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愛は自尊心に勝る

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 2年半ぶりの3作目『STRONGER THAN PRIDE』(1988)からの先行シングル曲で、アルバムの冒頭を静かに飾る「Love Is Stronger Than Pride」。カリブの穏やかな熱風を感じさせる作品だが、サウンド・プロダクションはクールで、都会的に洗練されている。それまでのどこかスカしたジャズ色はすっかり影を潜め、当時のワールド・ミュージックの興隆にもさりげなく共鳴したこの曲は、格段にスケールと深みを増した新たなシャーデーからの挨拶状だった。


 Love Is Stronger Than Pride
 (Adu/Hale/Matthewman)

 I won't pretend that I intend to stop living
 I won't pretend I'm good at forgiving
 But I can't hate you
 Although I have tried
 Mmmm
 
 死んでやろうというわけじゃない
 心の広いふりをするつもりもない
 でも あなたが憎めない
 憎もうとはしたけれど
 Mmmm
 
 I still really really love you
 Love is stronger than pride
 I still really really love you
 Mmmm
 
 まだあなたをとっても愛してる
 愛は自尊心に勝るもの
 まだあなたをとっても愛してる
 Mmmm
 
 I won't pretend that I intend to stop living
 I won't pretend I'm good at forgiving
 But I can't hate you
 Although I have tried
 Mmmm
 
 死んでやろうというわけじゃない
 心の広いふりをするつもりもない
 でも あなたが憎めない
 憎もうとはしたけれど
 Mmmm
 
 I still really really love you
 Love is stronger than pride
 I still really really love you
 Mm mm mm mm mm
 
 まだあなたをとっても愛してる
 愛は自尊心に勝るもの
 まだあなたをとっても愛してる
 Mm mm mm mm mm
 
 Sitting here wasting my time
 Would be like
 Waiting for the sun to rise
 It's all too clear things come and go
 Sitting here waiting for you
 Would be like waiting for winter
 It's gonna be cold
 There may even
 Be snow

 こうして時間を無駄にしてる私
 なんだかまるで
 日が昇るのを待っているよう
 月日はどんどん流れていく
 じっとあなたを待ち続けてる私
 なんだか 冬を待っているよう
 じきに寒くなる
 そのうちきっと
 雪も降る
 
 I still really really love you
 Love is stronger than pride
 I still really really love you
 Love is stronger
 I still really really love you
 Love is stronger than pride
 
 まだあなたをとっても愛してる
 愛は自尊心に勝るもの
 まだあなたをとっても愛してる
 愛は勝るもの
 まだあなたをとっても愛してる
 愛は自尊心に勝るもの


 当時、この曲を〈ベストヒットUSA〉で初めて視聴した時の衝撃は今でもよく覚えている。私がシャーデー作品にまともに触れたのはそれが最初だったと思うが、とにかくサウンドの異様なまでのシンプルさ、静けさ、そのミネラル・ウォーターのような感触が印象的だった。というか、むしろ全く印象に残らないことが印象的だったのだ。サビらしいサビもなく、メロディも全く掴めない。そのヴィデオは私の注意を4分の間ずっと引き続けたが、終わってみれば蜃気楼のように跡形もなく消えていた。何だったんだ、今のは。その時分、添加物をふんだんに使ったようなアメリカのトップ40ものばかり好んで聴いていた子供の私にとって、それは全くもって未知の音楽だった。
 ヴィデオとサウンドが醸す得体の知れないゴージャスさが気になった私は、その後も何度かこの曲に意識的に耳を傾けてみたが、残念ながらその良さは理解できなかった。シャーデーとそう遠くない音楽性を持つ同時期の作品、例えば、スティング『NOTHING LIKE THE SUN』、ユーリズミックス『SAVAGE』などは好きだったのだが、シャーデーの表現は幼少のロック/ポップス・ファンには恐らくちょっと高級すぎたのである。

 シャーデーの曲にはAメロ~Bメロ~サビといった従来のポップスの楽曲構造を持たないものが少なくない。同一コード/リフの繰り返しをベースに展開を作る黒人音楽に免疫がなく、白人が作る転調の多い明快な楽曲に慣れ親しんでいた当時の私にとって、この曲はどう聴いていいのか全く分からなかったが、いま聴くと実はさほど変わった構造の曲ではないことが分かる。もちろんメロディもサビもきちんとある。しかし、控えめに徹し、不純物を一切含まないこの曲の研ぎ澄まされたサウンドは、ポップスとしてはあまりにも異質であり、高尚ではないか。何も加えず、重要なフィーリングだけが丁寧に抽出され、凝縮されたサウンド。まるで自然が生み出す高級アイスワインのように芳醇で甘美な作品だ。

 サウンド同様、その歌詞も恐ろしくシンプルである。歌われていることは以前と変わらない。“私はまだあなたを愛している”。それだけだ。しかし、「Is It A Crime」とこの曲の間に横たわる距離は大きいだろう。クリシェに頼らず、ただ思うがままを綴ったような歌詞。少ない言葉の行間に名状しがたいフィーリングが滲む感覚は、ほとんど俳句のようでもある。いや、実際、これはまさしく「俳句」、あるいは「短歌」と呼ぶべき代物ではないのか。もちろん、このようなシンプルな歌詞はポップ・ソングには決してめずらしくはない。しかし、隙間だらけなようでいて完成されたこの曲全体のフォームが、この詞に短歌的な趣を与えているのである。

STP そうして、改めて『STRONGER THAN PRIDE』のジャケットを眺めてみる。タイトルの書体が毛筆にしか見えない。紅花の赤と黄色。これは我々日本人が昔からよく知っている世界ではないのか。このジャケ写真が実は琴引浜あたりで撮られたものだったとしても私は驚かないだろう。そして、その簡素な言葉を詠唱する歌人アデュ(!)の微熱を帯びたようなヴォーカルには、以前よりも遙かに柔らかな丸みと艶が感じられる。音符をなぞるのではなく、話すように歌い、それがそのままメロディとして自然に息づくような感覚。子供の私にこの曲の正体は全く不明だったが、ここでシャーデー・アデュは本物のソウル・シンガーになったのだと今にして思う。

 幼少の頃に分からなかったものが、ある日、突然“美味い”と感じられる時がある。音楽の旨味を新たに発見する悦び。私の耳もあれから随分と成長したものだ。

 「この歌がいいね」と自分が言ったから七月六日はシャーデー記念日


 ところで、この曲に関してアデュは以下のようなコメントを残している。“愛とは何か?”を巡るこの考察については、4年後の「No Ordinary Love」を鑑賞しながら少し踏み込むことにしたい。

「この曲は──友達が私に話してたこと──彼女は誰かと別れたばかりで、その人に対してすごく腹を立てていたわけ。彼にもう二度と会いたくない……とか。そんな時、私は彼女にこう言ったのを覚えているわ。一度深く愛した人を急に憎むことは不可能。彼をそのままの姿で理解し、受け入れてあげなければって。もしそれができないのなら、ある意味で彼をほんとうに愛していたとは言えないんじゃない? 深く愛していたとは言えない、愛と思っていたのが実は他の何かだったんじゃない?ということね。だって何でも愛って名前はつけられるじゃない。でもそれをたとえばプライドと比べてその重さを測ってみて、初めて愛の深さがわかると思うの。だってプライドっていうのはほんとうに強いものだから。あの曲はこういうことから出来上がってきたの、友達との話の中から」(Aug 1988, Adlib)

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