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パロマ・ファントーバ@ガルロチ 2017



 新宿の伊勢丹会館6階にあるタブラオ、ガルロチへ行った。元々“エル・フラメンコ”という名の老舗タブラオだったが、それが'16年7月に創業49年目にして閉店し、新たな店名と経営体制で'16年10月に新装オープンした。

 タブラオというのは、フラメンコのショウを見せる飲食店のこと。ガルロチ──スペインのジプシー語で“心(corazón)”を意味するという──は、エル・フラメンコ時代と同じく、スペインから招聘した一流のフラメンコ演者たちのショウを、上質なオリジナル・スペイン料理と共に提供している。東京にいながらにして、いつでも本場スペインのフラメンコが堪能できてしまうという、実に素晴らしい場所なのである。


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ガルロチの店内。“タブラオ”という呼称は、板張り舞台の“タブラ(板)”に因む

 私がこの店を訪れるのは、エル・フラメンコ時代も含めて今回が初めて。数年前からずっと行きたいと思っていたのだが、飯を食わなくてはいけないという点がネックになって(せこいな)、なかなか行けなかったのだ。また、にわかフラメンコ・ファンである私は、エル・フラメンコが閉店してガルロチになったことすらしばらく知らなかった。私がそれを知ったのは、今年3月、渋谷アップリンクに『サクロモンテの丘〜ロマの洞窟フラメンコ』というドキュメンタリー映画を観に行った際、劇場内に置かれていた店のフライヤーを目にしたときだった。

 そのフライヤーを見て、半世紀近くも続いた老舗が別店に変わったことにも驚いたが、新装開店後の'17年1月19日〜31日の期間、カリメ・アマジャとメルセデス・アマジャ“ラ・ウィニー”のグループが出演していたことを知って更に驚いた。映画『ジプシー・フラメンコ』(2013)に出ていたあの母娘である。彼女たちはエル・フラメンコ時代にもこの店に出演したことがあった(サラ・バラス、エバ・ジェルバブエナといった現在のカリスマ・スターたちも、'90年代初頭の若い頃はこの店に出ていた)。アマジャ母娘を間近で観る機会を逸したことに気付いて愕然となった私は、もう飯代をケチっている場合ではない、何が何でもガルロチへ行かねば!と思ったのである。

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テーブルに置かれていたフライヤー風のプログラム
 私が来店した'17年6月下旬、ガルロチにはパロマ・ファントーバ Paloma Fantova という女性ダンサーが出演していた。8歳のときにスペイン国営放送のコンクールで優勝したというカディス出身の28歳で、近年ではトマティートの世界ツアーにメイン・ダンサーとして参加するなど、若いながらも立派なキャリアを築いている人だ。

 私が行った日は週末ということもあってか、7割ほどのテーブルが客で埋まり、店内はかなりの賑わいだった。ショウが始まる10分ほど前、日本人女性スタッフによる前説があった。出演者が素晴らしいパフォーマンスをしたときは“オレ!(いいぞ!)”という声を積極的に掛けてあげてください、演奏中の手拍子はご遠慮ください、フィナーレの際には写真や動画の撮影ができます、といった説明があり、皆で“オレ!”の掛け声を練習したりする。“初めてフラメンコのショウをご覧になる方はどのくらいいらっしゃいますか?”という質問には、半分以上の客が手を挙げていた。ガルロチにはフラメンコ好きだけでなく、それ以外の一般の人もたくさん訪れる。“手拍子はご遠慮ください”という注意事項は、初めてフラメンコを見る人には結構重要かもしれない。出演者が手拍子を始めると、通常のコンサートの乗りでつい一緒に手を叩いてしまいそうになるが、フラメンコでは手拍子(パルマ)がパーカッションとして非常に重要な役割を果たす。おまけに、フラメンコのリズムは恐ろしく複雑なので、素人が下手に手拍子をすると演奏の妨げになってしまうのである。この前説の後、19時30分にショウの第1部が始まった。

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第1部のフィナーレ(青と黄色のボレロを着ている右端の女性がパロマ)

