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ACジャパンのCMで考える──今、わたしにできること



 首相をして“戦後日本で最も厳しい危機”と言わしめた東日本大震災。町を呑み込む津波、荒廃した被災地、白煙を上げる原発、疲弊する被災者たち、あるいは、帰宅難民となった人の群、明かりの消えた繁華街、商品が消えたスーパーの陳列棚──様々な光景が私たちの脳裡に焼き付いたが、他に、連日テレビ漬けの日本中の人々に強い印象を与えたものがある。ACジャパンのコマーシャル映像だ。

 災害発生当初、民放テレビ局からは一時的にCMが消えた。時間の経過と共にCM枠は徐々に復活してきたが、スポンサー企業が一斉に自社CMを自粛したため、民放各局は穴埋めとしてACジャパンのCMを大量に放送することになった。テレビで私たちが繰り返し目にするのは、老婆を労りながら階段を上がる少年、幼児に差しのべられる親の手、娘と話す仁科亜季子、険しい表情のオシム、あるいは、ポポポポ~ンといったアニメ映像である。そして、最後に“♪エ~シ~”というお決まりのロゴ。テレビのCM枠はまさにAC一色となった。
 これに対して、視聴者から“しつこい”、“いい加減にしろ”、“内容が時勢にそぐわない”、“最後の♪エ~シ~が耳障り”などの苦情が殺到。ACが公式サイトで謝罪文を発表し、各テレビ局にサウンド・ロゴの削除を要請したのは周知の通りだ(以後、CM最後の“♪エ~シ~”は激減した)。緊急事態のせいで思わぬとばっちりを受け、人々のストレスの矛先になってしまったACジャパンには全く同情を禁じ得ない。

 そうした状況の中で登場したACの震災臨時キャンペーンCM「今、わたしにできること」。ベージュの無地の背景に提言の言葉だけが現れるシンプルなCMだ。既に多くの人が目にしただろう。すっかりAC嫌いになった視聴者の機嫌がこれで直ちに良くなるとも思わないが、しかし、私はこのCMを見て考えた。そして、ポポポポ~ンと閃いたのだった。

 今、わたしにできること──それは、ACジャパンのCMをすべて録画しておくことだ、と。


ACジャパンとは?

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 ACジャパンは'71年に設立された民間団体(社団法人)。全国の企業のバックアップにより、マナーやモラルなどを題材にした公共広告を非営利目的で制作し、より良い社会の実現のために提言活動を行っている。組織の運営、広告制作費は、現在1200社を越える会員社──放送局、新聞・出版社、広告会社、その他、広告を取り扱う企業全般──からの会費によって賄われている。'09年、長年親しまれた“公共広告機構”から現在の“ACジャパン”に名称が変わった。

 ACジャパンは、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌などを通じて、毎年、全国的に広告キャンペーンを展開している(7月更新)。テレビCMは年間20本ほどが制作されている。物質主義を奨励する無数の企業広告の中に不意に登場するACの公共広告は、これまでにも視聴者に大きなインパクトを与えてきた。ACの広告は、公共マナー、モラル、家庭、いじめ、病気、薬物、環境問題など、私たちが社会生活を営む上で無視できない様々な問題を取り上げ、それらについて認識し、考えるきっかけを与える。それら広告作品の多くは、鋭い批評、ユーモアやウィット、詩情や興趣に溢れ、視聴者の感情に強く働きかける。

 道徳や倫理に関するメッセージというのは、発信者に“自分のやっていることは絶対に正しい”という自負があるせいか、とかく押し売り的になりがちなものだ。批評性の欠落した善意ほど鬱陶しいものはないし、場合によっては社会にとって有害にすらなり得る。その点、ACの広告というのは実に冷静、かつ、巧妙である。人間や社会や時代をよく観察、考察し、的確な表現で人々にさり気なく問題を提示する。ACの高度な広告表現は、自らも対象にする優れた批評能力が可能にしている。'10年度には、ACジャパン自体を題材にした「おせっかい」なるラジオ・新聞広告まで制作されているほどだ(さすがと言うべきだろう)。

