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Sade @ MGM Grand Garden Arena 2011 (part 5)



 9月3日(土)の夜にMGMグランドのアリーナで行われるシャーデーのコンサートを観るため、私はラスベガスにやって来た。私のベガス滞在は9月2日~3日の2日間で、2日(金)の夜は暇である。いくら金がないとはいえ、宿でテレビを見ていてもつまらない。せっかくラスベガスまで来たのだから、初日の夜は何かひとつショウを観ようと思った。

 ラスベガスではたくさんのショウをやっている。『カー』『ミスティア』『オー』『ビートルズ・ラヴ』といった人気の高いシルク・ドゥ・ソレイユ作品、日本でもお馴染みの『ブルー・マン・グループ』、あるいは、『オペラ座の怪人』などの有名ミュージカル、他にも、豪華レヴュー、マジック、物真似、コメディ、サーカス……様々なショウが毎晩あちこちのホテルの劇場で上演されている。

 数あるラスベガスのショウの中で私が選んだのは、MGMグランドで上演されている『クレイジーホース・パリ(Crazy Horse Paris)』だった。ジャンル的には“アダルト・ショウ”の部類に入るもので、ステージにいわゆるトップレスの──簡単に言うと、オッパイぽろろんの──白人のお姉ちゃんたちがたくさん出てきて、色々なことをやるというショウである。但し、ここで誤解のないよう言っておきたいのは、私は決してお姉ちゃんたちのオッパイが見たくてこのショウを観に行ったわけではないということである。このショウの最大の見所は、その独特の洗練された舞台演出にある。つまり、私の興味の対象は、お姉ちゃんたちのオッパイそれ自体ではなく、飽くまでオッパイの見せ方のほうなのだ(なんだ、結局オッパイを見に行ったんじゃないか、というツッコミは一切受け付けない)。『クレイジーホース・パリ』は、何の後ろめたさもなく、正々堂々とすっぽんぽんのお姉ちゃんたちを見に行ける実に素晴らしいショウなのである。

【注意】この記事には女性の裸が出てきます。18歳以上の方のみご覧ください。


CRAZY HORSE PARIS

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MGMグランド、カジノ・フロア内にあるクレイジーホースのエントランス

 “クレイジーホース”というのは、フランスのパリにあるキャバレーのことである。開業は1951年。パリのキャバレーとしては、“ムーラン・ルージュ Moulin Rouge”(1889年~)、“リド Lido”(1946年~)などと並ぶ有名な老舗だ。MGMグランドの『クレイジーホース・パリ』は、パリで上演されているクレイジーホースのショウを、ラスベガスにそっくりそのまま直輸入したものなのである。

 ショウは火曜を除く毎晩2回、8時と10時30分に上演されている。18歳未満入場不可、料金は50.5ドルと60.5ドル(全席指定)。もちろん劇場窓口で定価でチケットを購入してもいいのだが、私はこれを半額の32ドルで観た。ラスベガスにはTix 4 Tonightという格安チケット販売店がストリップ沿いにたくさんあり、そこで多くのショウの当日券を半額で買うことができるのである。昼間、MGMグランドのライオン・ハビタットを訪れた後、私はMGMグランド近くのTix 4 Tonightへ行き、その晩の『クレイジーホース・パリ』のチケットを入手していた。購入したのは10時30分の回のチケットである。日没後、3時間ほど夜のストリップを散歩した後、10時過ぎに私はMGMグランドへ向かった。

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304番テーブルからステージを眺める(開演5分前)

 『クレイジーホース・パリ』は、MGMグランドのカジノ・フロア内にある。古風でこぢんまりとしたエントランスを入って劇場ロビーを抜けると、左手に小さなステージがあり、ステージに向かって横長に客席フロアが広がっていた。ちょっと不思議な構造である。店内の構造や内装は、絨毯、テーブル、ランプに至るまですべてパリのクレイジーホース本店を忠実に再現しているという。シックで落ち着いた雰囲気だ。テーブル付きの客席フロアは段差のついた3つのセクションに分かれていて、私が案内されたのはセクション3の、ステージに向かって右寄りの8人掛けテーブル(304番)だった。セクションとしてはステージから最も遠いが、会場が横長で奥行きがあまりないため、ステージはかなり近く感じられる。私が店に着いた開演20分ほど前の時点で客席はまだそれほど埋まっておらず、私はテーブルの一番前の手すり際に座ることができた(チケットにはテーブル番号しか指定されていないので、早めに行ったほうがテーブルの良い位置に座れる)。

