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Reggaelation IndependAnce with Tamangoh @ The Room 2018



 レゲレーション・インディペンダンスタマンゴのジョイント・コンサートを観た。

 トロンボーンの齋藤徹史を中心に'08年に結成され、“東京発ジャマイカ経由全世界行き”というキャッチコピーを掲げて活動する日本のアフロ・ジャズ・ファンク・ダブ・バンド、レゲレーション・インディペンダンス。4月17日に下北沢で行われたアンジェロ・ムーア&ザ・ブランド・ニュー・ステップの来日公演で初めて彼らの存在を知り(彼らは前座の一組として出演していた。詳しくは過去記事を)、そのクールなサウンドにすっかりノックアウトされた私は、その晩、速攻で彼らのCDをAmazonでまとめ買い。なんとしても単独公演を観たいと思い、公式サイトでライヴ・スケジュールをチェックすると、早速6日後の4月23日、渋谷のThe Roomで公演予定があった。入場無料の投げ銭制で、しかも、ニューヨークの黒人タップ・ダンサー、タマンゴと共演するという。タップ好きで、おまけに金もない私にとって、それは神様がセッティングしてくれたとしか思えない、全く夢のような公演だった。


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'18年4月23日(月)、公演当日のThe Room 入口の立て看板

 というわけでやって来た、渋谷 The Room。'92年に沖野修也が渋谷南口に開いた演奏スペース付きの小さなバー(公式には“溜まり場”と呼ばれている)。有名な老舗だが、私が訪れるのは初めてだった。

 店は螺旋状の階段を下りた地下1階にある。中に入ると、右側に長いバーカウンターがあり、その向かいにある6畳程度の小さな空間がステージになっている。ステージと言っても段差があるわけではなく、ただ床の上に機材を並べただけの単なる“演奏する場所”に過ぎない。テーブル席はなく、バーカウンターと演奏スペース、奥にフライヤー置き場とトイレがあるだけの、いかにも“溜まり場”(あるいは、洞窟)といった雰囲気の店だ。店に入るなり、思わず“狭っ!”と言ってしまった。一応、キャパは100人らしいが、70〜80人で満杯という感じの本当に小さなハコである(喫煙可)。


第1部:TAMANGOH

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「Underdog」に合わせて闘争的なタップを踏むタマンゴ

 ライヴ・パフォーマンスは21時からの予定で、店内にはそれまでずっとDJがかける音楽が流れていた。21時を過ぎた頃にかかったのが、ボビー・ボイド・コングレスの「In A Strange Strange Land」(1971)。レア・グルーヴ最強のファンク盤として(個人的には、ジャンケン・ジャケ最強のパー盤として)お馴染みの彼らのアルバム『Bobby Boyd Congress』に収録されているアップテンポのジャジー・ファンクだ。

 しばらく曲が流れていると、それまでバーカウンターでくつろいでいた全身黒ずくめの背の高い黒人男性──どう考えてもそれがタマンゴだった──がステージ中央に敷かれた小さなタップ板(約1メートル四方の薄い木板)の上に立ち、いきなり猛烈な勢いでタップを踏み始めた。何のアナウンスも挨拶もなく、DJがかけていた「In A Strange Strange Land」に合わせて突然パフォーマンスを始めたのである。

 おいおいおい……と思いながら釘付けで見ていると、「In A Strange Strange Land」が終わり、次に非常に馴染みのあるマイナー調のうらぶれたホーンのイントロが流れた。スライ&ザ・ファミリー・ストーン「Underdog」(1967)だ。イントロに合わせてドラムロールのように細かくビートを刻んだ後、アップテンポのビートに乗って荒々しく床を打ち鳴らすタマンゴ。タップとはおよそイメージの結びつかない曲をバックに、彼は怒濤の勢いでタップを踏んだ。

 タップは軽快にスウィングするジャズの演奏に合わせて踊られるのが普通で、このように'60〜'70年代の泥臭いファンクに合わせて踊るというのは珍しい。'60〜'70年代というのはタップがロック人気に追いやられ、時代遅れの芸能として人々からほぼ完全に無視されていた時期である。タップはその後、グレゴリー・ハインズやセヴィアン・グローヴァーという新世代スターの登場で現代性を取り戻し、'90年代以降はヒップホップでも踊られるようになったが、ジャズ時代とヒップホップ時代の中間の'60〜'70年代にソウルやファンクで踊っていたタッパーはいなかった。なので、ボビー・ボイドやスライの音源でタップするタマンゴの姿が私にはやけに新鮮に映った。