 パロマ・ファントーバ率いるグループは、バイレ=踊り(女性2人+男性1人)、カンテ=歌(女性1人+男性1人)+ギター(男性1人)というバランスの取れた6人編成。冒頭にまず全員揃ったパフォーマンスがあり、その後、各メンバーをフィーチャーした曲が続いていく。独特のハスキーな声質による熱いカンテ、床に鮮血が滲むような激烈なサパテアード(足を踏み鳴らすフラメンコの踊り)、信じられない速度と緻密さで刻まれるパルマ……いずれも凄まじい。すぐ目の前で繰り広げられるパフォーマンスはものすごい迫力である。私はこれまで大きなホール会場でしかフラメンコを鑑賞したことがなかったが、こうしたタブラオの親密な空間で味わうフラメンコの生々しいヴァイブにはやはり格別なものがある。

 メンバーは全員素晴らしかったが、個人的に印象深かったのはギターのアントニオ・サンチェス。パコ・デ・ルシアの甥っ子('84年生まれ)で、彼のツアーに第二ギタリストとして参加していたこともある人だ。繊細で流麗な演奏もさることながら、これがまた実にいい男で、同性ながら惚れ惚れと見とれてしまった。男性ダンサーのイサック・デ・ロス・レジェスも良かった。彼は長身のダイナミックな身体を活かし、他の女性ダンサー2人よりも力強い音でド迫力のサパテアードを披露してくれた。

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第1部のフィナーレ

 フラメンコにはブレリア、ソレア、アレグリアス、シギリージャ、セビジャーナスといった様々な“曲種”というものが存在する。曲名よりもむしろこちらの方が重要で、曲名代わりに曲種だけ示されることも少なくない。曲種はリズム、テンポ、メロディ、コード感などによって特徴付けられるのだが、門外漢にはこれがよく分からない。ネットでフラメンコ関連の記事を読んでいても、“アイレが漂うソレアに私は彼女のアルテを感じた”というような文章がよくあって、さっぱり意味不明だったりする。にわかフラメンコ・ファンの私には、この晩、具体的にどんな曲が演奏されたのか詳しく書けないが、ひとつはっきり分かったのはタンゴである。タンゴ(Tangos/アルゼンチン・タンゴとは無関係)はサーフ・ロックを軽快にしたような乗りの4拍子系の曲種で、3拍子系の複雑なシンコペーションを基本とするフラメンコの中でも、門外漢にも非常に親しみやすい乗りを持つ。私はこれが好きで、フラメンコのショウではこれを聴くのを楽しみにしている。今回、タンゴはマリーナ・ペレアという女性ダンサーが踊ってくれた。

 パロマ・ファントーバは最後の長尺ナンバーでたっぷり踊った。さすがリーダーだけあって、彼女の所作やサパテアードには他の2人とは一味違う重厚さがある。野性味溢れる彼女の踊りは、私が過去に生で見たことのあるフラメンコの踊り手たち──エバ・ジェルバブエナ、ロシオ・モリーナ、マリア・パヘス、サラ・バラス、アンダルシア・フラメンコ舞踊団──の中では、エバ・ジェルバブエナに最も印象が近かった。技術や華麗さ以前に、気迫でこちらを圧倒するような実にフラメンコらしい踊りである。体つきや容姿の雰囲気もちょっとエバに似ているなと思った。

 どこを取っても“ザ・フラメンコ”という感じの強烈なショウ。出演者たちはいずれも汗だくの大熱演で、客席からは盛んに“オレ!”の掛け声も飛んでいた。呑気に飯なんか喰っている場合ではない。私の目はずっとステージに釘付けだった。これを毎晩やってるって一体どういうことだよ……。


写真を撮ろう! 第2部も観よう!

