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JAËRAYMIE──銃を薔薇に変えるパリの路上アーティスト



 '17年初頭からフランス、パリ市内のあちこちの壁にロマンチックな男たちが相次いで出現し、パリっ子たちの目を惹いているのをご存じだろうか。その男たちは誰もが知る有名アクション映画の登場人物で、拳銃を構えるかわりに赤いバラの花を手にしている。映画のスチール写真を使ったストリート・アート(グラフィティ)の一種である。

 パリの街角で通行人たちの心を和ませるその貼り紙アートの作者は、ジェレミ Jaëraymie というモンマルトルのストリート・アーティスト('86年生まれ)。最近、私はひょんなことがきっかけで彼の作品を発見し、それがとても気に入った。私自身、彼がネタにしている映画──アクション、SF、犯罪モノ(ギャング/マフィア映画、フレンチ・ノワール)、マカロニ・ウェスタンなど──が好きなこともあるが、彼の作品にはそのような“男の映画”を敬遠する婦女子たちにも強くアピールする力があると思う。今回は、日本で全く知られていないジェレミの、洒脱なユーモアと“男のロマン”に溢れた傑作ストリート・アートの数々を紹介する。


LE ROMANTISME C'EST UN TRUC DE BONHOMME
──“ロマン、それは男のもの”

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Romantic Harry (2017)

 パリのハンバーガーショップの壁に現れたハリー・キャラハン。映画『ダーティハリー』(1971)のお馴染みの一場面だが、クリント・イーストウッドの手には44マグナムではなく、なぜかバラの花束が。一体どうしちゃったんでしょうか。台詞は“一か八か賭けてみるか……受け取ってください!(I've gotta ask myself one question: "Do I feel lucky?" Make my day, PLEASE!)”だろうか。凶悪犯を追う非情な刑事が、命懸けのプロポーズをするロマンチックな男に大変身。もう“ダーティ”とは呼ばせない!


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Han "romantico" Solo (2017)

 『スター・ウォーズ』(1977)のハン・ソロ(ハリソン・フォード)。真剣な面持ちで彼が恐る恐る花束を差し出す相手は、やはりレイア姫だろうか。どのエピソードでも描かれることのなかった彼の幻のプロポーズ場面がここに。軽口ばかり叩いているハンも、こういうときはさすがに緊張するのだ(レイアとは身分も違うしね……)。ちなみに、隣にあるシマウマの顔はArdifという別のストリート・アーティストの作品だが、この2つは白い壁面上で絶妙な調和を見せている。

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消えてゆくハン・ソロ

 ジェレミの作品は切り抜いた紙をポスターと同じ要領で壁に貼り付けたものなので、時間の経過と共に剥がれ落ちたり、剥がされたりする(基本的に無許可で貼っているはずなので、剥がされる場合が圧倒的に多いだろう)。ハン・ソロも最後はこんな姿に。切ない限りだが、消えゆきながらも必死に思いを伝えようとする姿が、逆に見る者の心に強く訴える。『帝国の逆襲』でハンがカーボン冷凍される直前、レイアと交わす短い会話が思い出され、私はちょっと目頭が熱くなってしまう。作品のこうした意図せぬ変容もストリート・アートの醍醐味だ。


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Le Clan des Romantiques (2017)

 『シシリアン(Le Clan des Siciliens)』(1969)のアラン・ドロン、ジャン・ギャバン、リノ・ヴァンチュラも、ジェレミの手にかかれば“ロマンチックな一味”に。ステンシル・シート(文字をくり抜いた型紙)を使った吹きつけで書かれている“Le romantisme c'est un truc de bonhomme”の一文は、“ロマン、それは男のもの”という意味。もともとひとつの独立した作品だったこのタイポグラフィは、銃をバラの花に変える“男のロマン”シリーズに署名と共に添えられ、ジェレミのトレードマークとなった。


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Le Cercle Rouge (2017)

 『仁義(Le Cercle Rouge)』(1970)のブールヴィル。『仁義』が遺作だった彼は、今もパリの街角で静かにギラついている。バラを片手に。これを見て泣かない奴は男じゃない!?


