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Addicted to the 80s──ゴルチエ2013年春夏コレクション



 '00年代初頭のダフト・パンクやフランツ・フェルディナンドあたりから始まり、レディー・ガガの躍進によって完全に定着した感のある'80年代リバイバル。'80年代的な音楽やファッションはトレンドや現象ではなく、もはや“日常”と言っても過言ではないかもしれない。古くて恥ずかしい虚飾の'80年代は、いつの間にか新鮮でイケてるものになっていた。私自身は半ばリアルタイム世代なので、新鮮さよりも先にノスタルジーを感じてしまうのだが、次々とリマスター再発される'80年代作品に色々と新発見もしたりして(BBRとFunky Town Groovesはヤバすぎる)、結構このブームを楽しんでいる。

 そんな中、'12年9月25日〜10月3日に行われた'13年春夏パリ・コレクション(プレタポルテ)で、ジャン=ポール・ゴルチエが大胆な反則技を繰り出した。彼が掲げたテーマは、ずばり“ファッションに影響を与えた'80年代のポップ・スターたち”。当時の音楽界を彩った様々なスターたちをモチーフにした服を、まるでコンサートのような派手な演出で披露して大きな注目を集めた。彼が取り上げたポップ・アイコンの中には、なんとシャーデーまで含まれている。MJ『BAD』やインエクセス「Never Tear Us Apart」を振り返ったところで、今回はゴルチエによるこの“'80年代大感謝祭”とも言うべきショウを紹介することにしたい。'80年代に溺れている音楽ファンは必見だ。


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JEAN PAUL GAULTIER: PRET-A-PORTER SPRING/SUMMER 2013
Designer: Jean Paul Gaultier
Date: September 29, 2012
Venue: 325 Rue Saint Martin 75003, Paris

 ゴルチエのショウはパリコレ5日目の9月29日、パリにある自社のホールで行われた。エイミー・ワインハウスをモチーフにした'12年春夏オートクチュール・コレクション('12年1月25日)に続く音楽ネタ。インスピレーションとして挙げられているスターは、アバ、アニー・レノックス、ボーイ・ジョージ、デヴィッド・ボウイ、ジョージ・マイケル、グレイス・ジョーンズ、マドンナ、シャーデー、プリンス、マリリン・モンローなど(実際にショウでモチーフにされている人物はやや異なる)。'80年代のファッションと関わりがある他の時代のスターも含め、ゴルチエ自身が影響を受けた'80年代ポップ・アイコンたちへのオマージュというのがショウのコンセプトのようだ。モチーフの中には実際に彼が衣裳を手掛けたスターも含まれる。音楽界と密接な関わりを持ってきたゴルチエの面目躍如とも言えるショウだ。

 ステージにはやぐらのようなセットが組まれ、そこに主役の女性モデルと脇役の男性ダンサーたちのシルエットが浮かび上がり、場合によってはダンス・パフォーマンスも披露される。モチーフになったアーティストの代表曲に乗って、ステージから真っ直ぐ伸びるランウェイをモデルが歩く様子は、まるでスタジアム・コンサートのようだ。ゴルチエによってリメイク/リモデルされた往年のスターたちのファッションはもちろん、メイク、髪型、歩き方やポージングまで意識してスターになりきるモデルたちの様子も見もの。ファッション・ショウを超えて、もはやエンターテインメントの域に達している。サウンドトラックには全部で14組のアーティストの曲が使われた。さて、あなたのお気に入りのスターは出てくるだろうか。ゴルチエが作り出した'80年代スターのクローンたちを順に見ていくとしよう。


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Grace Jones

 最初に登場するモチーフはグレイス・ジョーンズ。'80年代最大のファッション・アイコンは何と言ってもこの人である。超性別的・超人的なアンドロイド・ボディ、数々の奇抜なコスチュームによって、公の場に登場する度に人々を驚嘆させた元祖スーパーモデル。ポップ・スターでもあった彼女の強烈なヴィジュアル表現は、レディー・ガガ、ビヨンセ、リアーナ、ニッキー・ミナージュら、現代のディーヴァたちに決定的な影響を与えている。ショウのトップバッターはこの人以外に考えられない。

