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グスタフ・クリムト『インスタグラムのための風景画』



GK_landscape1.jpg
Pond in the Morning
1899, oil on canvas, 74 x 74 cm

GK_landscape2.jpg
Swamp
1900, oil on canvas, 80 x 80 cm

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Lake Attersee
1900, oil on canvas, 80.2 x 80.2 cm

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Isle on Lake Attersee
1902, oil on canvas, 100 x 100 cm

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The Great Poplar I
1900, oil on canvas, 80 x 80 cm

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The Great Poplar II (Thunderstorm gets up)
1903, oil on canvas, 100.8 x 100.8 cm

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Fruit Trees
1901, oil on canvas, 90 x 90 cm

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Farmhouse in Kammer on Lake Attersee (Mill)
1901, oil on canvas, 88 x 88 cm

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Farmhouse with Birch Trees
1900, oil on canvas, 80 x 81 cm

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Lakeside with Birch Trees
1901, oil on canvas, 90 x 90 cm

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Fir Forest I
1901, oil on canvas, 90 x 90 cm

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Fir Forest II
1901, oil on canvas, 90 x 90 cm

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Beech Forest I
1902, oil on canvas, 100 x 100 cm

GK_landscape14.jpg
Birch Forest I
1903, oil on canvas, 110 x 110 cm

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Pear Tree
1903, oil on canvas, 101 x 101 cm

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Rose
1904, oil on canvas, 110 x 110 cm

GK_landscape17.jpg
Flower Field
1904, oil on canvas, 110 x 110 cm

GK_landscape18.jpg
Flower Garden
1905, oil on canvas, 110 x 110 cm

GK_landscape19.jpg
Sunflower
1906, oil on canvas, 110 x 110 cm

GK_landscape20.jpg
Farm Garden with Sunflowers
1906, oil on canvas, 110 x 110 cm

GK_landscape21.jpg
Blooming Poppies
1907, oil on canvas, 110 x 110 cm

GK_landscape22.jpg
Schloss Kammer on Lake Attersee I (Watercastle)
1908, oil on canvas, 110 x 110 cm

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Schloss Kammer on Lake Attersee II
1909, oil on canvas, 110 x 110 cm

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Schloss Kammer on Lake Attersee III
1910, oil on canvas, 110 x 110 cm

GK_landscape25.jpg
Schloss Kammer on Lake Attersee IV
1910, oil on canvas, 110 x 110 cm

GK_landscape26.jpg
The Park
1910, oil on canvas, 110.4 x 110.4 cm

GK_landscape27.jpg
The Park of Schloss Kammer am Attersee
1910, oil on canvas, 110 x 110 cm

GK_landscape28.jpg
Farm House in Buchberg
1911, oil on canvas, 110 x 110 cm

GK_landscape29.jpg
Park Alley of Schloss Kammer
1912, oil on canvas, 110 x 110 cm

GK_landscape30.jpg
Cottage Garden with Crucifix
1911, oil on canvas, 110 x 110 cm

GK_landscape31.jpg
Orchard with Roses
1911, oil on canvas, 110 x 110 cm

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Apple Tree I
1912, oil on canvas, 109 x 110 cm

GK_landscape33.jpg
Italian Horticultural Landscape
1913, oil on canvas, 110 x 110 cm

GK_landscape34.jpg
Horticultural Landscape with Hilltop
1916, oil on canvas, 110 x 110 cm

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Forester’s House in Weissenbach I
1914, oil on canvas, 110 x 110 cm

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Forester’s House in Weissenbach II
1914, oil on canvas, 110 x 110 cm

GK_landscape37b.jpg
Garden Path with Chickens
1916, oil on canvas, 110 x 110 cm

GK_landscape38.jpg
Apple Tree II
1916, oil on canvas, 80 x 80 cm

GK_landscape39.jpg
Malcesine on Lake Garda
1913, oil on canvas, 110 x 110 cm

GK_landscape40.jpg
Church in Cassone
1913, oil on canvas, 110 x 110 cm

GK_landscape41.jpg
Litzlberg on Lake Attersee
1914, oil on canvas, 110 x 110 cm

GK_landscape42.jpg
Litzlberg on Lake Attersee
1915, oil on canvas, 110 x 110 cm

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Houses in Unterach on Lake Attersee
1916, oil on canvas, 110 x 110 cm

GK_landscape44.jpg
Church in Unterach on Lake Attersee
1916, oil on canvas, 110 x 110 cm