 私はACのテレビCMが常々気になっていた。メッセージの内容もさることながら、何よりまず、ACのCMは単純に映像作品としての質が高い。思わず画面に惹きつけられ、驚かされ、感心させられ、短い時間の中で感動させられる。他の多くの即物的なCM映像とは一線を画する趣があり、中にはほとんどアート作品と言ってもいいようなレベルに達しているものもある。ACのCMは純粋に画が美しい。言葉が美しい。道徳的にいいことを言っているから素晴らしいのではなく(それはそれで普通に素晴らしいのだが)、意味もなく素晴らしいからこそ素晴らしいのである。
 こうしたAC広告の数々は、ACの企画・主導の下、電通、博報堂、ADK、東急エージェンシーといった日本のトップレベルの広告代理店が腕を競うように制作している。私はAC作品に日本のマスメディアの底力を見るような気もするし、目にするたびに、テレビも捨てたものではないなと思わされる。創造性に欠ける画一的な番組ばかり氾濫するテレビの中で、私にとってACのCMは、真に見る価値のある数少ない映像のひとつと言っても過言ではない(私個人に関して言えば、ACのCMを繰り返し見せられるより、似たような内容のバラエティやクイズ番組ばかり見せられるほうが遙かに苦痛だ)。

 ACのテレビCMは、通常、各民放テレビ局(いずれもACの会員社)が空いたCM枠に適当に差し込んでいるもので、ACがスポンサー料を払って特定の時間に放映させているわけではないし、また、いくら流してもテレビ局はACに使用料などを払う必要もない。ゆえに、企業やCM出演者の不祥事、また、今回の震災のような社会的大事件によってCMが自粛されたり、番組編成に大幅な変更があった場合、代替としてACのCMが真っ先に使われることになる。

 現在、大量に放映されているACのCM。普段はさほど頻繁に見られるわけではないし、広告の性質上、放映される時間帯を事前に予測することも難しい。しかし、今は違う。テレビをつければ必ずACのCMが流れている。私たちは今、普段見ようと思ってもなかなか見られないACの素晴らしいCM作品を片っ端から録画し、コレクションする最高のチャンスに恵まれているのだ。
 新CM「今、わたしにできること」を見てハタとこれに気付いた私は、自分で保存版DVDを作成するべく、早速ACのCMをひとつひとつ録り始めた。映像表現に興味がある人、収集癖のある人などには、この機会に是非、ACジャパンの作品に注目し、現行のテレビCMのコンプリートを目指すことをお勧めしたい。現在、ACのCMを疎ましく思っている人も、録画したものを何年後かに再見した時、感慨深く今の時代を振り返ると同時に、“ああ、やっぱりいいCMだったんだな”としみじみと思うはずである。


もっとACを!──ACジャパン2010年度テレビCM

 '10年度のACジャパンは“ヒューマニティ(人間性)”をメインテーマに全国キャンペーンを展開している。テレビCMは全部でなんと21本もある。それらは、“全国キャンペーン”(3本)、地域ごとに異なる作品が放映される“地域キャンペーン”(8本)、特定の非営利団体を支援する“支援キャンペーン”(8本)の3つに大別され、そこに更に、NHKが制作する“NHK共同キャンペーン”(1本)、AC主催による“公共広告CM学生賞”のグランプリ作品(1本。BS民放8局のみで放映)が加わる。そして、各CMには更にヴァージョン違い(15秒版、30秒版、60秒版)が存在するので、コンプリートするのはかなり至難の業だ。放映期間は'10年7月~'11年6月の1年間。
 ここでは主な13作品(東京以外の地域キャンペーン作品7本、学生賞作品1本を除く)を新作とあわせて紹介する。AC作品をすべて集めてやろうというチャレンジャーは参考にして欲しい。

