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Keziah Jones: Discography 1992-2013



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 超人出現! これぞリアル・ファンクと呼ぶべきか
 キザイア・ジョーンズ
 ブルーファンク・イズ・ア・ファクト!


 キザイア・ジョーンズのデビュー時の衝撃は、1stアルバム『BLUFUNK IS A FACT!』(1992)日本盤の帯に踊るこの謳い文句を見るだけでも想像がつくだろう。“超人出現!”という突拍子もない断定に続き、“これぞリアル・ファンク”という語気の強い表現が、最終的に“と呼ぶべきか”という疑問形で結ばれるところに、当時の聴衆の驚きと戸惑いがよく表れているように思う。やっている音楽は確かにファンクっぽいが、普通のファンクとはちょっと様子が違う。なんだかよく分からないけど、とにかく凄い男であることは間違いない……。キザイアはそのような興奮と共に当時の音楽リスナーに迎えられた。

 “ブルーファンク”という独自の音楽スタイルで知られるキザイア・ジョーンズ。前回の来日公演鑑賞記でも書いた通り、私は20数年遅れで彼のファンになった者である。シャーデーと同じナイジェリア出身、イギリス育ちのアーティストであるにもかかわらず、私は長年、彼の作品を見過ごしていた。存在は知っているけどCDを買ったことはない、初期の2枚は持ってるけど最近のアルバムは知らない、という人は恐らく私の他にもいるだろう。若い音楽ファンの中には“キザイア・ジョーンズって誰っすか”という人もいるかもしれない。

 キザイア・ジョーンズという人は、簡単に言うと“ナイジェリアのディアンジェロ”である。“え?”と驚いたそこのあなた。今回はそんなあなたのために、'92年のデビュー作から'13年の最新作まで、超人キザイアのアルバム全6作を早分かりのディスク・レビュー形式で一気に紹介する。先日、'15年4月初旬にブルーノート東京で行われた来日公演の鑑賞記“Keziah Jones @ Blue Note TOKYO 2015”とあわせてご覧いただきたい。


KEZIAH JONES: DISCOGRAPHY 1992-2013

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BLUFUNK IS A FACT! (1992)

 ブルーファンクここにあり。アコースティック・ギターのはじけるようなファンク・リズム、艶やかで色っぽいブルージーなヴォーカルをタイトなバンド演奏で聴かせ、ロンドン〜パリ路上発のコスモポリタン音楽=“ブルーファンク”を標榜した瑞々しいデビュー作。制作は、T・ドルビー、D・ボウイやモリッシーらとの仕事で知られる英ロック系ギタリスト/プロデューサー、ケヴィン・アームストロング。洗練されたロック〜ポップ感覚のファンク・サウンドは、当時、テレンス・トレント・ダービーやレニー・クラヴィッツに次ぐ才能としてキザイアを幅広い音楽ファンに知らしめた。ディー・インフルエンスで同年にデビューしたサラ・アン・ウェブが「Rhythm Is Love」「The Funderlying Undermentals」の2曲でソウルフルな歌声を聴かせている点にも注目したい(彼女は'00年代以降のキザイア作品にも継続的に参加)。ジャン=バプティスト・モンディーノ撮影によるクールでお洒落なイメージも秀逸。超人キザイアの基本要素が詰まった、何はなくとも必聴の名作。日本盤はボーナス・トラック1曲収録。


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LIVE EP (1993)

 '92年ツアーからパリ公演(4曲)と東京公演(1曲)の模様を収めた凄まじいライヴ盤。ギター、ベース、ドラムのトリオ編成でブルーファンクの真髄をアルバム以上に明快に伝える。ネナ・チェリー作品やティアーズ(元スウェードのメンバーによるバンド)等への参加でも知られる日本人ドラマー、マコト・サカモト(坂本真)による覇気溢れる演奏、一丸となったバンド・サウンドを鮮やかに浮かび上がらせるリバーブ感の強いミックスも素晴らしい。ロッキッシュでソリッドなトリオ演奏は、同時代に日本のロック・シーンを牽引したブランキー・ジェット・シティを思わせたりもする。'92年5月の初来日公演で録音された「Rhythm Is Love」を除く4曲がアルバム未収録のオリジナル曲というのも凄い。EPながらも聴き逃し厳禁の重要作。ジャケ写は再びモンディーノ撮影(裏焼きでジミヘン状態に)日本盤はボーナス・トラック2曲収録。


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AFRICAN SPACE CRAFT (1995)