 ステージは驚くほど小さい。幅8メートル、高さ2メートル。紙芝居や人形劇、あるいは、見せ物小屋の怪しげなアトラクションなどに似て、眺めるというよりは、覗き込むという感覚に近い。ステージを覆う幕に、開演15分前から“THE SHOW STARTS IN ~ MIN(開演まであと~分)”という表示が現れ始めた。エメラルドにキラキラ輝くこの文字の鮮やかさにまず軽く驚く。プロジェクターで映し出されているとは思えないほど鮮明で、まるで幕に直に書かれているように見えるのだ。何もない幕に魔法のように文字が現れては消えるので、ちょっと不思議な感じがする。文字は5分おきに現れ、最後は“IN 1 MIN(あと1分)”と表示された。実はこの鮮やかな光の演出こそ、クレイジーホースのショウの最大の特色なのである。10時30分、古めかしいベルの音が開演を告げると、場内が暗くなった。

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God Save Our Bareskin

 「God Save Our Bareskin」というタイトルが暗闇の中に浮かび上がり、幕が開く。背の高い熊皮帽を被ってイギリスの衛兵に扮したトップレスの女性たちが狭いステージにずらりと並ぶ。うわあ、オッパイがいっぱいだあ! ファッションは極端にデフォルメされ、女たちはほぼ裸に近い格好である。『クレイジーホース・パリ』では、出演者もすべてパリから輸入しているという。そして、裸を売り物にする多くのアメリカ人女性たちと違い、彼女たちは豊胸手術を一切していないというのが、このショウの売りのひとつでもあるらしい。なるほど、確かにどのオッパイもいい感じの自然な大きさをしている。このショウでは、何の偽りもない、正真正銘の本物の生オッパイが見られるのである。

 「God Save Our Bareskin」はクレイジーホースの定番オープニング・ナンバー。勇壮な行進曲が流れ、号令に合わせて女たちが様々に隊列を組む。ステージの床の一部がベルトコンベアのような可動式になっていて、ステージ上を女たちが直立したまま横に移動するといった演出も見られる。無表情のまま一糸乱れぬ動きを見せる女たち。このストイックで男性的なパフォーマンスが、露出された女体を一層引き立てる。う~ん、エロい。「Soldier Of Love」を歌うシャーデーもいいが、こっちの“愛の兵隊さん”もいいなあ。

 エロいことはエロいが、低俗でいやらしい感じはしない。ウィットが利いているし、コスチュームも含め、ヴィジュアルがとにかくハイセンスで洒落ている。動きだけでなく、背丈、プロポーション、オッパイの大きさに至るまで見事に揃った女たちからは、アンドロイドのような印象も受ける。観客は、肉欲の対象と言うよりは、むしろ美しいオブジェでも眺めるような感覚で女体を観賞することになる。

 女たちの裸体の上には赤い横線がいくつも走っている。檻の中でパフォーマンスを行っている──あるいは、身体にテープを巻き付けているようにも見えるが、この横線はプロジェクターで投影されたものである。このショウで女たちはステージに裸で登場し、照明を衣裳のように身に纏う。

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But I'm A Good Girl

 「God Save Our Bareskin」が終わると、ステージ全体がスクリーンに早変わりし、楽屋の出演者たちの様子などを見せるイントロ映像が挨拶のように流れた。このショウには全体を通して一貫したストーリーのようなものがあるわけではなく、次々と色んな出し物が登場するレヴュー形式で進行していく。各演目の間は暗転して幕が下り、暗闇の中に演目名が浮かび上がる。どの演目も演出が異なり、様々な趣向が凝らされていて面白い。

 「But I'm A Good Girl」という演目では女性がソロで登場し、軽快なスウィングに乗ってチャーミングに歌い踊る。歌はリップシンクだが、ダンスはしっかりしていて、普通のミュージカル・ナンバーとして見てもそれなりに楽しめる。肌には放射線状のピンクの縞模様が映し出され、美しい裸体を一層引き立てる。女性はアクセサリーとハイヒール以外、最初から小さなGストリングしか身に付けていないが、最後にはそれも脱ぎ捨て、完全にすっぽんぽんになってしまう。

