEP『Recreate』は、タイトル通り“心機一転”して、再デビューを飾ったような瑞々しいオルタナ・ソウル作品である。

 制作はタウィア自身と、'13年にアルバム『Prayer Before Birth』でデビューした英オルタナ・ロック・バンド、ヘジラ Hejira の中心人物であるサム・ベスト。ジ・エックス・エックスとも比較されるヘジラは、マシュー・ハーバートのレーベル、Accidentalからデビューした後、フローティング・ポインツのEglo Recordsから『Name Surname』(2015)というEPを出している。Egloと言えば、以前このブログでも取り上げたことがあるUKアンダーグラウンドの歌姫、ファティマの所属レーベル。タウィアの立ち位置や音楽性はファティマのそれに近いものだが、ファティマよりオルタナ・ロック寄りのアプローチをしている点がタウィアの大きな特徴と言えるか。EP『Recreate』は、ヘジラの自主レーベルであるLima Limoから発表され、演奏にはサム・ベストの他、同バンドのギタリストも参加している。

 断髪式の様子を捉えたモノクロのMV(ジャケット写真の元)も公開された冒頭の小曲「Recreate Intro」に続く2曲目「Queens」が強烈だ。アフリカン・ドラムを歪めたようなヒップホップ・ビートと、ピアノ、アコースティック・ギター、鉄琴といったクラシック楽器の演奏が交錯する不思議な音世界。タイトルを連呼するチャントが呪術的なムードを醸すこのエクスペリメンタル・ソウル曲は、まるでアフリカン・ディアスポラによる架空のアフリカ民謡のようでもある。同様にタイトル・フレーズのチャントを軸にした「Don't Hold Your Breath」では、静謐なピアノ演奏の上に郷愁を誘う美しいストリングスが重なり、ローラ・マヴーラに似たチェンバー・ソウル・サウンドが展開される。簡素なピアノ演奏とオペラチックな多重録音ヴォーカルの組み合わせがちょっとケイト・ブッシュっぽい小品「Falling Short」、そして、くぐもった打ち込みビートに乗ってアフリカの大地を思わせるゴスペル・クワイアが聴き手を優しく包み込む最終曲「Move With Me」。『Recreate』は、アフリカ、室内楽、エレクトロニクスという異なる生地を“ソウル”という糸で縫い合わせた美しいパッチワークのような作品だ。決して派手ではないが、静謐で穏やかな中にしっかりと音楽的な緊張があり、最後まで耳が惹きつけられる。

 というわけで、ファティマやローラ・マヴーラのファンにお薦めのタウィアなのだが、彼女の過去を知ると、それどころでは済まない曲者であることが分かる。実はこの人、人間ではない。どういうことかと言うと……。

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タウィアのEP──『In Jodi's Bedroom』(2008)、『FREEdomDROP』(2013)

 タウィアは『Recreate』以前にソロ名義で3つのEPを出している。'08年に自主レーベルから発表された処女作『In Jodi's Bedroom』は、柔軟な音楽性、ソウルフルでジャジーなタウィアの歌唱に加え、エレクトロニックな音使いも光るポスト・ネオ・ソウル的な宅録作品。いま聴くとちょっと古さは否めないが、当時、冒頭曲「Watch Out」がジャイルス・ピーターソンに買われ、彼女の名を音楽ファンに知らしめるきっかけにもなった重要作だ。

 注目したいのは、'11年のクリスマス時期に公式サイトで無料配信された『Run』に続き、'13年4月にSoundCloudで無料配信された3rd EP『FREEdomDROP』。デビュー作を全面的に手掛けたジョディ・ミリナー(サム・スミスやエミリー・サンデー作品にも参加する英ミュージシャン/プロデューサー)の他、ヘジラのサム・ベストも制作に関わっていたこの9曲入りEP、これが完全にジャネール・モネイなのだ。

 タウィアは『FREEdomDROP』でヘッポコなニュー・ウェイヴ調ロックンロール・サウンドに傾斜し、ジャネールばりの擬似フューチャー・ポップを展開している。様々なタイプの曲が途切れなく連なる組曲風のドラマチックな構成や、芝居がかった声色の使い方もそっくりだ。明らかに『The ArchAndroid』(2010)に触発された作品。驚くのは、このEPがジャネールの次作『The Electric Lady』(2013)の約半年前に発表されていて、更には、過去の黒人音楽へのオマージュが高じてパロディのようになってしまった『The Electric Lady』よりも楽曲/サウンドの独創性が高いことである。

