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赤ちゃんパパ

Sade_Babyfather.jpg

 『SOLDIER OF LOVE』から期待通り第二弾シングルに選ばれた「Babyfather」。第一弾「Soldier Of Love」とは全く対照的なピースフルな曲で、ほの暗いアルバム全体を照らす太陽のような作品。『SOLDIER OF LOVE』というアルバムは、極端な話、表題曲とこの曲の間のグラデーションによって成り立っていると言ってもいいかもしれない。

 テーマは家族愛。シャーデー・アデュのちょっぴりワケありな家庭状況が反映された半自叙伝的な内容でもある。秀逸なストーリーテリングの中に彼女らしいユーモアが滲んだ心温まる名曲だ。


 Babyfather
 (Adu/Janes/Nicholls/Mathewman)

 We were waiting for the bus
 No-one much around but us
 Then I see this young boy cut a look at me
 I'm stunned
 In a daze
 He had the whole street set ablaze
 It's only love they say
 Makes you feel this way
 
 私たちはバスを待ってた
 他には誰もいなかった
 そしたらその青年がこっちをじっと見つめるの
 ドキッとして
 くらくら
 彼のせいで道路一面が輝きだした
 そんなふうに感じるのは
 恋の証なのね
 
 She liked his eyes she wanted more
 The baby gonna have your smile for sure
 He saw a lovely girl
 Smelling sweet and soapy like fresh air
 She saw him looking acted like she didn't care
 That's how we knew
 And so love grew a flower
 A flower that is you
 
 その瞳に見つめられていたかった
 生まれてくる赤ちゃんはあなたと同じ笑顔よ
 彼が目にした可愛い女の子は
 新鮮な空気のように爽やかでいい匂い
 見つめられてもまるで気にしない素振り
 これが私たちの出会い
 そしてひとつの花が大事に育まれた
 あなたという花が
 
 Your daddy knows you're a flame
 Your daddy knows you're a flame
 Your daddy knows you're a flame
 Your daddy knows you're a flame
 
 あなたはお父さんの輝く光
 あなたはお父さんの輝く光
 あなたはお父さんの輝く光
 あなたはお父さんの輝く光
 
 Even to the angels it may sound like a lie
 For you child
 He has the troops and extra backup standing by
 For you child
 For you he's the best he can be
 For you child
 For you he's the best he can be
 Oh child don't you know
 Your daddy love come with a life time guarantee
 
 天使だって首を傾げるかもしれないけれど
 あなたのために
 お父さんは軍隊と予備軍付きで万全態勢よ
 あなたのために
 お父さんは一生懸命
 あなたのために
 お父さんは一生懸命
 わかってちょうだい
 お父さんの愛は一生涯保証付き
 
 Your daddy knows you're a flame
 Your daddy knows you're a flame
 Yeah daddy love you child
 Your daddy knows you're a flame
 Your daddy knows you're a flame
 Daddy love you yeah
 
 あなたはお父さんの輝く光
 あなたはお父さんの輝く光
 お父さんはおまえを愛してる
 あなたはお父さんの輝く光
 あなたはお父さんの輝く光
 お父さんはおまえを愛してる
 
 It's only you he'll say
 Made the young boy hungry for the man he is today
 It's only love, love, love, love
 Can make you feel this way
 
 お父さんは言うわよ 今のような
 一端の男になれたのはあなたのおかげだって
 そんなふうに感じるのは
 愛の証なのよ
 
 Your daddy knows you're a flame
 Your daddy knows you're a flame
 Yeah daddy love you child
 Your daddy knows you're a flame
 Your daddy knows you're a flame
 Your daddy love come with a life time guarantee
 
 あなたはお父さんの輝く光
 あなたはお父さんの輝く光
 お父さんはおまえを愛してる
 あなたはお父さんの輝く光
 あなたはお父さんの輝く光
 お父さんの愛は一生涯保証付き
 
 
 「Babyfather」は、アルゼンチン人ギタリストのユアン・ジェインズ、エンジニアのアンドリュー・ニコルズとの共作曲。'05年、シャーデーがダルフール難民救済チャリティDVD『Voices For Darfur』('04年12月にロンドンで行われた慈善コンサートの模様を中心に収録。ロビン・ミラー制作)に提供した小品「Mum」の共作者がこの2人で、「Babyfather」(および「Long Hard Road」」)もその時に書かれた作品だった。これが『SOLDIER OF LOVE』のセッションに引き継がれ、最終的にスチュアート・マシューマンの助力を得て完成されたようだ。
 穏やかで土臭いレゲエの曲想は、前作『LOVERS ROCK』からのシングル曲「By Your Side」に通じる。「By Your Side」は母性的な包容力に満ちた作品だったが、これが「Mum」を経て、今度は父性をテーマにした「Babyfather」が生まれた。

 表題の“baby father(赤ちゃんパパ)”は、ジャマイカの英熟語で“未婚の父”を意味する表現。逆の“baby mother(baby mama)”で“未婚の母(シングル・マザー)”の意味にもなる。