※各CM画像にACジャパン公式サイト内のCM紹介ページ(30秒版の映像も視聴可)へのリンクが張ってある。詳細はそちらで確認を。また、各CMのヴァージョン違いについては公式ページにも情報がないため、実際に私が存在を確認したもののみ言及する。


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あなたの手当て
制作:博報堂

 “子どもとのコミュニケーション”をテーマにした全国キャンペーン作品。子供に手を差しのべて実際に触れることの大切さを表現している。ポケットから出される父親の手。虚空にポンと手を置くと、そこに子供の肩が現れる。視聴者の意識を“手を当てる”という行為そのものに向ける素晴らしい編集だ(最初から子供が映っていると、単なる普通の親子の画になってしまう)。子供の目の高さの構図、雑踏や子供の声だけが聞こえる空白の背景も“子供と親の手”の関係を強調する。映像があまりにも雄弁なので、「だいじょうぶだよ」「ずっといっしょだよ」などの字幕が不要に思えるほどだ。“忘れないでください~”という女性ナレーションの入るタイミング、最後の“こどもに、あなたの手当てを”というコピーも完璧。粗めの画質、淡く緑がかった色調、そこに現れる白いタイポグラフィの美しさ。子供たちの自然な表情も深い印象を残す。何度見たか知らないCMだが、完成度の高さに私は見るたびに溜息が出る。同じく博報堂制作による'03年度作品「抱きしめる、という会話」を間違いなく超えた。「あいさつの魔法」と並ぶ'10年度AC作品の白眉。15秒版と30秒版がある。
 尚、サウンド・ロゴが削除されたことで、この作品はより完成度を増したように思う。最後の一瞬の静寂による余韻が実に気持ちよく感情と思考を刺激する。


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あいさつの魔法。
制作:東急エージェンシー北海道支社

 “あいさつの励行”をテーマにした全国キャンペーン作品。NHK〈みんなのうた〉を思わせる楽しいアニメCM。「あいさつの魔法」という歌に乗せて、少年と少女が挨拶するたびに楽しい仲間(挨拶の言葉に掛けた動物)がポポポポ~ンと増えていく。作詞:関ひとみ、若浜明子、作曲編曲:飛渡健次郎、嶋倉紗希、歌:松本野々歩、イラスト:yukky、キャラクターボイス:SaKi(嶋倉紗希)。“ポポポポ~ン”の中毒性が話題になり、'10年度AC作品の中でダントツの人気を獲得した。
 挨拶はまさに人と人が繋がる“魔法の言葉”であり、コミュニケーションの基本中の基本でもある。子供向けCMとはいえ、一緒にポポポポ~ンと歌うべき大人も案外多いのではないか。あなたも会社でさり気なく“おはよウナギ”と言ってみたり、女性ならスカートを広げて“ありがとウサギ”などと言ったりして、普段あまり話すことのない人とちょっとしたコミュニケーションを図ってみると良い(私は嬉しいことがあると、とりあえず“ポポポポ~ン”と言うことにしている)。挨拶より、むしろ“ポポポポ~ン”の方が魔法がかってしまった感もあるが、この無意味な言葉には確かにある種の破壊的な官能がある。これはマイケル・ジャクソンのシャウトなどと全く同質のものだ。これに対して、ムカつく、喧嘩を売っているのか、などと反応する人はとても残念な人だ。一緒に楽しく“ポポポポ~ン”と言ってしまった方が私は絶対に得だと思う。ACの底力を感じさせる快作。
 この作品には15秒版と30秒版の他に60秒版がある。終盤の“♪ありがとう~”が強く胸を打つ60秒全長版には、“いってきまスカンク”、“ただいマンボウ”、“ごちそうさマウス”、“おやすみなサイ”という4匹のレアなキャラが登場する。動物キャラは全10匹(“いただきマウス”と“ごちそうさマウス”を1匹と勘定すれば9匹)。60秒版は激レアで、私もなかなか録画できずに焦っている。録画できた際には、もちろん“ポポポポ~ン!”と歓喜の声を上げるだろう。


