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Chloe x Halle = Dreaming



 トレ・サミュエルズ(18歳)がプリンス化して大人の顔を覗かせる一方、ビヨンセのレーベルから昨年デビューした姉妹R&Bデュオ、クロイー×ハリー(19歳と17歳)もすくすくと成長している。今年3月に彼女たちも2つめの素晴らしい作品集を発表したので紹介しておきたい。


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Sugar Symphony
Digital: Parkwood Entertainment/Columbia, 29 April 2016

Drop (3:10) / Red Lights (3:17) / Lazy Love (3:22) / Thunder (3:39) / Fall (2:38)

Produced by Chloe Bailey, Shane Brown; except "Red Lights" by Chloe Bailey, Hit-Boy, Hazebanga; "Lazy Love" by Alikhanizadeh; "Thunder" by Chloe Bailey, xSDTRK, Rioux

 最新作の前に、クロイー×ハリーのデビューEP『Sugar Symphony』に触れておく。'16年4月初頭に先行曲「Drop」を聴いて彼女たちのファンになった私は、すぐに“Chloe x Halle──響”という歌詞和訳×紹介記事を書いたが、直後にプリンス急逝という大事件があり、'16年4月末のこのデビューEPについては今日までずっと触れず終いになっていた。

 “オペレッタR&B”とでも言うべき摩訶不思議なポップ感覚を持った「Drop」を冒頭に置きつつ、このデビューEPはそれとはちょっと違う方向に舵が取られている。外部のソングライター/プロデューサーを起用した「Red Lights」「Lazy Love」「Thunder」の3曲はいずれも当たり障りのないエレクトロポップ〜ハウス調の曲で、姉妹の対照的なヴォーカルをそれなりに楽しむことはできるが、どれも70〜75点くらいの凡庸な出来。Parkwoodの配慮による一種の滑り止めなのだろうが、彼女たちにこういう普通の進学コースは似合わない。

 「Drop」以外で光っているのは、EPに先駆けてホワイトハウスのイースター・イベント('16年3月28日)でも披露されていた「Fall」。姉クロイーが弾く穏やかなピアノをバックに妹ハリーが天使のような歌声を聴かせるこのバラード曲は、「Drop」と同様、姉妹が単独で書いた作品。オペレッタ〜ミュージカル風情の流麗なメロディと美しい歌唱が、現代のR&B感覚とごく自然に結びついていて実に魅力的だ。この曲は「Drop」に続いて後に音楽ヴィデオも制作された。「Drop」と「Fall」の2曲が良いということは本人たちもよく分かっているのだろう。


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The Two Of Us
Digital: Chloe x Halle, 16 March 2017

Used To Love (1:26) / Too Much Sauce (1:52) / I See The Future (0:37) / Poppy Flower (2:45) / Chase (0:54) / Partna (1:31) / DumDumDum (0:29) / Worries (1:10) / Upset Stomach (2:16) / Simple Intro (0:23) / Simple (1:47) / Mistake (1:23) / All I Ever Wanted (0:49) / Tra Ta Ta (2:17) / Up All Night (2:33) / Lucky Leaf (2:07) / Lulla-Bye (1:34)

 “私たち二人”と簡潔に題された最新作は、今年3月にYouTubeSoundCloudを通して彼女たち自身の手で公開された。改めて紹介しておくと、風船ガムを膨らませているビヨンセ風情の子が、姉クロイー・ベイリー(19歳/'98年生まれ)。シャーデー並みに人魚姿が似合う魚顔の子が、妹ハリー・ベイリー(17歳/'00年生まれ)。姉は鍵盤、妹はギターを弾く。姉が“リサ”で、妹が“ウェンディ”という覚え方もある。