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Chair Me Up

 「Chair Me Up」は椅子を使った古典的なバーレスク調ナンバー。Gストリングをはいたトップレスの女たちが椅子の上で挑発的に踊る。紫に照らされた裸体にドット模様が鮮やかに映し出され、古典的なパフォーマンスながら、また独特の刺激的なヴィジュアルになっている。暗いステージにドットの光で浮かび上がる美しい肢体。単純に女の裸をよく見たい向きには照明が邪魔に感じられるかもしれないが、この“光のコスチューム”こそがクレイジーホースのショウの醍醐味。この演目ではプリンスの「Pheromone」がBGMに使われていた。

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Evolution

 光を身体に当てる演出の効果が最も分かりやすく発揮されていたのは、2人の女性が大きなフープと共に回転する「Evolution」か。フープに掴まりながら様々にポーズをとる2つの女体に、万華鏡のような極彩色のイメージが投影される。光の映り方はフープの回転と女性のポジション移動によって絶えず変化していく。この光の模様の現れ方が実に鮮やかで、本当に“光を着ている”ように見える。くるくる回る美しい女体を眺めながら、こういう置物があったらいいな、などと思った。

 終演後に気付いたのだが、客席後方の壁の上にプロジェクターが設置してあった。裸体に鮮明なイメージを映し出すには、プロジェクターとステージの距離を短くする必要がある。あまり奥行きのない横広がりの会場の構造は、“光のコスチューム”を作り出す上で必然的なものなのだろう。クレイジーホースのショウは、クレイジーホースの店でしか実現できないものなのだ。

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Legmania

 プロジェクターを使った演目の中で個人的に最も面白かったのは「Legmania」である。仰向けにずらりと並んだ女たちが、観客に尻を向けながら脚だけでパフォーマンスをする。垂直に上げられた女たちの脚に、モノクロと赤を基調とした様々な幾何学的な模様が映し出される。完璧に統制のとれた脚の動きと光のコンビネーションが実に美しい。不思議なイメージに見入るうちに、女の股を眺めているということを忘れてしまう。しかし、それはやはり女の下半身には違いなく、眺めながら二度感動してしまうのである。これはバズビー・バークレーの女たちを眺める時の感動とよく似ている。

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Lecon d'Erotisme

 クレイジーホースの魅力は光だけではない。「Lecon d'Erotisme」では、黒い下着姿の女性が大きな唇型のソファの上を動き回りながら、じっくりフランス流のエロの手ほどきをしてくれる。むふふ。このナンバーに登場する唇ソファは、サルバドール・ダリがメイ・ウェストの唇に触発されて制作した“Mae West Lips Sofa”(1937)を再現したものである。赤い唇ソファには黒いドットのストライプ模様が投影され、これまた面白いアクセントを作っていた。クレイジーホースのショウには、いかにも今風の派手で大掛かりな演出は出てこない。昔ながらのキャバレーの伝統を受け継いだ、ウィットやユーモアの利いた洗練されたお色気がこのショウの大きな魅力である。

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Baby Buns

 「Baby Buns」は陽気なナンバー。ステージ前方に設置された1本の長い手すり越しに女たちが歌う。『スウィート・チャリティ』の「Big Spender」と同じ(というか、パクリ)だ。女たちの裸体にはピンクの水玉模様が映し出され、これがオレンジ色のボブのウィグとマッチして実にキュート。彼女たちのはいているホットパンツは尻部分がぽっかり丸く空いていて、そこにピンクの水玉がいい具合に映る。最後は全員で後ろを向き、手すりにもたれながらお尻をフリフリ。このお尻フリフリが完璧に揃っていて、見ていると幸せな気分になってくる。尻フェチにはたまらないナンバー。

