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Sting──ニューヨークの英国人



 9月に入ってめっきり涼しくなったところで、ひとつ秋冬らしい曲を取り上げることにしたい。スティングの「Englishman In New York」(1987)。音楽ファンでなくとも知らない人はまずいないだろう超有名曲である(当時、富士フィルムのCFに使われていたことを懐かしく思い出す)。人気曲だけあってネット上には多くの和訳が存在するが、いい詞なので私も訳してみたい。

 「Englishman In New York」は、英国の作家でゲイ・アイコンとしても知られたクエンティン・クリスプ Quentin Crisp(1908〜1999)に捧げられた曲。礼儀作法を重んじる英国人のイメージをちょっと戯画的に描きながら、“Be yourself no matter what they say”という普遍的なメッセージに繋げているあたりも人気の秘密だろう。“エイリアン(よそ者、異邦人)”というキーワードは、スティングと同じく英国出身であるベンジャミン・クレメンタインの新作『I Tell A Fly』にも通じる。当時のスティングのアルバムとツアーにも参加していたブランフォード・マルサリスやケニー・カークランドの他、実際にクエンティン・クリスプ本人も出演したモノクロのジャジーなヴィデオ(デヴィッド・フィンチャー監督)も名作だ。これぞエレガンスの見本である。




 Englishman In New York
 (Sting)
 
 I don't drink coffee I take tea my dear
 I like my toast done on one side
 And you can hear it in my accent when I talk
 I'm an Englishman in New York
 
 珈琲は飲まない 紅茶がいい
 トーストは片面だけ焼いてくれ
 喋れば訛りで分かるだろう
 僕はニューヨークの英国人
 
 See me walking down Fifth Avenue
 A walking cane here at my side
 I take it everywhere I walk
 I'm an Englishman in New York
 
 5番街を歩く僕をご覧
 傍らにはステッキ
 出歩くときは手放さない
 僕はニューヨークの英国人
 
 I'm an alien I'm a legal alien
 I'm an Englishman in New York
 I'm an alien I'm a legal alien
 I'm an Englishman in New York
 
 僕はよそ者 法的に異邦人
 僕はニューヨークの英国人
 僕はよそ者 法的に異邦人
 僕はニューヨークの英国人
 
 If, "Manners maketh man" as someone said
 Then he's the hero of the day
 It takes a man to suffer ignorance and smile
 Be yourself no matter what they say
 
 “作法が人を作る”というなら
 彼こそ現代人の鑑
 無視されても微笑むのが男ってもの
 誰が何と言おうと自分であれ
 
 I'm an alien I'm a legal alien
 I'm an Englishman in New York
 I'm an alien I'm a legal alien
 I'm an Englishman in New York
 
 僕はよそ者 法的に異邦人
 僕はニューヨークの英国人
 僕はよそ者 法的に異邦人
 僕はニューヨークの英国人
 
 Modesty, propriety can lead to notoriety
 You could end up as the only one
 Gentleness, sobriety are rare in this society
 At night a candle's brighter than the sun
 
 慎みや礼節は煙たがられ
 孤立を招くかもしれない
 優しさや真面目さはこの社会では稀
 一本の蝋燭も夜は太陽より明るい
 
 Takes more than combat gear to make a man
 Takes more than a license for a gun
 Confront your enemies, avoid them when you can
 A gentleman will walk but never run
 
 軍服を着たって男にはなれない
 銃の許可証も意味がない
 売られた喧嘩はなるべく買うな
 紳士は悠然と歩くもの
 
 If, "Manners maketh man" as someone said
 Then he's the hero of the day
 It takes a man to suffer ignorance and smile
 Be yourself no matter what they say
 
 “作法が人を作る”というなら
 彼こそ現代人の鑑
 無視されても微笑むのが男ってもの
 誰が何と言おうと自分であれ
 
 I'm an alien I'm a legal alien
 I'm an Englishman in New York
 I'm an alien I'm a legal alien
 I'm an Englishman in New York
 
 僕はよそ者 法的に異邦人
 僕はニューヨークの英国人
 僕はよそ者 法的に異邦人
 僕はニューヨークの英国人


legal alien 法的に異邦人:例えば、男性から女性に性転換をして法的に女性として認められた人のことを“legal female”と言う。“legal”には(“illegal alien”=“不法在留外国人”に対して)“合法的な”という意味もあるが、この文脈では“法律上の、法的な、法定の、法によって確定された”というニュアンス(“official”に近い意味)で捉えた方が分かりやすい。ベンジャミン・クレメンタインもインタビューで言っていたが、実際、アメリカのビザ申請書には、滞在目的を申告する選択肢の中に“Alien of extraordinary ability(並外れた能力を持つエイリアン)”という項目があったりする。“alien”は“外国人”を示す法律用語だが、スティングは自分がこの語で定義されること自体に違和感を覚えているのである。“I'm an alien I'm a legal alien”という一節には、“どうせ私はよそ者(ガイジン)ですよ”という軽い皮肉が感じられる。


Englishman_In_NY2.jpg
「Englishman In New York」──ソプラノ・サックスを吹くブランフォード・マルサリス

 このタイミングでスティングを取り上げたのは、もちろん2ヶ月後に控えたマセーゴの来日公演を踏まえてのことである。マセーゴほどジャズをポップにカッコ良く聴かせる男が過去にいただろうか……と考えて、私は(スティーヴィー・ワンダーは別格として)『Nothing Like The Sun』期のスティングを思い出した。スティングがやっていたのは紛れもなくジャズだったが、同時に超一級のポップ・ミュージックでもあった。当時の彼の来日公演のハコは、東京ドームである。東京ドームでジャズを演るなんて考えられるだろうか? しかし、ジャズというのはそもそも、現在のような音楽マニアによる音楽マニアのための芸術音楽ではなく、そのように大衆に向かって完全に開かれた娯楽音楽だったのである。スティングはポップ・ミュージックとしてのジャズを完璧に生き返らせていた。

 マセーゴは非常にオーセンティックなジャズ感覚と、スティング並みのポップ・スター性を兼ね備えた希有なアーティストである。スティングとブランフォード・マルサリスが合体したような男と言ってもいいだろう。彼は今のところ一部の黒人音楽ファンの間でしか知られていないが、いずれスティング級の大物になる可能性が十分にある。ビルボードライブで彼のショウが観られるのは、もしかすると今回が最初で最後かもしれない。シャーデーのファンはもちろんだが、彼の公演はスティングのファンも要注目だ。

 マセーゴとスティングの間には実はもっと深い繋がりがあったりするのだが……それについてはまた別エントリーで。



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