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Twin Danger 遂にメジャー・デビュー!



 スチュアート・マシューマンのイカすサイド・プロジェクト、ツイン・デンジャーの1stアルバムが'15年6月30日にDecca/Universalから遂にメジャー・リリースされた。

 ツイン・デンジャーは、ブルックリンで活動する若手女性シンガー・ソングライターのヴァネッサ・ブレイ(ジャズ・ピアニスト、ポール・ブレイの娘)とマシューマンが結成したユニット。'50年代クール・ジャズ風情のスモーキーなアコースティック・ジャズ・ポップ・サウンドは初期シャーデー作品にも通じるもので、マシューマンにとっては一種の原点回帰とも言えるユニットだ。'13年4月には1stアルバムの自主制作盤を携えてビルボードライブ東京で来日公演を敢行し、日本の一部のシャーデー・ファンを狂喜させた(ユニットの来歴や、素晴らしかった2年前の来日公演については過去記事“Twin Danger──俺にサックスを吹かせろ!”、“Twin Danger @ Billboard Live TOKYO 2013”を参照)

 当初はBlue Noteと契約していたツイン・デンジャーだが、結局、レコード・デビューには結びつかず、'12年以降、彼らは自主レーベルやネットを通して作品を発表したり、地元ニューヨークのクラブで散発的にギグを行うなど、しばらく地道なインディー活動を続けていた。Deccaと契約を結んだことがFacebookで報告されたのが'14年1月。それから更に1年半して、ようやく念願のメジャー・デビュー作『TWIN DANGER』の発売が実現した(最初は'15年3月発売予定だったが、6月に延期された)。結成から苦節(?)5年。まずは“メジャー・デビュー、おめでとう!”と言いたい。



TWIN DANGER
CD: Decca/Universal Music Classics 00602547119575, 30 June 2015 (EU)

Pointless Satisfaction (5:13) / Coldest Kind Of Heart (4:37) / I Love (Loving You) (4:05) / Just Because (4:07) / Save It (4:45) / When It Counts (4:15) / Sailor (4:17) / In Many Ways (4:11) / Past Yet Untold (5:50) / You're Everything (3:04) / No One Knows (4:06) / Take It From My Eyes (4:45)

Written by Vanessa Bley and Stuart Matthewman, except "You're Everything" by Vanessa Bley, "No One Knows" by Josh Homme, Mark Lanegan, Nick S. Oliveri
Produced by Stuart Matthewman and Vanessa Bley
Mixed by Stuart Matthewman at Cottonbelly Studio, NYC
Musicians: Vanessa Bley (vocals, piano, guitar), Stuart Matthewman (sax, guitar, rhodes, clarinet), Michael Leonhart (trumpet, mellophone), Joe Bonadio (drums), Larry Grenadier (bass), Zev Katz (bass on "Sailor"), Gil Goldstein (piano on "When It Counts", "In Many Ways", "Past Yet Untold"), Jaime Alegre (drums on "I Love (Loving You)"), Robert Granata (guitar on "No One Knows"), Anthony Marchesi (keyboards on "No One Knows"), Omar Little (trumpet on "No One Knows"), Julian Smith (bass on "No One Knows"), Nicholas Anderson (drums on "No One Knows")


 シンプルにユニット名を冠したメジャー・デビュー作『TWIN DANGER』は、'13年4月のビルボードライブ東京公演の際、会場でCDが販売された10曲入り自主制作アルバム『POINTLESS SATISFACTION』(同年秋に一時的に公式サイトでも販売された)に2つの新曲を加え、曲順を若干変更した内容。ジャケットのデザインはほとんど変わらないが、今回は見開きの紙ジャケではなく、通常のCDプラケースでの発売アナログ盤も同時発売)