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Teasing

 数あるナンバーの中で私が思わず唸ったのは、後半に登場した「Teasing」だった。ポスターにも写真が使われているクレイジーホースの代表的な演目である。靴底が真っ赤な黒いハイヒール、片方だけに黒いストッキングをはいた艶めかしい女の脚がステージ中央に現れる。観客に見えるのは尻から下だけで、上半身は隠れている。上半身に照明が当てられていないのではなく、この演目ではステージ全体が黒い壁で覆われ、中央に空いた長方形の小窓から女の下半身だけが覗いているのである。横8メートル、高さ2メートルしかないステージが、更に縮小されたような感じだ。これが私の目には、ステージが小さくなったのではなく、女のほうが大きくなったように見えた。単なる目の錯覚なのだが、この脚は会場で見ると異様に大きく見える(一体どうやって大きく見せているのか私は不思議で仕方なかった)。「Harlem Nocturne」風の官能的なジャズの調べに乗って、女はゆっくり片脚を上げたり下げたり、その場で回ったりする。脚フェチにはこれだけでもたまらない。観客を十分にじらした後、女はゆっくりと巧みに黒いパンティを脱いでいく。単なるストリップティーズと侮ってはいけない。この脚の見せ方、そそり方、脱ぎ方は、もはや芸術の域に達している。女の脚だけが覗く光景は、どことなくユーモラスでもある。間違いなくベスト・ナンバーのひとつだろう。

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The Scott Brothers

 ショウの途中には2組の芸人がスペシャルティとして登場した。出演者は時期によって変わると思うが、私が行った時にはスコット・ブラザーズ The Scott Brothers という2人組のダンス・アクトと、マイクロ・ジャクソン Micro Jackson という2人組のコメディ・アクトによるパフォーマンスがあった。

 スコット・ブラザーズというダンス・コンビを私は事前に全く知らなかったが、これがとんでもないショウストッパーで驚いた。2人のダンス・スタイルは基本的にポッピングである。しかし、純粋にパントマイム的な要素も含まれていて、単なるダンスとは一味違う、大変面白いパフォーマンスになっていた。基本的な技のレベルの高さはもちろんとして、2人の呼吸の合い方、そして、BGMの使い方が見事だ。BGMには途中にビートレスのノイズ(“ギー、ガチャ、ガガガガガ”みたいな変則的な機械音)部分が含まれているのだが、2人はアニメーション、ロボット、ウェービング、ティッキングなどの技でこのノイズに完璧に動きを合わせる。その合い方が半端でない。コミカルなソロ回しなども織り交ぜながら、観客を終始飽きさせない。終盤では、帽子を片手で摘んで宙に固定したまま、その周りをぐるぐる回るというパフォーマンスも見られた(2人同時にやり、しかも動きが完璧に揃っている)。帽子の周りを回るパフォーマンスなどは、ポッピングと言うよりは完全にパントマイムの世界だが、その分、ダンス・ファンだけでなく誰が見ても楽しめるエンターテインメントになっていた。ルーティンの完成度が高いし、見せ方が上手い。技がひとつひとつ飛び出す度に会場は爆発的な盛り上がりを見せた。凄い。こいつら、一体何者なんだ?

 あまり若いようにも見えなかったので、かなりキャリアの長いコンビなのだろうと思い、帰国後に調べてみると、スコット兄弟はサンディエゴ出身で、'80年代半ばからプロとして活動していることが分かった。'92年からラスベガスで仕事を始め、リビエラ・ホテルの『Splash』、スターダスト・ホテルの『Enter The Night』といった有名ショウに出演。『クレイジーホース・パリ』には'08年2月から出演している。ファースト・ネームはそれぞれマイケルとロバートという(上の写真、左がマイケル、右がロバート)。

 5分くらいのステージだったと思うが、彼らはその短い出番でクレイジーホースのショウを完全に喰ってしまった。こんなものが観られるとは夢にも思っていなかったので、私は本当に驚いた。結局、観客たちを一番興奮させたのは、裸のお姉ちゃんたちではなく、このスコット・ブラザーズである。お色気にオッサンが勝った感動的な瞬間だった。

The Scott Brothers (circa 1982)
The Scott Brothers (circa 1983)
The Scott Brothers (Nite Time Live 1985)
The Scott Brothers (Los Angeles 1991)
The Scott Brothers (Las Vegas 1994)
The Scott Brothers (Destination Stardom 1999)
The Scott Brothers (Las Vegas 2005)
The Scott Brothers (Corey Helford Gallery 2011)

