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マイケルの最強ショート・フィルム10選【第7位】

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 マイケル・ジャクソン追悼特別企画、独断と偏見で選ぶ“マイケルの最強ショート・フィルム10選(Top 10 Badass MJ Short Films)”。世間一般の評価とはあまり関係なく、単純にマイケルがヤバかっこいいヴィデオを10本選んで語ることで彼を偲ぶ連載エントリー。バッドでデンジャラスでインヴィンシブルな天才パフォーマー、マイケル・ジャクソンの魅力をより多くの人々に知ってもらえれば幸いだ。

 第7位は、なんとこの作品!


#7
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DON'T STOP 'TIL YOU GET ENOUGH (1979)
Directed: Nick Saxton

 20歳のマイケルが放った弾丸ライナー・ホームラン『OFF THE WALL』からの第一弾シングル('79年7月28日発売)。クインシー・ジョーンズと初めてタッグを組み、堂々の自作曲で快進撃の狼煙を上げた。セクシーで大人っぽいファルセットに、どうにもとまらないヤング・マイケルのパワーがビンビンに漲った大傑作ディスコ・ファンクである。

 ヴィデオを監督したニック・サクストンに関しては、'80年代前半にリック・ジェイムズ関連のヴィデオを数本手掛けていること以外、情報が見つからない。しかし、この際、ニック・サクストンなる人物がどこの誰であるかなど、はっきり言ってどうでもいいことだ(悪いな、ニック!)。

 いかにもミュージック・ヴィデオ初期といった感じのチープなプロモ映像で、これをショート・フィルムと呼ぶことには抵抗があるが、それも些細な問題に過ぎない。何と言っても、『OFF THE WALL』のカヴァー写真と同じタキシード姿の無敵マイケルが歌って踊っているのである。最高ではないか。このヴィデオはそれだけで余裕で100点である。

 マイケルの独白。“僕、思うんだけど、とことん行けないかなって……だって、こんなに力が溢れて、僕はもう、僕はもう……アァァ~オゥ!”。ビッグバンのような爆発イメージと共に、一気に弾けるマイケル。問答無用である。

 マイケルが歌う背景には、クロマキーで合成された宝石のようなイメージが、いかにもディスコテックな風情でタラタラと映し出されている。しかし、たとえそれがどんな宝石であろうと、ここでマイケルが放つ輝きの前では、ただの石ころ同然である。とにかく、マイケルの顔、表情、スタイル、アクション、全てが素晴らしい。この圧倒的なカッコよさを一体どう説明しろと言うのか。ただ一人で歌い踊っているだけで、こうも魅力的なのだ。大掛かりなセット、大勢のバック・ダンサー、高度な映像技術がなくても、マイケル・ジャクソンなら、ただカメラを回すだけで最高の映像になる。本物のスターのヴィデオは安上がりで済むのだ。


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自分の分身と踊るマイケル

 非常にシンプルなヴィデオではあるが、この作品にはひとつだけ映像面で面白い工夫が施されている箇所がある。間奏部分で同じ画面内に3人のマイケルが登場する場面がそれだ。
 中央でマイケルが一人で踊っていると、左右からそれぞれ同じ格好をしたマイケルの分身が登場し、3人揃って踊る。マイケルのパフォーマンスを3回撮影し、それらをひとつの画面に合成したものである。揃ってターンするところなど、全員マイケル本人だけあって、さすがにピタリとカッコよく決まっている。

 当時、この演出は視聴者の目をさぞかし楽しませただろう。しかし、偉いのは監督のサクストンではなく、マイケルである。このアイデアはマイケル自身が出したに決まっているからだ。

 フレッド・アステアが、かつてこれと全く同じ映像トリックを使ったダンス・シーンを撮っている。彼のキャリアの中でも最も有名、かつ、優れたミュージカル場面のひとつである「Puttin' On The Ritz」。映画『ブルー・スカイ(Blue Skies)』(1946/パラマウント)の中で、アステアがトレードマークの燕尾服+トップハット姿でステッキを操りながら歌い踊るソロ・ナンバーである。

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アステア「Puttin' On The Ritz」(映画『ブルー・スカイ』より)