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見える気持ちに。
制作:電通中部支社

 “思いやりの気持ち”をテーマにした全国キャンペーン作品。友達と電車で下校中、車内で妊婦に席を譲ってあげられなかった高校生の少年が、友達と別れた後、杖をつきながら階段を難儀そうに上る老婆を見かけ、葛藤の末に手を差しのべるまでをドラマ仕立てで描く。詩人、宮澤章二(1919~05)の詩篇「行為の意味」を取り上げ、誰にでも分かる映像作品というカタチにしてみせた。AC得意のストーリーもので、短い映像の中に人間の心理がよく描き込まれている。他の多くのAC作品同様、“行動せよ”というシンプルなメッセージが読み取れる。主演:大和田健介(伸也の息子)、ナレーション:岡本玲。15秒版、30秒版、60秒版がある。60秒版は描写が丁寧だが、個人的には30秒版のテンポが最も心地よく感じる。この小話に60秒の尺はちょっと長いかもしれない(……というか、60秒版は話を必要以上にドラマチックな美談にしてしまっている印象を受ける。もっとドライに、なんでもない話のように描くべきではないのか。老婆に差しのべられる少年の手のカットは不要だと思う)。
 ちなみに、'10年度の公共広告CM学生賞「つられ迷惑」(東京藝術大学制作)は、同じく電車内の高校生を描いた作品。団結力はあるが主体性がない(しかし、根は真面目な)日本人を滑稽に表現している。


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こだまでしょうか
制作:電通

 “コミュニケーション”をテーマにした地域キャンペーン作品。夭折した童謡詩人、金子みすゞ(1903~30)の詩篇「こだまでしょうか」をモチーフに、都会の子供たちの群像が詩情豊かに描かれる。大正末期~昭和初期の作とは思えない瑞々しさを湛えた金子の言葉。サティ風の静謐なピアノ独奏に乗せて、金子の言霊が現代の子供たちの風景に何の違和感もなく溶け込んでいく。硝子細工のように繊細な人と人の結びつき。最後に登場するコピー“やさしく話しかければ、やさしく相手も答えてくれる”は、“憎悪は憎悪しか生まない”と読み替えることもできる。詩の朗読はUAらしい(情報源不明)。30秒版と60秒版がある。60秒版は展開がより緩やかで、詩句も深みを増している。朗読のナレーションもテイクが異なる(他にも、映像に合わせてタイポの位置が変更されていたり、最後の“やさしく話しかければ~”の男性ナレーションの有無など、細かい違いがある)。
 「こだまでしょうか」は地域キャンペーンの東京版。他の7つの地域──北海道、東北、名古屋、大阪、中四国、九州、沖縄──では、それぞれテーマの異なる別作品が放映されている(ACジャパン公式サイトですべて視聴可)。


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大切なあなたへ
制作:東急エージェンシー北海道支社
支援団体:日本対がん協会


 子宮頸がん・乳がんに対する女性の意識を高める支援キャンペーン作品。38歳の時に子宮頸がんを経験した仁科亜季子が、娘の仁美と居間で語り合う。ごく日常的な母と娘の光景、仁科のフレンドリーなナレーションが定期検診を身近なものに感じさせる。とても良いCMだが、これをテレビで見る一般家庭の母と娘は、“娘、母親そっくりだねー”、“父親にも似てるわね~”というような会話に終始し、定期検診のことなどまるで話し合わないような気もする(そして、男性視聴者の多くは“仁科亜季子の娘、かわいい~”という感想しか持たない)。難しいものだ。15秒版と30秒版がある。
 日本対がん協会を支援するAC広告には、乳がん経験者として過去に山田邦子('08年度)、宮崎ますみ('06年度)も出演している。山田は46歳、宮崎は37歳の時に発病した。また、病気の経験者ではないが、シャーデー・アデュも'08年にイギリスで乳がんの啓発キャンペーンに参加したことがある('08年4月5日の記事を参照)。川村カオリは33歳で乳がんに罹り、38歳の若さで亡くなった。定期検診は受けておいて損はない。


