2015.10.25 Sun
2015年、奇跡のバック・トゥ・ザ・フューチャー

なんたることだ。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』、および、『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』で、マーティとドクがデロリアン型タイムマシンで1985年から向かった30年後の未来。その記念すべき到着日である2015年10月21日の夜、2人が本当に1985年からやって来た。しかも、テレビ番組の最中に。
米ABCテレビで深夜に放映されている人気トーク・バラエティ番組〈Jimmy Kimmel Live!〉。その10月21日放映回(同日夕方収録)に、マイケル・J・フォックス(54)とクリストファー・ロイド(76)の2人が、映画と同じマーティとドクに扮して登場し、司会のジミー・キンメルと10分間のスキット(寸劇)を繰り広げた。しかも、映画と同様、ヒューイ・ルイスのカメオ出演まである。信じられない。まさかこんな未来が待ち受けていたとは!
スキット映像は10月22日にYouTubeの〈Jimmy Kimmel Live!〉公式チャンネルにアップされ、現在、世界中の人々にものすごい勢いで視聴されている。1985年からやって来た2人は、映画で描かれた2015年と実際の2015年のあまりの差に戸惑いを隠しきれないようだ。以下、この感動的なスキットの全貌を拙訳で紹介する。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』ファンはとにかく必見。私は笑った。そして、泣いた。
MARTY AND DOC, WELCOME BACK TO THE FUTURE!

ジミー・キンメル(JK):今日は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』ファンにとって特別な日です。今日、2015年10月21日は、『バック・トゥ・ザ・フューチャー2』でマーティ・マクフライとドク・ブラウンが向かった日です。初めてあの映画を観た時は、30年後の世界にワクワクしました。そして今、こうして実際に未来になってみて……
(突然、電気ノイズと共にステージが暗転し、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のテーマ曲が流れる)
JK:なんだ?

(ステージ後方からデロリアン登場!)

(デロリアンから現れたのは、1985年からやって来たマーティとドク! 観客は2人の登場に大スタンディング・オベーション)

ドク(D):なんたることだ!(※1)
マーティ(M):ドク、ここはどこだい?
D:私の計算が正しければ、ここは2015年だ。マーティ、未来だよ!
M:2015年? そりゃヘビーだな。(目の前の大勢の観客を見て)みんな空飛ぶ車でやって来たわけか。

JK:……え〜と、違います。あのですね、空飛ぶ車は実現しませんでした。そこまでは無理でした。
D:なんと。
M:あんた誰?
JK:申し遅れました、ジミー・キンメルと言います。あなた方は私のトーク番組の最中にタイムトラベルしてきたんです。
D:トーク番組……あんたの?
JK:ええ。
D:ジョニー・カーソン(※2)はどうした?
JK:ジョニー・カーソンは亡くなりました。
D:なんと!
M:知らなかったな。
JK:あいにくですが、結構前に亡くなりました。高齢だったので。

M:今、僕たちテレビに出てるのかい?
JK:ええ、テレビに出てるところですよ。明日には皆、トイレに座りながら電話で我々を見るでしょう。
M:……気持ち悪い!
JK:そうでもないですよ。これが意外と楽しいんです。
D:じゃあ、空飛ぶ車は発明されてないんだな。
JK:はい、まだです。
D:ホバーボードも?
JK:そう呼ばれてるものはあるけど、本物のホバーボードじゃないです。
M:中東は平和になった?
JK:いえ、ちっとも。
D:カブスはプレーオフに進んでるか?
JK:ええ、実際に勝ち進んでますよ。カブスと、あとメッツもプレーオフに進出してます。
M:そりゃ良かった。でもさ、30年で何の進歩もないのかい?
JK:う〜ん、この30年でねえ……。そうそう、クロナッツというものが発明されましたよ。クロワッサンとドーナツを合体させたもので、とっても美味しいんです。最高ですよ。(上着のポケットを探して)そうだ、これは是非……。
M:ドク、なんか2015年はシケてるね。
D:ああ。技術と文化におけるこの時代の進歩はあまり大したものじゃなさそうだ。

JK:笑って!
D:なんじゃそれ?
JK:2人と一緒に自撮りしてるんです。今は何かあったらこうして記録するんですよ。
D:持ち運び式のコンピュータ端末のようなものか?
JK:まあ、これが未来の一番の発明かな。スマートフォンというものです。
D:なんたることだ! ちっちゃいスーパーコンピュータだ!
JK:そういうこと。
D:これで天文物理学上の複雑な方程式も瞬時に解けるに違いない。
JK:それもできるだろうけど、これはもっぱら人とニコちゃんマークを送り合ったりするのに使うものです。方程式を解くのには使わない。
D:(キンメルのスマホを眺めて)Grindrとは?
JK:いや、違うんだ、それは……!