 『FREEdomDROP』を聴くと、タウィアの正体がジャネールと同じく、自由を求めてメトロポリスから時空を超えてやって来た逃亡アンドロイドであることが分かる。しかも、ジャネール(別名シンディ・メイウェザー)より新型の。一度アンドロイドだと気付くと、『In Jodi's Bedroom』や『FREEdomDROP』、そして最新作『Recreate』のジャケットもがらりと印象が変わる。人間だと思ったらアンドロイドだったなんて……全く『ブレードランナー』のような話だ。

 “ミス・タティとタウィアには大きな共通点がある”と冒頭で書いたのは、このことである。いずれもジャネール・モネイから莫大な影響を受け、後追いでありながら、本家より高性能の作品を作っている。今年5月に出たミス・タティの『Finally, Tati』は、いわば'17年版『FREEdomDROP』のようなものだ。ミス・タティが最新のメトロポリス・サウンドを聴かせる一方、タウィアは『Recreate』でOSを刷新し、アンドロイドの域を完全に超えた音を鳴らしている。もはや人間と区別がつかない。『Recreate』で鳴らされているのは、つまり、“アンドロイド(奴隷)”という過去(人種的記憶/歴史)を乗り越えて掴み取られた勝利のサウンドではないのか。それは尊厳に満ち、静かで、どこまでも力強い。

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タウィア客演作──ブラッド・オレンジ『Cupid Deluxe』(2013)、カインドネス『Otherness』(2014)

 実を言うと、私はタウィアという人の存在を『Recreate』で初めてまともに認識した。慌ててキャリアを溯り、ブラッド・オレンジ『Cupid Deluxe』の最終曲「Time Will Tell」や、カインドネス『Otherness』にデヴ・ハインズと揃って客演していた歌手だと知ったときは本当に驚いた。過去に「Time Will Tell」の歌詞を和訳していながら、私はデヴ・ハインズの変な踊りにばかり気をとられ、客演の女性歌手の素性など全く気に掛けていなかったのである。『FREEdomDROP』というアンドロイド作品を発見したのも、もちろん『Recreate』が出てからのことだ。何ということだろう。ブレードランナー失格である(お前はいつからブレードランナーなんだ)

 '10年の拙記事で、私はジャネール・モネイについて“彼女は音楽シーンにおいて、それこそ『メトロポリス』のマリアのような、抑圧された人々(アンダーグラウンドの面白いアーティストたち)を解放に導くキーパーソンになっていくかもしれない”と書いていた。あれから7年経った今年、私はミス・タティ『Finally, Tati』とタウィア『Recreate』を聴いて、ジャネールが音楽界に与えた影響の大きさを再確認すると同時に、彼女の提示した未来サウンドが既に遠い過去のものになってしまっていることを感じずにはいられなかった。彼女のメトロポリス組曲は一体どのように更新されるのだろう。

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巡業中のタウィアとモーゼズ・サムニー

 ちなみに、タウィアは今秋、ロサンゼルスの新鋭オルタナ・ソウル歌手、モーゼズ・サムニー(今年9月、強烈な1stアルバムを発表した)の欧州ツアーで前座を担当。『Recreate』の日本盤が発売されたことを伝える12月7日のインスタグラム投稿では、“来年、日本のみんなに会うのが待ちきれない(Japan can't wait to see you next year)”と書いている。もしかすると既に来日の話があるのかもしれない。いずれ発表されるだろう初のフル・アルバムも含め、楽しみに待ちたいところだ。




 最後に『Recreate』の目玉曲「Queens」のスタジオ・ライヴ映像を埋め込んでおく。「Recreate Intro」「Move With Me」のMVもあるが、最初に観るべきはこれ。ワンカットの撮影も素晴らしく、映像作品としても優れている。

※『Recreate』は、'17年12月6日にSweet Soul Recordsからオリジナル収録曲5曲+ボーナス・トラック7曲の国内盤CDが発売された。今から購入する人はこれがお勧め。タウィアの詳しい経歴についてはSweet Soul Recordsのサイトや、林剛氏による同CDのライナーノーツでご確認を。




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