 彼はグルーヴのスウィング感を捉えて高速で3連符を踏み、様々なシンコペーションで縦横無尽にビートを繰り出す。タップ板の上で激しくステップするタマンゴの姿が、私には小さなリングの上で戦うボクサーのように見えた。彼は失われたソウル〜ファンク時代のタップを取り戻そうとしているのか。まるでタップの敗者復活戦を見ているような気がした。曲が「Underdog」というのは出来すぎである。

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本気度を増していくタマンゴのタップ

 驚くのはまだ早かった。「Underdog」が終わるとBGMが止み、そこから全くの無伴奏によるタップ・ソロが始まった。ビートを刻みながらそれまで着ていた黒いパーカーを脱ぎ捨て、どんどん集中力を上げていくタマンゴ。フードの下から現れた彼の頭はモヒカン刈りだった。タマンゴというだけあって(?)、彼の頭はタマゴのような形をしている。

 「Underdog」のグルーヴを引き継いで、スウィングしながらドライヴ感に溢れたビートを繰り出すタマンゴ。機関車が勢いよく走り続けるように、彼はずっと一定のリズムをキープしながらタップする。上半身はほとんど使わず、特に変わったステップを見せるわけでもなく、ただひたすらリズミカルにビートを刻む。ドラム・ソロで言うと、彼のタップはやたらタム回しをしたり、これ見よがしに派手な乱れ打ちをするロック系のそれではなく、完全にファンク系のそれである。常にリズムが意識されていて、乗りが絶対に途切れないのだ。

 タップを踏みながらヴォイス・パーカッションも加え、彼は更にビートと一体化していく。完全に“リズムの奴隷”状態である。ヤバいものを観にきちまった感がハンパない。テンポを上げ下げしたり、靴底でシャカシャカと床を擦ったりしながら(タッパーはこれをよく床の上にまいた砂の上でやる)、タマンゴは様々にリズムを紡いでいった。7分に及ぶ無伴奏タップ・ソロが終わったとき、固唾を呑んで見守っていた50〜60人の観客から大きな拍手と歓声が沸き起こった。「In A Strange Strange Land」と「Underdog」を含め、約12分の余興的な第1部。パフォーマンスを終えると、彼はドリンクを求めて再びバーカウンターへ戻っていった。


WHO IS TAMANGOH?──タマンゴって何者?

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タマンゴ!

 タマンゴ('65年生まれ)は、南米北東部にあるフランス領ギアナの出身。幼少時にパリへ移住し、20歳を過ぎた頃からタップを始めた。その後、ニューヨークへ渡り、'93年に様々なダンサーやミュージシャンから成る即興パフォーマンス集団、アーバン・タップ Urban Tap を結成。同グループを率いてオフ・ブロードウェイ公演や全米ツアーを成功させ、その名を知られるようになった。アーバン・タップでの活動の他、ボビー・マクファーリン、エルヴィン・ジョーンズ、デヴィッド・マレイ、チューチョ・バルデス、オマール・ソーサ、リチャード・ボナといった有名ミュージシャンとも共演歴を持つ。佐渡の和太鼓集団、鼓童が主催する音楽祭〈アース・セレブレーション〉への出演のため'06年に来日して以来、日本にも頻繁に来訪。'15年には、北野武の企画による舞台『海に響く軍靴』で、映画『座頭市』(2003)の振付で知られる日本人タップ・ダンサー、HIDEBOHと揃って主演も果たした。

 ……とネット情報を適当にまとめたが、実を言うと、私はタマンゴの存在をこれまで全く知らなかった。お前それでもタップ・ファンか、と言われれば、すみません、半可通です、と謝るしかないのだが、セヴィアン・グローヴァーなどと較べると彼の一般的な知名度は決して高くないと思う。映画やテレビ、ブロードウェイなどを通して大きくメディアに露出しないと、一般の音楽ファンやダンス・ファンにはなかなか知る機会がない。