ヒューイ・ルイス:(客席の中から拡声器で)ちょっと! いいかな、君たち? こんなこと言うのもヘンだけど、君たちね……
JK:何か?
ヒューイ・ルイス:静かにしなきゃダメだよ。だって、音が大きすぎる。
JK:そうだよ、ヒューイ・ルイスの言う通り、僕たちの声は大きすぎる。仰る通りだ。さあ、電話を返してください。(ドクからスマホを取り返して)どうもありがとう。
M:時計台はどうなったんだい?
JK:とっくの昔に壊されて、バッファロー・ワイルド・ウィングス(※3)になった。
M:ビフは?
JK:実はね、ビフはここにいるんだ。数ヶ月前に失職して、今はこの番組で舞台監督をやってくれてるよ。
ビフ・ヘンダーソン(※4):(ステージ袖から)こんにちは、マヌケ諸君!
JK:よう、ビフ。
M:ビフ違いだ。僕が言ってるのは1985年のビフさ。金持ちの自惚れたカジノ王になって、世の中を腐らせた奴だよ。
JK:なんだ、その男か。彼なら今、大統領選に出馬してるよ。(※5)

M:ドク、未来は明るいって言ったよね。
D:言ったとも。どうやら我々はうっかり、くだらん技術のせいで進歩が止まった別の2015年へ来てしまったようだ。おまけにビフものさばっとる。
JK:いかにも。
D:マーティ、ここにいてくれ。私はこの原因を突き止めて、時空連続体の歪みを修正するために1985年に戻るぞ。

JK:ドク、車で行かないの? 行く前にひとつ訊いても? 未来のことを人に教えちゃいけないのはわかってるけど……僕がどうやって死ぬかご存じ?
D:ああ。
JK:教えてくれる?
D:来週だ。怒った子供たちに八つ裂きにされる。
JK:なぜ?
D:ハロウィンのお菓子を取り上げるよう母親たちに呼びかけるからだ。(※6)

(ドク、ステージ後方へ退場)
JK:皆さん、ドク・ブラウンでした。マーティ、CMの後でマイケル・J・フォックスが出るんだけど。
M:『ティーン・ウルフ』の!(※7)
JK:そう、『ティーン・ウルフ』のね。CMの後、ティーン・ウルフの登場です!

(ステージ右端のバルコニーでヒューイ・ルイス&ザ・ニュースが生演奏する「Back In Time」に乗って、番組はCMへ向かう)