 「Puttin' On The Ritz」の後半、アステアが舞台奥の鏡の扉を開けると、全く同じ格好をした9人のアステアが現れる。全10人のアステアたちは揃って見事な群舞を繰り広げるのだが、この場面は、一人のアステアが踊る映像を単純にコピーしたものではなく、実際にアステアがカメラの前で何度も踊り、それらをひとつの画面に合成することで完成されている。

 '76~77年放映のCBSのテレビ・ショウ〈The Jacksons〉の時点で、マイケルはアステア作品からの引用を積極的に見せていた(別エントリーで詳述)。自分のソロ・キャリアで初めて音楽ヴィデオを作ることになった時、彼がアステアのような作品を望んだことは想像に難くない。「Don't Stop 'Til You Get Enough」は、つまり、ミュージカル復古革新者マイケルにとっての、最初の小さな一歩だったのである。

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アステア「Top Hat, White Tie And Tails」(映画『トップ・ハット』より)

 「Puttin' On The Ritz」は、かつて『トップ・ハット(Top Hat)』(1935/RKO)でアステアが見せたソロ・ナンバー「Top Hat, White Tie And Tails」のアップデイト版でもある。そこで他の役者たちが演じていたアステアの分身を、「Puttin' On The Ritz」ではアステアがすべて一人で演じたり、あるいは、手を使わずに床からステッキを拾い上げる、といった映像トリックが新しかった。

 元の「Top Hat~」は、横一列に並んだ男たちを、アステアが銃に見立てたステッキで次々と仕留めるという、銃殺刑を思わせるかなりブラックな展開を見せる。タップでマシンガン音を作り、男たちを皆殺しにするあたりは、「Smooth Criminal」「Dangerous」のギャングスタ・ダンスの世界にも通じるので(アステアの場合はもっとユーモラスだが)、マイケル・ファンはどちらも必見。「Top Hat~」「Puttin' On The Ritz」共にアーヴィング・バーリンによる楽曲で、いずれもアステアのキャリアにおける「Billie Jean」級の代表的ナンバーである。

 「Puttin' On The Ritz」は『ブルー・スカイ』の前半に登場するが、撮影は一番最後に行われた。当時47歳のアステアはこの作品で引退を表明しており、「Puttin' On The Ritz」は彼にとっても集大成的な意味を持つ、非常に気合いの入ったソロ・ナンバーだった(結局、その2年後、怪我をしたジーン・ケリーの代役で『イースター・パレード』に出演して復帰するのだが)。

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ジーン・ケリー「Alter-Ego Dance」(映画『カバーガール』より)

 合成技術で自分の分身と踊るという演出は、「Puttin' On The Ritz」の2年前、リタ・ヘイワース主演『カバーガール(Cover Girl)』(1944/コロムビア)の「Alter-Ego Dance」でジーン・ケリーもやっている。

 自問自答をしながら夜更けの街を歩いていたケリーが、ショウ・ウィンドウに映った自分に話しかけられ、そこから飛び出した分身と2人で(?)ダンスを繰り広げる。半透明の分身は現在の目で見ても非常に上手く合成されており、映像技術、あるいは発想の点においても、これを参照したであろうアステアの上記「Puttin' On The Ritz」を軽く凌ぐインパクトがある。『雨に唄えば(Singin' In The Rain)』(1952/MGM)の表題曲、『いつも上天気(It's Always Fair Weather)』(1955/MGM)の「I Like Myself」と並ぶ、街頭を舞台にしたケリーの傑作ソロ・ナンバーだ。また、人気のない夜更けの通りで踊り、最終的にゴミ箱を放り投げてショウ・ウィンドウを破壊する「Alter-Ego Dance」のケリーのイメージを、マイケルが「Black Or White」のパンサー・セグメントで引き継いでいることも留意しておきたい(マイケルがゴミ箱を投げつける場面は、文脈的にはもちろんスパイク・リー『ドゥ・ザ・ライト・シング』と真っ先に比較されるべきだが)。

 マイケルが合成でアニメと踊る「Speed Demon」(『ムーンウォーカー』)なども、元を辿れば『錨を上げて(Anchors Aweigh)』(1945/MGM)のケリーのナンバー「The Worry Song」(ジェリー・マウスと合成で共演)に行き着く。マイケルの作品は、こうした先人たちの様々な創意工夫の上に成り立っているのである。



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