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Butch Romantic and the Romantic Kid (2017)

 『明日に向って撃て!(Butch Cassidy and the Sundance Kid)』(1969)のポール・ニューマンとロバート・レッドフォード。真っ赤なバラを両手に持ち、2人は命懸けでロマンを追いかける。もともと壁を覆っていたスプレー書きのグラフィティが、まるで銃弾の嵐のように見える。この場所をキャンバスに選んだセンスも素晴らしい。


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The Ugly Romantic (2017)
Mon Nom est Romantique (2017)

 『続・夕陽のガンマン(The Good, the Bad and the Ugly)』(1966)のイーライ・ウォラック(左)と、『ミスター・ノーボディ(My Name is Nobody)』(1973)のテレンス・ヒル(右)。和む〜。銃をバラに持ち替えていたら、マカロニ・ウェスタンもまた別の歴史を辿っていたかもしれない。


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Last Romantic Hero (2017)

 階段の途中に『ラスト・アクション・ヒーロー』(1993)のアーノルド・シュワルツェネッガーが仁王立ち。“最後のロマンチック・ヒーロー”という作品名からして実にロマンチックだ。先述の『ダーティハリー』ネタ作品「Romantic Harry」のTシャツを何気なく着ているあたりも、現実世界と映画世界が交錯する『ラスト・アクション〜』らしくて良い。


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Le romantisme c'est un truc de cyborg (2017)

 『ロボコップ』(1987)まで! そう、人間だけのものじゃない。“ロマン、それはサイボーグのもの”!


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Romantic Dogs (2017)

 『レザボア・ドッグス』(1992)のハーヴェイ・カイテルとスティーヴ・ブシェミ。バラの花を差し出し合って、2人は一体何をやっているのでしょう。散歩中のワンちゃんも“なんのこっちゃ”という表情です。


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Michael "Romantico" Corleone vs John Romantic McClane (2017)

 別映画の主人公を組み合わせたコラージュ。『ゴッドファーザー』(1972)のアル・パチーノと、『ダイ・ハード』シリーズのブルース・ウィリス(何作目か分かりません)。こうしたマッシュアップは“男のロマン”シリーズ以前からジェレミが好んでやっていたものだった。


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Le duel (2017)

 これも別映画の主人公による“ザ・対決”。『ダイ・ハード』シリーズのブルース・ウィリス(何作目か分かりません)と、『デスペラード』(1995)のアントニオ・バンデラス。物陰に身を隠す2人の体勢に合わせて、グレーで塗られた壁の低い部分に写真を配置しているのが良い。ストリート映えを考えて、きちんと場所を選んでいることが分かる(これ、基本)。そして、バンデラスはバラの花がよく似合う!


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Romantic Ghost (2017)

 Yes! 『ゴースト・ドッグ』(1999)のフォレスト・ウィテカー。彼の役どころは、武士道を説いた日本の書物『葉隠』を愛読する孤独な殺し屋。ジャン=ピエール・メルヴィル監督『サムライ』(1967)のニューヨーク版のような『ゴースト・ドッグ』だが、銃をバラに変えたこのコラージュは、同時に沢田研二「サムライ」(1978)──“片手にピストル、心に花束”──を思い出させる。バラを手にしていても全く違和感がないのが素晴らしい。しかも、それだけでなく……

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Ghost Dog vs Tonton flingeurs (2017)

 フォレスト・ウィテカーの目線の先には、窓を挟んで仏カルト・コメディ映画『ハジキを持ったおじさんたち(Les Tontons flingueurs)』(1963)のロベール・ダルバンがいて、ウィテカーと睨み合っている。完成度、高ぇ!

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ウィテカーの前をパリジェンヌが通り過ぎると……あ〜ら、ステキ!

 ここまで紹介してきた“男のロマン”シリーズはいずれも'17年の作品。ジェレミのインスタグラムを参照すると、彼はそれ以前の'16年9月からパリのストリートで作品を発表している。'16年の作品は“男のロマン”シリーズほど洗練されていないが、似たようなユーモアを持った貼り紙コラージュが色々と作られていて、なかなか面白い。“男のロマン”誕生の布石ともなった彼の初期作品も見てみよう。


THE EARLY WORK OF JAËRAYMIE──ジェレミの初期作品

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The Real Samurai (2016)

 アラン・ドロンと三船敏郎を合体させたマッシュアップ作品。前述のドロン主演作『サムライ』(1967)に引っ掛けたもの。“これがほんとのサムライ”か。


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Muhammad Dali (2016)