 YouTubeにもタマンゴの動画は数える程しか上がっていないが、その中でひとつ興味深かったのは、彼がボビー・マクファーリンと共演した'05年モントリオール・ジャズ・フェスの映像である。そこで彼は、ちょっとビル・ロビンソンを彷彿させる素朴で気持ちの良いタップを踏んでいる。ビル・ロビンソンはタップ・ファンなら誰もが知る20世紀前半の大レジェンド黒人ダンサーで、歯切れの良い独特のリズミカルなタップを持ち味とした人である。タマンゴは、ビル・ロビンソンをもっと泥臭く、アフロ寄りにしたような感じのタップを踏む。“アーバン・タップ”を標榜するタマンゴだが、実際に聴くと彼のタップからは、むしろ“アフロ・タップ”、あるいは“アーバン・アフロ・タップ”といった印象を受ける。ひとことで言えば、彼のタップは“プリミティヴ”である。

 速弾きや超絶技法を駆使するミュージシャンは人々の賞賛を集めやすい。それはタップの世界でも同じである。タマンゴは速さや技術よりも、とにかく“乗る”ことを大事にする。彼は私が今まで見てきた中で最も非技巧的なタッパーだ。


第2部:REGGAELATION INDEPENDANCE with TAMANGOH

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タマンゴです〜

 タマンゴのソロ・パフォーマンスの後、15分ほどの間を置いて、21時半からいよいよレゲレーション・インディペンダンスの登場。

 メジャー調の緩やかなレゲエの演奏が始まって間もなく、キャップを被ったジージャン姿のおっさんがステージに迎えられた。“タマンゴです〜”と流暢な日本語で挨拶したそのおっさんは、6日前のアンジェロ・ムーア公演のときも前座出演していた日本レゲエ界のパイオニア、ランキン・タクシー(65)。一週間の間にまさか二度もこの人に遭遇するとは……。

 “いい国に生まれてよかった、という歌を歌っていいかな?”と断ってから、彼はレイドバックしたレゲエの伴奏に合わせて、日本語で以下のようにトーストした。

  オリンピックどころじゃねえだろ
  再稼働どころじゃねえだろ
  武器輸出どころじゃねえだろ
  戦争だけは絶対ダメだろ シンゾー
  ハートがイビツなんだよ ハートが
  総理大臣が裏切り者 そりゃないだろ
  まともな日本を取り戻すために
  やめろ! 消えろ! 安倍晋三!


 これに続けて“とぼけた顔してボンボヤージ、ボンボボンボボボ、ボンボヤージ”というフックが来る。“Bon voyage”かと思いきや、後で曲名を調べたら「ボンボオヤジ」だった。シンゾーくん、逝ってらっしゃい、という意味だろうか。

 '14年発表のシングル曲。オリジナル版はダンスホール調だが、今回のライヴ版はレゲレーションによるユル〜い伴奏(有名なリディムかもしれないが、私には分からず)で脱力感を増していた。後半では“ボーっと生きてんじゃねえよ〜”(©NHK)というリフレインで観客をほのぼのと煽動。相変わらず反体制&オフビートなタクシー氏だった。

 ちなみに、氏はレゲレーションの2ndアルバム『Reggaelation Rock』収録の「レゲレーション・インディペンダンスと遊ぼ」という曲でフィーチャーされている。ローリン・ヒル「Black Rage」(2012)とあわせて聴きたい(?)「My Favorite Things」の替え歌レゲエ版。これはなかなかの名曲だ(これもついでに演って欲しかった)

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レゲレーション・インディペンダンスの演奏

 ランキン・タクシーとの共演後、レゲレーション・インディペンダンスの単独パフォーマンスが始まった。まずは、スライド・ギターのリフを軸にした埃っぽい豪快なアフロ・ブルース「Delta」。続いて、フレッド・ウェズリー&ザ・JBズがキングストンで演奏しているようなミッド・テンポのダビーなファンク(曲名不明)。そして、オルガンの怪しい音色が印象的なエチオ・ジャズ風の「River」。「Delta」「River」はいずれも2ndアルバムから。すぐ目の前で演奏される重量級のアフロ・ファンク・サウンドはすごい迫力だ。