 BGMはナイル・ロジャース制作の'86年のヒット「I'm Not Perfect」だが、ゴルチエがリメイクしたのは、名作『NIGHTCLUBBING』(1981)のカヴァーを飾った黒ジャケット姿の代表的イメージ。黒装束のグレイスのクローンたちがぞろぞろとランウェイを歩く様子は、同時期のライヴ映像作品『A One Man Show』(1982)の「Demolition Man」に登場するグレイス軍団(グレイスのお面を被ったモデルたち)を彷彿させる。トレードマークの角刈りヘアを、四角い帽子にアレンジしたのがナイス。登場する5体のうち、3体目と5体目のトップス(ジャケットとシャツ)は裾部分がハイレグ水着のように深く切り込まれ、左右のヒップ部分が大胆に露出している。これはやはり股の下で前後が繋がっているのだろうか(すごく気になる。ズボンを脱いだ状態を見てみたい)。一般的にシャツの裾が丸くカットされているのは、もともとシャツが下着として着用され、股の下で前後をボタンで留める様式だったことの名残なのだが、これをジャケットでもやってしまっているのがスゴい。一体どうやって脱ぐのだろう。このデザインは今回のコレクションの他の服でも見られる。個人的には、比較的シンプルにまとめた1体目(ジャケットが胸部分で横に寸断されている)と4体目にグレイスらしいエレガンスが感じられてお気に入り。1体目でモデルを務めたセシリー・ロペス Sessilee Lopez は顔もちょっとグレイス似で嬉しい。尚、ショウの会場には、グレイスの最盛期のヴィジュアルを演出していたグラフィック・デザイナー/写真家のジャン=ポール・グードも姿を見せていた。


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Annie Lennox

 次に登場するのは、白人版グレイス・ジョーンズだったアニー・レノックス。BGMはもちろん「Sweet Dreams」(1983)。スタイリッシュなダブルの黒スーツを着たハナロア・クヌッツ Hannelore Knuts が登場した瞬間に度肝を抜かれた。本物かと思うくらい当時のレノックスのイメージそのままだ。歩く後ろ姿、立ち姿などまさにそのもの。すげ〜(って、別にそっくりさん大会ではないのだが)。ユーリズミックスとしてデビューした当時、アニー・レノックスは『地球に落ちて来た男』時代のデヴィッド・ボウイに倣って髪をオレンジに染めていたのだが、クヌッツの髪はジギー・スターダストのように真っ赤に染まっている。一見普通のスーツだが、セシリー・ロペスが着たグレイス・スーツと同様、ジャケットが胸の位置で横にバッサリ寸断されているのが面白い。このジャケットは背面も同じように寸断されている。両手を上げて万歳をしてもらわないと分からないが、もしかすると胸から上と下で完全に切り離されているのかもしれない(だとすると、下部分は腹巻きのように身体に巻かれているだけということになる。ボタンを外せない……)。風通しが良さそうなので、春夏に着るにはいいだろう。ジャケットの背中の切れ目から肌が露出しているところを見ると、インナーの白シャツも普通ではないようだ。ちなみに、ゴルチエは似たようなピン・ストライプの生地を使って、これを更に風変わりにしたようなマニッシュなスーツをミレーヌ・ファルメールの'09年ツアー用に作ったことがある。

 アニー・レノックスは全部で3体登場。3体目の白黒コーディネートは、アレサ・フランクリンとのデュエット曲「Sisters Are Doin' It For Themselves」(1985)のヴィデオや、『REVENGE』(1986)期のレノックスを思い出させる。ドミノ・マスクは『TOUCH』(1983)のカヴァー写真を意識したものだろう。私にとって'80年代の最強ディーヴァは、マドンナでもホイットニーでもなく、グレイス・ジョーンズ、アニー・レノックス、そして、シャーデーの3人である。このオープニングの展開はたまらない。