※スコット・ブラザーズ早分かり映像集。やっぱりスゴい。初期のスタイルはポッピング+ロッキング。往年の黒人フラッシュ・アクトのようにスプリットをやっている時期もある。時代順に見ていくと、彼らの進化の過程が分かる。様々なスタイルを取り入れながら、エンターテインメントとしてどんどん完成されていく。私がベガスで観たのは、Corey Helford Gallery(カリフォルニア)でやっている'11年の最新ルーティン。いやあ、驚いた。素晴らしいものを見せてもらった。


 前半に登場したスコット・ブラザーズに代わり、後半ではマイクロ・ジャクソンのパフォーマンスがあった。その名の通り、ちっこいマイケル・ジャクソンが登場する。子供ではない。顔から下が人形状態になった四頭身のマイケルである(四つん這いで黒子になったパフォーマーが顔だけ出し、両手を使ってマイケルの両脚を表現している。説明するより実際に見てもらったほうが話が早い)。「Beat It」と「Smooth Criminal」に乗って、この“ちびマイケル”とバブルズがコンビを組んでドタバタを繰り広げる。最後はマイケルがバブルズに股間を叩かれ、“アオ~ウッ! アオ~ウッ!”と恍惚の雄叫びを上げる。こちらは“ややウケ”という感じだった。

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You Turn Me On

 クレイジーホースのショウは、出演者全員がポールに掴まりながら歌う「You Turn Me On」というキャバレー・ナンバーで華やかに締め括られた。終演は11時40分。きっかり70分のショウだった。

 セットリストは正確に記憶していないが、スコット・ブラザーズとマイクロ・ジャクソンを含めて、全部で14前後の出し物があったように思う。既成曲もあるが、クレイジーホースのショウでは基本的にオリジナルの音楽が使用されているようだ。古風なキャバレー調の歌から現代的なクラブ調の曲までバランス良くミックスされ、楽曲の質も高い(ショウのオリジナル・サントラは『FOREVER CRAZY』というタイトルで発売されている)。欲を言うと、音楽が良いだけにパフォーマンスがリップシンクなのが残念だ。もっとも、これで出演者が実際に歌うこともできたら、とても60ドルでは観られなくなるはずなので、これは仕方ないかもしれない。70分という上演時間も少々短く感じられたが、ショウの完成度自体は高い。出演者の質も高いし、全員よく訓練されている。少なくとも、日本で観られないものを観たな、という充足感は得られた。お洒落で芸術的な演出が売りのショウなので、女の裸が見たい男性だけでなく、女性にもお薦めできる(会場には女性客も多かった)。結局、終わってみれば、一番印象的なのはスコット・ブラザーズだったりしたのだが……。


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CRAZY HORSE PARIS with Dita Von Teese (2010)

God Save Our Bareskin / But I'm A Good Girl / Lazy [feat. Dita Von Teese] / Evolution / Legmania / Jungle Fever / Baby Buns / Teese'ing [feat. Dita Von Teese] / Le Bain Noir [feat. Dita Von Teese] / Kama / Lay, Laser, Lay / You Turn Me On

Bonus Features: Interviews, Making, "Teasing" (the original Crazy Horse act), etc.

 クレイジーホースのショウはDVDで観ることもできる。『Crazy Horse Paris with Dita Von Teese』は、“バーレスクの女王”として知られるディタ・フォン・ティース(一時期マリリン・マンソンと結婚していた)が、'09年2月、パリのクレイジーホースにゲスト出演した時の様子を収めたライヴ映像作品。ディタがフィーチャーされているのは「Lazy」「Teese'ing」「Le Bain Noir」の3つで(フィナーレの「You Turn Me On」にも顔見せで登場)、他は通常のクレイジーホースのパフォーマンスが楽しめる。本編の12の演目に加え、ボーナスで「Teasing」、ディタを含む関係者インタヴュー、メイキング映像も収録。

 '40~50年代の雑誌ピンナップから抜け出してきたようなディタは、さすがのお色気で期待に応えてくれる。彼女の胸は作り物らしいが、ウェストの尋常でない細さには驚かされる。見事なそそりっぷり、脱ぎっぷりである。まさに“夢の女”という感じだ。ディタはMGMグランドのクレイジーホースにも何度かゲスト出演したことがある。