 メンバーは、齋藤徹史(トロンボーン)、外間正巳(トランペット)、黒須遊(テナー・サックス)、松本龍一(ギター)、森俊也(キーボード、ギター)、河内洋祐(ベース)、柳浦智治(ドラム)、奥村祐司(パーカッション)に、市川博啓(ダブワイズ)を加えた全9人。実際にステージで演奏しているのは8人だが、PA卓にもう1人のメンバーがいて、各楽器の音にリバーブやディレイなどのエフェクトをかけてリアルタイムでダブ処理を行っている(この日はギタリストのすぐ横、ステージ右側の外れにいた)。要所要所で音が異次元空間に吹っ飛ぶこのダブ・サウンドが実にカッコいい。

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レゲレーションの1stアルバム『New Day』(2013)、2ndアルバム『Reggaelation Rock』(2017)

 レゲエ好きが集まって結成されたレゲレーション・インディペンダンスは、ジャマイカを経由し、更にそのルーツであるアフリカを目指して幅広いアフロ音楽を志向する、かなり雑食性の強いバンドである。バンド名は“Reggae(レゲエ)”と“Revelation(啓示)”、“Independence(独立)”と“Dance(ダンス)”の合成語。レゲエ仕込みのスタイリッシュなアフロ・ファンクを聴かせる1stアルバム『New Day』(2013)でデビューした後、映画『ロッカーズ』(1978)への出演で知られる伝説のレゲエ歌手、キダス・アイを迎えたミニ・アルバム『Kiddus I Meets Reggaelation IndependAnce』(2014)を発表。6つの楽曲をそれぞれ2ヴァージョンずつ収録した変則的な構成の2ndアルバム『Reggaelation Rock』(2017)では、サウンドや曲想の幅を大きく広げ、独自のアフロ・サウンドに磨きをかけた。日本人女性ビバップ・ダンサーをフィーチャーしたMV「Delta(2ndからのシングル曲。MVの音源はアルバム版と異なる)も最高だ。より間口の広がった最近作の2ndを私は特に愛聴している。

 非常にファンク色の強いレゲレーション・インディペンダンスだが、面白いことに、彼らの演奏からはファンク・バンドの演奏にあるべきタイトさがあまり感じられない。全体的に何となくネジが緩んでいるというか、メンバー全員がジャストな乗りで揃って音を奏でていないような(※イメージです)、独特のルーズさがある。普通、そのような締まりのなさはファンク・バンドにとって命取りだが、このバンドの場合、河内洋祐という人の弾くベースが全体の重心を常に下へ下へと引っ張っていて、ネジの緩んだアンサンブルにもかかわらず、不思議と演奏が破綻しない。グラグラと揺れたまま、倒壊しそうで、しない。これがやはりレゲレーション・インディペンダンスの“レゲエ”たる由縁なのだろう。レゲレーションの演奏が持つそうした独特のユルさや揺らぎは、ライヴで一層強く感じられる。ヘタウマっぽくもある彼らのこのファンク・サウンドが、私にはとても面白く聞こえるのである。ラウンジ・リザーズはかつて“フェイク・ジャズ”を標榜したが、似たようなフュージョン感覚やオルタナ感覚を持つレゲレーション・インディペンダンスの音楽には“フェイク・レゲエ”や“フェイク・アフロ”といった呼び名がよく似合う。

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フルートを吹きながらタップを踏むタマンゴ

 レゲレーションが単独で3曲披露した後、タマンゴがステージに迎えられ、遂に両者の共演が始まった。レゲレーションとタマンゴは'15年にも一度セッション経験があり、今回は二度目の共演ということだった。

 セッションはタマンゴによるフルートの演奏から始まった。鋭くリズミカルなフレーズを吹き、それと掛け合いをするように自らタップを踏む。ピッチャーとバッターの二刀流なら知っているが、タップとフルートの二刀流パフォーマンスというのは初めて見た。タマンゴのタップ&フルートは徐々にアップテンポのステディなリズムを紡ぎ、そこに少しずつレゲレーションのメンバーが即興で音を重ねていく。リフらしきリフも曲構成もない、ただグルーヴだけで成立しているようなアフロビート・サウンドが、まるで湧き水のように自然発生し、徐々に川らしき明確な流れを作っていく様は実にスリリングだ。