 幼少時のぶっ飛んだ自分の写真をジャケに掲げ、よりハードに黒さを追求した2nd。ブルーファンクを葬り、電化したギター・サウンドで“アフリカの宇宙船”を標榜する。アコギを掻き鳴らして疾走する冒頭曲「Million Miles From Home」こそ前作の延長という感じだが、2曲目からはエレキ・ギター、ベース、ドラムの3ピースによるゴリゴリでギュインギュインなファンク・ロックで飛びまくる。パーラメント「Mothership Connection」(「Swing Down, Sweet Chariot」)をジミヘンがカヴァーしたような表題曲には、本当に宇宙船が降りてきそうなただならぬ気配が。ジャンプスーツを着たジミヘンがマザーシップで空襲してくるような超絶アルバム。制作は、バッド・ブレインズ、ソニック・ユース、リヴィング・カラー等を手掛けていたロン・セント・ジャーメイン。ライヴ・ステージのダイナミズムを見事に取り込み、キザイアの音楽はここで一旦の完成を見た。日本盤はボーナス・トラック2曲収録。


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LIQUID SUNSHINE (1999)

 自己プロデュースによる3rd。曲作りや編曲に工夫を凝らし、新境地を開拓しようとした過渡期の作品。それまでのキザイアらしさが感じられるのは表題曲の5拍子高速ファンクくらいのもので、大半は奇妙なコード進行や曲構成を伴ったミディアム〜スローの実験的な作風の曲で占められる。ストリングスを入れた後期ビートルズ風の曲、打ち込みを取り入れた曲、アコギを使ったブルーファンク調の曲、ベースやギターの弾き語りなど、様々なアイデアが見受けられるが、全体の方向性がひどく曖昧で、まるでデモ集でも聴いているようなとっ散らかった印象を受ける。やりたいことにキザイア自身のプロデュース能力が追いついているとも思えない。とはいえ、ファルセットの多用や、多重録音による凝ったヴォーカル・アレンジに歌手としての成長が窺える点は面白い。白眉は、ジミヘンとディアンジェロを繋ぐようなヴードゥー感がヤバい「Stabilah」か。裏ジャケには、本作が“スーパージョーンズ、別名キャプテン・ラギッド”を生み出すための実験過程であることを示す添書が(!)。日本盤はボーナス・トラック1曲収録(ヒップホップ調トラックにキザイアの語りが乗った佳作「Gangsta Lean」)


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BLACK ORPHEUS (2003)

 キザイアが第二のフェーズに突入した記念すべき4th。'59年の同名映画『黒いオルフェ』に触発され、超人はナイジェリアの吟遊詩人として生まれ変わった。ホーンを導入してアフロビート色を前面に出した「Kpafuca」「72 Kilos」等、'97年に他界したフェラ・クティの衣鉢を継ぐようなアフリカ回帰〜汎アフリカ主義の作風が彼の姿勢を明快に示す。ヴォーカリストやソングライターとしての成長も著しい。前作の試行錯誤が実を結び、キザイアにしかできない“アフロブルーファンクんソウル”とでも言うべき豊潤な音の新世界が広がる。1stを手掛けたケヴィン・アームストロングが再び制作を担当し、サウンド・プロダクションの質も飛躍的に向上した。ヒップホップ色こそないが、ディアンジェロ、ビラル、モス・デフ、ローリン・ヒル、エリカ・バドゥ、インディア・アリー、ミシェル・ンデゲオチェロといったアメリカの先鋭的なネオソウル勢の作品と大西洋を挟んで共鳴する傑作。アコースティック版などを収録した9曲入りボーナス・ディスク付きの限定2枚組も翌年に発売。日本盤はボーナス・トラック1曲収録。


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NIGERIAN WOOD (2008)

 長年在籍したDelabelからBecause Musicに移籍し、前作のアフロブルーファンクんソウルに更なる磨きをかけた大傑作5th。“ナイジェリアの木材/ビートルズにゃ分かるまい”とのたまう冒頭のアルバム表題曲(「Norwegian Wood」と掛けている)から鬼シャープなアフロ・ファンクの斧を縦横無尽にぶんぶん振り回す。サラ・アン・ウェブがアンドロイド役をセクシーに演じる2曲目「African Android」は、シンディ・メイウェザー(別名ジャネール・モネイ)を一撃で倒しそうな破壊力。天まで届きそうな伸びやかな歌声を聴かせるメロディアスな1stシングル曲「My Kinda Girl」や、ネカとのデュエット版も制作された「Long Distance Love」等での甘美でしなやかなソウル感覚──マーヴィン・ゲイやアル・グリーンを彷彿させずにはおかない──にも心を鷲掴みにされる。ラゴス、ニューヨーク、ロンドン、パリ……世界のどの都市にもアクセスできるアーバンでコスモポリタンなソウル・ミュージックを、キザイアは“ナイジェリアの木”を使って見事に作り上げた。ファンカーとしてもソウル歌手としても円熟の域に達した、全く非の打ち所のない名盤。録音はジミヘンのエレクトリック・レディ・スタジオ。制作は、エリカ・バドゥ、コモン、スラム・ヴィレッジ等を手掛けるジャズ・ドラマー/ヒップホップ・プロデューサーのカリーム・リギンズとケヴィン・アームストロングの二本柱。モンディーノが撮影したジャケットやインナー写真もクールの一言に尽きる(モンディーノが絡んだキザイア作品は最強説)。デモ録音10曲入りボーナス・ディスク付きの限定2枚組も発売。日本盤は限定2枚組とは被らないボーナス・トラックを2曲収録。