GK_landscape45.jpg
Schönbrunn Palace Garden
1916, oil on canvas, 110 x 110 cm


 先日見た《クリムト展~ウィーンと日本1900》をきっかけに、私はクリムトの風景画がえらく良いということに気づいた。そこで彼の正方形比率の風景画ばかりを集めた画集『インスタグラムのための風景画』を自作した。

 ネット上には大量のクリムト作品の画像(多くは既存の画集からスキャンされている)があるが、その中からできるだけ高画素・高画質なものを選んだ。上の画像群は、クリックすると別ウィンドウで拡大画像が表示される。クリムトの風景画は大体が約100cm四方のカンヴァスに描かれている。本当は3000〜4000px四方で細部までガッツリ見たいところだが、すべての作品に高画質スキャンがあるわけではないので、拡大画像は一般的なパソコンモニタで無理なく全面表示できる程度の1000px前後で統一した。分かりやすく1cmを10pxと決め、80cm四方の絵なら800px四方、110cm四方の絵なら1100px四方で拡大表示されるようになっている。

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GK_landscape48.jpgGK_landscape49.jpg
本物はどれだ?

 ネット上にはひとつの絵に対して幾つもの異なるスキャン画像がある。マスタリングによって録音作品の印象が変わるように、スキャンの品質によって絵の印象はガラリと変わる。上掲は実際にネット上にある「Farmhouse with Birch Trees」というクリムト作品の4つのスキャン画像だが、色合いがどれも全く違う。ほとんど別の絵のようだ。どれが最も本物の色調に近いかは実際に現物と見比べてみない限り分からない。

 このようにまるでニュアンスの異なるスキャン画像が複数ある場合、全体の彩度、明度、コントラストなどがあまり極端でないものを選び、場合によっては自分でトーンカーブを調節するなどの処理をした。上の4つのスキャン画像で言うと、右上は全体的に色がくすみすぎだと感じる。右下は妙に黄色味を帯びている。実物は左上と左下の中間ぐらいではないかと想像し、最終的に左上の画像を若干の調整を加えた上で採用した。

 ここに集めた風景画の中で「Schloss Kammer on Lake Attersee III(アッター湖畔のカンマー城 III)」(1910)と「Horticultural Landscape with Hilltop(丘の見える庭の風景)」(1916)の2点は、先日の《クリムト展~ウィーンと日本1900》に来ていた。色合いや明暗のバランスは大体ここに選んだ画像のような感じだった(ような気がする)。

 クリムトの風景画集は書籍として既に存在するが、紙媒体は利便性が悪いため、私はそれらを購入する代わりにこの画集を自作した。オリジナルを再現しきれないのはデジタル画像も印刷画像も一緒である。印刷物には後から手を加えられないが、デジタル画像はいくらでも修正が利くし、拡大・縮小も自分の好きにできる。私は大判の立派な画集でお気に入りの絵の代替を手にするより、たった1枚の超高画素の作品画像が欲しい。展覧会の図録も高精細な作品画像とPDFファイルが入ったUSBメモリで売って欲しいと思う。あらゆる画家の絵の高画質スキャンが何千万枚と揃っていて、プレイリスト感覚で簡単に自分だけの画集が作れる絵画版Spotifyのようなプラットフォームはないのだろうか。


なぜ正方形なのか?

GK_landscape50.jpg
After the rain (Garden with chickens in St. Agatha)
1898, oil on canvas, 80 x 40 cm


 これは《クリムト展~ウィーンと日本1900》でも展示されていた「雨後(鶏のいるザンクトアガータの庭)」というクリムトの風景画である。このような極端な縦長比率の風景画も初期にはあったが、ネット上で作品アーカイヴをざっと見ると、1899年の「Pond in the Morning」から晩年の1916年まで、クリムトは風景画に一貫して正方形のカンヴァスを用いている。細かい画風の変化はあっても、正方形の画面だけは変わらない。人物画には長方形画面も併用しているのに、なぜ風景画だけ決まって正方形なのか。普通の長方形じゃつまらないし、縦長だと浮世絵の真似になってしまう……じゃあ、俺は正方形でいく!と何となく決めたのだろうか。

 そうではないだろう。クリムトの風景画を見ていると、彼はスタイルのためではなく、自分の意識や感動をストレートに表現するため──そして、それを鑑賞者と共有するため──確信的に正方形比率を選び取ったのではないか、という気が強くしてくる。

 どういうことか画像を使って分かりやすく説明しよう。

GK_landscape51.jpg
イメージ1

 これは私がネットで適当に拾ってきた森の風景写真である。縦300px、横480pxで、アスペクト比は16:10。この16:10という画面比率が人間の視野角に近いと言われている。実際にはこのようなきっちりとした長方形ではなく、それに近いぼんやりとした横長の楕円のような感じだろうか。

