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Sade @ MGM Grand Garden Arena 2011 (part 1)

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 シャーデーのコンサートを観た。
 
 '11年9月3日(土)。場所はアメリカのネバダ州、ラスベガス。
 会場はMGMグランド・ガーデン・アリーナ。
 
 もちろん、YouTubeで見たわけではない。夢で見た、とかいうオチもない。
 私は遂にこの目で、生シャーデーを見てしまったのだあああああ!


SHOULD I STAY OR SHOULD I GO?

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指をくわえながらYouTubeでシャーデーのツアーの様子を眺める日々

 私がアメリカまでシャーデーを観に行くことに決めたのは、欧州ツアー('11年4月29日~5月31日)が終わった後、北米ツアー(6月16日~)が始まる前の6月初旬のことだった。YouTubeに連日アップされるオーディエンス撮りの欧州ツアーの映像を見るうちに、私はこの素晴らしいショウをどうしても実際に会場で観たいという思いに強く駆られるようになった。一度でいいからシャーデーの生のコンサートを観てみたい──これは私が彼らのファンになってからずっと抱き続けてきた願望でもあった。

 ツアー予定が発表された'10年秋の時点でアメリカ行きを考えなかったわけではない。マジソン・スクエア・ガーデン公演があればすぐにチケットを取ったかもしれなかったが(マンハッタンならブロードウェイもあるし、観光地としても申し分ない)、今回の北米ツアー日程には、ニューヨーク州はユニオンデールだけで、なぜかニューヨーク市が含まれていない。となると、どこか他の適当な都市で観るしかないのだが、私には特にこれと言って行ってみたいと思うアメリカの都市もなかったりする。確かにシャーデーは観たいが、コンサートひとつ観るためだけに渡米する思い切りが私にはなかなか付かなかった。いくら好きなアーティストでも、さすがにコンサートを観るためだけにわざわさ海外まで行くなどということは過去にも経験がない。行くなら、シャーデーを観る以外に何か+αの理由が欲しいと思った。

 そこで私が思い出したのが、ジャネル・モネイである。シャーデーの北米ツアーと同時期に、ジャネルもちょうどケイティ・ペリーの前座で北米を廻っている。シャーデーとジャネルをセットで観るなら、大枚をはたいてわざわざアメリカまで行ってもいいと思えた。私はシャーデーとジャネルのツアー日程を見比べ、両者が最も接近する場所を探した。ところが、両者は北米の全く正反対の場所を廻っていて、ツアーの経路がちっとも交わらない。数日の短い北米滞在でシャーデーとジャネルを一度に観ることは不可能だった。渡米の目的は、やはりシャーデーひとつに絞らなければならなかった。

 日本から北米まで行くには、宿代なども含め、旅費だけで少なくとも10数万円の費用がかかる(燃油サーチャージ往復5万円)。私にとってはとんでもない大金である。コンサートひとつ観るためだけに10数万円。高い。いくらなんでも高すぎる。あまりにも高い金額ではあるが、それでも、私は頑張れば何とかこの費用を捻出することができる。行こうと思えば行けるのだ。行くべきか、行かざるべきか。色々と考えるうちに、私にはこの問題が結局、金額がコンサート1本に見合うか見合わないか、ではなく、観られるものを観るか観ないか、という単純な二者択一の話であるように思われてきた。来日公演が決まりそうな気配は全くない。そして、シャーデーを生で観られる機会はこれが最後になるかもしれない。観ないで後悔するより、観て後悔した方がいい──10日間ほど悩んだ末、最終的に私は、シャーデーを観るためだけに単身でアメリカへ飛ぶことを決意した。

 50公演近く決まっていたシャーデーの北米ツアーの中で、私が9月3日のラスベガスという場所を選んだ理由は、それが6月初旬の時点で'11年ツアーの最終公演地だったからである。ラスベガスが観光地として充実していること、また、アメリカ西部で比較的日本から近いという理由も多少はある。チケットは4月から売られていたが、6月初旬の時点でも、ラスベガス公演は他の都市の公演に較べてまだかなり良い席が残っていた。私はticketmasterで、3ランクある一般席種の中で最も良い157.5ドルの席を1枚確保した。