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Madonna

 ゴルチエと縁が深いポップ・スターと言えば、やはりマドンナ。ゴルチエがデザインした一連の下着ファッション──「Open Your Heart」(1986)の黒いビスチェ、'90年〈Blonde Ambition〉ツアーの悪名高いコーンブラ(円錐形ブラ)等──は、マドンナの挑発的な表現に莫大な貢献を果たした。以後もゴルチエはマドンナと組み、'01年〈Drowned World〉ツアー、'06年〈Confessions〉ツアー、'12年〈MDNA〉ツアーでも衣裳を担当。最新の〈MDNA〉ツアーでは、懐かしのコーンブラ&コルセットをリメイクして復活させている(「Vogue」で着用。鎧みたいになっている。“ヴォーグ戦士”と名付けたい)。ちなみに、ゴルチエはゲイだが、彼にとってマドンナは唯一結婚したいと思った女性だそうで、過去に3回(!)もプロポーズしたことがあるという……が、その度に丁重に断られた(笑)。

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ゴルチエを着たマドンナ──'90年ツアー(左)と'12年ツアー(右/ヴォーグ戦士)

 「Vogue」(1990)をBGMにステージで軽くヴォーギングのパフォーマンスが披露された後、「Dress You Up」(1984)に乗って7人のモデルが登場。1体目こそ〈Blonde Ambition〉ツアー風のルックスだが、敢えてコーンブラはあまり用いず(3体目でアップデイト版が見られる)、まだゴルチエが関わっていなかった'83年デビュー時の初期マドンナのイメージを独自にアレンジしたものがメインになっている。これはさすがのハマり具合だ(が、意外性がない分、面白味にはやや欠けるかもしれない)。2体目はマドンナでも着こなせないくらい過激。テープで作ったようなこのブラウス(?)、一体どうやって着るのだろう。そう言えば、昔はカセットテープがこういう状態になってしまうことがよくあったなあ(おお、'80年代よ……)。


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Boy George

 カーリー・クロス Karlie Kloss ら4人が扮するのは、“文化倶楽部”の部長、ボーイ・ジョージ。デザインは東洋テイストが強調されている。メイクのせいもあり、一目見て“あ、ボーイ・ジョージ!”と思うのだが、よく考えるとボーイ・ジョージ本人は実際にこういう東洋風の格好はしていなかった。それらしく感じるのは、やはり「Miss Me Blind」や「It's A Miracle」ヴィデオの怪しい日本趣味の印象があまりにも強烈だからだろう。それっぽいのによく見ると全然違う、というゴルチエの絶妙の捻り具合がこのショウの面白いところだ。BGMにはお約束的に「Karma Chameleon」(1983)が使われているが、ここはやはり「Miss Me Blind」を使って欲しかったなあ。めらめらと燃えている〜!


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Mylene Farmer / Catherine Ringer

 フランス勢も負けていられない、というわけで、ボーイ・ジョージの前後にミレーヌ・ファルメールとカトリーヌ・ランジェ(レ・リタ・ミツコ)が各1体ずつ登場する。どちらも実際にゴルチエが衣裳を手掛けているアーティスト。

 ミレーヌ・ファルメールは『ANAMORPHOSEE』(1995)のカヴァー写真(マドンナ風の黒い下着ルック)や、'09年ツアーなどでゴルチエを着ている他、ゴルチエの'11〜12年秋冬パリ・オートクチュール・コレクション('11年7月6日)にモデルとして登場したこともある。BGMは「Libertine」(1986)。これも一目見て“あ、ミレーヌ・ファルメール!”と思うのだが、実際の彼女の格好とは随分違う(と思う。ファルメールのファンでないので正直よく分からない)。