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飛び入り参加してタマンゴとタップを踏む謎の青年(左)

 一度盛り上がった演奏が抑えられ、再びタマンゴのタップ音だけになったところへ、もうひとつのタップ・ビートが加わった。観客の中からタップ・シューズをはいた日本人の青年が突然現れ、タップ板の上でタマンゴと揃ってパフォーマンスを始めたのである。実にシャープな足さばきで、時折トリッキーなステップも交えながら、ものすごいスピードと安定感でビートを刻む。上手い。もしかするとタマンゴより上手いかもしれない。誰、これ?

 タマンゴと謎の日本人青年による高速タップ・ビートに再びレゲレーションのメンバーが音を加えていく。途中でタマンゴがフルート演奏に専念し、タップを青年に任せきる場面もあったが、謎の青年は少しの危なげもなく、実にクリアなタップ音で軽快にビートを刻み続けた。最後はタマンゴが受けに回り、完全に青年を引き立てていた。どちらが主役か分からないくらいの大活躍。知り合いであるらしい謎の日本人青年タッパーは、このときタマンゴによって“ナツオさん”と観客に紹介された。ナツオさん……?

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「Wake Up」──どんどん火がついていくタマンゴのパフォーマンス

 ナツオさん参加のジャム・セッションの後に披露されたのは、アンジェロ・ムーア公演のときも強烈だった必殺曲「Wake Up」。'14年のキダス・アイとの共演盤で生まれた重量感満点のアフロ・ダブ・ファンク。テーマ・メロディのカッコよさに加え、ファンキーな三連ビートとハーフタイムのレゲエ・ビートを自在に行き来するリズム・アレンジが秀逸なこの曲(昨年のブイカ来日公演で披露された新曲「Tiger Eyes」と似ている)は、アフロでレゲエなレゲレーション・インディペンダンスの魅力が詰まった最強ナンバーだと思う。重戦車のようなドラムが圧巻だが、今回の公演ではタマンゴの参加によってリズムが更に強化され、より白熱した演奏になっていた。素晴らしすぎる。

 タマンゴは曲に合わせて即興で踊ったり、パワフルにタップを踏んだり、ソリストの横に立って演奏を盛り立てたり、思いつくままに様々なパフォーマンスをしていた。曲の終盤、マイクを通して彼が啓示めいた言葉を観客に向かって捲し立てはじめると、演奏の緊張感はピークに達した。オフマイク気味で何を言っているのかよく分からなかったが、人種問題を匂わせる彼のその訴えは、この晩の最大の山場にもなった次の曲へ繋がるものだった。

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「Roots Tone Skit」──人種差別への怒りをぶちまけるタマンゴ

 「Wake Up」の次に始まったのは、1stアルバムに収録されている「Roots Tone Skit」というアフロキューバン調の曲だった。オリジナルのスタジオ版では日本のヒップホップMC、Shing02のラップがフィーチャーされているが、今回のライヴではタマンゴが苛烈なスポークン・ワードのパフォーマンスを行った。アップテンポのビートに乗って彼が激しい口調で日本の観客に訴えたのは、黒人差別に対する強い怒りだった。

  おい白人 俺を殺すのをやめやがれ
  おいお前 俺を殺すのをやめやがれ
  おい白人 俺を殺すのをやめやがれ
  お前らに撃たれるのはたくさんだ
  白人よ 俺を殺すのをやめやがれ
  銃弾を浴びるのはもうたくさんだ
  白人よ 俺を憎むのをやめやがれ
  この白人のクソ野郎
  
  銃声を聞くのはうんざりだ
  ふっ飛ばされるのはうんざりだ
  お前らにはもううんざりだ
  俺を殺すクソ野郎
  クソ野郎と言って何が悪い
  このクソったれたバカどもが!
  
  白人よ 俺を殺すのをやめるんだ
  白人よ 俺を憎むのをやめるんだ
  さあ 振り向けクソ野郎 俺の参上だ!
  