 しかし、“見えている”範囲と“見ている”範囲は違う。この16:10の画像は、強いて言えば、目を開けた状態でぼんやり考えごとをしているときのような、景色のどこにも意識が行っていないときの見え方である。一応、人間の視界の範囲を示してはいるが、実際に人がはっきりと認識できる範囲はもっと遥かに狭い。

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イメージ2

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イメージ3

 上の2つ画像は、目の前の森の光景を注意深く意識的に眺めているときの見え方をイメージ化したものである。中央の明るい丸部分が意識のフォーカス範囲で、この丸の大きさは自由自在に変わる。例えば、画面中央の森の奥の方に鳥の影が見えて、その一点を凝視した場合、フォーカス範囲はイメージ3のようにグッと狭くなる。

GK_landscape54.jpg
さあ、やってみよう

 イメージ2の画像の左右両端に白い文字で文章を入れてみた。画面中央の明るい円の中に意識を集中し、絶対に左右に視線を振らないでもらいたい。中央に視線を固定したままの状態で両端の文章を読むことができるだろうか。白い文字で何か書いてあることまでは分かると思う。しかし、読み取ることまではできないはずだ。人間の視野の認識範囲というのはそんなものなのである。

 例えば、画面左端からいきなり小動物が飛び出てきたとする。その動きには気づいても、それがウサギなのかリスなのかヤマネコなのか判別するには、実際にそこへ視線を振る必要がある。そのときのフォーカス範囲はグッと狭くなるだろう。上の画像で普通に左右の文章を読むときも、あなたはイメージ3くらいにフォーカスを絞り、それを文字に沿って上から下へと移動させているはずである。

GK_landscape55.jpg
クリムト比率

 上掲の16:10の視界範囲からぼんやりとしか見えていない左右部分をバッサリと切り落とし、1:1の正方形画面にした。クリムトの風景画はこれである。これはつまり、目の前に広がる景色の中から、彼が意識的に見ているフォーカス範囲だけを切り取った画なのである。極めて主観的な画面と言えると思う。クリムトの風景画は、何よりまず、1:1という画面比率そのものが持つ“フォーカス力”によって鑑賞者を強く引きつける。

 これは競走馬に装着されるブリンカー(遮眼革)と全く同じ原理である。ブリンカーは、馬の意識をレースに集中させるため両眼の外側を覆って左右の視界を制限するためのカップ状の眼帯のようなものである。左右の余計なものが目に入らず、目の前の走路しか見えなくなるので、馬はとにかく前へ向かって突っ走る。クリムトの風景画は正方形比率によって鑑賞者をいわばブリンカー装着状態にさせ、同じように画面に集中することを促すのである。

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「Fir Forest I」(1901)

 クリムトの風景画は、彼が景色のどこを見て、何に感じ入っているのかがよく分かる。例えば、この「Fir Forest I」。いや〜、モミの木が柱みたく鬱蒼と生い茂って、昼間なのに薄暗いし、上の方からほんのちょっと光が差し込んでてさー、なんか超静かだし、ヤバくね?……というようなクリムトの感動がひしひしと伝わってくる。他にも、湖の水面のこの輝き方がヤバい!とか、水面のこの反射具合がたまらない!とか、庭の花の咲きっぷりがハンパない!などなど、彼は日常の中で自分が見つけた様々な“いい感じ”の光景を生き生きと切り取っている。そうした彼のささやかな感動を、鑑賞者はその正方形画面を通してシェアするわけである。

 もはや言うまでもないと思うが、インスタグラムの画像が正方形なのは全く同じ理由による。高いフォーカス力を持つ正方形の主観的画面は、客観的イメージではなく、自分が見つけて個人的に気に入った物や光景を自ら撮影して投稿する私的な(詩的とも言えるかもしれない)画像プラットフォームに持ってこいなのである。開発者がその点に意識的だったかどうかは分からない。単にレイアウトのデザイン性を考慮した結果なのかもしれないが、インスタグラムの画像が正方形であることは非常に理にかなっている。もし画像が長方形比率だったら、インスタグラムはここまで流行らなかっただろう。それは自分のヴィジョンと感動がダイレクトに伝わる画面なのである。

 クリムトは人物画にも正方形画面を多用したが、インスタ画家としての彼の真骨頂は何と言っても風景画にあると思う。あなたはどの絵に“いいね!”を付けるだろうか?



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