 レ・リタ・ミツコはデビュー当初のヒット「Marcia Baila」(1984)のヴィデオで、当時同じく新進だったゴルチエの服を既に着ていた。ゴルチエのコーンブラを最初に身に付けた女性歌手は恐らくカトリーヌ・ランジェである。『RE』(1990)のカヴァー写真でカトリーヌ&フレッドが着ている衣裳もゴルチエ。BGMには当然ながら「Marcia Baila」が使われ、同ヴィデオで彼女が着ていたコーンブラ・ドレスをリメイクしたようなコスチューム──『VARIETY』(2007)のイラストの実写版のようでもある──が登場する。モデルの髪型も当時のカトリーヌ風。リタ・ミツコのファッションで印象深いのは、何と言っても「C'est Comme Ca」(1986/ジャン=バプティスト・モンディーノ監督)で着ていた縞々の白黒コスチュームである。どうせならあれをリメイクして欲しかったのだが……(あの衣裳はゴルチエではないのだろうか?)。

 ここ10年ほど遠ざかっていたが、私はカトリーヌ・ランジェのぶっ飛んだ奇抜なヴォーカル──フラメンコのカンテを思わせる──が好きで、昔はよくリタ・ミツコを聴いていた(最初の出会いは'92年春、渋谷のシネマライズで『ポンヌフの恋人』を観た時だった。ラストで流れた「Les Amants」に衝撃を受け、その後、同曲が収録された『SYSTEME D』を買った)。リタ・ミツコのダサかっこいいニューウェイヴ・サウンドと、悪趣味すれすれのゴルチエの奇抜なファッションは抜群の相性だったと思う。'80年代のフランスを代表するポップ・アイコンとして、もっと大きくフィーチャーされても良かったのではないか。

※この記事を書きながら久々にリタ・ミツコを聴き返していたところ、シャーデーの「Love Is Found」に似ている曲があったことを思い出した。「Love Is Found」を初めて聴いた時、何となく覚えた既聴感はリタ・ミツコのせいだったのかもしれない。1年半前の記事“愛の訪れ”に追記を加えたので、興味のある方はどうぞ。


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Jane Birkin

 フランスを代表をする'80年代ポップ・アイコンは……ジェーン・バーキン? 全部で6体登場。娘にも受け継がれているトレンチコート、マニッシュなパンツ・スーツ、デニム素材(テカテカしてプラスチックな感じ)でバーキンのマスキュリン&フェミニンな個性を表現。最後に出てくるモデルはちょっとなまいきシャルロット風。バーキン自体は別に悪くないが、イメージ的に彼女はあまり'80年代とは結びつかない。しかも、BGMは「Je T'aime... Moi Non Plus」(1969)。ブリジット・バルドーだと完全に'60年代になってしまうし、ヴァネッサ・パラディも'60年代リバイバルだし……じゃ、間を取ってジェーン・バーキンで(イギリス人だけど)、ということなのだろうが、ショウのテーマ的にちょっと無理があるように思う。BGMはせめて「Quoi」か「Baby Lou」あたりにして欲しかった(開き直って、いっそ「Love On The Beat(←必見)」でも良かったのでは?)。


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Michael Jackson

 いきなり「Beat It」が流れ、MJガールズ登場! 3体だけだが、どれも面白い。黒いフェドラ帽と白手袋の「Billie Jean」スタイルを基調にしながら上手くヴァリエーションを作っている。赤ジャケットの1体目は「Beat It」風。2体目は'84年ペプシCF(路上篇)風? ややメタリックな3体目には「Bad」テイストが感じられる。ブラでしっかり女子っぽさを出しているのが良い。MJファッションは個性が強すぎて、他の人間が真似すると単なるコスプレになってしまうが、これはかなり上手く一般化されているように思う。ミリタリー・ルックを避けたのは大正解。私はカジュアル度が高い2体目が特に好き(っていうか、モデルの娘が好き。モアラ・マリノ Moara Marinho という)。ちょっとアレンジすれば、日本の女子でも着られそうな感じだ。黒い革ジャンは、背面に白い生地を使ってベストのように仕立てている。私は3体目(セシリー・ロペス)が被っているブリムの太い帽子(半分ボーラーみたい)が意味もなく欲しくなった。垂れ下がっている前髪は、モデルの地毛でもウィグでもなく、帽子の方にくっついている。このMJハット、脱着可能の前髪つきで商品化されたら面白い。