 モハメド・アリではなく、“モハメド・ダリ”。アリの顔にダリ髭が付け足されている。くだらねー。


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Mad Marx (2016)

 マッドマックス+カール・マルクスで“マッドマルクス”。初期のジェレミ作品にはこのような駄洒落マッシュアップが多い。


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Robert de Miro (2016)

 ロバート・デ・ニーロ+ジョアン・ミロ(の絵)で“ロバート・デ・ミロ”。強引だなー。画面が傾いているのはカメラのせいではなく、貼られている場所がモンマルトルの坂道の壁だから。

 余談だが、私がジェレミというアーティストを発見するきっかけになったのが、この作品だった。'17年末に当ブログで紹介したアヨの音楽ヴィデオ「Paname(モンマルトルで撮影)の終盤の一場面に、この坂道の“ロバート・デ・ミロ”が映り込んでいる。「Paname」のMVを何度目かに観たとき、私はこれに気付き、その駄洒落のセンスがちょっと気になった。モハメド・アリとダリの駄洒落は誰でも考えそうだが、デ・ニーロとミロの組み合わせはちょっと普通でない。試しに“Robert de Miro”で検索をかけ、最終的に私はその作者が面白いアーティストだということに気付いた。多分、ジェレミはアヨのMVに自分の作品が映っていることを知らないだろう。


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Le combat du siècle (2016)

 モハメド・アリ vs ロッキー・バルボア(シルヴェスター・スタローン)の“世紀の一戦”。アリとロッキーはどっちが強いんだろう?──少年の頃に誰もが想像するような“夢の対決”を形にしたマッシュアップ。同様のコンセプトは'17年の“男のロマン”シリーズにも引き継がれている。


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Black Superman (2016)

 黒人のスーパーマン? それも“アリ”でしょう。ハリウッドで『スーパーマン』が黒人主演でリメイクされる日もいずれやってくるに違いない。


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Simone Karaba (2016)

 『キリクと魔女』(1998)の魔女カラバをニーナ・シモンに見立てたマッシュアップ。「I Put A Spell On You」は自伝本のタイトルにもなったニーナの代表曲。“お前に魔法をかけてやる”という台詞はいかにも魔女に相応しいし、ビアズリーのペン画を思わせるカラバのモノクロの立ち姿とダイナミックなタイポグラフィの組み合わせも決まっている。


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Nina (2016)

 ニーナ・シモンの写真の横に「Feeling Good」の歌詞を添えたシンプルな作品。モノクロの写真使いや、スタイリッシュなタイポグラフィのセンスは初期から一貫している。“Happy Birthday Sarah”というメッセージが添えられているので、一種の私信なのだろう。'16年9月のこの「Nina」がジェレミの一番最初の作品だった。


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自分の作品の前に立つジェレミ

 というわけで、パリのストリート・アーティスト、ジェレミの主な作品をざっと紹介した。銃をバラの花に変える'17年の“男のロマン”シリーズには、“暴力ではなく愛を”という明確な主張が読み取れる。社会的なメッセージを持ちながらも、同時に、見る者を思わず微笑ませるようなユーモアがあるところが実に良い。私は彼と映画や音楽の趣味が近いこともあり、“おまえはオレか?”というほど彼の作品に共感を覚えた。

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ジェレミ展@YAM(2017年12月9日〜23日)

 '17年12月には、YAM(Young Artists Montmartre)というパリのギャラリーでジェレミの初の個展《Le romantisme c'est un truc de bonhomme》が開かれ、“男のロマン”シリーズのコラージュがパネル展示された。日本でも同様の展示を行うことは可能だが、彼の作品はやはりストリートというキャンバスでこそ映えるもの。日本で彼のストリート・アートに触れることは難しいが、彼の作品をプリントしたTシャツやクリアファイルがあったらちょっと欲しいなと思う。パリへお越しの方は、街角でジェレミの作品を探してみてはいかがだろう。

※“Jaëraymie”というアーティスト名は“Jaë Ray Mie”と書かれる場合もあるが、間にスペースを入れないのが正式表記。“ドレミ(Do-Re-Mi)”と同じように“ジェレミ”と発音する。





TO BE CONTINUED...

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