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山口百恵は国宝である

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 誰も指定しないなら、私が勝手にさせてもらう。山口百恵は国宝である。
 
 これが、5枚組DVDボックス『ザ・ベストテン 山口百恵』('09年12月16日発売)を観終わった私の率直な感想である。この記事を読んでいる日本人のあなたは、どこの誰であろうと、今すぐこのDVDボックスを購入するべきである。


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黒柳徹子、久米宏からインタヴューを受ける国宝・山口百恵

 DVDボックス『ザ・ベストテン 山口百恵』は、'78年から引退の'80年まで、百恵がTBSのテレビ歌番組〈ザ・ベストテン〉に出演した際の映像を完全網羅した驚愕の玉手箱である。全122回ランキング/12曲を7時間以上にわたって収録する。このDVDに関する基本的な情報や鑑賞ポイントは、発売のニュースが報じられた10月初旬の時点で書いたので、そちらを参照してもらいたい。実際に現物を手にした今でも、特にそれに何か付け加える必要性は感じない。

 もちろん、ここで改めて書きたいことはいくらでもある。百恵のパフォーマンスやキャラの魅力について、番組オーケストラ“宮間利之とニューハード”の殺人的な演奏能力について、黒柳&久米の恐るべき頭の回転の早さについて、今観るとギャグにしか思えないどこまでも微妙なセット美術のセンスについて、百恵との29年ぶりの再会をしみじみと語る特典映像の宇崎・阿木夫妻について……あるいは、商品化の点で、百恵が黒柳に扮して久米と司会をする'79年の新春特番映像が収録されなかったのは残念千万だ、とか、セットのデザイン画はブックレットに纏めて欲しかった、とか、鳥越俊太郎いらねー、とか、細かいことを書き出せば切りがない(現在、残念ながら私はそれらについて書いている暇がない。この曲はこの回がベストだ、とか、曲ごとに色々と感想を書きたいところではあるのだが。ひとまず、篠山紀信の写真を使った'78年5月25日の「プレイバック Part 2」はヤバい、とだけ叫んでおきたい)

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「謝肉祭」を歌う国宝・山口百恵

 『ザ・ベストテン 山口百恵』は、山口百恵が私たちのもとにいた最後の3年間のリアルな記録である。大まかな流れとしては、対・沢田研二シフトを敷いて一気に天下を取りに行った'78年度のぶっちぎりぶり、飽和に達し、現役続行と引退決意の狭間で揺れるかのような'79年の迷走ぶり(変な髪型に象徴される)、圧倒的なパワーとスピードで結婚・引退へ向かう'80年の強行突破ぶりが、この映像ドキュメントにおいてはっきりと確認できる。

 どの時期も興味深いが、通して全体を観賞した後では、やはり'80年「謝肉祭」「ロックンロール・ウィドウ」「さよならの向う側」という阿木+宇崎作品三連発の凄まじさが印象に残る。怒濤の連続KOパンチのようなこの3曲がなければ、彼女は恐らく引退できなかっただろう。引き止めようとする邪魔者たちを容赦なくバッタバッタと斬り倒し、何千万人もの追っ手に最終的に100馬身くらいの差をつけて見事にゴールラインを駆け抜ける。'80年の山口百恵には、まさに“愛の戦士”という形容が相応しい。

 印象に残る多くの映像の中で、大の百恵ファンである67歳のお婆ちゃんが中継で登場する場面があった('79年10月18日「しなやかに歌って」での出演)。お婆ちゃんの孫や子供が20人近く集まる民家の居間の一室に、百恵がスタジオで歌う姿を合成した凄まじくシュールな映像は、虚像が大衆の前に立ち現れるという構図において、彼女が当時、まさしくアイドル・スターとして、我々凡人とは異なる次元を生きていたことを如実に物語る。また、番組内で紹介される地方新聞記事──百恵が三浦友和と恋人宣言をしたことにショックを受け、尾花沢市の暴走族グループ“美・サイレント軍団”が解散した、という、それ自体は全くどうでもいいようなニュース──にも、軽い衝撃を覚えずにはいられない(百恵本人はと言えば、例によってケロリとした顔で記事の話を適当に受け流している)。ともかく、山口百恵は当時、そのような凄まじく国民的なヒロインだった。