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Sade

 MJに続いてシャーデー・ガールズ登場! これはナイスな展開。しかも、BGMは「Smooth Operator」ではなく「Hang On To Your Love」(偉い!)。シャーデーは、なんとマドンナと同じ最多の7体登場。マドンナに比肩する'80年代女性ポップ・アイコンとしてゴルチエがシャーデーを重視していることが窺い知れる。マドンナが'80年代音楽界のマリリン・モンローなら、シャーデーはローレン・バコールである。雰囲気は全く異なるが、彼女の中性的な個性は確かにゴルチエの嗜好とも合致するものだろう。

 モデルは全員、髪を引っ詰め、真っ赤な口紅をつけてフープ・イヤリングをしたシャーデー・スタイル。ぞろぞろ出てくるとロバート・パーマーのヴィデオみたいだ。黒を基調にしたシックなコスチュームで、'84年『DIAMOND LIFE』時代のイメージが再現される。1体目は、日本人女性でもちょっとスタイルが良ければ着られそう。こういう肩が出たタイプのドレスをシャーデーはデビュー当時よく着ていた(「Your Love Is King」ヴィデオでは白ヴァージョンが見られる。『七年目の浮気』のマリリンみたい)。これはこれで良いが、ボトムスをスカートではなくパンツにすると、もっとシャーデーっぽくなるだろう。最もシャーデーらしいのはパンツスーツの2体目か。自分がもともとメンズ・ファッションのデザインをやっていたこともあり、デビュー当時の彼女はマニッシュな服を好んでよく着ていた(男物をそのまま着ることもあった)。2体目は黒い革手袋をはめるとよりシャーデーらしくなる。3体目のボートネックのワンピースも結構シャーデーっぽい。色も素材も違うが、これは「Smooth Operator」ヴィデオの白いワンピースに少し形が似ている。4〜5体目はちょっと微妙なところだが(こういうシルエットの服はシャーデーは着ていなかった)、アレンジとしては面白いと思う。5体目はコルセット風のウェスト部分がゴルチエ的で、いかにも“遊んでみました”という感じ。後半の3体ではエスニック・テイストを取り入れたデザインでシャーデーらしさを表現。最後の7体目は'88年ツアーの白ドレスにやや雰囲気が似ている。後半の服はアフリカ系の女性でないと似合わないだろう。

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'80年代のシャーデー(デビュー当初はまだあまりフープ・イヤリングをつけていなかった)

 トレンチコートなども取り入れてもう少しマニッシュな感じを出すとか、もっと身体の線を強調するデザインがあっても良かったと思うが(シャーデーは意外とボディコン好きなのだ)、エレガントでエキゾチックなシャーデーの雰囲気は上手く捉えられていると思う。いかにもシャーデーっぽく感じさせるゴルチエのデフォルメが面白い。もっとも、シャーデーは何を着ても似合ってしまう人なので、モデルのルックスさえシャーデー風なら、結局、デザインは何でもいい(笑)とも言える。何度も書いている気がするが、私はシャーデーに和服を着せたくてしようがない。

 7人のモデルは登場順に、Lais Ribeiro、Kelly Gale、Jourdan Dunn、Yasmin Warsame、Joan Smalls、Anais Mali、Shena Moulton。ルックス的には3番目のジョーダン・ダンが最もシャーデーに似ていると思う(ちょっとふてぶてしい感じも含めて)。最後のシェナ・モールトンは、グレイス・ジョーンズの時にサングラス&煙草で出てきたモデル。みんな超綺麗で、スーパーシャーデーといった風情である。シースルー素材が多く、実際のシャーデーよりも露出度が高いのが嬉しい。マドンナのように実際にゴルチエが衣裳を手掛けているスターよりも、ゴルチエと全くイメージが結びつかないシャーデーのようなスターがモチーフにされる方がやはり面白い。7点も作ってくれて私は大満足である。ゴルチエ、ありがとう〜。