  俺の言うことは真実だ
  ウソなんかじゃねえ
  これは世界で毎日起きてることだ!
  
  さあ 縛りつけるがいい
  俺はお前らの目の前にいるぜ
  俺は誇り高き黒人だ こん畜生!

  
 彼は大体こんなことを主張していた。“クソ野郎(motherfucker)”を連発し、ものすごい剣幕で露骨に白人を罵っていた。マイクに向かって叫ぶと同時に、怒りを叩きつけるように激しくタップを踏む。タマンゴは完全に怒り狂っていた。

 “俺は誇り高き黒人だ(I'm black and I'm proud)”と言った後、彼は“大声で言え、自分は誇り高き黒人だ(Say it loud, I'm black and I'm proud)”と日本の観客に向かって復唱を促した。みんなこれ(JBの歌)知ってるだろ、という感じで観客に“I'm black and I'm proud”と言わせようとしたのである。もちろん知っていることは知っているのだが……っていうか、自分、ブラックじゃないんですけど……と困惑したのは私だけではなかったはずで、タマンゴの必死の呼びかけも空しく、実際に観客から“I'm black and I'm proud”の声が上がることはなかった。

 タマンゴによるこのブラック・ライヴズ・マター(ブラック・パワー)主義全開のパフォーマンスに、はっきり言って私は引いた。どう反応していいかさっぱり分からなかった。もちろん人種差別は酷いことだし、それに対する彼の憤りも頭では理解できる。しかし、常軌を逸した彼の激しい表現は、日本人の私に共感できるレベルを超えていた。マイケル・ジャクソンのショート・フィルム「Black Or White」後半のパンサー・セグメント(路地裏でタップを踏みながら一人で人種暴動を起こす)と同じと言えば同じだが、実際に目の前で“お前はどうなんだ?”と人種的立場を問われると、どう答えていいか分からない。ジャズ、ソウル、ファンク、ヒップホップ、レゲエといった黒人音楽を日頃聴いている日本の音楽ファンなら、多少なりともこれと同じようなアンビバレントな思いに苛まれたことがあるはずだ。以前、コモン「Black America Again」の和訳記事の中でも書いたことだが、特に近年のブラック・ライヴズ・マター運動や、それと関連した諸々の表現に触れると、日本で黒人音楽を聴くことの意味を考えさせられることが多い。

 日本人を相手にそこまでやるか、と思う一方で、日本人が相手でもそこまでやるタマンゴの姿勢も、それはそれで立派だと思う。彼のパフォーマンスが良かったのか悪かったのか、正直、この記事を書いている段階でも私には分からないのだが、ボビー・ボイドやスライの音源でタップした第1部のパフォーマンスともあわせ、タマンゴの表現が非常に強い黒人意識に基づいたものだということはよく分かった。

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「Q」──9拍子で怒濤のタップを踏むタマンゴとナツオさん

 その後、レゲレーションが再び単独で1曲(曲名不明。「The Sidewinder」っぽいリフを持ったジャズ・ファンク)を披露したところで、リーダーの齋藤徹史によるタマンゴの簡単な紹介MCがあった。齋藤氏の話によると、タマンゴのヒーローはベイビー・ローレンス、マスターはジミー・スライドなのだという(いずれもタップ・ファンにはお馴染みのレジェンド・ジャズ・タッパー)。また、タマンゴがかつて、'90年代にニューヨークのアシッド・ジャズ・シーンを牽引した集団/レーベル、Giant Stepと活動を共にしていたことなども紹介された。このあたりの振り幅が実に面白い。

 齋藤氏の話の後、最終曲として演奏されたのは、2ndアルバム収録の9拍子のアフロ・ファンク「Q」。途中からタマンゴと、謎のバカウマ青年タッパー、ナツオさんが再登場し、9拍子の変奏的なリズムに合わせて凄まじいタップを踏んだ。タップをフィーチャーした中盤のブレイクダウンから、ホーン隊が加わって徐々にヒートアップしていく終盤の展開が圧巻。2人のタッパーとバンドが一丸となった演奏は、タップが楽器(パーカッション)であることをまざまざと伝える。ラストを飾るに相応しい白熱の名演だった。