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第2部のフィナーレ。パロマの脚はとても太い

 ガルロチのショウは一晩2回。第1部が19:30〜20:30=60分、第2部が21:20〜22:00=40分(祝日はショウタイムが30分早まる。日曜はショウがなく、レストランのみの営業。最新の営業情報はガルロチのサイトでご確認を)。ブルーノートやビルボードライブのような入れ替え制ではなく、3,800円のショウチャージで第1部と第2部の両方を観ることができる。私が行った日、店内にはサラリーマン風の団体客がいて、彼らは第1部の後で帰ってしまったが、逆に第2部だけ観るため一人で来店している女性客なんかもいた。そのように3,800円で第1部と第2部のどちらかを観ても良いが、せっかくなら長居してどちらも観た方がお得である。私はもちろん両方観た。

 第2部では、第1部にはなかったギタリストのソロ演奏を聴くこともできたし、アントニオ・フェルナンデスという男性歌手にいたっては、血管がぶち切れるんじゃないかというほどの声量で第1部以上の大熱唱を聴かせてくれた。第1部は大体構成が決まっているようだが、第2部は日によって内容が大きく変わるらしい。

 フラメンコのショウには最後に大抵“Fin de fiesta(祭りの終わり)”というフィナーレ部分がある。出演者たちが入り乱れて即興のソロ回しをしたりするジャム・セッション風のアンコール部である。第1部と第2部の終わりにはこのフィナーレがあり、ここでは観客が写真や動画を自由に撮影して良いことになっている(ステージ全体が明るく照らされ、メンバー紹介の後に始まるのがフィナーレ。パロマが写真を撮るジェスチャーをして観客に撮影を促していた)。インスタなどに投稿もできるし、こうして写真入りのブログ記事を書くこともできるので、これはとても良いサービスだと思う。

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第2部のフィナーレ。熱演するイサック・デ・ロス・レジェス

 この日、私は“ビジャマルタコース”という3,200円のコース料理を注文した。アミューズ(ガスパチョ)、バケット、前菜の盛り合わせ、メイン(豚肉の何らかの料理)、コーヒーという構成だったように記憶する。バケットがやけに美味しくて、私はこれを2度もお代わりした。料理はどれも美味しかったと思う(どう美味しかったのかについては、食レポ能力ゼロの私には何も書けない。料理の写真すら撮り忘れている)

 ちなみに、私の場合は来店したのが18時50分くらいで、ショウの第1部が始まる19時30分までに前菜までしか進まなかった。ショウの直前に従業員の人から“メイン料理はショウの後にお持ちしますか?”と訊かれたのでそうしてもらったが、これは大正解だった。ショウの最中は客席が暗くなるし、先述の通り、パフォーマンスが凄すぎてとても飯など食っている余裕はない。曲間に飲み物を口にするのがやっとである。食ってから観るか、観てから食うか──このいずれしかないと思う。

 ショウチャージ3,800円+コース料理3,200円で、7,000円(税込み)。ビールとワインを飲んで+約2,000円。そこに更にシートチャージ800円(ステージ正面1〜2列目、サイド最前列にはこの別途料金が掛かる。その他のテーブルはノーチャージ)。全部合わせて1万円弱。ブルーノートやビルボードライブでショウを観るのと大体同じくらいの金額が掛かると思えば良いだろう。コースではなくアラカルト(※お一人様ワンドリンク+ワンフード以上のご注文をお願いしております)にすれば、もっと安くショウを観ることも可能だ。

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第2部のフィナーレ。踊り歌いながら退場していく出演者たち

 第1部と第2部の合間にトイレに行こうとしたら、店の入口でパロマ本人が『Con Soniquete』というタイトルのオリジナルDVDを売っていた。マドリードのタブラオでのパフォーマンス映像とインタビュー(日本語字幕付き)を収録したDVD-R(NTSC)で、どうやら今回の来日用に自主制作したものらしい。4,000円という値段にちょっと引いたが、フラメンコ関連のDVDは貴重なので躊躇せずに購入した(トールケースの内側にサインもくれた)。家に帰って実際に観てみると、内容自体は良かったが、収録時間がたったの35分。似たような彼女のパフォーマンス映像はYouTubeでもたくさん観ることができる。これを4,000円で売りますか……。会計係は確か男性歌手のアントニオ・フェルナンデス(パロマの旦那さん)だった。売り上げは全額パロマたちの懐に入るのだろうし、私は彼らにカンパしたと思って納得したが、正直、このDVDは余程のフラメンコ・ファン向けだなと思った。

 ショウの前後や合間には、このように店のそこらへんに普通に出演者たちがいる。来店時、店の外の廊下に一人でスマホをいじっているスペイン人がいて、そのときは客かと思ったのだが、後で考えたらそれはギターのアントニオ・サンチェスだった。閉店時もパロマは店の入口にカジュアルな私服姿で立っていて、来店客を一人ひとり丁寧に見送ってくれた。ステージで踊っているときはフラメンコの強烈なアイレ(空気)を漂わせているが、私服姿だと本当にごく普通の若い女性のように見える。私は撮らなかったが、出演者たちは頼めば記念撮影にも気軽に応じてくれるようだ。


こんなガルロチがいい!

