2017 101234567891011121314151617181920212223242526272829302017 12

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

Smooth Operator [video]

SO1
SMOOTH OPERATOR (1984)
Directed: Julian Temple

 セックス・ピストルズの記録映画『グレート・ロックンロール・スウィンドル』(1979)で監督デビューを果たしたジュリアン・テンプル。ローリング・ストーンズやデヴィッド・ボウイのPVを手掛けたことでよく知られる、'80年代を代表するヴィデオ監督のひとりである。後に監督した劇場映画『ビギナーズ』(1986)には、ボウイやレイ・デイヴィスらと共にシャーデーも出演(サントラにも参加)しているので、ファンにはお馴染みだろう。彼が手掛けたシャーデーのPVとしては、これが唯一の作品となる。

 ヴィデオは12インチ盤に収録されている「Smooth Operator」~「Red Eye」のメドレーをフィーチャーした長尺もの。ジュリアン・テンプルらしい奥行きのある陰影の濃いフィルム映像で、テレビ映画のような趣の作品に仕上がっている。ジョン・ランディスが監督したマイケル「Thriller」(1983)を筆頭に、PVを短編映画仕立てにするギミックが当時は流行っていた。テンプルもそうした作風で人気を博したヴィデオ監督で、この作品にも「Smooth Operator」の歌詞に触発されたクライム・サスペンス風の物語が盛り込まれている。

 アデュのイモ芝居も今では微笑ましいこの短編映画のプロットを、以下で順に追ってみよう。


SO2

刑事:お嬢さん、時間の無駄だ。奴について、すべて話しなさい!
アデュ:全部話したわ。彼は私のマネージャー、ただそれだけよ。
刑事:よく聞け。うそをつくんじゃない。奴のこと全てについて教えるんだ! 奴の交友関係、仕事、それからあんたとの関係も。これが最後だ。さもないと、ここに一晩泊まることになるぞ。


 オープニング。警察署で尋問を受けているアデュ。彼女は刑事にある男の写真を見せられ、その男について問い詰められている。上記がそのやりとり(4曲入りクリップ集『Diamond Life Video』日本版の字幕より)。男は何らかの犯罪に手を染めているらしい。アデュはこの男と密接に関係しているが、口を割ろうとしない(余談だが、この刑事役の人物は、同じくテンプル監督によるミック・ジャガーのテレビ映画『ランニン・アウト・オブ・ラック』にも、カフェのオヤジ役で端役出演している)。

SO3

 場所は変わって、とあるナイトクラブ(ここから「Smooth Operator」が流れる)。警察署で話題になっていた問題の男が登場。いかにも羽振りの良さそうな出で立ちで、客の女たちに愛嬌を振りまいている。そこに被るアデュのモノローグ("He's laughing with another girl...")。要するに、こいつが曲の主題のスケこましである。そして、アデュはこのクラブの歌手で、男は彼女のマネージャーであり、店のオーナーというわけだ。しかし、それは飽くまで表向きの顔である。男性客2人が待つテーブルへ向かい、スケこましは何やら商談を始める。

SO4

 場面は冒頭の警察署に遡る。刑事からあるフィルムを見せられるアデュ。アデュと男の行動を盗み撮りしたものだ。そこには、街頭で男から銃を受け取るアデュ、男のアパートで情事に耽るアデュの姿があった。しかし、フィルムはアデュの知らない事実まで記録していた。アデュがアパートを去った直後、部屋の奥から現れた別の女と抱き合ってキスするスケこまし。「あちゃ~、何これ」状態のアデュ。スケこましが女の背中のファスナーを下ろしたところでフィルムは途切れる。アデュは騙されていたのだ。

SO5

 女は同じナイトクラブのウェイトレスだった。スケこましの席にシャンパンを運ぶ女。席では小切手が切られ、商談がまとまっていた。スケこましが2人の男に売ったのは、恐らくアデュを含むこのナイトクラブの権利である。ステージ上のアデュは、自分が男に玩ばれていたことを既に知っている。男に向かって涙ながらに歌うアデュ。「騙していたのね、ヒロシ……」。そんなアデュにつれなく投げキッスをしてその場を去るスケこまし。待っていたウェイトレスと抱擁し、男はニンマリ。「ふふ、バカな女だぜ……」

SO6

 時はしばし経過し、閉店後。店内から次々と大荷物が運び出されていく。自分が男に利用されていたことに気付いたアデュは、真相を知るべく物陰からじっと様子を窺っていた(こういう女は恐い)。すると例の2人が登場。スケこましが女に何やら話しながら、小さな紙片を渡している(小切手?)。「あの女ともこれでおさらばだ。この金で一緒にバハマにでも越そうじゃないか……」(←推測)。それを目撃したアデュは、しかし荷物の木箱をうっかり倒して男に見つかってしまう。箱の中には銃がズラリ。男は恐らく武器の密輸商で、警察に尻尾を捕まれる前にアデュもろとも店を売り払い、女と高飛びでもするつもりだったのだろう。身の危険を感じて一目散に逃げ出すアデュ。それを追うスケこまし。ここから曲は「Red Eye」に変わり、ヴィデオはサスペンス調の追いかけっこになる。

SO7

 クラブの外へ飛び出し、非常階段を駆け上がるアデュ。追いかけるスケこまし。踊り場で追いつめられたアデュは、男に首を絞められ殺されそうになる。危うし、アデュ!