 クレイジーホースのライヴDVDとしては、この他にも『Crazy Horse Le Show』(2003)、女優・歌手のアリエル・ドンバールがゲスト出演した『Arielle Dombasle au Crazy Horse Paris』(2007)がある。興味のある人には、入手が比較的容易なディタ・フォン・ティースのDVDをお薦めしておきたい。ただ、このショウの最大の魅力はライティングの美しさなので、やはり実際に会場で観るのに越したことはない。

CRAZY. CRAZY. CRAZY.(オフィシャル映像を寄せ集めた24分の動画。これを見ると、クレイジー・ホースのショウがどういうものか大体分かる)


MIDNIGHT GAMBLER

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30ドル当たった瞬間

 『クレイジーホース・パリ』終演後、劇場の外へ出ると、MGMグランドのカジノ・フロアは相変わらずの賑わいを見せていた。カジノは24時間眠らない。夜の12時近くになって、むしろ更に賑わいを増しているようだった。カジノ・フロアを歩いているうちに、私はふとスロットマシンをやってみようと思った。

 私はギャンブルというものを全くやらない人間である。パチンコも競馬もやらないし、宝クジすら買ったことがない。僅かな確率を信じるのが馬鹿らしいからである。しかし、ここはカジノの街、ラスベガスだ。ラスベガスに来てギャンブルをやらないのは、逆に愚かなことではないか? アメリカまでシャーデーを観に来るのに私は大変な散財をしている。特に頭に来るのは燃油サーチャージ5万円だ。これを取り返す絶好のチャンスではないか。やるしかない。狙え、ジャックポット!

 カジノ内にはとにかく膨大な数のスロットマシンがある。ボタンが色々並んでいるゲーム機能付きの台もたくさんあったが、遊び方がよく分からない。私は単純明快で操作が簡単そうな台を探した。台にはそれぞれ25¢、50¢、$1、$25などと書かれている。それがその台の勝負1回あたりの最低賭け金で、高額な台ほど勝ちも負けもデカいということになる。誰もやっていなかったが、中には$50という台もあった(恐ろしい)。私は$1の台の前に座った。

 カジノ内は喫煙可能で、至るところに灰皿が置いてある。私は煙草に火をつけ、50ドル札をマシンに挿入した。右脇のレバーをガチョンと引くと、3つ並んだリールが回転し、左から順番に勝手に止まっていく。何も揃わず、残金表示が49ドルに変わった。むむ……。台には“SPIN REELS”と書かれたボタンがあって、これを押してもリールを回転させることができる。レバーを引いたほうがスロットマシンっぽいが、すぐに面倒くさくなって、ボタンを押すほうが楽だということに気付く。台には“SPIN REELS”の他に、“BET ONE CREDIT”とか“PLAY 2 CREDITS”などと書かれたボタンもあった。“PLAY 2 CREDITS”を押すと、1度に2倍の金額を賭けることができるのだ。私は“PLAY 2 CREDITS”で1回2ドルの勝負を続けた。

 残金は瞬く間に減っていった。やばい、負ける。30ドルを切ったあたりで、50ドル札をもう1枚マシンに入れた。しかし、金はどんどん減り続ける。ダメだ、この台は。残り40ドルくらいになったところで一旦清算し、台を変えることに。清算ボタンを押すと、金額が書かれた紙切れが1枚出てくる。この紙切れは現金の代わりとしてそのまま他の台で使うことができる(両替所に行けば換金できる)。新たな台で勝負を続けたが、しかし、金がなくなるのは時間の問題だった。ごく稀に20~30ドルの当たりが出て多少は持ち直すのだが、圧倒的にハズレの確率が高い。大きな当たりも来ないまま、残金は遂にゼロになってしまった。

 これでおしまい? ゲーム開始時に火をつけた煙草は、まだ私の指先で煙っていた。僅か5分足らずで、このカジノは私からいとも簡単に100ドルを巻き上げたのだった。なるほど、これがカジノか。これは面白いように儲かるに違いない。ラスベガスを訪れてカジノで遊ばない人はいない。“運試し”などと言って、誰でもスロットマシンくらいはやってみるはずである。結局、私もそうした無数のカモの一人に過ぎなかったのだ。

