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Michael Jackson──団結



 スティーヴィー・ワンダー「Master Blaster (Jammin')」(1980)、ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズ「Jamming」(1977)と来て、“Jam”三連発の最後を決めるのは、もちろんこの人、マイケル・ジャクソン

 『DANGEROUS』(1991)冒頭を飾るスティーヴィー流儀の鬼ファンク「Jam」。歌詞がいまいち理解できないという人も、スティーヴィーやマーリーの歌とあわせて聴けば、it ain't too much stuff──ちっとも難しいことはないのである。




 Jam
 (Michael Jackson/Rene Moore/Bruce Swedien/Teddy Riley)
 
 Nation To Nation
 All The World
 Must Come Together
 Face The Problems
 That We See
 Then Maybe Somehow We Can
 Work It Out
 I Asked My Neighbor
 For A Favor
 She Said Later
 What Has Come Of
 All The People
 Have We Lost Love
 Of What It's About
 
 世界中
 国という国の人々が
 ひとつになり
 目の前の様々な問題に
 取り組めば
 きっと何とか
 することができる
 隣人に
 協力を求めれば
 後でと言われる
 みんな
 どうしてしまったのか
 我々は愛の意味を
 忘れてしまったのか
 
 I Have To Find My Peace Cuz
 No One Seems To Let Me Be
 False Prophets Cry Of Doom
 What Are The Possibilities
 I Told My Brother
 There'll Be Problems,
 Times And Tears For Fears,
 We Must Live Each Day
 Like It's The Last
 
 心を安らかにしなくては
 この生きづらい世の中
 偽預言者たちは破滅を叫ぶが
 可能性はいかに
 僕は兄弟にこう言った
 障害はあるだろう
 恐れに涙する時もあるだろうが
 我々は一日一日を
 最期のつもりで生きねばならないと
 
 Go With It
 Go With It
 Jam
 It Ain't Too Much Stuff
 It Ain't Too Much
 It Ain't Too Much For Me To
 Jam
 It Ain't Too Much Stuff
 It Ain't
 Don't You
 It Ain't Too Much For Me To
 
 いまこそ
 いまこそ
 団結
 やってやろうじゃないか
 やってやるよ
 やってみせようじゃないか
 団結
 やってやろうじゃないか
 やってやる
 ほら
 やってみせようじゃないか
 
 The World Keeps Changing
 Rearranging Minds
 And Thoughts
 Predictions Fly Of Doom
 The Baby Boom
 Has Come Of Age
 We'll Work It Out
 I Told My Brother
 Don't You Ask Me
 For No Favors
 I'm Conditioned By
 The System
 Don't You Talk To Me
 Don't Scream And Shout
 
 世の移り変わりと共に
 人の心や思考も
 組み替えられていく
 飛び交う忌まわしい予言
 ベビーブーム世代も
 大人になった
 皆で何とかするんだ
 僕も兄弟にこう言った
 協力なんか
 求めないでくれ
 僕は体制に
 順応している
 あれこれ言わないでくれ
 やかましく叫ばないでくれ
 
 She Pray To God, To Buddha
 Then She Sings A
 Talmud Song
 Confusions Contradict
 The Self
 Do We Know Right
 From Wrong
 I Just Want You To
 Recognize Me
 In The Temple
 You Can't Hurt Me
 I Found Peace
 Within Myself
 
 神に祈り 仏に祈り
 それから彼女は
 タルムードを唱える
 混乱による
 自己矛盾
 何が正しくて
 何が間違いなのか
 僕がいるのは
 聖堂だということを
 わかってほしい
 僕は折れない
 僕は安らぎを
 心の内に見出したから
 
 Go With It
 Go With It
 Jam
 It Ain't Too Much Stuff
 It Ain't Too Much
 It Ain't Too Much For Me To
 Jam
 It Ain't Too Much Stuff
 It Ain't
 Don't You
 It Ain't Too Much For Me To
 Jam
 It Ain't Too Much Stuff
 It Ain't Too Much
 It Ain't Too Much For Me To
 Jam
 It Ain't Too Much Stuff
 It Ain't
 Don't You
 It Ain't Too Much For Me To
 
