I Knew You Were Waiting (For Me) (Simon Climie/Dennis Morgan) Like a warrior that fights
And wins the battle
I know the taste of victory
まるで勇者のように
戦い抜いて
勝利を味わう私
Though I went through some nights
Consumed by shadows
And was crippled emotionally
真っ暗な夜もあった
闇に苛まれて
心が打ちひしがれたことも
Somehow I made it through the heartache
Yes I did, I escaped
I found my way out of the darkness
I kept my faith, kept my faith
なんとか心の痛手を乗り越えた
そうとも 無事にね
暗闇から抜け出すことができた
進んだのさ 信じる道を
When the river was deep I didn't falter
When the mountain was high I still believed
When the valley was low it didn't stop me
I knew you were waiting
Knew you were waiting for me
河が深くても ひるまずに
山が高くても 迷うことなく
谷が深くても 進み続けた
あなたが待っていると
あなたが待っていると知ってたから
With an endless desire
I kept on searching
Sure in time our eyes would meet
尽きせぬ望みを胸に
探し続けたわ
2人は今に結ばれると信じながら
And like the bridge is on fire
The hurt is over
One touch and you set me free
橋が焼け落ちるように
苦しみは終わった
その手であなたが解放してくれた
No, I don't regret a single moment
No, I don't, looking back
When I think of all those disappointments
I just laugh, I just laugh
一瞬たりとも後悔はしてない
そうとも 過去は過去
思えば絶望したこともあったけど
笑い話さ 今じゃすべて
When the river was deep I didn't falter
When the mountain was high I still believed
When the valley was low it didn't stop me
I knew you were waiting
Knew you were waiting for me
河が深くても ひるまずに
山が高くても 迷うことなく
谷が深くても 進み続けた
あなたが待っていると
あなたが待っていると知ってたから
So we were drawn together through destiny
I know this love we shared was meant to be
2人は運命で引き寄せられたのね
こうして愛し合うさだめだった
Knew you were waiting
Knew you were waiting
Knew you were waiting for me
あなたが待っていると
あなたが待っていると
あなたが待っていると知ってたから
ArethaGeorge(アリーサジョージ)というのはアルーナジョージのパクリ・ユニットではなくて、もちろん、
アレサ・フランクリンと
ジョージ・マイケルのことである。'87年1月にシングル発売されて全米/全英1位を記録した「
I Knew You Were Waiting (For Me)」。当時の洋楽ファンでこの曲を知らない人はいないと思う。邦題「愛のおとずれ」。ジョージ・マイケルとのこの共演曲で、アレサは「I Say A Little Prayer」(1968/全米10位)以来、20年ぶりに全米トップ10入りを果たした。前回の「
Sisters Are Doin' It For Themselves」(1985)に続き、今回は個人的にも大変懐かしい──そして、アレサの新録曲「
Rolling In The Deep」とも関係がある──このメガヒット曲の歌詞を和訳することにした。
楽曲自体はそこそこの出来(中の上くらい?)といった感じだが、歌詞が技アリである。男女カップルによる一種の“天城越え”ソングなのだが、先に示した歌詞を見比べてもらえれば分かる通り、'60年代の男女デュオの名曲──ソニー&シェール「
I Got You Babe」(1965)、アイク&ティナ・ターナー「
River Deep - Mountain High」(1966)、マーヴィン・ゲイ&タミー・テレル「
Ain't No Mountain High Enough」(1967)──へのオマージュになっている。特に重要なのは「Ain't No Mountain High Enough」だろう。これら3組の男女デュオは同曲の音楽ヴィデオにも映像で登場し、('80〜90年代の流行を引用した現在の音楽ヴィデオと同じように)当時、中高年の音楽ファンのノスタルジーを誘った。マーヴィン・ゲイの他界から僅か3年という時期も重要だと思う。ベテランのアレサと若手のジョージ・マイケルががっちり組み、往年の名曲の感動を現代に蘇らせたこの曲は、幅広い世代から支持を受けることになった。ヒットして当然の歌なのである。
アレサの存在感は言うまでもないが、改めてヴィデオを見ながら聴くと、ジョージの熱演にアレサや先人たちに対するリスペクトを感じて胸が熱くなる。当時、〈ベストヒットUSA〉などで眺めていた時は何も感じなかったのだが……私も年を取ったということか。一般的にまだアイドル歌手と見なされていたジョージ・マイケルは、このヒットから間もなくして超傑作ソロ・アルバム『FAITH』(1987)を発表し、プリンス並みの天才性を存分に示すことになる。当時の彼の勢いは本当に凄まじかった。
誰にも越えられない至高の男女デュオ──マーヴィン・ゲイ&タミー・テレル ところで、「Ain't No Mountain High Enough」っぽいと言えば、「I Knew You Were Waiting (For Me)」の1年ほど前に発表されたデヴィッド・ボウイの「
Absolute Beginners」という曲
(シャーデーも出演した同名ミュージカル映画の主題歌。'86年3月発売)もそんな感じだった。サビの出だしは以下のように歌われる。
If our love song could fly over mountains
Could laugh at the ocean
Just like the films
僕らの愛の歌が山を飛び越えていけるなら
広い海をものともしないなら
まるで映画のように 高く飛翔するようなメロディもそれっぽいし
(フレーズの構成──8小節でAAABと展開する──も似ている)、躍動するベースラインやタンバリン使いはいかにもモータウンくさい。デュエット曲ではないが、バック・ヴォーカルの女性がハーモニーを歌い、男女デュオ風になっている点もいかにもだ。時期的に見て、もしかするとこの曲は「I Knew You Were Waiting (For Me)」の作者であるサイモン・クライミー
(英ポップ・デュオ、クライミー・フィッシャーの片割れ)とデニス・モーガン
(米ソングライター)にインスピレーションを与えたかもしれない。
ちなみに、「Absolute Beginners」は
'86年3月22日付け全英チャートで最高2位まで上がっている。頂上まであと一息だったが、そのとき1位に居座っていたのは、「Ain't No Mountain High Enough」をレパートリーに持つダイアナ・ロスのスプリームズ調ソング「
Chain Reaction」だった。
'80年代は──特にイギリスのブルーアイドたちの間で──このようなモータウンの焼き直しがさかんに行われていた。もっとも、それは今でもあまり変わりないかもしれない。モータウンとは、いつでも誰もが仰ぎ見、そして越えようとする、ポピュラー音楽史にそびえる巨大な“山”なのである。
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