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Jean Paul Gaultier

 モチーフの中にはデザイナー自身も登場する。'88年にゴルチエが調子に乗って出したハウス調のシングル曲「How To Do That」(トニー・マンスフィールド制作)をBGMに、彼のトレードマークであるネイビー・ストライプ(セーラー・ボーダー)柄を使った新作が4点紹介される。フープ・イヤリングをつけた1体目(Betty Adewole)は、シャーデー・コーナーからの流れで微妙にシャーデー風(っていうか、もはや全然シャーデーじゃない)。4体目はこれまた微妙にマドンナ風だが……はっきり言って、'80年代ポップ・スターとはあまり関係ない。ストライプで色々アレンジしてみましたコーナー。


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Abba

 ミラーボールが輝く中、アバ「Gimme! Gimme! Gimme!」(1979)が流れ、今度はサテンのスタジアム・ジャンパーを使ったディスコテックなコスチュームが登場。ドナ・サマーではなくアバがネタにされたのは、もちろんマドンナと関係があるから。案の定、BGMは途中から「Hung Up」(2005)へ繋がり、新解釈のディスコ・ファッションが引き立てられる。分かりやすいが、さすがに予定調和的な感じもする。モデルがローラースケートで滑りながら出てくるとか、何か観客をあっと言わせるおバカな演出があってもいいかも。


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David Bowie

 '80年代ファッションのルーツとして、最後にデヴィッド・ボウイにスポットが当てられる。BGMはズバリ「Fashion」(1980)。但し、最初に出てくるのはグラム時代のジギー・ボウイ。これはほとんどオリジナルそのまんま。中国の遊園地の胡散臭いドラえもんみたいな感じだ。元ネタであるボウイのアシンメトリーのニット・スーツは左腕と右脚が露出しているのだが、こちらは左右逆になっている(笑)。最も有名なジギーのイメージをオリジナルに忠実に焼き直したのは、'80年代ファッションのゴッドファーザーとしてのDBに敬意を払ってのことだろう(そう言えば、'12年はジギー・スターダスト降誕40周年でもある)。露骨にボウイ風なのは最初の1体だけで、後の6体はいずれもグラム〜ニュー・ウェイヴ〜ニュー・ロマンティックス感覚でデザインされたゴルチエのオリジナル・コスチューム。カーリー・クロスのボディとウォーキングが尋常でない。アンドロイド役でそのままSF映画に出られそうだ。


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Amanda Lear

 大トリを務めたのは、アマンダ・リア(本人)。サルバドール・ダリ、デヴィッド・ボウイ、ブライアン・フェリーらと浮名を流した年齢・性別不明のディスコ・クイーンにしてゲイ・アイコン。自身のディスコ・ヒット「Fashion Pack」(1979)をBGMに、ピンクのロングドレスで登場。男性モデル(Tarik Lakehal)を従えてランウェイを歩き、途中でスカートを外して見事な脚線美を披露する。このピンクのドレスは、『紳士は金髪がお好き(Gentlemen Prefer Blondes)』(1953)のマリリン・モンローのナンバー「Diamonds Are A Girl's Best Friend」と、それをもじったマドンナのヴィデオ「Material Girl」(1984)を意識したものだろう(リア自身、昔からピンクのドレスを好んで着ている)。彼女の登場で会場はドッと沸くが、半分くらいの観客はデビー・ハリーと間違えている可能性あり(笑)。

 ちなみに、マリリン・モンローの面影を持った'80年代音楽界の金髪セックス・シンボルには、ずばり“Blondie(パツキン)”という名のバンドでデビューしたデビー・ハリー、「Material Girl」のマドンナの他に、カイリー・ミノーグ、パッツィ・ケンジット、サマンサ“爆乳”フォックスなどがいた。私はプリミティヴズのトレイシー・トレイシーが好きだったということをこの場を借りて告白しておきたい(懐かしいぜっ)。