 その後、7月に入ってから11月の欧州再ツアーと、9月3日のラスベガス公演後の北米追加公演5日分(9月4日~12日)が決定し、結局、ラスベガス公演は'11年ツアーの最終公演でも、北米ツアーの最終公演でもなくなってしまった('11年9月の現時点で、更に10月に南米公演、12月にオーストラリア公演も決定している)。そこで私が唖然としたのは、9月9日、ケンタッキー州ルイビルのKFC Yum! Centerでの追加公演が決まったことである。なぜ唖然としたかと言うと、その翌日の9月10日の同会場には、以前からジャネル・モネイのコンサートの予定(ケイティ・ペリーの前座)が入っていたからである。つまり、9月9~10日の2日間ルイビルにいれば、シャーデーとジャネルがまとめて立て続けに観られるのだ。しかも、全く同じ会場で。これぞまさしく私が求めていた理想の日程だったのだが、時すでに遅し。この追加公演が決定した7月初旬の時点で、私は既にラスベガス行きの航空券を手配してしまっていた。コンサートのチケットは、購入時、万が一の時に払い戻しができる保険(7ドル)をかけていたので問題なかったが、航空券のキャンセルはさすがに厳しい。ただでさえ大出費なのに、その上、何万円もするキャンセル料など払っていられない。また、仮にキャンセルしたとして、都合のいいルイビル行きの往復航空券を安価で取れるとも限らない。これも運命と諦め、私は予定通りラスベガスに賭けることにした。シャーデーはカジノの街で私を待っている!


FLY ME TO LAS VEGAS

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9月2日午後、成田空港第2ターミナル──私が乗ったアメリカン航空のボーイング機

 '11年9月2日。そわそわすること約3ヶ月、あっという間に出発の日がやって来た。
 私の旅程は、9月2日(金)午後に成田出発、現地時間の同日午後にラスベガス到着、3日(土)夜にシャーデーを観て、4日(日)早朝にラスベガス出発、日本時間の5日(月)午後に帰国という、かなりタイトなものである。出費を最小限に抑えるべく、滞在期間をできるだけ短くしたのだ。ラスベガスを観光するつもりは端からなく、飽くまでシャーデーを観るためだけの2泊4日のアメリカ旅行である。着替え用の衣類は一切持たず、カメラ、煙草4箱、洗面用具、観光ガイド1冊だけを入れた小さな手提げ鞄ひとつで旅立つことにした。

 出発の数日前、大型の台風12号が太平洋から関東に向かってじりじりと北上していた。当初の予測では、私が成田を経つちょうど9月2日に関東上陸となっていて、私は飛行機の遅延や欠航を心配して気が気でなかった。仮に飛行機が欠航した場合、シャーデーを観る計画はすべてパアである。海外へコンサートを観に行く人は、チケット購入時、こういう不測の事態に備えて、ケチらずに念のためオプションの保険をかけておいた方が良いと思う(少なくとも、おかげで私は精神的にかなり救われた)。
 関東へ向かって直進していた台風12号は、結局、直前に進路を急角度で西へ変え、幸い、私の旅程には何の影響も及ぼさなかった(帰国後、3日に西日本を縦断した台風の被害の大きさを知って驚く)。9月2日の東京~千葉は、当日の天気予報では傘マークが並んでいたが、実際には晴れ間もある普通に良い天気だった。飛行機は予定通りに飛んだ。

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喫煙者のオアシス──成田空港第2ターミナル内の喫煙所

 まず、成田からアメリカン航空で約10時間かけてロサンゼルス国際空港へ(現在、日本からラスベガスへの直行便はなく、必ずどこかで乗り継がなくてはならない)。機内ではほとんど寝られず、備え付けのモニターで映画を観たり(『SUPER 8』を鑑賞。映画愛溢れるエンドロール部分が良かった)、音楽を聴いたりして暇を潰した。音楽はもっぱらイージーリスニングのカテゴリー内にあった“American Jukebox”というオールディーズのプログラムを聴いた。音質のあまり良くない機内の音楽鑑賞では、コンテンポラリーな音楽よりもオールディーズを聴く方がいい。心細い一人旅の中で思いがけず馴染みのある歌に再会すると気持ちが和む。長いこと耳にしていなかったトーケンズ「The Lion Sleeps Tonight(ライオンは寝ている)」や、ウォーカー・ブラザーズ「Make It Easy On Yourself(涙でさようなら)」がイヤホンから流れた時は、涙が出そうになるほどの感動を覚えた。私は彼らの歌声に救われるような気がした。音楽をこんなに有り難いと思ったことはない。

 ところで、私はかなりのヘビースモーカーなので(1日に2箱吸う)、とにかくこの飛行機での長時間の移動というものがキツい。機内食の後にコーヒーを飲んだ時などは最悪で、喫煙者はとにかく喰ったら寝るしかないのだが、私は成田からの10時間の飛行中、全く眠ることができず、ロサンゼルス到着までひたすら煙草のことを考えていた。