 ショウは一度「Q」で締め括られたが、観客からすぐにアンコールの声がかかり、最後にもう1曲、1stアルバムの表題曲「New Day」。これまた変拍子(6拍子)の曲だが、飽くまでダンサブルに聴かせるところがレゲレーションらしい。このアンコール曲ではタマンゴが途中から再びバンドに加わり、身振り手振りで次々とブレイクダウンの指示を出しながら、バンドの各楽器とタップで即興の対話を繰り広げた。これはライヴならではの聴きもの。16分に及ぶ「New Day」の熱演でショウは遂にお開きとなった。

 終演は23時過ぎ。第1部(12分)と第2部(91分)、合わせて約103分の公演。アフロ色の強いタマンゴのタップと、幅広いアフロ音楽を志向するレゲレーションの相性は抜群だったし、その上、ナツオさん(後述するが、実は有名タッパー)やランキン・タクシーのパフォーマンスも観ることができた。しかも、キャパ100人程度の狭い空間で間近に観られたのだから、全くラッキーとしか言いようがない。本当に濃密な音楽体験だった。

 終演後、投げ銭箱を持ったスタッフの女性が場内を巡回した。これで投げ銭制というのが更に信じられない。この公演が仮に有料だったらチケット代はいくらだったかと想像して、私は投げ銭箱に千円札を3枚入れたが(少なくてごめんなさい)、実際の内容はそれ以上のものだった。すごいものを聴かせてくれた出演者の皆さんに心からお礼を言いたい。

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公演終了後の出演者の皆さん

 帰り際、バーカウンターのところにタマンゴが一人でいたので話しかけた。タップ・ダンスが好きで、ベイビー・ローレンスやジミー・スライド、バニー・ブリッグズのCDなんかも持ってます、と言うと、彼はちょっと顔を輝かせて“おお、そうか。俺の師匠はジミー・スライドだったんだ。俺は彼らの遺志を受け継いでるんだよ”と話してくれた。今回のレゲレーションとの共演があまりにも良かったので、彼らとレコードを作ったらどうかと訊いてみると、“う〜ん、できたらいいけどね……”という返事で、特にレコーディングの予定はないようだった。

 タップは見るのも良いが、私はタップを“聴く”のが好きだ。タップは立派な楽器であり、タッパーはダンサーであると同時にミュージシャンだからである。にもかかわらず、タッパーのレコードというのはこれまでほとんど作られてこなかった。ドラマーやパーカッショニストのリーダー作はいくらでもあるのに、タッパーのアルバムがないのはおかしな話ではないか。タマンゴのヒーローでもあるベイビー・ローレンス Baby Laurence(1921〜74)は『Dancemaster』という素晴らしいジャズ・タップ・アルバムを残したが、それは例外中の例外で、タッパーのレコードと言えば、あったとしてもタッパーとしてではなく、歌手として吹き込んだ作品である場合がほとんどである。以前、ジャズ・コンボを従えたセヴィアン・クローヴァーの来日公演を観たとき、彼ならタッパーとしてリーダー作を出せると思ったが、セヴィアンほどの名のあるタッパーでさえ、いまだまともにレコード作品を作っていない。これは恐らく、ダンスは見るものであって聴くものではない、という認識が一般的に強くあるせいだろう。タップの音だけ聴いて何が楽しいんだ、タップのレコードなんて売れるわけがない、と考える人が多いのではないか(音だけ聴いても楽しいんだよ!)。

 誰もやっていないということは、大きなチャンスでもある。私はレゲレーション・インディペンダンスに、是非ともタマンゴとスタジオ入りしてもらいたい。レゲレーションのアルバムの中で数曲、“featuring タマンゴ”という形でも構わないので、彼のタップが聴けるレコードを作って欲しい。至るところでダブ処理された今回の公演のタップ音は素晴らしかった。音楽的な接点は十分あるし、録音やミックスなどの音響面でも、レゲレーションならタップを上手く扱えると思うのである(あと、レゲレーションにはいつかブイカと共演して欲しい。彼女は外部ミュージシャンとのコラボに積極的だし、セネガルのルーツレゲエ・バンド、Meta & The Cornerstonesのアルバムにも参加しているくらいなので、レゲレーションと組んでもちっともおかしくない。ブイカやタマンゴなどの多国籍ゲストを迎えたレゲレーションのアルバムを私は聴いてみたい)