 シャーデーには、ボブ・モーガン Bob Morgan というジャマイカ人ミュージシャンとの間に生まれたアイラ・アデュ Ila Adu('96年7月21日生まれ)という一人娘がいる。モーガンと結婚することなく破局したシャーデーは、その後、イアン・ワッツ Ian Watts という、やはり子連れのイギリス人男性と出会い、'00年代半ば頃から、アイラ、そして、彼の息子のジャックと共にイギリスの田舎町で4人暮らしを始めている。シャーデーはイアンとの結婚も考えているようだが、'10年4月現在、2人の間に婚姻は結ばれていない。
 “未婚の父”とは、つまり、シャーデーの私生活においては、アイラの実の父親ボブ・モーガンと、現在の育ての親イアン・ワッツを同時に指すことになる。「Babyfather」には、そのような少し複雑な家庭環境で育つ娘アイラに対する、シャーデーの母親としての思いが込められているわけである。

 歌詞は、母親が父親との馴れ初めを娘に語って聞かせる、ちょっとした物語形式になっている。どこにでもあるような何気ない男女の出会い。バス停で互いに一目惚れした時の様子が、2人の視線を軸に瑞々しく描かれる。後半では、娘に対する父親の現在の愛情が語られ、両親が未婚であることに引け目を感じて欲しくないという親の思いが表現されている。何があっても娘を守り抜く父親の強い気持ちを“He has the troops and extra backup standing by(軍隊と予備軍付きで万全態勢)”、あるいは、愛情がいつまでも不変であることを“a life time guarantee(一生涯保証付き)”と表現するあたりの柔らかなユーモア感覚が微笑を誘う。
 また、始めと終わりに“It's only love (they say) (can) make(s) you feel this way”という同一表現を置いて、意味に変化を持たせながら全体を纏めるところなども実に巧い。この“love”は両者でニュアンスが異なっていて、和訳すると、前者は“恋”、後者は“愛”となる。英語では恋も愛も“love”の一語に集約されるのだが(この曖昧さについては以前「No Ordinary Love」鑑賞の際にも書いた)、シャーデーは文脈の違いとセンテンスの微妙なアレンジによって、この差異を見事に聴き手に感じ取らせる。

 シャーデーによると、義父イアンとアイラの関係は良好のようだ。

「イアンは本当にアイラの父親でいる。父親としてあらゆることをしてくれてるし、娘も彼のことを本当に尊敬しているの」(31 January 2010, The Sunday Times)

 母親と歌手業の掛け持ちについてはこう話す。

「母親であることは今までの人生で一番重大で大変な仕事だわね。愚痴るわけじゃないけど、乳母を頼んだこともないし。アイラが生まれて何年も、毎晩自分で彼女を寝かしつけてたの。彼女を授かってから、私の生活は子供中心になったわ。(アイラを連れて'01年ツアーを行った時)自分のお母さんに向かって大勢の人が叫んでるのを聞かせたくなかったから、コンサートは見せなかった。彼女にはまだ早過ぎたから」(同上)

「私にとってアルバム制作をするのは月に行くようなもの。今は子供がいるせいで、実生活から完全に自分を切り離すのは不可能なのよ。家庭を留守にできる時が来るまで待っていたわけ」(April 2010, Ebony)

 「Babyfather」の録音には、13歳に成長した娘アイラが、スチュアート・マシューマンの息子クレイと共に参加し、サビの“Your daddy love come with a life time guarantee”の部分を歌っている。スティーヴィー・ワンダー「Isn't She Lovely(可愛いアイシャ)」並の反則技なのだが、このコーラスがとにかく最高にラヴリーで、聴く度に無条件で顔が綻んでしまう。ここに父親パート担当のトニー・モムレルが加わり、現在のシャーデー一家と同じく、父、母、娘、息子役の4人編成のヴォーカルになっているのが面白い。

 そのようにシャーデーの私生活と重ねやすい曲ではあるが、飽くまで詞作に過ぎないので、バス停で出会って云々などは、もちろんフィクションである可能性もある。シャーデーは、たとえ私的な作品であっても、多くの優れたソングライターがそうであるように、作品の中に必ず聴き手が入り込める余地を残す。

「曲が歌い手に寄り過ぎると、聴く人を遠ざけてしまう。近寄りにくい感じでね。それはその人の歌であって、聴き手のものではないわけだから」(7 February 2010, The New York Times)

「曲を送り出してしまえば、それはもう自分のものではなくなる。聴き手が自分の人生をそこに読み取ってくれたらと思うわ。そう願ってるし、歌というのはそういうものだと思うから。私たちは皆、人間として同じようなことを感じるでしょ。歌を書く前、私はちょっと懸念してしまうんだけど。自分の感じていることを本当に人に知ってもらいたいのか。自分の見るもの、自分の人生、私自身のことを本当に知ってもらいたいのか、とね。一旦書き始めたら、物事を決めつけず、思いに任せて、ただ心から歌うしかないわ」(16 February 2010, National Post)

 子供を持つ親の心情がストレートに反映された曲だが、世界中で離婚率が増えるような時代にあって、血の繋がりを超えた親子の絆を歌う「Babyfather」には、また特別な普遍性があるように思う。こういう作品をごく自然に説得力を持って歌えるところが、やはり50代のシャーデーの強みだろう。

 最後に、「Babyfather」についてのシャーデーのコメントを紹介しておく。

「この歌は、親になることの素晴らしさ、それがいかに誉れ高いことか、そして、それを無駄にするのはいかに愚かなことか、ということを歌ってる。自分自身に納得がいく限り、人はいい親になれるし、それが次の代を育んでいくことにも繋がる。研ぎ澄まされた音ではなく、ラフでガチャガチャした感じにしたかったの。出だしの部分はアイスクリームの屋台車がやって来るような感じね」(8 February 2010, Gulfnews.com)



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