 スチュアート・マシューマンのテナー・サックス+トランペットの2管を配したオーソドックスなジャズ・コンボ編成によるムーディーな演奏、そして、ヴァネッサ・ブレイのアンニュイな囁きヴォーカル。ツイン・デンジャーは、紫煙に包まれた都会の夜の世界に聴き手を誘う。陰影の深いモノクロームのサウンドには、スタン・ゲッツ、チェット・ベイカー、ギル・エヴァンス、マイルス・デイヴィスといったクール・ジャズの巨匠たちへの憧憬が滲むが、そこにはリズム&ブルース、ドゥワップ、ロカビリーなどの要素もまぶされ、単純に“ジャズ”というレッテルでは片付けられない独自のスタイリッシュな折衷音楽が作り出されている。収録曲はマシューマンとヴァネッサの共作によるオリジナルが中心。ジャズらしい凝ったコードや曲構成を取り入れながら飽くまでポップさを失わない楽曲群、時にギル・エヴァンスのような幽玄さを感じさせる緻密な編曲も魅力的だ。映画音楽やラウンジ音楽のような雰囲気モノとして聞き流すこともできるが、スムーズに聞こえるサウンドには実は様々な出汁やアイデアが利いていて、聴くほどに完成度の高さに唸らされる。スタン・ゲッツ流儀のウォームで歌心溢れるマシューマンのテナー演奏──シャーデー作品ではほとんど聴かれなくなってしまった──の素晴らしさにも惚れ直す。初期シャーデーのファンはもちろん、いい音楽を求めるすべての人にお薦めしたいアルバムだ(各収録曲については“Twin Danger @ Billboard Live TOKYO 2013”で書いたので、詳しくはそちらをどうぞ)

 『POINTLESS SATISFACTION』を持っているファンにとって、今回のメジャー・デビュー盤の最大の目玉は、終盤に収録されている「You're Everything」「No One Knows」という2つの新曲である。ヴァネッサが単独で書いた前者は、'13年の来日公演でも披露されていた曲。その時は、ヴァネッサのヴォーカル&ピアノ、マシューマンのクラリネット、ブラシ・ドラムによる演奏だったが、アルバム収録のスタジオ録音版ではドラムの代わりにアップライト・ベースが使われている。昔からあるスタンダード・ナンバーのような美しいメロディを持つ小品。イントロで歌メロを吹くマシューマンのクラリネットの素朴な響きも味わい深い。いい曲が書けるというのは彼らの大きな強みだ。



 アルバム発売に先駆けて'15年2月に音楽ヴィデオが公開されたもう一方の新曲「No One Knows」は、デイヴ・グロールが在籍していた米オルタナ・ロック・バンド、クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジの'02年発表曲のカヴァー。来日公演で披露された5つのカヴァー曲──「I'm Shakin'」(リトル・ウィリー・ジョン)、「My Baby Just Cares For Me」(ニーナ・シモン)、「The Way You Look Tonight」(スタンダード)、「Is It A Crime」(シャーデー)、「I Ain't Drunk」(ジミー・リギンズ)──は、基本的にバンドの音楽性に近いジャズ〜リズム&ブルース系の古典曲ばかりだったが、「No One Knows」は近年のバリバリのロック・ナンバーである。ツイン・デンジャーはこの曲を、まるでオスカー・ブラウン・Jr「Work Song」のようなジャジーなリズム&ブルース曲に改変してしまっている。このカヴァーには、ツイン・デンジャーと並行してビースト・パトロールというロック・バンドをやっているヴァネッサのセンスが上手く活かされていると思う。初期のシャーデーを彷彿させるツイン・デンジャーだが(実際、シャーデーがレコード・デビュー前にライヴで演っていた「Cry Me A River」などは、いま聴くとツイン・デンジャーにしか聞こえなかったりする)、「No One Knows」はシャーデーではできない曲だろう。寸劇を織り込んだクライム・サスペンス仕立ての音楽ヴィデオ(「Smooth Operator」を思い出させる)も制作されたロカビリー風味の「Sailor」然り、シャーデーと同じくジャズやリズム&ブルースを基調にしながら、ソウルではなくロック寄りのサウンドへ傾斜しているところがツイン・デンジャーの面白さである。