 日本で他に公演予定はないのかとタマンゴに訊くと、このあと2週間ほど京都へ行き、そこで公演してからまた東京に戻り、5月7日に六本木で公演するという話だった。今度はバイオリンがいるバンドと組むという。私はタマンゴのタップをもっと聴きたかったので、観に行きます、と伝えて彼と別れた。

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謎のバカウマ青年タッパー“ナツオさん”の正体が遂に明らかに

 あとで調べてみると、5月7日(月)、六本木のクラップスというライヴレストランで2V -double ve-というバンドの公演があり、そこにタマンゴがゲスト出演するらしいことが分かった。2V──と書いて“double ve(ドゥブルヴェー)”と読む──は、タップ・ダンサーとバイオリン奏者を擁する日本の5人組バンドで、リーダーのタップ・ダンサーは“清水夏生”という名前だった。清水夏生……夏生……ナツオさん?! それは、レゲレーションとタマンゴのステージに飛び入りした例の青年タッパーだった。清水夏生って何者?

 キャリアを確認して更に驚いた。清水夏生はHIDEBOHの弟子で、水谷豊の初監督作として話題になったタップ映画『TAP -THE LAST SHOW-』(2017)で主役の青年ダンサー“マコト”を演じていた人物だった。私はその映画を昨年劇場で観ていたが、清水夏生という名前までは覚えていなかったし、ルックスの雰囲気も映画とは随分違っていたので(映画ではもっと体格のがっしりした、割と大柄な青年という印象だった)、タマンゴと踊る彼を見ても全くそうとは気づかなかった。どうりで上手いわけだ。

 というわけで、5月7日、今度は清水夏生率いる2Vとタマンゴの共演を観るため、私は六本木へ行った。これまた面白い公演だったのだが……その話はまた別記事で。


※タマンゴの名前をネットで検索すると、“Tamango”と“Tamangoh”の2通りの表記に分かれている。多く使われているのは前者だが、タマンゴ本人に綴りを確認したところ、正しくは最後に“h”が付く“Tamangoh”だそうだ(“タマゴ”と“マンゴー”の合体だよ、と冗談を言っていた)。彼はこれまで基本的に“Tamango”で通ってきたようだが、ここでは本人の弁に従って“Tamangoh”と書くことにした。


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Part 1: Tamangoh
01. In A Strange Strange Land [Bobby Boyd Congress]
02. Underdog [Sly & The Family Stone] - tap solo

Part 2: Reggaelation IndependAnce with Tamangoh
01. ボンボオヤジ(ボーっと生きてんじゃねえよ) feat. Rankin Taxi
02. Delta
03. (unknown)
04. River
05. (unknown) feat. Tamangoh, Natsuo Shimizu
06. Wake Up feat. Tamangoh
07. Roots Tone Skit feat. Tamangoh
08. (unknown)
09. Q feat. Tamangoh, Natsuo Shimizu
-encore-
10. New Day feat. Tamangoh

Live at The Room, Shibuya, Tokyo, April 23, 2018
Personnel: Tetsufumi Saito (trombone), Masami Hokama (trumpet), You Cross (tenor sax), Ryuichi Matsumoto (guitar), Shunya Mori (keyboards, guitar), Yosuke Kouchi (bass), Tomoharu Yagiura (drums), Yuji Okumura (percussion), Hiroaki Ichikawa (dub wise); with special guests: Tamangoh (tap, flute, vocals), Natsuo Shimizu (tap), Rankin Taxi (vocals)






 レゲレーション+タマンゴ公演は終始スタッフによってワンカメで撮影されていた。公演から約2週間後、その公式ライヴ映像の一部がYouTubeで公開された。動画の“Part 1”は、5曲目の曲名不明ジャム・セッション〜「Wake Up」〜「Roots Tone Skit」まで、公演の最大のハイライトだった約26分を完全収録。“Part 2”では、16分あったアンコール曲「New Day」の終盤の7分の様子が見られる。



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