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オシムの言葉
制作:電通中部支社
支援団体:日本脳卒中協会


 脳梗塞への早期対応を呼びかける支援キャンペーン作品。'07年に急性脳梗塞で倒れ、サッカー日本代表チームの監督を退いたイビチャ・オシムが、サッカーも脳梗塞の対応も共に“スピードが命”と語る。オシムのサッカー哲学が上手く活かされたCM。“私の経験を活かしてくれ”と最後にこちらを振り返るオシムの険しい表情が印象に残る。どことなく不吉さも感じさせる必要以上にコワい顔が、さすがACのCMという感じ。ちなみに、オシムは哲学的で機知に富んだ発言でも知られる。オシム語録には、“スピードが命なんだよ”の他に、“一生懸命探すニワトリだけが餌にありつける”、“冷たくなければアイスクリームではない”などがある。ナレーション:響大祐。15秒版と30秒版がある。
 日本脳卒中協会を支援するAC広告には、過去に江守徹('09年度)、宮川大助('08年度)も出演し、自らの病気体験を語っている。『ハムレット』をもじった'09年度版のコピー“脳卒中の症状か。ただの疲れか。それが問題だ”は語呂の悪さが問題だと思うが、実際、発病者は知らないうちに生きるか死ぬかの選択を迫られることになる(“ただの疲れか。脳卒中か。それが問題だ”にすれば良かったのに)。


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ちょっとだけバイバイ
制作:電通北海道
支援団体:3R推進団体連絡会


 資源ごみリサイクルへの意識を高める支援キャンペーン作品。ワイシャツ、フライパン、植木鉢など、日常の身の回りの色々なものがリサイクルで生まれていることを幼稚園児の少女の視点から説明する。単なる決まり事としてやらされているごみの分別も、リサイクルされた製品を具体的に示されると自然とモチベーションが上がる。同じ子役少女を起用し、“(地下300m以深に)正しく埋めて、永遠にバイバイ”という放射性廃棄物に関するパロディCMを作るとちょっと面白い。主演:小林星蘭。15秒版と30秒版がある。


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知層
制作:東急エージェンシー北海道支社
支援団体:文字・活字文化推進機構


 読書の大切さを訴える支援キャンペーン作品。読み終わって次々と積み上げられる書物の山を、読み手の青年がはしごで登っていく。地層のように積もり重なった書物の頂で青年が振り返ると、そこには大展望が広がっている──“知層”。思わず座布団をあげたくなるようなコピー。これを完璧に説明する超現実的な映像イメージが素晴らしい。読めば読むほど見識が広がる、という何でもないことを、実に魅力的に語っている。純粋に映画的興趣に満ちたこういう作品こそ私は高く買いたい。主演:市川知宏(愛読書は『スラムダンク』らしい)。15秒版と30秒版がある。


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ありがとう あしながさん
制作:電通西日本
支援団体:あしなが育英会


 奨学金で遺児を援助する非営利団体を紹介する支援キャンペーン作品。下校中の高校生の少女が、父親と散歩する幼女の姿を見て立ち止まる。少女には父親がいない。学友に呼ばれ、少女は再び笑顔で歩き出す。主演:相川結。ナレーション:中嶋朋子。故意か偶然か知らないが、背景が快晴の青空でなく、曇り空であるのが良いと思う。空の淡いグレーとモスグリーンの対比も美しい。15秒版と30秒版がある。