 1〜2分の短い曲が『Lovesexy』状態で切れ目なしに続く25分半、全17トラック。便宜上、ミックステープと呼ばれているが、アートワークには“これはアルバムじゃない。ミックステープともちょっと違う(This is NOT an album. Not really a mixtape either)”という添え書きがある。楽曲はすべて姉妹のオリジナルで、ジ・インターネットのスティーヴ・レイシー Steve Lacy(19歳/'98年生まれ)との共作曲「Worries」を除き、プロデュースも姉のクロイーがほとんど一人で手掛けているようだ。デモと言うには完成度が高すぎるし、完パケと言うには曲が短い。現在の彼女たちのショウケース的な作品集といったところか。

 ここではデビューEPで控え目だった「Drop」「Fall」のオペレッタR&B感が全開になっている。ヒップホップ、トラップ、エレクトロなどを下地にしたトラックに姉妹の天衣無縫なヴォーカルが折り重なり、幻想的なサウンドスケープが次々と去来する様は、月並みな表現だが、まさに音の万華鏡という感じである。姉クロイーの押しの強い歌唱はビヨンセにそっくりだが、私はこのミックステープを聴いて、可憐で童女的な妹ハリーの歌声がケイト・ブッシュと瓜二つなことにようやく気付いた(初めて聴いたときから猛烈な既聴感があったが、誰に似ているかずっと思い出せずにいた)。力まずに柔らかな歌い方をすると、姉クロイーの声もケイト・ブッシュに近づく。ケイトの歌声には、大人の女と無垢な少女──あるいは“天使と小悪魔”──が同居しているような印象があるが、クロイー×ハリーはそうした多面性を二人で分担し、ケイト以上に立体的で生き生きとしたハーモニーを聴かせる。多重人格者のようなケイト・ブッシュのエキセントリックな側面が苦手な私にとって、クロイー×ハリーの人格分担制(?)はちょうどいい案配である。

 ケイト・ブッシュ的なドリーム・ポップ感覚は「Upset Stomach」「Simple」以降の後半で特に顕著だ。「Up All Night」「Lucky Leaf」あたりの魔術的な音像や偏執的なヴォーカル・ワークは完全にケイト・ブッシュの世界だが、クロイー×ハリーの音には、そこに更に黒人音楽のしなやかさが加わっている。ヒップホップやエレクトロだけでなく、「Poppy Flower」のちょっとしたレゲエ味や、「Chase」のさりげないブルース〜ジャズ感覚も面白いし、子供たちの合唱──“トンボに乗って飛び立とう/幸せだけが探しもの(Fly away on a dragonfly's back / All I ever wanted is to be happy)”──を伴った「Tra Ta Ta」の童謡のような輝きにも凄いものがある。これほどの脚力と夢見る力があれば、彼女たちはこの先どこへでも行けるだろう。

 “オペレッタR&B”と私が何となく呼んでいた摩訶不思議な音の正体は、要するに“R&B化したケイト・ブッシュ”だった。このまま順調に育つと、この姉妹はいずれ手のつけられない怪物になるかもしれない。楽しみであると同時に、ちょっと恐ろしくもある。

 プリンスにこの『The Two Of Us』を聴かせてやりたい。彼は大いに興奮しただろうし、自分のショウやスタジオに間違いなく彼女たちを招いたはずである。Parkwoodでしばらく経験を積ませた後、私はビヨンセにこの姉妹をプリンスのもとへ里子に出してほしいと思っていた。プリンスは彼女たちの最高の師匠になっただろう。それが叶わないのが本当に残念だ。


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トレ・サミュエルズとクロイー×ハリー

 今年9月、ニューヨークのファッション・ウィーク中にあったカルバン・クラインのアフターパーティーで、トレ・サミュエルズとクロイー×ハリーが顔を合わせている。トレのインスタに投稿されたそのときの写真(上)を見て、目頭が熱くなった。何でもない普通の記念写真だが、私の目には、3人がプリンスに向かって“Hi”と言っているように見えた。プリンスはもういないが、この世には彼らのような素晴らしい十代の若者たちがいて、明日の音楽界を担おうとしている。まさに“ニュー・パワー・ジェネレーション”だ。プリンスよ、彼らの音が聞こえているか?



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