(最後に、テレビ局の外に出たドクが映る。路上にシルバーの小型車が停まっている)
D:私のハイヤー(※8)だ。(後部座席に乗り込んで)1985年へ行ってくれ!
(ドクを乗せた車は車輪を畳みながら離陸し、光に包まれて消える)
-THE END-
(※1)Great Scott! ドクの口癖。スキット内には、マーティの口癖“heavy(ヘビーだ、超だぜ、ヤバい)”や、ビフの口癖“butthead(マヌケ、トンマ)”など、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』ファンにはお馴染みの台詞やネタがたくさん散りばめられている。
(※2)Johnny Carson NBCの深夜トーク・バラエティ番組〈The Tonight Show starring Johnny Carson〉で'62年から'92年まで司会を務め、長いことアメリカの深夜テレビの顔だった人物。アメリカには〈笑っていいとも!〉のような公開収録のトーク・バラエティ番組が平日深夜帯にたくさんある(大体、当日の夕方に収録)。ジョニー・カーソンは、いわば30年前のアメリカ版タモリ、あるいは、〈11PM〉の藤本義一や大橋巨泉に当たる伝説の司会者である。'05年に79歳で他界。尚、カーソンの番組には、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』公開直後の'85年7月25日、マイケル・J・フォックスもゲスト出演している。
(※3)Buffalo Wild Wings アメリカのチキンウィング料理のチェーン店。
(※4)Biff Henderson CBSの深夜トーク・バラエティ番組〈Late Show with David Letterman〉で長年、舞台監督を務めていた人物。同番組でタレントとしても活躍した。レターマンは'15年5月20日の放映回をもって引退。番組終了に伴い、ビフ・ヘンダーソンも“失職”した。
(※5)That guy is running for president now 2016年の次期米大統領選に立候補している大富豪ドナルド・トランプのことを仄めかしている。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の脚本家ボブ・ゲイルは、TheDailyBeast.comの'15年10月21日付けインタヴュー記事で、『PART2』の大富豪ビフのキャラクターが、実際にドナルド・トランプをモデルにしていたことを明かした。この大統領ネタ──映画では、'85年の大統領がレーガンであることに'55年のドクが驚く──は、このスキットの中で最もパンチのきいた部分だ。
(※6)When you tell their mothers to take away their Halloween candy 〈Jimmy Kimmel Live!〉毎年恒例のハロウィン子供ドッキリ企画のこと。“ゴメンね、ハロウィンのキャンディを全部食べちゃった”と言った時の子供たちの反応を撮影してYouTubeに投稿することをキンメルが全国の親たちに呼びかけ、傑作動画を番組で紹介している。'11年から始まった人気企画。泣いたり怒り狂ったりする子供たちの様子が面白い(が、ものすごく可哀想)。
(※7)Teen Wolf ご存じ、マイケル・J・フォックス主演のB級狼男コメディ映画。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』と同時期、'85年8月23日に全米公開。'85年10月からやってきたマーティは、ちゃんとこの映画のことを知っていた。“マイケル・J・フォックス”と聞いて、“『ファミリー・タイズ』の!”と答えなかったのは、他局(NBC)のドラマだからかもしれない。
(※8)Uber ウーバー。アメリカで普及しているハイヤー配車サービス。スマホのアプリで手軽にハイヤーを呼ぶことができる。1年前の'14年10月、キンメルは番組内で自らウーバーの運転手になって一般人を乗せるというロケ企画をやったことがあった。ちなみに、ニューヨーク市内で救急車を呼んだ場合、到着まで平均6分10秒かかるのに対し、ウーバーのハイヤーは平均2分42秒で到着するそうで、'15年3月に同番組では、これをネタにした“ウーバー救急車”というVTRも放映されている。

CM後はマイケル・J・フォックスが本人として登場。ナイキが意地で実現させた自動靴ひも調整スニーカー('06年春販売予定)を披露する場面も!
素晴らしい。素晴らしすぎる。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』出演者の再集結企画はこれまでにも様々なイベントやCMであったが、マイケル・J・フォックスとクリストファー・ロイドの2人が揃って本気でマーティとドクを演じたのは、25年前の『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART3』以来のことだ(個別での再演はあったが。特にロイドは色んなところで度々ドクを演じている)。映画『タイム・マシン』(1960)──『バック・トゥ・ザ・フューチャー』にも影響を与えたH・G・ウェルズ原作のタイムトラベル映画の古典──のテレビ・ドキュメンタリー『The Time Machine: The Journey Back』(1993)の中で、ロッド・テイラーとアラン・ヤングの2人が約30年ぶりに共演して映画の後日談を演じた感動的なミニ・ドラマを思い出させる。涙なしには見られない。恐らく、マーティとドクの復活はこれが最初で最後だろう。『PART4』ではなく、『PART3½』とでも言うべき実に粋な“続編”である。
周知の通り、マイケル・J・フォックスはパーキンソン病を患っているが、病と闘いながら現在も精力的に俳優業を続けている。'13年には久々のシリーズ主演テレビドラマ『マイケル・J・フォックス・ショウ』(NBC)もあった。飄々としたマーティ役を昔と同じように演じる彼の元気な姿が見られて本当に嬉しい。クリストファー・ロイドは翌日の10月22日で77歳になるが、もともと老け役だったので、印象がまるっきり昔と変わらない。2人とも本当に30年前からタイムスリップしてきたようだ。スキットの脚本も実によく練られている。台詞の起こしと和訳作業で既に15回くらい観たが、何度観ても面白い。すごい完成度だ。私は心の底から感動した。会場で拍手を送れなかったのが本当に残念だ。たった一度の特別な日に、私たちのためにマーティ&ドクとして未来へ戻ってきてくれた2人に、心から“ありがとう”と言いたい。2015年10月21日は、本当に歴史的な日になった。
TO BE CONTINUED...
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