第七天国(1927/米)
7th Heaven
監督:フランク・ボーゼイジ
出演:ジャネット・ゲイナー、チャールズ・ファレル
表題の“第七天国”は、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教で、神がいるとされる天国の最上層のこと。主人公の若い男女は、ひょんなことから同棲することになり、じきに愛を誓い合う。住まいである安アパート最上階の7階は、2人にとってまさに“天国”だった。やがて男は第一次世界大戦のため出征することになり、2人は引き裂かれてしまうのだが……。
このサイレント映画は名台詞の宝庫である。“Never look down - always look up!(俯かないで、いつも上を向いて!)”は、その中のひとつ。淀川長治が主宰する『映画の友』友の会
('48年創設)に通っていた高校生の永六輔は、そこで『第七天国』の話を聞かされた。淀川名画撰集『第七天国』(IVC)に収録されている
解説で、淀川は以下のように話している。
「この映画を私、ずっと昔、40年程前に友の会で喋ったんですね。“『第七天国』、いいよ、いいよ”。みんなよく聞いてくれたんです。その時に永六輔というのが子供でいたんですね。可愛い子がいたんですね。それに“こういう映画良かったよ、良かったよ”と言ったら、いつの間にか“上を向いて歩こう、上を向いて歩こう”というのがどうも頭に入ったらしい。後に永六輔は〈上を向いて歩こう〉なんて歌を作っちゃったんですね。どうもあやしい。『第七天国』のこれから来てるんだと思いましたけれども」
この映画は名台詞だけでなく、名場面の宝庫でもある。画力がとにかく凄い。下水道掃除人がマンホール越しに地上を窺う窃視的場面、
1階から7階まで螺旋階段を昇っていく様子を真横から追うワンカットのクレーン撮影、7階と隣りのアパートを繋ぐ板橋の怖さとその比喩の巧さ
(“Always look up!”の台詞はここで登場する)、戦争場面の圧倒的スケール感、街なかで群衆を掻き分けて進む男の異様な姿、そして、部屋に差し込む天の光……。神が住む第七天国。この映画には、本当に神が宿っている(もちろん、映画の神が)。ヒロインが男の上着に抱かれる場面は、アカデミー受賞作『アーティスト』(2011)のネタにもなった。「上を向いて歩こう」と同じく、万人の心に訴える不滅の名作である。淀川解説が付いたIVC版は、音楽も素晴らしい。
この映画は、ちょっと上を向いて観た方がいい。涙がこぼれないように。