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 グレイス・ジョーンズで始まりアマンダ・リアで終わる、というゴルチエらしいマスキュリン+フェミニンな'80年代ファッションの饗宴。最後はモンローではなく、ディートリッヒで落としても良かったかもしれない(その場合、ご本人登場はマドンナに頼むしかないだろうが)。'70年代までは、男が化粧したりするとそれだけで物珍しい目で見られた。'80年代になると、男が化粧しても、女が男装しても誰もあまり驚かなくなった。ボーイ・ジョージが出てくるテレビCMも普通に茶の間に流れていたし、当時小学生だった私も“カ〜マ、カマ、カマ、カマ……”と無邪気にオカマの歌を口ずさんでいた。それまでアンダーグラウンドなものだったジェンダーミックスが、社会的に広く許容されるようになったのが'80年代だったということを、ゴルチエのこのショウは思い出させる。

 ここまで盛大に'80年代祭りをやっておいて、プリンスが取り上げられなかったのは不思議だ。『PARADE』時代あたりのファッションをゴルチエのセンスでリメイクすると面白いものが出来たような気がするのだが(一応、インスピレーション源としては名前が挙げられている。もしかして今後のネタ用に温存した?)。'80年代にゴルチエ自身が手掛けたラリー・ブラックモンの貞操帯ファッション(「Word Up」のあれ)が見られなかったのも残念。MJガールは股間掴みもやっていることだし、キャメオ・ネタがあれば更にウケたに違いない(って、別に笑いを取ることがショウの目的ではないが……)。

 思い返すと、アイパッチをしたピート・バーンズとか、水玉ゴスロリ・ファッションのストロベリー・スウィッチブレイドとか、'80年代には変な格好をした連中がたくさんいた('90年代になると、グランジやヒップホップの影響でみんなカジュアルな格好をするようになった)。いま見るとギャグにしか思えないような数多の'80年代ファッションの中から、ゴルチエはさすがプロフェッショナルな選択をしたと思う。個人的には、グレイス・ジョーンズ、マイケル・ジャクソン、シャーデーの3つを大いに楽しんだ。お気に入りのスターがこうしてリメイクされるのを見るのは、やはり単純に楽しい。

 私自身はファッション(流行)に全く疎い人間で、普段は地味な格好をしているのだが、ファッションというものには遊び心も大切だと思う。マドンナのコーンブラや、ラリー・ブラックモンの真っ赤な貞操帯が単なるお下劣ファッションにならないのも、そこにユーモアの感覚があるからだろうし(あれらを見て、多くの人は顔をしかめる前に笑ってしまうはずである)、ゴルチエが長年第一線で活躍してこられたのも、常にユーモアやウィットを忘れずにクリエイションを行ってきたからではないかと素人ながらに思う。ゴルチエには今後も是非、こういう楽しい“遊び”をやってもらいたい。


INSPIRATIONS FOR THE SHOW:
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(Click the pics for videos)

SOUNDTRACKS:
Grace Jones - I'm Not Perfect (But I'm Perfect For You)
Eurythmics - Sweet Dreams (Are Made Of This)
Madonna - Vogue
Madonna - Dress You Up
Mylene Farmer - Libertine
Culture Club - Karma Chameleon
Les Rita Mitsouko - Marcia Baila
Serge Gainsbourg & Jane Birkin - Je T'aime... Moi Non Plus
Michael Jackson - Beat It
Sade - Hang On To Your Love
Jean Paul Gaultier - How To Do That (Aow Tou Dou Zat)
Abba - Gimme! Gimme! Gimme! (A Man After Midnight)
Madonna - Hung Up
David Bowie - Fashion
Amanda Lear - Fashion Pack
Laroche-Valmont - T'as Le Look Coco

WATCH 24 MINUTE FULL SHOW

Amazing Grace.jpg(バックステージ画像集1)
Like Michael back in the day.jpg(バックステージ画像集2)
Like Sade back in the day.jpg(バックステージ画像集3/隠し画像付き)


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