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CAPTAIN RUGGED (2013)

 最新作の6thは、キザイアが架空のスーパーヒーロー=“キャプテン・ラギッド”に扮してラゴスで大暴れする痛快コンセプト・アルバム。『LIQUID SUNSHINE』裏ジャケで仄めかされていたキャラクターが遂に姿を現した。ラギッドの活躍を通して、ナイジェリア〜アフリカの現代社会が抱える様々な問題を浮き彫りにする。アルバムの物語を描いたグラフィック・ノベル版も同時発売(その一部はCDブックレットでも見られる)。ラギッドのテーマ・ソング的な冒頭曲「Afronewave」をはじめ、これまで以上にアフロビート色を強く打ち出しながら、ファンク、ソウル、ブルース、ロックが立体的に絡み合う21世紀型ブルーファンク=アフロニューウェイヴ・サウンドを、ビートルズかと思うくらいの圧倒的なバランス感とポップ感覚で次々と聴かせる。サラ・アン・ウェブが客演したアンセミックな最終曲「Praise」には、スティーヴィー・ワンダー「A Time To Love」並のスケール感さえ漂う。全く超人としか言いようがない。制作はキザイアとケヴィン・アームストロング。架空の救世主を自演するコンセプトは、P・ファンクやジャネール・モネイ作品に通じる(もちろん、アームストロングがかつて仕事をしたD・ボウイにも)。そして、モコモコしたアナログ感たっぷりのサウンドも含め、ディアンジェロの最新作『黒い救世主』を連想させる。キザイアはそういう位置にいるアーティストである。日本盤はボーナス・トラック5曲収録(どれもクオリティ高い!)


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「ロックは純粋に西洋の音楽形態だし、俺は自分がロックを演奏していると思ったことは一度もない。あくまでもアフリカン・ルーツの音楽をやっているんだ」

 これは'95年の2nd『AFRICAN SPACE CRAFT』日本盤ライナーノーツに掲載されているキザイアの発言である。“(2ndは)ロック色を増したのではないか?”という問いに対し、彼は“それは違う”と答えて上のように語っている。同じようなことを訊かれて、“いや、自分はあくまでもアジアン・ルーツの音楽をやっている”と堂々と言い張れる日本人アーティストが一体どれくらいいるだろう。自分の血に対する彼のこのプライドは本当に凄いと思う。

 キザイア・ジョーンズという人は一般的にいまだ初期のブルーファンクのイメージで捉えられていて、'90年代当時にリアルタイムで聴いていた音楽ファンからノスタルジーと共に聴かれる傾向にあるように思う。'00年代以降の諸作がその完成度に比していまいち脚光を浴びていない(気がする)のは、彼がヒップホップではなくアフロビートに向かって欧米の音楽シーンと距離を置いたため、一般の音楽ファンのレーダーに引っ掛かりにくくなったこと、あるいは、存在は知っていても、彼のことを何となくロック寄りの人だと思って敬遠しているリスナーが多いことが原因ではないだろうか(少なくとも、私自身が最近までまともにキザイア作品を聴いていなかった理由はそのようなものである)

 キザイア・ジョーンズは、現在、たとえばディアンジェロを聴いている人たちに同じ熱心さで聴かれるべきアーティストだと思う。彼のアルバムは『BLACK MESSIAH』と同じくらい売れていい。ディアンジェロに十分比肩するアーティストでありながら、キザイアが一般的にそのように扱われていないのは、恐らく、単に私たちの評価軸がアメリカ中心に設定されているからである。かつてアメリカにジェイムズ・ブラウン、ナイジェリアにフェラ・クティがいたように、今、アメリカにディアンジェロが、そして、ナイジェリアにキザイア・ジョーンズがいる。嘘だと思ったら聴いてみてください。



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