SO8

 しかし、誰が通報したのか、あるいは遂に証拠を掴んだのか、そこへタイミング良くパトカーのサイレンが鳴り響く。男はアデュを離し、屋根伝いに逃走。男を追う刑事たち。サーチライトがスケこましを照らし出す。手に汗握る激しい銃撃戦。男は終いに追い詰められ、刑事の銃弾を浴びて屋上から転落。一方には、男の最期を見てうなだれるアデュの姿があった……。完。


 『DIAMOND LIFE』からの3本のPVで、シャーデーはバー、クラブ、あるいはカジノで演奏するバンドとして登場する。これら一連の初期クリップは、夜の酒場の雰囲気に馴染むシャーデーのスモーキーなサウンドと抜群の相性を見せており、彼らのイメージを決定づけるものだっただろう。また、映画もどきの音楽ヴィデオを撮りながら、本物の長編劇映画を手掛ける機会を狙っていたジュリアン・テンプルにとって、そんなシャーデーは格好の素材だったに違いない。主演アーティストの演奏場面を非ミュージカルの劇中に自然に取り込むには、役柄を匿名ミュージシャンに設定してしまうのが手っ取り早いからだ。アデュならナイトクラブの歌手であっても全く違和感がない。ちなみに、テンプルは『ビギナーズ』でもアデュをクラブ歌手として出演させている(どうでもいいが、このヴィデオにはなぜかアンドリュー・ヘイルの姿が見えない。一身上の都合で不参加?)。

 描かれるドラマは歌詞の内容を上手く膨らませたもので、テンプルは歌の主題の女たらしに、表向きにはナイトクラブ経営者、裏では武器密輸商の悪人、という設定を与えた。アデュは、この男に(恐らくその素性を完全に知らないまま)いいように利用され、挙げ句の果てに売り飛ばされる哀れな歌手、という役どころである。

 撮影場所はロンドンで、ナイトクラブ場面がメイフェア(いかにもイーストエンドのヤクザが出入りしそうな安くさい店が探されたという)、銃撃戦の屋外場面がソーホー。話の細部までは判然としないが、いかにも映画的なカットが満載で、映画青年が嬉々として撮っている感じが伝わってくるようだ。特に「Red Eye」がフィーチャーされる後半のサスペンス場面などは、ヒッチコック映画のクライマックスを思わせてなかなか楽しい(転落シーンは『めまい』か)。「Smooth Operator」冒頭の語り("Heaven help him when he falls")に、男の最期を暗示させているのも気が利いている。このヴィデオで男が転落して絶命することは必然と言ってもいい。

 ところで、この「Red Eye」という曲が生まれた経緯に関して、私にはひとつ小さな疑問がある。「Smooth Operator」が「Red Eye」とメドレーになっている点は、テンプルの創作意欲をさぞかし刺激しただろう、などと思いつつ、改めて考えると、このメドレーはヴィデオのプロットとあまりにも噛み合い過ぎてはいないか。先にメドレーが存在し、それに合うプロットをテンプルが書いた、と考えるより、テンプルの用意した後半のプロットに対して、シャーデーがサントラとしてクライム・ジャズ=「Red Eye」を書き下ろした、と考えるほうが自然ではないのか。実際、「Red Eye」が彼らのステージで披露されるようになるのは、「Smooth Operator」がシングル発売された'84年9月以降のことで、それ以前には演奏された記録がない。“「Red Eye」はテンプルの依頼でヴィデオ用に録音した”という本人らの発言があれば、この疑問は一発で解決するのだが、残念ながらそのような情報を見つけることはできなかった。

Adu in SO 最後に、このヴィデオに関する逸話をひとつ紹介しておこう。このヴィデオがシャーデーに対する当時の一般イメージを体現したものであることは先に述べたが、この作品には一箇所、そこからやや逸脱する場面がある。望遠で盗み撮りされたフィルムが映し出されるくだりで、男のアパート内でアデュが裸でベッドから出てくる場面がそれだ。当時、明け透けなセックス・アピールで売っていたマドンナとは対照的に、近寄りがたい洗練されたクール・ビューティのイメージが売りであったシャーデーには不適切として、この場面は当初レコード会社の意向によって削除されたのだった。それを聞いたアデュは大憤慨である。

「レコード会社のせいよ! 元通りにさせてもらったわ。彼らは監督のジュリアン・テンプルの頭に文字通り銃を突きつけて、あの場面を削除しない限り金を支払わないと言ったのよ。幸い、オフィスの人が私に電話してくれて。もう、頭に来たわよ。私には自分がどういう人間か、自分のイメージがどういうものか一番よく分かってるし、決定権は自分にあるべきだと思った。で、バカみたいに喚いてやったわけ。毎度のことよ!」(May 1986, Creem)

| Music Videos | 23:09 | TOP↑

PREV | PAGE-SELECT | NEXT