 サポート・メンバーは流動的で、レコーディングやライヴには多くのミュージシャンが出入りしているが、「No One Knows」の録音には'13年の来日公演メンバーが多く含まれている。ロバート・グラナタ(ギター)とアンソニー・マルケージ(キーボード)は、ヴァネッサ率いるロック・トリオ、ビースト・パトロールのメンバー。オマー・リトル(トランペット)も来日メンバーだった人だ。また、『POINTLESS SATISFACTION』にも収録されていた「I Love (Loving You)」は、今回のメジャー・デビュー盤では、来日メンバーだったジェイミー・アレグレ(ドラム)参加の新録音版で収録されているので、ファンは微妙なドラミングの違いにも注目したい。

 ロバート・グラスパー、ホセ・ジェイムズ、グレゴリー・ポーター、フライング・ロータスといったアーティストの活躍により、近年、アメリカではジャズ近辺が再び騒がしくなっている。ツイン・デンジャーはそうした時流の沿線にいるようでもあり、全く関係ない場所にいるような気もする。その不思議な距離感は、'80年代のジャズ・ブーム時のシャーデーのそれと似ているかもしれない。スタイル・カウンシル、ワーキング・ウィーク、カリマ、カーメル、マット・ビアンコ、アンナ・ドミノ、イザベル・アンテナ、ヴィクター・ラズロ……多くのバンドや歌手が現れ、失速、あるいは姿を消していった中で、シャーデーがその後も精彩を失わず、多くの音楽ファンから格別の支持を受けているのは、時代に翻弄されることなく、自分たちが良いと思う音楽をストイックに追求する姿勢ゆえのことだろう。ツイン・デンジャーもまた、シャーデーと同じようにタイムレスな音楽を奏でている。20年後、『TWIN DANGER』は、もしかすると『DIAMOND LIFE』級の名盤として音楽ファンに語られているかもしれない。夜の友として、末永く付き合っていきたいバンドだ。是非とも再来日して、素晴らしいサウンドで私たちをまた酔わせてほしい。


YOU AND THE NIGHT AND THE MUSIC...


Center (L to R):
Twin Danger - TWIN DANGER [10" ep] (2012)
Twin Danger - POINTLESS SATISFACTION (2013)
Twin Danger - TWIN DANGER (2015)
Clockwise from bottom left:
Sade - TURN MY BACK ON YOU [single] (1988)
Gang Starr - JAZZ THING [single] (1990)
Greg Osby - 3-D LIFESTYLES (1993)
Buckshot LeFonque - MUSIC EVOLUTION (1997)
Street Jazz Unit - SEEIN' THE LIGHT (1997)
Arthur H - COOL JAZZ [ep] (1991)
Marc Gauvin - MALINE CLOÉ (1999)
Oxmo Puccino & The Jazzbastards - LIPOPETTE BAR (2006)
Terez Montcalm - VOODOO (2005)
Mary Coughlan - UNCERTAIN PLEASURES (1990)
Melody Gardot - CURRENCY OF MAN (2015)
Elizabeth Shepherd - REWIND (2012)
Sophie Alour - OPUS 3 (2009)
Paul Bley/Jimmy Giuffre/Steve Swallow - THE LIFE OF A TRIO: SUNDAY (1990)
Chet Baker - SINGS AND PLAYS FROM THE FILM "LET'S GET LOST" (1989)
Jimmy Scott - HOLDING BACK THE YEARS (1998)
Julee Cruise - FLOATING INTO THE NIGHT (1989)
Chrysta Bell - THIS TRAIN IN MOTION [dvd] (2012)
Melanie De Biasio - NO DEAL (2013)
Original Motion Picture Soundtrack - TAXI DRIVER (1976)
Original Motion Picture Soundtrack - ONE FROM THE HEART (1982)
Los Vegas - EM RITMO DE AVENTURA (1995)
The Viscounts - HARLEM NOCTURNE (1965)
The Lounge Lizards - THE LOUNGE LIZARDS (1981)
Original Motion Picture Soundtrack - DOWN BY LAW / VARIETY (1987)
Original Motion Picture Soundtrack - THE HOT SPOT (1990)
Various Artists - JAZZ NOIR (2014)