 いまこそ
 いまこそ
 団結
 やってやろうじゃないか
 やってやるよ
 やってみせようじゃないか
 団結
 やってやろうじゃないか
 やってやる
 ほら
 やってみせようじゃないか
 団結
 やってやろうじゃないか
 やってやるよ
 やってみせようじゃないか
 団結
 やってやろうじゃないか
 やってやる
 ほら
 やってみせようじゃないか
 
 Jam Jam
 Here Comes The Man
 Hot Damn
 The Big Boy Stands
 Movin' Up A Hand
 Makin' Funky Tracks
 With My Man
 Michael Jackson
 Smooth Criminal
 That's The Man
 Mike's So Relaxed
 Mingle Mingle Jingle
 In The Jungle
 Bum Rushed The Door
 3 And 4's In A Bundle
 Execute The Plan
 First I Cooled Like A Fan
 Got With Janet
 Then With Guy
 Now With Michael
 Cause It Ain't Hard To...
 
  団結 団結
 ヤツが来た
 キタコレ
 デカい男が
 手ぇ貸して
 イカした曲を作るのは
 俺のマブダチ
 マイケル・ジャクソン
 泣く子も黙る仕事人
 手際はスムーズ
 マイクは余裕
 混じり混じって
 大騒ぎ
 押しかけ
 共闘
 即実行
 俺も最初は傍観者
 それがジャネット
 お次にガイ
 今度はマイケル
 誰でも組めるぜ……

 
 Jam
 It Ain't Too Much Stuff
 It Ain't Too Much
 It Ain't Too Much For Me To
 Jam
 It Ain't Too Much Stuff
 It Ain't
 Don't You
 It Ain't Too Much For Me To
 Jam
 It Ain't Too Much Stuff
 It Ain't Too Much
 It Ain't Too Much For Me To
 Jam
 It Ain't Too Much Stuff
 It Ain't
 Don't You
 It Ain't Too Much For Me To
 
 団結
 やってやろうじゃないか
 やってやるよ
 やってみせようじゃないか
 団結
 やってやろうじゃないか
 やってやる
 ほら
 やってみせようじゃないか
 団結
 やってやろうじゃないか
 やってやるよ
 やってみせようじゃないか
 団結
 やってやろうじゃないか
 やってやる
 ほら
 やってみせようじゃないか


 “jam”という単語には多くの意味があるが、基本的なイメージとしては、様々な物や人が一定の場所に押し込まれ、ぎゅうぎゅう詰めでぐちゃぐちゃと混ざり合って密集している状態を示す語である(例:traffic jam=交通渋滞)。音楽用語の“ジャム”も、複数のミュージシャンが集まり、ごちゃごちゃ入り乱れてがやがやとセッションすることからそう呼ばれる。

 残念ながら“jam”に完璧に対応する日本語はなく、和訳では文脈に応じて適当にニュアンスの近い言葉を当てるしかない。「Master Blaster (Jammin')」「Jamming」、そして「Jam」という3曲で使われているこの語に、結局、私はそれぞれ別の日本語を当てたのだが、3曲の拙訳をざっと通読して頂ければ、スティーヴィーもマーリーもマイケルも、全く同じメッセージを発しているということが分かると思う。

 彼らが言う“jam”とは、一緒につるむことである。そして、何かを実現することである。“get together”と同じような意味だが、マイケルはそこにより社会的・普遍的な広がりを与え、“unite”に近いニュアンスでこの語を使っているように思われる。要するに、世界的なスケールで“つるめ”ということである(「Master Blaster」では“get together”、「Jamming」では“unite”、「Jam」では“come together”という具合に、3曲の歌詞にはそれぞれ“jam”を換言した類似表現が織り込まれている)

MJ_Jam2.jpg
“jam”にはまだ早い少年マイケル

 また、“jam”という語には、バスケットボールで“ダンクシュートをする(ゴールにボールを押し込む)”という意味もある。このダブル・ミーニングは、もうひとりのMJ=マイケル・ジョーダンがゲスト出演したショート・フィルム「Jam」で強調され、更には、ブラック・パンサー党員風のダンサーたち(妹「Rhythm Nation」参照)を従えて踊るライヴ・パフォーマンス──ラッパーはマルコムX帽を被っている──とあわせて、この曲に強い黒人性を与えている。黒人民族主義を想起させるマイケルのこの攻撃的な表現は、ショート・フィルム「Black Or White」後半の“黒豹ダンス”場面とも通じるものである。