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国境を越えた医者
制作:電通
支援団体:国境なき医師団


 国際的な緊急医療援助を行う国境なき医師団の活動を紹介する支援キャンペーン作品。ケニアでの活動の様子が伝えられ、感染症専門医アンバー・アーノルドの言葉が日本語ナレーションで挿入される。“国の境目が、生死の境目であってはならない”というコピーが実に分かりやすく団体の理念を伝える。'08年度CMでは“包帯は国境を越えていく”だったが、'09年度版でこの秀逸なコピーが生まれ、'10年度も引き続き採用された。ナレーション:五十嵐麗。BGM:城南海「ずっとずっと」。15秒版と30秒版がある。尚、国境なき医師団は東日本大震災の被災地でも活動を行っている。


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難民のふるさと
制作:仙台博報堂
支援団体:国連UNHCR協会


 難民問題への認識を高める支援キャンペーン作品。日本の唱歌「ふるさと」(“♪兎追いし~”)のBGMに乗せて、郷里を追われた難民の人々の姿が映し出される。長い一本道を子供2人が歩いているスロー映像──“いつかもう一度「ふるさと」へ”のコピーが重ねられる──が力強い。世界の難民・避難民たちの思いは、津波で多くを失いながらも“またここで暮らしていきたい”と言う東北の被災者たちの思いと全く同じである。ナレーション:手嶌葵。BGM:川井郁子(ヴァイオリン演奏)。15秒版と30秒版がある。尚、UNHCR(国連の難民支援機関)は、緊急支援として東日本大震災の被災地にソーラーランタン(太陽光発電式ランプ)1796個を提供している。


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子供たちが描いたもの
制作:三晃社
支援団体:日本アイバンク協会


 アイバンクへの認識を高める支援キャンペーン作品。実際に角膜手術を受けた子供たちの描いたクレヨン画が「Heigh-Ho」のリコーダー合奏に乗せて紹介される。このCMはとにかく子供たちの絵と緑色の背景が織りなす色彩の美しさに尽きる。視覚健常者に見えないものは、“見える”ということの単純な素晴らしさである。この作品は、色彩がもたらす感動によってそのことを視覚健常者にも見えるようにする。ナレーション:間瀬凛。15秒版と30秒版がある。


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命のかげ
制作:NHK/電通

 “環境問題・生物多様性”をテーマにしたNHK共同キャンペーン作品。様々な生き物が手影絵で表され、少女を取り巻く生き物たちの影が儚く消えていくイメージによって生態系や地球環境の危機が暗示される。“生物多様性”という馴染みのない用語にこれで視聴者が理解を示すとも思えないが、白い手書きタイポ、光と影の対比、水を思わせる淡いブルーを基調とした透明感溢れるイメージは純粋に美しい。地味ながらもリリカルで味わい深い作品である。“生物多様性”は'10年度地域キャンペーンの名古屋版「里山のばっさまに学ぶ」でもテーマにされた。主演:アヤカ・ウィルソン(かわいい~。顔の形がシャーデーそっくり)。影絵:劇団かかし座(やけに上手い影絵だと思ったら専門のプロ)。BGM:FAB「魔法のように」(「Something」を思わせる後期ビートルズ風ソフト・ロック。バンド名もそのまんま。CM映像から推測するに、「Free As A Bird」のような曲が求められた結果、これが採用されたのではないか)。15秒版と30秒版がある。
 この作品はNHKが制作している(広告を扱わないNHKもACジャパンの会員社)。NHK共同キャンペーンは、NHK制作のCMを民放で、AC制作のCMをNHKで流すという面白い企画。'10年度、NHKでは「あいさつの魔法」「見える気持ちに」が放映されている。