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「プレイバック Part 2」を歌う国宝・山口百恵

 番組のメイン・コンセプトであるランキングの点から見ると、1位獲得が「いい日旅立ち」、三浦友和との交際宣言後の「しなやかに歌って」、結婚・引退発表後の「謝肉祭」「ロックンロール・ウィドウ」の4曲のみで、基本的に2~5位くらいの位置で長い間うろうろして下降するというチャート・アクションに百恵らしさが強く感じられる。「しなやか~」「謝肉祭」「ロックンロール・ウィドウ」の1位が、友和との交際~結婚(引退)という話題性にかなり後押しされたものだろう点を鑑みると、この番組における百恵の1位獲得曲は、実質的には谷村新司・作の「いい日旅立ち」1曲だけではないかと思う。

 百恵は本来「曼珠沙華」「夜へ」(いずれも阿木燿子+宇崎竜童・作)といったハードコアな歌に本領を発揮する歌手で、必ずしも一般向けとは言い難い魅力を根幹に持っていた。しかし、仮にシングル・カットされたとして、「曼珠沙華」「夜へ」のような歌が1位になることは絶対にない。そこには、茶の間の平穏を乱す不穏で危うい官能があるからだ。大衆はそれを敏感に察知する。彼女の表現が持っていた、ある意味、反社会的とも言える側面が、大衆をして彼女に女王の冠を与えることをためらわせていたように思うが、しかし、彼女が女王だということは誰もが知っていたはずなのである。学校で、あるいは、職場で、目立って人気があるわけではないが、実は密かに誰もが好意を寄せているような女性──山口百恵は、極端な言い方をすると、そのような一種の“大衆カルト”とも言うべき特異なスターだったのではないかという気がする。

 そうは言っても、百恵の人気はやはり明らかにずば抜けていた。番組放送第1回から最後の第147回まで、百恵の10位以内ランクインは計122回。実に打率8割8分3厘で10位内に出塁している。イチローも真っ青の驚異的数字である。ホームランは打たなくても、常にヒットを打ち続ける。当時の日本人が絶えずテレビで百恵の歌声を耳にしていたことは、間違いなく事実である。

 今回のDVDボックスでは、そんな“無冠の女王”、山口百恵が実際にテレビで歌っていた日々が大復活している。今の季節、炬燵に入ってミカンでも食べながらこのDVDを観賞すれば、30年前の日本へタイムスリップできること請け合いだ。

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「絶体絶命」を歌う国宝・山口百恵

 番組オーケストラ、宮間利之とニューハード(指揮:長洲忠彦)の素晴らしさについては前回も書いたが、これについてはいくら強調してもし過ぎることはない。彼らの演奏は〈ザ・ベストテン〉の最大の目玉であると改めて断言しておきたい。

 当時の歌手は、テレビにおいてはビッグ・バンドの生演奏をバックに歌うのが当たり前だった。歌謡曲のヒット・シングルの売上げ枚数は、通常、数ヶ月かけて数十万枚から、売れても百数十万枚くらいだが(百恵の場合は大体30~50万枚程度)、テレビでは一度に何百万~何千万単位の人が聴取者になる。当時の一般大衆の大部分が耳にしていた歌謡曲の音というのは、レコードではなく、テレビ番組オーケストラのそれであり、彼らの生演奏こそが本物の歌謡曲の音だと言っても過言ではないのである(もちろん、レコードの音はラジオや有線などでも聴かれていて、それらが渾然一体となって“歌謡曲のサウンド”を形成していたことには違いないのだが)。