 おまけ。間抜けなコレクション自慢のような上の写真は、私の部屋に散乱しているCDの中から、ツイン・デンジャーやシャーデーのファンが気に入りそうな夜聴き向けのジャジーな作品を思いつくまま適当にピックアップして並べたものである。イギリスを中心とする'80年代ジャズ・ブーム〜アシッド・ジャズ、'90年代以降のクラブ・ジャズ系の作品は基本的に含まれていない(その筋の作品については、最近出版された小川充・著『CLUB JAZZ definitive 1984-2015』に詳しい。シャーデーのデビュー年から始まる素晴らしいディスクガイド本。『DIAMOND LIFE』も掲載)。チェット・ベイカー『LET'S GET LOST』や、トム・ウェイツが手掛けたサントラ『ONE FROM THE HEART』あたりは、ツイン・デンジャーのファンなら必携の名盤だと思う。一押しは、ロス・ヴェガス『EM RITMO DE AVENTURA』。

 イギリスの廉価再発レーベル、Not Now Musicから出た3枚組CD『JAZZ NOIR』も強くお薦めしたい。クライム・サスペンス〜フィルム・ノワール系のジャズ曲を集めた編集盤。マンシーニ「Peter Gunn」で始まり、『死刑台』『黄金の腕』『黒い罠』等々、お馴染みのヤニ臭いサントラ曲が計60曲、オリジナル音源でこれでもかというほど収録されている。似たような編集盤は過去にいくつも存在したが、『JAZZ NOIR』は質、量、価格のすべてで他を圧倒する。ツイン・デンジャー好きなら間違いない、大判小判がザクザクの宝箱。夜のお供にどうぞ。


追記('15年7月13日):
 『TWIN DANGER』の配信版には、13曲目に「Missing Her」というボーナス・トラックが収録されている(知らなかったぞ)。「Just Because」に近い、浮遊感のある穏やかな曲。ちょっと微妙な出来かも。

 あと、ツイン・デンジャーの公式YouTubeチャンネルに、彼らのお気に入りの映画サントラを集めた “Living In A Film Score”というプレイリストがあることに気付いた('15年5月4日公開)。'68年のモリコーネ『ウエスタン(Once Upon A Time In The West)』から、ジェフ・バーロウ(ポーティスヘッド)が音楽を手掛けた話題のアンドロイド映画『Ex Machina』(日本公開未定)まで、SF系も含めたネオ・ノワール作品中心のチョイス。以下がそのリスト。デヴィッド・リンチ作品が入っていないあたりにマニアのこだわりを感じたりもする。最後の5つは鉄板揃い。『タクシードライバー』は、'13年の来日公演の際、開演BGMにも使われていた。

Ex Machina (2015)
Soundtrack by Ben Salisbury and Geoff Barrow
Traffic (2000)
"Ascent (An Ending)" by Brian Eno
Pan's Labyrinth (2006)
Soundtrack by Javier Navarrete
Solaris (2002)
Soundtrack by Cliff Martinez
Once Upon A Time In America (1984)
Soundtrack by Ennio Morricone
Exotica (1994)
Soundtrack by Mychael Danna
Rush (1991)
Soundtrack by Eric Clapton
Once Upon A Time In The West (1968)
Soundtrack by Ennio Morricone
Taxi Driver (1976)
Soundtrack by Bernard Herrmann
Blade Runner (1982)
Soundtrack by Vangelis
Betty Blue (1986)
Soundtrack by Gabriel Yared
Chinatown (1974)
Soundtrack by Jerry Goldsmith
Diva (1981)
Soundtrack by Vladimir Cosma




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