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 というわけで、初めて訪れたガルロチは──かなり高く付いてしまったが──本格的なフラメンコを間近でたっぷり堪能できる、評判通りの凄い店だった。もっと早く行けば良かったと思うし、是非また行きたいと思う。しかし、その一方で、いくつか個人的に“もっとこうだったらいいのにな”と思う点もあった。最後にそれを箇条書きしておく。
 
●招聘アーティストを増やし、公演内容にもっとバリエーションをつけて欲しい
 今回のパロマ・ファントーバの場合、5月8日〜8月26日の長期出演で、その間、日曜に貸し切りイベントやフラメンコ教室の発表会などがあるにしても、一般客にとっては同じ内容の公演が4ヶ月近くも続くことになる。パロマ・ファントーバの次は、マリア・モレーノという若手女性ダンサーの公演が8月28日から11月10日まで2ヶ月半続く。余程のフラメンコ・ファンや、実際にフラメンコを習っている人はともかく、決して安くはない料金も考えると、一般客の短期間でのリピート来店はちょっとあり得ないと思う。但し、別の面白そうなアーティストが公演するなら話は別である。
 例えば、ロサリオ・ラ・トレメンディータというロシオ・モリーナの相棒の女性フラメンコ歌手がいる。私は彼女の歌を生でじっくり聴いてみたいと思うが、彼女には日本で普通に単独公演をやれるくらいの集客力がない。また、同じくロシオ・モリーナの共演者にパブロ・マルティン・カミネロというベース奏者がいて、彼はウルトラ・ハイ・フラメンコ Ultra High Flamenco という結構面白いフュージョン・バンドをやっているのだが、これも日本ではあまり(というか、全く)知られていない。今年デビューしたアウローラ Aurora は、カンテやピアノの他にサパテアードも入ったギターレスのユニークなフラメンコ・ジャズ・バンドで、ブルーノートに呼ばれてもおかしくないような音を聴かせるが、多分、呼ばれることはない。ブルーノートは今年ブイカを招聘したが、彼女とよく似た音楽性を持つラ・ネグラ La Negra というヌエボ・フラメンコ歌手まではさすがに無理だろう。
 以上は例として私が個人的に興味のあるアーティストを挙げただけだが、このようにマイナーだが面白いスペインのアーティストを積極的に招聘し、日本の音楽ファンに紹介できないのだろうか。キューバあたりまで範疇を広げてもいいし、あるいは、超変化球でアメリカからタップ・ダンサーを招聘しても面白い(タップ・ファンがガルロチを訪れるのは良いことだ。私はタップ・ダンサーとフラメンコ・ダンサーのバトルが観たい)。ジャズ、ヒップホップ、ポップス寄りのアプローチをしているミュージシャンも含め、様々なフラメンコ系アーティストをどんどん招聘し、それらの短期公演をオーセンティックなフラメンコ・グループの長期レギュラー公演の合間に挟んでいく(短期公演アーティストのステージに、レギュラー・グループのメンバーが飛び入り参加したりすると更に面白い)。公演スケジュールやアーティスト情報はHPやニュースレターで常に発信する。要するに、タブラオという点にこだわらず、もっと間口を広げて、ブルーノートやビルボードライブのスペイン音楽版のようなハコにして欲しい。