 もう帰ろう。100ドルをあっという間に失い、虚脱しながらカジノ内を歩いていると、ちょっと面白そうなスロットマシンが目に入った。もう一度やれば勝つかもしれない。私は衝動的に10ドル札を台に入れてしまった。金が消えるまで、10秒も掛からなかっただろうか。私はそこで完全に我に返った。こいつは金喰いモンスターだ。おれは一体何をやっているんだ。

 事前に予算は100ドルと決めていた。話の種にもなるだろうし、負けても別に構わないと思っていた。要するに、私は話の種を100ドルで自ら進んで買ったのである。しかし、最後の10ドルは違った。それは完全に予定外の出費であり、負けてはいけない勝負だった。先に失った100ドルよりも、むしろ最後の10ドルのほうが惜しかった。余計な10ドルをすってしまった時、私は初めて強い敗北感を味わった。

 結局、ギャンブルというのは、“儲けよう”と思ってやってはいけないものなのだろう。客は、儲けるためではなく、“儲けられるかもしれない”という興奮を買うために金を払う。だから、たとえ負けても、その興奮を味わった以上、決して損はしていないということになる。金を多く払うほど、それだけ大きな興奮が得られる。この商売を最初に考えた人間は全く天才だと思う。カジノで儲かるのはカジノ側であって、絶対に客ではない。私はラスベガスで生まれて初めてギャンブルをやり、心の底から馬鹿らしいと思った。私がギャンブルをやることはもう二度とないだろう。


SWEET DREAMS

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おお、ノウルズさんじゃありませんか!

 帰りにWalgreensに寄り、朝食用のサンドイッチと飲み物を購入。110ドルを失った私に、まともな食事をする余裕はいよいよなくなっていた。真夜中過ぎにうなだれてモーテルへ帰る。

 テレビをつけるとCNNにビヨンセが出ていた。異国に一人でやって来て、知っている人の顔を見るとやけに安心する。ビヨンセの顔を見てこんなに心が癒されたことはない。でも、彼女は億万長者だもんなあ……。そう思うと、また溜息が出た。

 シャワーを浴び、ガイドブックやそれまで撮った写真などを眺めながらゴロゴロしていると、いきなりベッドの上にゴキブリが現れた。うぎゃあ! 正確にはゴキブリではなく、カマドウマ系の茶色いやつである。日本では見かけない虫だった。アメリカ虫に違いない。電話帳で潰してみたが、弾力があるベッドの上なのでちっとも潰れない。電話帳がもう1冊あったので、2冊の背で挟んでどうにか仕留めた。ざまあみろ。まったく、何なんだ、このモーテルは……。あと、これもどうでもいい話だが、シャワーを浴びている最中、『サイコ』を思い出してしまい、無茶苦茶にコワかったのをよく覚えている。シャワーの間、私は結局一度も目を瞑ることができなかった。これだからモーテルは困るんだよ……。

 午前3時過ぎに就寝。30時間以上起きっぱなしで、肉体的にも精神的にも疲れ切っていたが、興奮してなかなか寝付けなかった。クレイジーホースでお姉ちゃんたちの裸を見たからではない。あまりにも色々なことがありすぎたし、明日のことを思うと期待や不安でまた気持ちが落ち着かなかった。結局、眠りに落ちたのは明け方の4時半頃だっただろうか。カジノでは負けたが、私のラスベガス滞在の1日目は、こうしてどうにか無事に終わった。

 110ドルはもう忘れよう。明日はいよいよシャーデーだ!

(続く)


※写真はすべて筆者撮影(クレイジーホースのパフォーマンス画像を除く。クリックで拡大可)

Sade @ MGM Grand Garden Arena 2011 (part 1)
Sade @ MGM Grand Garden Arena 2011 (part 2)
Sade @ MGM Grand Garden Arena 2011 (part 3)
Sade @ MGM Grand Garden Arena 2011 (part 4)
Sade @ MGM Grand Garden Arena 2011 (part 5)
Sade @ MGM Grand Garden Arena 2011 (part 6)
Sade @ MGM Grand Garden Arena 2011 (part 7)
Sade @ MGM Grand Garden Arena 2011 (part 8)
Sade @ MGM Grand Garden Arena 2011 (part 9)

Soldier Of Love Tour [2011]
Soldier Of Love Tour on YouTube

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