 現地時間の9月2日(金)朝9時半、ロサンゼルス国際空港に到着。入国審査を済ませた後、荷物受け取り所を素通りして税関へ向かう。税関を通る際、小さな手提げ鞄ひとつしか持っていない私に、アジア系の係員が“荷物はそれだけ?”とちょっと怪訝そうな顔で訊ねてきた。私が荷物を拾い忘れていると思ったのかもしれない。“コンサートを観に来ただけなので”と答えると、“誰の?”と言う。そこまで訊くのかと思いつつ“シャーデー”と答えると、ふ~ん、という感じで無反応だった(何かリアクションが欲しいところだったのだが)。また、どうでもいいことだが、ラスベガス行きの飛行機に乗る際のセキュリティ・チェックでは、成田の搭乗ゲートの売店で買った機内持ち込みOKの紅茶花伝を、無表情な長身の黒人係員に“液体物”のひとことであっさり取り上げられてしまった(まだ半分も飲んでいなかったのに)。本当は軽く抵抗したかったのだが、ビビっていた私は力無くひとこと“Alright”と言うのが精一杯だった。

 私がアメリカを訪れたのは、恥ずかしながら今回が初めてだった。当たり前のことだが、ロサンゼルス国際空港に到着すると、そこはもう完全にアメリカである。空港に着いて私がまず単純に思ったのは、間抜けなことに“アメリカ映画みたいじゃないか!”ということだった。空港内を歩きながら、私はまるで映画の中に入り込んだような錯覚に陥っていた。早口のアメリカン・アクセントで道案内をする白人の中年女性係員、キャリーケースを引いて目の前をすたすた通り過ぎていくバカでかい黒人、“Jesus Christ!”などと言いながら談笑する隣りのソファーの白人グループ。周りのアメリカ人たちが、みんな映画俳優のように見えた。しかし、彼らのお喋りに字幕は出ないし、日本語吹替も付かない。そして、もちろん彼らは映画俳優などではなく、みんなごく普通の人々である。これがアメリカなのだな、と思った。

 日本でアメリカ人と話すのと、アメリカでアメリカ人と話すのは、まるで勝手が違う。英語ではっきり意思を伝えられないと、すぐに困った顔をされたり、苛々されたりする。日系も含め、あらゆる人種が一緒に暮らす国なので、日本人だからと言って“ガイジン”扱いはされないし、もちろん、片言の日本語で対応してくれる親切なアメリカ人などいるはずもない。当然ながら、アメリカにいる以上は、とにかく英語を話すしかない(そう言えば、私の入国審査をした白人の中年男性は、私の指紋を採りながらひどくまずい片言の日本語を喋ったが、何を言っているのかさっぱり分からず、結局、英語で聞き返さなければならなかった)。飛行機の乗り継ぎがよく分からず、私は何人かの係員に順路や手続きについて訊ねたが、簡単なコミュニケーションでも自分の英語力の拙さを改めて感じた。私はすっかりアメリカ映画に出てくる間抜けな日本人と化していた。はっきり言って、しんどい。不安である。私は無性に煙草が吸いたくなった。

 成田第2ターミナルの搭乗ゲートには喫煙所があったが、無慈悲なことに、ロサンゼルス国際空港の建物内には喫煙所が一切なかった。すがるような思いで空港職員や物販店のおばちゃんに“Is there any smoking area?!”と訊いたが、一様に“外でしか吸えない”と言う。Jesus Christ! 私は事前にこれを知らなかった。入国審査を済ませてベガス行きの搭乗ゲートへ移動する際、実は一度屋外に出る機会があったのだが、私は乗り継ぎに気を取られるあまり、そこでうっかり煙草を吸わなかった。一旦セキュリティ・チェックを受けて搭乗ゲート内に入ってしまうと、もう外へは出られない。4時間近くの乗り継ぎ時間を含め、成田からラスベガスまでの約15時間、私は結局1本も煙草を吸うことができなかった。ここまで長時間煙草を我慢したのは、15年以上の喫煙歴の中で初めてのことだ(やればできるんだな、とも思ったが、二度とやりたくない)。アメリカまでシャーデーを観に行くのは、私にとって本当に大変なことなのだ。

 しかし、弱音は吐いていられない。あらゆる困難を乗り越え、私は何としてもラスベガスまで行かなくてはならないのだ。どうにか無事に乗り継ぎを済ませ、ロサンゼルス国際空港から、いよいよラスベガスのマッカラン国際空港へ向かう。あと一息である。飛行時間は約70分。

 ラスベガスまでの航路では、眼下にものすごい光景が広がっていた。通路側の席だったのであまりよく見えなかったが、わけの分からない砂漠や巨大山脈、グランドキャニオンにも似た大峡谷などがちらちらと窓の外に見えた(いまだに何だったのか分からない)。そして、周りの乗客は全員、白人や黒人の観光客ばかりである。日本人なんかどこにもいない。自分は一体なぜこんなところにいるのか? えらいところまで来てしまったと思った。

(続く)


※写真はすべて筆者撮影(クリックで拡大可)

Sade @ MGM Grand Garden Arena 2011 (part 1)
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Soldier Of Love Tour [2011]
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