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●一人でも気軽に来店できるようにして欲しい
 上の店内写真を見てもらえれば分かるように、ガルロチの座席は2人掛けテーブル席が圧倒的に多く、他に3人掛けテーブル席、2〜5人掛けボックス席(ソファ)、4〜8人掛け対面式テーブル席が用意されている。対面式テーブル席を除き、椅子やソファはステージ向きにセットされている。どう見ても2人以上で来店することが大前提の座席レイアウトである。ここに一人で訪れるのは相当の勇気が要る(と思いませんか?)。
 一人で来店した場合、2人掛けテーブルに一人で座ることになるだろう。ショウだけ観る分には良いが、第1部と第2部の間の50分を一人でどう過ごせば良いのか。スマホをいじっているとか、本を読んでいるとか、ひたすら飯を食っているとかすれば良いのかもしれないが、レストランで50分も一人で過ごすのはかなりしんどいし、周囲の目も気になる(“この人、友達いないのかな”と思われるんじゃないか、とか)。要するに、一人客はショウの時間以外、なるべく店に居たくない。また、店が空いていれば良いが、混んだ場合、相席になる可能性がある。私には見知らぬ他人と2人掛けテーブル席で食事をする勇気がない。
 ブルーノートやビルボードライブのテーブル席は対面式の4〜8人掛けが基本で、1+1で相席になる恐れがないので、一人でも割と平気である。相席がどうしても嫌な人にはカウンター席という選択肢もある。ドリンクだけ飲んで食事はしなくても良いし、開演直前に訪れて終演後にさっさと帰れば、一人でも何も気まずいことはない。しかし、ガルロチの場合は一人でも食事をしなければならないのである。タブラオ(レストラン)なので、と言われればそれまでだが……。一人でただ単純にフラメンコだけ楽しみたい客はどうすれば良いのだろう。ステージ正面後方のテーブルを繋げてカウンター席っぽくするとか、あるいは、店の一部を改造して実際にカウンター席を作るとか。もしくは2人掛けを減らし、テーブルと椅子を一新して店の座席レイアウトを根本的に変えるとか。格式の高さはこの店の良いところであると同時に、欠点でもあるような気がする。安っぽくしろということではない。レストランとしての高級感を保ちつつ、同時に、一人でも気楽に過ごせるような、もう少しカジュアルな空間にならないだろうか。
 改装が無理なら、新たな料金プランを導入する手もある。3,800円で2ステージ観られるのは良いが、ショウチャージが3,800円の固定料金だと、第1部と第2部の間の50分を過ごすのが嫌で1ステージだけ観に来る一人客に不利である。第1部(60分)は2,200円、第2部(40分)は1,800円、両方観たら3,800円(200円お得)という具合に、1ステージだけより安価で観られると一人客も訪れやすくなるだろう(1晩100分の1ステージだけにして、途中で10〜15分休憩を入れるとかでもいい。10〜15分くらいなら一人でも耐えられる)。この料金プランは2人以上で訪れる客にとっても利点になる。映画1本観るのと変わらない料金で本場の生のフラメンコが楽しめるのは魅力的だし、客一人あたりの平均利用額は下がるとしても、料金面で敷居が下がれば、客足そのものは確実に伸びるはずである(あと、料金サービスとして、レディース・デイを設けるとか、毎月6の付く日は“ガルロチの日”ということにしてショウチャージを割引するとか)

●ジントニックが飲みたい
 私はコース料理とあわせて、ビールと赤ワインを注文した。が、その日は喉が渇いていたので、ビールの後は赤ワインではなく、本当は炭酸系のさっぱりしたカクテルが飲みたかった。が、ガルロチのメニューには、ビール、シャンパン、ワイン、サングリア、ベルモット、シェリー、ウィスキー、ソフトドリンク、コーヒー&ティー等があるのみで、カクテル類がなかった(カシスオレンジはあったが)。私はスペイン産のワインやビールではなく、普通にジントニックを飲みながらフラメンコが観たい。“ショー型レストラン”ではなく、“ショー型レストラン&バー”にならないだろうか。レストランには一人で入りづらいが、バーは一人で入ってもおかしくない場所である。バーという要素が加われば、一人でも気が向いたときにぶらっと訪れることができる。