 マイケルが攻撃的に歌う“jam”という一語のインパクトを、私は漢字2文字で表現しようとした。一丸、共闘、決起、打破……色々と訳語を考えた末、“皆で力を合わせよう”というメッセージの肝がストレートに誤解なく伝わる“団結”という言葉を当てることにした。“団結”というと野暮ったくて説教くさい感じもするが、ヘヴィ・Dのラップもフィーチャーしながら、マイケルは力を合わせて結束することの重要性や素晴らしさを、“jam”という砕けた表現でカッコよく魅力的に訴えている。

 “団結しよう、立ち上がろう”という呼びかけを疎ましく思う人がいることはマイケルも十分承知していて、“I told my brother / Don't you ask me for no favors / I'm conditioned by the system / Don't you talk to me / Don't scream and shout”という部分では、そういう人たちの気持ちを代弁している(『DANGEROUS』の歌詞カードでは“Don't you talk to me”が“Don't you preach to me=説教するのはやめてくれ”になっている)。ネット上の様々な「Jam」和訳を見ると、この部分──特に“僕は体制に順応している(呑み込まれている)”という一節──の解釈に苦しんでいる人が多いようだが、そのまま素直に読むべきだ。このあたりは、オーウェル『1984年』をイメージすればすんなり理解できるだろう。「Jam」は、体制に呑まれて生ける屍のように生きていた“僕”が、自問自答を繰り返しながらウィンストン・スミスのように覚醒する歌ではないのか。“偽預言者たち(false prophets)”は“偉大な兄弟(ビッグ・ブラザー)”みたいなものだろうし、“rearranging minds and thoughts”という表現にしても、ちょっと『1984年』を彷彿させるものがある(“rearranging”には“controlling”に近いニュアンスを感じる)

 ちなみに、“I just want you to recognize me in the temple(聖堂にいる僕に気付いてほしい)”という部分は、歌詞カードでは“I just want you to recognize me I'm the temple(わかってほしい、僕は聖堂なのだ)”となっている。表現としては前者の方が自然だが、マイケルの言いたいことは後者の方がより明快に伝わってくる。“temple”は一応“聖堂”と訳したが、特定の宗教の聖堂、神殿、寺院を指してはいない。恐らくマイケルは心の中に自分だけの信仰を持っていて、それを“temple”と言っているだけである。つまり、“マイ・テンプル(自分だけの聖なる場、聖域)”だ。僕は自分の心だけを信じる、というマイケルの姿勢が、色んな宗教に振り回されて自分を見失う現代人(“彼女”)の様子と対比されているわけである。

MJ_Jam3.jpg
MJ_Jam4.jpg
ウェイラーズとJ5──'75年3月、キングストンのマーリー宅にて(MJはマーリーの右4番目)。'75年3月8日、キングストンのNational Heroes Stadiumで行われたウェイラーズの公演でJ5は前座を務めた

 「Jam」は、歌詞的にも楽曲的にも、実は後年の「Xscape」と似ている。「Jam」をよりパーソナルな内容にしたのが「Xscape」と言っていいだろう(「Jam」×「Scream」=「Xscape」とも言える)。「Xscape」→「Jam」→「Master Blaster」→「Jamming」と溯った時、“xscape”の意味がはっきりと分かる。“xscape”とは、つまり、マイケルにとって、バビロン──ないしは、バビロン・システム──からの(孤独な)“エクソダス(exodus)”に他ならないのである。


 Don't let them fool you
 Or even try to school you, oh! no
 
 Don't let them change you
 Or even rearrange you, oh! no
 
 奴らに騙されるなよ
 刷り込まれたりするなよ 絶対にな!

 奴らに変えられるなよ
 骨抜きになんかされるなよ 絶対にな!

 
 ボブ・マーリー「Could You Be Loved」(1980)



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