 百恵のレコードのサウンド・プロダクションは優秀で、いま聴いてもとても素晴らしいのだが、今回のDVDで蘇ったニューハードの白熱の生演奏の前では、それもさすがに霞んでしまう。
 〈ザ・ベストテン〉では原則的に短縮版で歌が披露され、おまけに音声はモノラルだった。しかし、ここにシングル曲ならではの瞬発力とダイナミズムが凝縮されている。ライヴ感溢れる録音/ミックスや、編曲の素晴らしさも特筆ものだ。「プレイバック」などは、コンガがやけに大きくミックスされたグルーヴィで生々しいサウンドがやたら盛り上がる。「絶体絶命」に至っては、オリジナルのスタジオ版が完全に吹っ飛んでしまう機銃掃射のようなサウンドで、イントロが始まった瞬間に殺されること必至だ。演奏のニュアンスは出演回によって異なり(時に編曲も)、楽曲の魅力を色々と再発見できるのも素晴らしい(特に「しなやかに歌って」は聴きもの)。どの回の演奏を聴いても、これぞ歌謡曲、という闇雲なパワーにぶっ飛ばされる。
 そして、何と言っても、百恵本人の生歌唱の圧倒的な力強さ。彼女はとにかくライヴに強かった。レコードを聴くだけでは分からない、当時の山口百恵、あるいは、歌謡曲の凄まじさが、このDVDで十二分に堪能できる。全く恐るべき7時間である。

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'70年代、テレビの中には当たり前のように国宝・山口百恵がいた

 このDVDを観賞しながら、たとえ8年間であれ、彼女のような歌手が日本に存在したという事実に私は改めて深い感動を覚えた。往年のファンはこれらの映像を再見し、当時の自分がいかに貴重な時間を過ごしていたか痛感していることと思う。現在、無数の人々の眼差しや期待、夢や希望を一身に背負える芸能人はいなくなった。日々の生活を豊かにしてくれたこういうスターに対して、私たちは最大級の敬意を払わなくてはならない。

 現在、このブログの主な読者は、シャーデー・ファン、マイケル・ファン、そして(依然として)百恵ファンなのだが、私はシャーデーやマイケルのファンにも是非、山口百恵を聴いて欲しい。『ザ・ベストテン 山口百恵』を観ながら、私は自分が日本人に生まれたことの幸福を何度噛みしめたか知らない。海外のタレントを賞賛する前に、私たちはもっと彼女のような自国の素晴らしいスターを大切にするべきだろう。

 山口百恵は、私たち日本人の宝である。



謝肉祭 '93 feat Carmen Amaya

 〈ザ・ベストテン〉の話題でありながら、最後にこれを貼る私もどうかと思うが、百恵のパフォーマンス映像で最初に観るべきはやはりこちらの番組である。一緒にカルメン・アマジャの踊りも堪能してもらいたい(ちなみに、彼女は本物のロマ=ジプシーである)。

 「謝肉祭」は、私のフェイバリット百恵ソング。百恵で好きな曲を1曲、と言われたら迷わずこれを選ぶ。この曲には百恵のおいしいところが凝縮されているからだ。'80年3月に発売され、引退に向けて彼女はこの曲で一気に戦闘モードに入った。

 ここに紹介する音源は、オリジナル版ではなく、'93年のリメイク版。百恵の現役時代のヴォーカル・テイクに現代風のオケを新たに付けた企画アルバム『歌い継がれてゆく歌のように~百恵回帰II』で発表された。同様の企画で'90年代前半に全3枚のアルバムが制作され(他に『百恵回帰』『惜春譜』)、現在では2枚組CD『コンプリート百恵回帰』(2005)にその全曲が収められている。飽くまでハードコア・ファン向けの企画シリーズなので、初心者は絶対に手を出してはいけないが(私は運悪く最初に聴いた百恵のアルバムが『百恵回帰』で、おかげで10年以上もファンになるのが遅れた。今ではそれなりに面白く聴けるが)、リメイクされた全27曲の中で、この「謝肉祭」だけ突出して出来が良く、初心者にも自信を持ってお薦めできる。百恵の歌を知らない若い人にこそ聴いて欲しい。



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