●喫煙所が欲しい
 これは時代の流れからして無理な注文かもしれないが、ガルロチ店内どころか、店舗が入っている伊勢丹会館という建物自体に全く喫煙所がないのは、ヘビースモーカーの私には大変な苦痛だった。ショウの最中は良いが、第1部と第2部の間の50分が喫煙者にはキツい。酒を飲んで食事をしたとなると尚更である。喫煙所の場所を従業員に訊ね、申し訳なさそうに“隣の伊勢丹のビルの……”と説明が始まったときは思わず天を仰いだ。ブルーノートにもコットンクラブにもビルボードライブにも喫煙所はある。ガルロチの店内は、レストランと言うよりはホテルの宴会場のようで、ちょっと無駄に広い気がしないでもない。たたみ一畳のスペースでも構わないので、何とか喫煙ルームを作れないだろうか(で、レストラン&バーにして欲しい)。

●店先にインパクトのある公演看板が欲しい
 ブルーノート東京の店先には“(アーティスト名)〜TONIGHT”というネオンが輝く非常にフォトジェニックな公演ビルボード(アーティストの直筆サイン入り掲示版)がある。同じような看板はコットンクラブにもあるし、ビルボードライブ東京のエントランスにも(簡易的だが)やはりその日の出演アーティストを示す掲示版が立てかけてある。
 来店客の多くは必ずその看板を写真に撮る。誰々の公演に行きました、という投稿をSNSなどにするためである。ガルロチにはこれがなかった(と思う。単に私が見落としただけで、もしかするとあったのかもしれないが……。入口外の左脇に色々なフライヤーが並んだテーブルがあったことしか印象にない)。思わず写真を撮りたくなる、絵になるようなカッコいい公演看板があれば、来店客のインスタ投稿(口コミ)も促進されると思う。スペインらしい情緒を感じさせる店の内装は決して悪くなかったが、これも写真(インスタ)映えのする要素をもっと増やすと良いのではないか(インテリアに限らず、額縁入りの古い写真や絵をあちこちに飾るとか、底に釘が打ちつけてあるフラメンコ・シューズを入口付近に展示するとか、歴代出演者たちがサインを残す壁を作るとか。私には店内がちょっとさっぱりしすぎているように感じられた。もう少しゴチャゴチャとした猥雑感や、洞窟っぽさがあっても良いのではないか)

 以上、私の“こんなガルロチがいい!”を書いた。生粋のフラメンコ・ファンや、実際に自分でフラメンコをやっている人たちにとって、ガルロチは全く申し分のない最高の店に違いないだろうし、“タップ・ダンサーを呼んだらどうか”などという私の提案は、タブラオとしてのガルロチの魅力を損ねるものでしかないかもしれない。本場スペインのタブラオの雰囲気をそのままに、というコンセプトは確かに素晴らしいと思う。しかし、ここはマドリードではなく、東京である。ほとんどの人にとってフラメンコは決して身近なものではない。様々な点で敷居を下げ、フラメンコに馴染みのない人たちを、あの手この手でもっと積極的に店に引き寄せるべきではないだろうか。私はガルロチにエル・フラメンコ以上に長く存続して欲しい。ここに書いたことは飽くまでいち来店客の勝手な要望に過ぎないが、間口を広げたり、客のニーズに合わせて選択肢を増やすことは、店の将来にとって必ずプラスになると思う。


 今から3年半前、エバ・ジェルバブエナの来日公演で初めて生のフラメンコに触れたとき、私はとてつもない衝撃を受けた。あのときの衝撃は今でもはっきり覚えているし、今回、パロマ・ファントーバのステージを観て、私はその感動を思い出した。当時の記事で書いたことを、最後にここでもう一度書いておきたい。フラメンコの素晴らしさは生で観ないと絶対に分からない。自信を持ってそう断言できる。

 あなたの音楽観が変わるかもしれないくらいの体験が、新宿でいつでも待っている。これは本当に凄いことだ。ガルロチは、音楽ファンなら必ず一度は訪れるべき場所である。


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Paloma Fantova
Live at Garlochí, Shinjuku, Tokyo, May 8 - August 26, 2017
Personnel: Paloma Fantova, Marina Perea, Issac de Los Reyes (baile), May Fernández, Antonio Fernández (cante), Antonio Sánchez (guitar)

Visit GARLOCHÍ



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