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今、わたしにできること・文字篇
制作:不明

 東日本大震災を受けて急遽制作された震災臨時キャンペーン作品第一弾(3月18日に放送局に配布)。緩やかなピアノ演奏に乗せて、ベージュの無地背景に震災に関する提言の言葉が次々に現れる。男性ナレーション/女性ナレーション(土岐麻子)の2種類ある。“今、わたしにできること”で始まり、男性版では“部屋の電灯はこまめに消そう”、“使わないときはパソコンの電源を切ろう”、“被災地の人が本当に必要なものは何か考えよう”、“デマに惑わされないようにしよう”、“むやみに買い占めるのはやめよう”、女性版では“使っていない電化製品のコンセントは抜いておこう”、“無駄な通話やメールはひかえよう”、“災害時の連絡方法を決めておこう”、“必要がないのに買うのはやめよう”、“被災地の人の気持ちになって考えてみよう”という提言がなされる。最後は“みんなでやれば、大きな力に”のスローガン。制作時間が少ないことを逆手に取った簡潔な作りが良い。NY同時多発テロの際にオノ・ヨーコがNYタイムズ紙に出した全面広告を思い出させる。質素で品のある無印良品っぽい背景色も手堅い。メッセージが強く明快に伝わるACらしい作品だ。男性・女性版それぞれに15秒版と30秒版がある。

 ACジャパンは震災臨時キャンペーンとして更に3作品を制作している。海外で活躍するサッカー選手が日本にエールを送る「サッカー篇」(出演:岡崎慎司、長友佑都、内田篤人。ナレーション:ジョン・カビラ。15秒版/30秒版)、スマップとトータス松本が同じくエールを送る「日本の力を、信じてる」(15秒版/30秒版)、「今、わたしにできること・文字篇」の提言を有名人たちがフリップを持って伝える「今、わたしにできること・呼びかけ篇」(出演:嵐、アントニオ猪木、内田恭子、江口洋介、AKB48、大竹しのぶ、片岡仁左衛門、為末大、テリー伊藤、中川翔子、西田敏行、野口健、ベッキー、松たか子、三浦知良、三谷幸喜。30秒版×2+15秒版×2=4種類)。これらは「文字篇」に続いて3月末からの放映となっている(「呼びかけ篇」は「サッカー篇」「日本の力を~」より若干遅れて放映開始)。


 現在、自粛されていた一般企業CMが日増しに復活しているため、一時期に較べるとACのCM放映回数がかなり減ってきている。また、震災に対応した新作が複数登場したこともあり、'10年度の通常CMの多くが放映されにくくなっており、中には全長版はおろか15秒版さえ見られなくなっているものもある。私は何とか7割ほどまで集めたが、そこで行き詰まってしまった。ACコレクターとしては、ACジャパンのCMばかりでうんざりするどころか、“もっとACを流せ!”と言いたいくらいだ。「見える気持ちに」「大切なあなたへ」「オシム」等のお決まりのやつばかりでなく、「子供たちが描いたもの」「命のかげ」といった知名度の低いレアな名作をもっと積極的に放映して欲しいし、また、定番作品であっても、15秒版だけでなく、もっと30秒や60秒の全長版の放映回数を増やして欲しい(これがまた、録画していない時に限ってレアな全長版が放映されたりするんだな)。コンプリートは無理でも、せめて「あいさつの魔法」の60秒版をゲットするまで私は諦めがつかない。こんなことなら、CM枠が完全にAC一色だった震災後のもっと早期から集め始めていれば良かったと思うが……後悔先に立たず。もしこれを読んでいるテレビ局の編成の方がいたら、できるだけACのCMのバリエーションを増やし、「あいさつの魔法」の60秒版は最低でも1日1回は必ず流す、といった配慮をお願いしたい。

追記1('11年3月29日):
 遂に「あいさつの魔法」60秒版の録画に成功した。3月28日、テレビ東京の昼の情報番組「ブラッチ!」(12:30~13:25)の合間に放映された。29日にも午後の洋画劇場(『007 オクトパシー』)で60秒版が登場。さすがテレ東。ポポポポ~ン! そして、♪ありがとう~!

追記2('11年4月4日):
 ACジャパンの震災臨時キャンペーンCMとして、4月から「日本の力を、信じてる」の別版も放映が始まった。EXILEのHIRO、m-floのVERBALが出演し、スマップ&トータス松本と同じように応援メッセージを送っている。15秒版と30秒版がある。



今、ACジャパンにできること

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 ACジャパンのテレビCM第一弾は、淀川長治を起用した'71年度作品「公共心の喚起」だった。以来、ACは数多くの傑作CMを世に送り出してきた。'10年度の作品は例年に較べるとかなり柔和で穏やかなものが目立つが、過去の作品の中には思わずドキリとさせるようなショッキングな内容のものも少なくない('10年度作品が全体的にソフトな内容だったのは不幸中の幸いだ。これぞAC、というハードコアなCMが作られていたら、震災後の無限リピートに対する抗議はただでは済まなかっただろう)。

 今回、私は過去のCM作品をYouTubeで色々と漁りながら、改めて傑作・名作の多さに驚いた。そして、思った──淀川長治出演の第一弾から現在までの傑作CMの数々を集大成したアンソロジーDVD『ACジャパンCM傑作集』が発売されるべきではないか、と。これは映画/映像作品ファンとしての私の非常に率直な願いだ。'11年はちょうどACジャパンの創立40周年に当たる。この機会にアンソロジーDVDという形で過去の広告活動を振り返るのは大いに意味のあることではないだろうか。

 但し、DVDの売上げがACジャパンの懐に入ってはいけない。売上げはどうするかと言うと、全額、東日本大震災復興のための義援金にする。

 “ベスト・オブ~”的な内容の特選集(1枚組)を1000~2000円程度の買いやすい値段で発売し、ネット、書店、レコード店、コンビニ、スーパー、駅の売店など、至るところで売りまくる。会員社の各メディア(テレビ、新聞、雑誌)でもチャリティーDVDについて大々的に取り上げてもらう。特選集の他に、マニアックなACファンのためにより網羅的なシリーズDVD(またはボックスセット)も発売してくれると最高だ。みんな喜んで買うのではないだろうか。
 更に、多国語の字幕を付けた海外版DVDを制作し、これを世界中で売る。世界中から義援金を集めることができるし、同時に日本の民度の高さも示せるので一石二鳥ではないだろうか。

 ACジャパンは、今回の震災で劇的に高まった知名度・注目度をできるだけ有効に利用するべきだ。ACの過去の大量の傑作群は、教育関係者に教材として貸し出されたりする以外は、ひっそりと蔵に仕舞われたままでいる。そんなことをしていたら“もったいないお化け”が出てしまう。この文化財産を使わない手はないだろう。ACジャパンがどんな団体であるか、いかに素晴らしい活動をしてきたか、広く世間に知らしめる絶好のチャンスではないか。

 私は法律や権利問題に詳しくないので、実際、これが実現可能な話かどうかは分からない。しかし、これで損をする人間が誰もいないということだけは分かる。できるなら、やるべきだ。


TAKE A LOOK AT YOURSELF

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……それにしても、ACジャパンに対する一部の大衆の敵意というのは一体何なんだろう。リピート放映に対する苛立ちは理解できるが、ACへの抗議は単純に事実誤認による言いがかりである。また、ネット上ではCMそのものに対する否定的な声も少なからず目にする。“偉そうでムカつく”という反応はまだしも、CM出演者たちまで含めて侮蔑・罵倒する極端な声にはさすがに違和感を覚える(もちろん、肯定的な意見も同じくらいたくさん見かけるのだが)。
 ACに対する大衆の敵意や悪意のムードを見ていると、私はマイケル・ジャクソンのことを思い出す。今、AC作品を謗っている大衆というのは、かつてさんざんマイケル・ジャクソンのことを誹謗中傷し、死んだ途端に右へ倣えで彼を天才・聖人扱いし始めた大衆と全く同じ類の大衆ではないのか。そこには同じような誤読、無知、偏見、怠慢の気配が感じられる。いくら非難されても、ACやCM出演者たちは気にする必要はない(まあ、ACは端から気にもかけないだろうが)。私はアンチACの人に「Man In The Mirror」のようなマイケル作品をどのように評価するのか訊いてみたい(そんな曲知らない、という人は、リンクをクリックして一度是非聴いてみて欲しい)。

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